柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
生まれてきてくれたから君に逢えた 通い合う祈り 「じゃあさ、賭けよっか?」 くすくすと楽しげに彼は笑ってそういった。突きつけられた指先も普段とは違い柔らかく感じる。 それを眺めながら、首を傾げた。一体彼はなにを賭けるというのだろうか。 自分が何かを見落としただろうかと、そもそもの話の発端を思い出そうと、微かに眉間に皺を寄せながら思考を漂わせた。 始まりは、他愛もなかっただろう。恐らくは最近の出来事とか、そんなものだ。 互いに多忙な身で年の瀬は更にそれに拍車がかかる日々で、正直苛ついていたことは確かだ。それ故だろうか。同僚たちが今日だけはほとんど定時と変わりない時間に帰ってくれと懇願してきた。 今日はクリスマスで、彼との約束があった。だからこそ、山積みの書類との格闘に明け暮れたこの数週間を許諾をしていた。それが危ぶまれる状況であったため、多少の怒気が洩れていたとしても不思議はない。 それでも、一緒にいられないことへの苛立ちはあっても、それを不幸と嘆く気はなかった。 メールを送れば返事が返ってくる。電話をすれば声が聞ける。それがどれほど贅沢なことか知らないわけではない。無視をされることも拒否をされることもないのだ。むしろ、必ず最後には多忙を労られるなど、どれほど自分は恵まれているというのだろうか。 愛しいと思う者と想いを通わせることが、どれほど奇跡的な確率か知らないわけではない。まして自分のような人間が、彼のように数多の腕に愛しまれる存在を得られるなど、あり得ないほどの確率だ。 解っているから、感謝している。今現在の関係に不満を思うこと自体、不遜だろう。 だから、思った。一緒に居られる、この天文学的なほどに気の遠い確率で繋がった絆を、愛しいと思う。 一緒に居られることが、幸せだと。それだけで満たされることを知っているから。 口に含んだワインの酔いにも背を押されたかも知れない。普段は出来る限り明け透けな感情を告げることは我慢しているのだ。彼はそれを嫌がりはしないけれど、慣れることが出来なくて戸惑うから。 それでも、いつだって感謝を捧げたい。愛しいと伝えたい。どれほど繰り返しても底などなく、まして尽きることがない、この祈りのような思いを与えたい。 こぼれ落ちたのは、そんな音だ。 ただ、君が生まれたことに感謝していると。 ………自分に腕を伸ばし、信じ抜き、手を取り合いながらも対峙し合うことを誓える相手。 そんなもの、無二に決まっている。彼以外が、一体どうしたなら過去の自分の愚かしさを認めながらも受け入れてくれるというのか。 つらつらとアルコールに冒されることなく浮かんでは綴られた彼との会話を咀嚼し、ようやく発言すべき言葉を決めた。 「………私は、なにに感謝すべきだろうか、といった記憶があるのだが?」 「うん、そうだね」 問い掛けには、明瞭な肯定。自分よりも多くのアルコールを口にした彼は、珍しく酔っているのだろうか。それは、とても楽しそうに綻ぶ唇が綴った。 そのまろみある音色を酔うように眺めながら、無意識に指先が伸ばされた。 それが視界に入ったのだろう。キョトンとした相手は、けれど顔を顰めることも身体を強張らせることもなく、ただにっこりと嬉しげに笑うばかりだ。 そっと指先で彼の頬を辿る。同じ性を宿すのだから、決して柔らかいとは言い難い。けれどそれは何よりも自分に安堵を与えてくれるぬくもりだ。 頬をくすぐる指先を受け入れたまま、彼は笑い、先程の続きのように言葉を付け足した。 「だから、賭けてみるかって、いったんだよ?」 「私にはそれらの話の繋がりが見えんが?」 一体どういったロジックを用いているのだと、からかうように告げる。思いの外、穏やかな音だった。 小馬鹿にしたような物言いも、結局彼を前にしたらなんの意味もない。