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柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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眠る吐息が微かに香る
揺れる花弁のように静かに

近づいていいものか
………触れてもいいものか
思い悩み、視線も揺れる

揺れる吐息
君の香り
そこだけが温かく見える、君の存在

跪き頬を寄せる

吐息が香る
………触れてもいいのか
多分、それは永遠の問答





君の香り



 夜気を纏い、自宅のドアを開けた。
 ここ数日の目紛しい事件の勃発と収束に軽い目眩を覚えてしまう。日本に戻ってこれる時間は少ないというのに、ようやく落ち着いたのは帰国後数日経ってからだった。
 ………それまでの間事件の渦中にいたという事実は、検事として良かったのか悪かったのか悩む所だ。
 もっとも、現場を検分し事実と証拠の全てを手にしなくては真実は見えない。少なくとも自分はそれを知っているのだから、倍加する疲労もまた、受け入れるべきなのだろう。
 思い、脳裏に浮かぶ彼の姿にまた溜め息が出た。
 帰国後すぐに連絡をしようとしたのに、ゴタゴタが続き過ぎて連絡を入れられたのは昨日の話だ。既に日付が変わっているのだから一昨日と言うべきかも知れない。
 そんなことを考えながら靴を脱ぎ玄関を通り過ぎた。
 恐らく、自覚以上に疲れていたのだろう。そう思ったのはリビングに人の気配を感じた時だった。否、気配ではなく、明かりか。たった今帰宅したにも拘らず部屋の電気がついていた。
 犯罪者を除くならば、この家に入れるものは鍵を持つ者だけだ。そしてそれは、自分の他にはたった一人しかいない。ならば彼の靴が玄関にはあったはずだが、それすら見落としていた。
 そんな、自宅に侵入した珍客の可能性に、目を見張る。今日はなんの連絡もなかった。明日こそ無理をしてでも顔を見に行こうと、そう思っていたのに。
 まさかと思い、違うと否定して、けれどそれ以外の可能性の低さに鼓動が高鳴る。
 そうして不自然にゆっくりと歩む足先に、寝息が触れる。呑気に、なんの疑いも孕まずにそれは響く。
 微かに息を飲んだ視野の先、リビングの中にあるソファーが映される。
 横たわる眠る人は相変わらずだらしなくネクタイも取っていない。おそらく軽く目を閉じているつもりだっただけなのだろう。
 起こしてそれを指摘してやれば、さぞかしバツの悪い顔で言い訳をしてくれるだろう。そんな彼の顔を眺めるのも悪くない。そんなことを思いながら歩を進める。
 色々なことが過ぎ去った数日が遠い過去のようだ。そんな風に感じる現金な己の胸裏に苦笑する。  彼が傍にいる、それだけで満たされるものがある。
 ほっこりと胸が温まる、そう称される現象。
 多忙を厭わず世界を回り、知識を技術を欲し、先達の知恵を求めた。一秒たりとも無駄にすまいと奔走し続けた。時間を感じることすら厭わしかった。
 それほどまでに飢えていた。(かつ)えていた。………それは真実を手にする充足だけでは決して満たせない欠落。
 たった一つの存在だけがそれを埋めてくれる。それが、どんな意図でかは解らないけれど、いま目の前にいた。
 ソファーの横にまで歩み寄り、彼の寝顔を見遣る。それは幻想でも夢想でもない、確かな現実。その事実が素直に嬉しく、また誇らしかった。
 「……成歩堂……?」
 知らず浮かぶ笑みのまま、小さく彼の名を呼ぶ。
 彼の睫毛すら震わせることのなかった声音は、夜気に溶けて消える。それを感じながら、そっと膝を折る。
 より間近になった気配。聞こえるのは彼の寝息。映るのは彼の寝顔。無防備でいとけない、彼の性根を如実に浮き彫りにしたような姿だ。
 こうして直に彼と会うのは、どれだけ久しぶりだろうか。互いに多忙で、その上自分はつい数日前まではこの国にすらいなかった。
 いつだって傍にいて、この腕の中に抱き締めていられればどれだけいいか。不可能なことを祈ることだって珍しくもない。
