柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
言葉は不可解で 意味の逆転、あるいは相対性 「…………あのさ…」 小さく呟いた言葉に彼がびくりと肩を震わせた。解りやすいその反応に、随分と凶暴な自分のイメージが想像出来た。 窺うような視線と、さり気なく腹部を庇っている彼の腕に小さく溜め息が漏れる。 「相手が怒るかもって思って、なんでいうんだ?」 別段怒ってはいないけれど、それでも不思議なことに変わりはないので問いかける。視線の先では彼が奇妙な顔でこちらを見遣っていた。なんとも言い難い表情に首を傾げてみれば、そっぽを向いた彼は小さな声で何かを呟いた。 「………?ごめん、聞こえない」 「…………だから、つい出てしまうものはどうしようも………」 一応嫌がられるのが解っているから気をつけてはいるのだと、憮然とした顔で彼がいう。口の中で話しているような、普段の 首を傾げて不思議そうに彼を見遣ってみれば、むっと更に顔を顰めてこちらを睨んできた。 どうやら本格的に拗ねたらしい。小さく息を吐き出して、そっと声をかける。 「別に嫌だとはいわないよ。好きじゃないのは認めるけど」 「………それを世間一般では嫌だというと思うのだが?」 「まあそうかもしれないけど、言うなとは言わないよ?」 嘘を吐くことはなくとも言い包めることの多いこちらの話術を警戒しているのか、彼の視線は法廷で見せるように鋭く、一言一言を吟味している。そこまで大層な話をしているわけでもあるまいしと、少しだけ呆れて苦笑した。 見遣った先の彼はとても一生懸命考えているのだろう、より一層苦渋に満ちたような表情だ。あまりプライベートでの話術が得意でない彼は、特に自分の感情に触れる事柄に関してはからっきしで、空回りの方が多い。 その自覚があるせいか、殊更こちらの言葉に過敏に反応するか、逆に全く反応しないかという極端な応対が自分の目には際立って見える。………思い、苦笑を深めながら、口を開いた。 「だからさ、そう悩まないでくれないか?」 「…………む?」 「僕だって流石にああ言われて嫌だと言うわけないだろ?」 別段話を逸らすつもりも誘導するつもりもないと示すように、過去に彼が自分に伝えた言葉を想定して告げた言葉。音には変えなかったけれど、彼自身の言葉なのだから、特に説明もいらないだろう。むしろ、出来るならしたくないというのがこちらの要望ともいえた。 …………感情論は、苦手なのだ。特にそれが恋愛といったカテゴリーに加わった場合、自分にはまるで意味が解らないものに変貌する。だからこそというべきか、それを想起させる単語も行為も、不得手なことこの上なく、それ故に彼に不安を抱かせている現状も改善はされていない。 その自覚があるからこそ、せめてこちらが容認したことくらい、ちゃんと認識はしてほしい。それが自信と言わないまでも、落ち込む材料にならないことを願うくらいは、しているつもりだ。 理解しただろうかと首を傾げて惚けた彼を見る。解ったかどうかの判断は、彼の場合は容易い。ただその表情を見ているだけで十分なのだから。 惚けた顔が、変わる。…………………………………とても怪訝そうな、顔に。 「………………」 確実に理解していない相手の顔に溜め息も出なかった。そんなこちらの状態には気付かず、彼は首を傾げて問いかけてくる。 「しかし君は……可愛いといった時に殴っただろう。有無をいわさず」 だからこその警戒だと、先ほど自身の腹部を庇っていたことは敢えて口にせず彼がいう。 面白いほど、自分の思いとは懸け離れた会話だ。………そうとでも思っていなければ少しだけ空しさを感じてしまうことは否めなかった。 深く息を吐き出して、彼を見遣る。また何か勘違いをしたらしいことに彼は気付いたのだろう、困惑に目を揺らせていた。 「だから、それは初めの一回だけだろ?それ以降、殴ってないだろ?」 条件反射にほど近い意識で、確かに殴ったことはあった。それ自体は否定しないし、おそらく同じ場面に戻れば同じ真似をするだろう。それでも、与えられた言葉を受け入れたなら、それを否定するほど自分は薄情ではないつもりだ。 ………………それが彼自身に自覚のない言葉であったとしても、捉えたこちらの意味に変化がない限り、それは有効だ。 子供に教えるように確認した自分の言葉に彼は頷き、おそらくその時のことを思い出しているのだろう、眉間に皺を寄せて床を睨んでいる。 「で、君がいったんだよ?」 「………………?」 「…………なんで忘れるかな………自分の言葉…………………」 抜けているというよりは、あまりにも彼にとっては当たり前すぎるのだろう。自分がどれほどそうしたことが苦手でも、彼にとってそれはとても大切で当然のことなのだから。 だからこそ、彼は気付かず、自分には刻まれている。それだけだと解るけれど、だからといって説明する際のこちらの精神的な羞恥が消えるわけではない。 