自分のちっぽけな矜持など、彼を想う意志の前にはあまりに脆弱だ。こんなにも間近に居ながらも嬉しげに笑う彼を前にして、喜びに勝る感情など存在するはずがないのだ。 それはあまりにも当たり前過ぎて、苦笑も洩れない。彼が笑んでくれることが、自分は嬉しい。だからこそ、普段は滅多に触れることを許諾してもらえず愛しさ故に苦しくても、彼の痛みとそれを必死に押さえ込む健気な許容を垣間見ては、構わないのだと笑む。 彼は、人が幸せであることを喜ぶ人だ。人の持つ表情の中、もっとも笑顔を好む類いの人間だ。 そんな人に苦しいと訴えたなら、悲しませるに決まっている。彼が原因なのだと付け込めば、自分の願いはいつだって実現するだろうけれど。 彼に悲しみと痛みと怯えを植え付けるくらいなら、飲み込むべき願いがあることくらい、自分でも知っていた。 だからこそ、今のように許されているぬくもりがこの上もなく嬉しかった。疼くように温まる身体は、アルコールのせいではないだろう。いま目の前で笑む彼に見惚れながら、その唇が綴る音に浸った。 「だって、僕も同じことを思うから。だから、賭けようよ」 楽しげに嬉しそうに彼は言い、その両手を持ち上げると、大切なものを包むような繊細さで自分の頬に触れた。温かい指先に気を捕られていると、覗き込むように彼の大きな瞳が近づいた。 心臓が、脈打つ。彼が怯えるほどの距離を、彼から近づいてきた。その事実に目眩がしそうだった。 「僕も、君が生まれたことを感謝しているよ。………君が生き続けてくれたことも」 絶えることなく今日まで続いてくれた生命を愛おしむように彼が囁く。その瞳の煌めきは、電飾故か。………あるいは、彼の瞳に膜を張る水があるのか。 クラクラとする意識では判別が付かなかった。ただ油断をすると彼に触れたがる唇を自制するように引き結んでいた。 「君に、僕は感謝しているよ。僕の願っていること、叶えてくれるからね」 「ム?」 なんの事だと問おうとしたなら、彼の指先が揺れ、そっと唇を辿られる。引き結んだ唇は度を超して、いつの間にか噛み締めていたらしい。 「だからさ、賭けをしようよ」 楽しげに歌うように彼が言う。まるで甘えるように。 彼が望むならなんであろうと叶えてやりたいけれど、その望む事柄が自分にはまだ解らなかった。必死に咀嚼しようと眉を寄せれば、眉間に刻まれた皺を何かが触れた。 ………間近にあったのは、彼の顎で。視界に写ったのが彼の喉仏なら、触れたのは………唇だろう。 妙に冷静にそんなことを思いながら、珍しい彼からの口吻けに堪えようもない喜びが身体を満たした。 「君も感謝するものを決めて。僕と君と、どっちが先にそれがあっていたか解るか……賭けようよ」 そうして、出来る事なら、と。呟きかけた唇は閉ざされ、また笑んだ。 しなだれるようにその身体は力を抜き、頬に添えられていた指先が背中に回される。途切れた言葉を有耶無耶にするようにそっとその唇を肩に忍ばせ、ぬくもりを求める猫のように彼は擦り寄った。 彼の言葉を繰り返し、思う。 過去に与えられた言葉。現在捧げられた言葉。それらを紡ぎ、一本の織物に仕上げる。 そうして出来上がったその言葉の錦は………眩いほどに、煌めいていた。 彼は願う人ではない。敢えて分類するならば、祈る人だろう。 プライベートに限定するなら、己の望みを叶える事よりも人の望みを慮る人だ。 そんな彼の、これは………我が侭、なのだろうか。甘え、なのだろうか。 決して自分に強請る事のない、与える事ばかりを願う彼が口にした、初めての確かな形ある言葉。相も変わらず最後には掻き消えそうに包み隠してしまうけれど、そっとそっとそれは綻ぶように花開いた。 それを愛で、喜びに腕の中の人を抱き締めた。 「私も、君に感謝している」 「………それじゃあ、賭けにならないよ」 同じものに賭けたようなものだと、照れ臭そうに拗ねた音が呟いた。 