 それでも潔く潔癖な魂は、不要な甘えはいらないのだと、互いに肩を並べて歩む道しか求めてくれない。
 そんな彼を愛おしいと思うけれど、自分ばかりが与えられ満たされ、彼という存在を搾取するしかないようで、時に不安も湧く。
 彼の願いは淡く、あまりにも当たり前過ぎて願いとすらいわないことばかりだ。
 それさえ叶えてくれるなら他になにもいらないのだと、恐らくは本気で彼は思っているのだ。……失うことに慣れてしまった寂しさを讃えながら。
 「……………………」
 初めにそれを与えたのは、自分だ。…………だから自分が癒そうなど不遜なことはいえないけれど。
 せめてもう二度と消えないと、そう信じてもらえれば、いい。
 こうして彼が珍しくも自分の存在を求めてくれた時、応えることが出来ればいい。
 「…帰ったぞ、成歩堂。起きないのか…………?」
 囁き、眠る彼の髪を梳く。まだ眠りの淵から戻らぬ彼に苦笑して、その耳に声を落とそうかと顔を近づけた。
 その頬に、吐息が触れる。眠る彼の、寝息。健やかそうに規則正しく上下する胸と呼気。
 ………………愛しさに、目眩を覚える。いっそ掻き抱けたなら安堵するだろうか。思い、苦笑する。
 何一つ不審をもつこともなく晒される彼の姿は信頼故なのだろうか。まだ触れ合うことに拙く覚束無い彼に、多くのことを願っては戸惑わせているというのに、彼はこうしていっそ無頓着なまでにいつもそこにいる。
 むずがるような笑みを唇に乗せて、そっと目的地を変えた。
 頬に、触れる。そっと、羽よりも軽く、触れたかも解らないほど微かに。呼気すら止めて、振動を与えないように、頬を唇で辿った。
 そうして、微かな寝息を漏らす唇に近づき、呼気を盗む。口吻けとはギリギリでいうことの出来ない、すれすれの愛撫。
 怯えさせないように、恐れさせないように。………この無垢なまでの性情を穢さないように。
 それでも募る思慕を教えるように、眠りを食むように、吐息を食んだ。
 指先では変わらず髪を撫で、視線は真っ直ぐに彼の瞳を見つめる。睫毛が揺れたなら離れなくてはいけない。そう、必死に理性にいい聞かせながら、久方ぶりに会う想い人に思いを馳せた。
 もっともっとと願う。………いつだって自分は欲張りで明け透けだろう。
 それを困ったように笑んで、戸惑いと困惑に、時に目を湖畔に沈ませて、それでも粛々と受け入れようと努力する彼だから、無理強いだけはしたくないのだ。
 一方的に遂げる思いに意味などないことを知っている。
 それでも時折零れ落ちる願いを宥めるように、いま眠るこの一時だけの自由を浅ましくとも許して欲しい。
 せめて彼の意識のある時は紳士然と出来るように、繕いだけの余裕を身に纏えるように、そっとそっと、彼に触れる。
 「……成歩堂…」
 名を呼び、髪を梳き、頬を撫でて。………吐息を盗みながら、彼を起こす。
 ただ眠る彼を見つめているのも悪くはないけれど。
 こうして僅かながらも触れて満たされるのも厭いはしないけれど。
 なによりも雄弁に彼を語る勝気な瞳にこそ、映りたいから。
 そっとそっと、躊躇いながらも目覚めることを願って彼を呼ぶ。


 睫毛が震え、瞳が覗く。
 触れることを諦めなくてはいけない時間の訪れを。

 それでも歓喜でもって迎える。

 彼を彩る綻ぶ笑みと、真っ直ぐと自分を映す眼差し。
 それさえあればどんなこととて耐えられると。

 そう惚気ることくらいは、許されるだろうか…………?





 逆検のあと……くらいなイメージで。
 多分御剣は常に事件に巻き込まれながら処理していくのだろうから、大抵海外研修から帰ってきたらこんなんじゃないかな、と思う(笑)

 逆検は意外なまでに御剣が格好よかったです。なので今回は子供っぽさよりも大人らしさを頑張ってみましたよ。でも相変わらずの自信のない子(笑)
 二人の年齢的に大人っぽくすると年齢制限が現れそうでヒヤヒヤしつつ(笑)年齢制限ものはどうも苦手。
 でもまあ、折角なのでキスくらいまでは進めるように頑張ってみますかね(笑)こいつらもう20代後半なのにねぇ(笑)

09.6.26