落胆した声は、彼にとっては苛立ちにも思えたのだろう、こちらの様子を窺うように視線が向けられる。また不可解なことで落ち込まれることは避けたいと、ゆっくりと吸い込んだ息を吐き出して、彼と向き合った。 「だから、君が、いったんだ」 「むぅ?」 「………可愛いって言うのは、そのときの仕草とかが好きだということを、知って欲しいっていうことだって」 口にすれば、じわりと頬が熱くなるのが解る。自覚すれば拍車をかけてその色に顔が染まる。羞恥が羞恥を呼ぶのだから、居たたまれない。せめて顔を逸らして不機嫌そうに表情を繕うことくらいしか出来ない。………いい加減自分自身でも子供のようだと思う。 相変わらず惚けたような顔を晒す相手の顔は視界の端に映るだけで、詳細は解らない。………多分、まだ意味を咀嚼しかねているのだろう。 そうして、沈黙の中に滲み始めたのは 「大体、鈍いんだよ、君はっ」 居たたまれなくて、つい口を開く。せめて音で彼から向けられる意識を逸らしたかった。無駄だと、解ってはいたけれど。 「ム?」 「男が、言われ慣れていなくて情けない、なんて、言うわけないだろ?!」 可愛いなんていう言葉は、普通、女子供に向けられることの多い単語だ。男である自分がそれを向けられることはそうそうない。それは当たり前だと思うし、言ってほしいとも思っていない。 にもかかわらず、それを慣れていないことを情けないと訴えるわけがないと、何故気付かないのか。憤慨する気はないけれど、襲いくる羞恥心でどうしても声が棘だった。 「いや、私にとっては可愛らしいと思うことが多くて……」 「いいから、本当にそういうことは宣言しなくて!」 そのままこちらが耳を覆いたくなる単語を羅列しかねない相手の真面目な顔に、ぎょっとして横やりを入れる。今でさえ座り込んでしまいたいほど恥ずかしいのに、これ以上は遠慮したかった。 俯いて頬を擦る。熱をそんな仕草でとることは出来ないけれど、そのまま晒しているよりは少しでも隠してしまいたかった。………本当に、情けない。絶対に彼の前では見せたくないくらいに、情けない。彼しかいないからといって甘受出来るはずもない。 どんな関係になったとしても、自分は彼にだけは無様な姿を見せたくない。彼に恥じるような姿、晒したいとは思えない。 「やはり、可愛いな、君は」 憮然として顔を逸らしたままの自分に、彼はそんなことをいって、そっと手を差し出す。それは髪を梳いて、頭を撫でた。 怖がらないならと、彼はそれを差し出すことが多い。彼が望む触れ合いはもっと多様なのだろうけれど、未だ自分が恐れず受け入れられるのはこの程度だ。それでも嬉しそうに彼はそれを繰り返して、ますますこちらが甘やかされているようで、居たたまれない。 「あんまりそういうことは言わなくて、いい」 そっとそっと悔し紛れの言葉を吐いて、俯くように視線を逸らす。 「言ってもいいのだろう?」 先ほどのこちらの発言を逆手に取って、彼はそんなことをいって、楽しそうにしてやったりと笑顔をこちらに向ける。 睨みつける視線も真っ赤な顔では迫力もないのだろう、余計に楽しそうな彼の笑みを深めさせただけだった。 「だから、教えたくなかったんだ………」 絶対に自分の方が追いつめられる。解っているから、出来るだけ伝えたくないことは多い。 そっとそれを飲み込んで、嬉しそうに笑う彼が、抱擁を求めるまでの、僅かな間のあいだ。 ………すぐにまた跳ね上がることを予測もしていなかった自分の心臓を宥めるために、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。 守る対象や、慈しむ相手。あるいは幼く愛しいもの。 そんなものにしか向けない単語を、自分に向けられるなんて、 それらを守るために前を見つめる自分には、受け入れがたい。 それでも、 それ、を、彼は好意を伝えるための言葉なのだと、いうから。 苦手で嬉しくない、 自分の価値基準の中では侮蔑にさえ入りかねないそれを、 受け入れようと思った、なんて。 きっと一生彼には解らない。 拍手で書いていたミツナルの話を小説で頑張ってみました。ほらやっぱり微妙にギャグ。 せめてもの抵抗で成歩堂視点です。だって御剣視点にしたらこういう話は全く想像出来なくて。何考えているんだろうね、こういう話しているときの御剣は。 まあ理解したらしたで凹むか警戒心が増すかのどちらかな気もするし、気にしない方向でいます。うちの成歩堂がこれ以上警戒心が増えた場合、ミツナルのくせにミツ→ナルな状態になるしね☆ …………それはそれでありかな……………(悩) 私が書くキャラは可愛いという単語を相手にいわないです。何故なら私が好きじゃないから(きっぱり)ラストの文章はじめの3行は私の可愛いへの見解さ。世間一般で使う広義の、何にでもいっちゃえ!という感じの可愛いという概念が私には薄いらしい。 07.7.20 |
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