素直でない音を抱き締めるように、そっと怯えさせないように彼の顳かみに唇を落とす。軽やかなそれには、くすぐったそうに肩を竦める気配が返ってきた。 「そうだな、賭けは……私の勝ちだろう?」 「始まる前から何いってんだよ」 「君こそ、何をいっているのだ?私がこの話題を君に捧げたのだ。感謝すべき対象を見つけた私が先に正解に辿り着いた。至極単純な解答だろう?」 囁く音は柔らかく、甘い。腕の中の彼は、けれど戸惑う事もなく腕の中に収まったままだ。 それに唇が柔らかく笑みを象る。 腕の中の存在が、愛しかった。この存在が離れない限り、自分はきっと優しさを知り得ていくのだろう。………今、この胸に広がるぬくもりが、きっとその名を冠しているはずなのだから。 決して彼は人を束縛しない。そんな人が、賭けを言質に………傍に居る事を願ってくれるなど、どれほどの誉れだろうか。 「……そう、なるのかなぁ?」 難しそうな声で呟きながら、騙されている気がすると彼は微かに笑う。その音さえ、どこか嬉しそうだ。 自分の解答が彼に、自分が感じるのと同じように喜びを与えたのだろうか。思い、包む腕に力を込めた。 「そうなるだろうな。だから、負けた君は私の願う通り、傍に居ればいい」 それだけが願いであり望みだ。だから与えられる賞品は、彼という存在でなくてはいけない。彼も同じ事を願ってくれるなら、躊躇う彼の代わりに、自分の我が侭でいい。それでいいから、頷いてくれれば、いい。 そう彼の肩に顔を埋めながら、蕩けるほどに幸せを感じて告げた。 解答には、数瞬の間が与えられた。そうして、トンと背中を叩かれ、次いで先程のように両手で頬を包まれる。 促されるままに持ち上げた視線の先には、見惚れるほどに優しく愛しい彼の笑み。 「それじゃあ、勝った証にはならないよ」 負けた自分も嬉しいのだから、と。彼はいとけなく囁き、そっと睫毛を落とした。 男の割には存外長めの睫毛だと見つめたそれは、間近に寄り添い、そっと唇に吐息が触れた。 賭けたのは、祈り。 同じ祈りを紡いでいれば重なるだけの賭け。 初めから負けるつもりだったのか そんな問いかけも忘れて、真っ赤に染まった腕の中の人を抱き締める。 願って止まないプレゼントを与えてくれた愛しいサンタに もう一度、と 祈りと幸に染まった笑みで、強請った。 冒頭の歌詞はDAIGOくんの『Angelic Smile』の後半を抜粋。まあ最後一文だけはあえて抜きましたが(苦笑) いやはや、この歌好きでね。でも書くとしたら確実に甘いよなぁと思い、どうしようかなーと悩んでいましたが、まあ限定小説でならいいだろう!と。 去年は御剣酔い潰れて寝ちゃっていたので、今回は起きているようにしてみました。 でも成歩堂がかなり酔っています(笑)ウワバミなうちの成歩堂が酔えるとは、どれだけ飲んだんだろうねぇ。よく潰れなかったね、御剣☆ 普段の成歩堂は自制の人で、理性の人。ですが、その自制も理性も感情の上で成り立っているものなので、ある意味物凄い感情で生きているのです。でもそれが御剣には解らないので空回っては溜め息落としているわけですね。 嫌よも嫌よも好きのうち………ではあり得ませんが(え)、でもうちの成歩堂は口で言うほど嫌がってはいないのです。が、言葉の表面を素直に受け止めすぎる御剣には首を振られた=拒否になるという。 それを見てばかりいる成歩堂なので、一念発起(?)して頑張ったのですよ。…………まあ、かなりお酒の力を借りた事にしていますが。本人酔ってないけどね!(笑) 最終的に御剣が酔っていたと思い込んでいればいいのですよ。こうだからうちの成歩堂の手の上で右往左往しているんだね、御剣………←本人たちに自覚はない。 08.12.18 |
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