さっきとても素敵なものを
拾って僕は喜んでいた
ふと気が付いて横に目をやると
誰かがいるのに気付いた
その人はさっき僕が拾った
素敵なものを今の僕以上に
必要としている人だと
言う事が分った
惜しいような気もしたけど
僕はそれをあげる事にした
きっとまたこの先探していれば
もっと素敵なものが見つかるだろう
その人は何度もありがとうと
嬉しそうに僕に笑ってくれた
その後にもまた僕はとても
素敵なものを拾った
ふと気が付いて横に目をやると
また誰かがいるのに気付いた
その人もさっき僕が拾った
素敵なものを今の僕以上に
必要としている人だと
言う事が分った
惜しいような気もしたけど
またそれをあげる事にした
きっとまたこの先探していれば
もっと素敵なものが見つかるだろう
なによりも僕を見て嬉しそうに
笑う顔が見れて嬉しかった
結局僕はそんな事を何度も繰り返し
最後には何も見つけられないまま
ここまで来た道を振り返ってみたら
僕のあげたものでたくさんの
人が幸せそうに笑っていて
それを見た時の気持ちが僕の
探していたものだとわかった
今までで一番素敵なものを
僕はとうとう拾う事が出来た
槇.原.敬.之『僕が一番欲しかったもの』
僕が一番欲しかったもの
「あれ?なに、それ?」
待ち合わせの食堂に入ってすぐ、青年は驚きの声を掛けてしまった。
目を瞬かせる少年の目の前には、手のひらなどでは間に合わない、青年の腕でも抱え切れなさそうな大きさのホールケーキがドンと鎮座している。
「はい?」
それに疑問もないのか、きょとんとした少年が首を傾げた。愛らしいその仕草と、目の前の巨大なケーキとが、まるでメルヘンのようにそこを異空間に彩っていた。
そんな様子に苦笑しながら、青年は少年の隣に腰掛けた。………持っていたコーヒーカップがおままごと道具に見えるケーキの大きさに慣れてきている自分達も順応性があると思いながら。
「特大ケーキ。おやつにしちゃ、豪勢さ?」
よく食べ素直な少年は、料理長のお気に入りだ。いつも目にかけ色々な新作も与えてくれている。
それにしても、これは少々行き過ぎな待遇だろう。何か理由がなければ、流石にこんなパーティーで振る舞われるサイズのケーキは焼かない筈だ。………多分。ほんの少し、あの料理長なら頼まれたら焼きそうだと青年は思ってしまった。
「ははは、いえ、これはね、ジェリーさんがお返しにって」
凄いでしょうと目を輝かせてケーキを示す少年は、心底幸せそうだった。食べる事が大好きな彼だ。こんな特別なケーキは目にしただけでも幸せなのだろう。
それを微笑ましそうに眺めながら、パクパクとスムーズに量を減らしていくフォークの滑らかな動きに吹き出しそうだった。話しながらでも何でも、彼はしっかり食べるものは食べる。いっそ見ていて気持ちいい程の食べっぷりだ。
それを隣で眺めるのも、自分の特権だ。青年はそんな事を思いながら、食べる邪魔をしない程度に問い掛けた。
「お返し?なんのさ?」
「この間、ジェリーさんが欲しがっていたハーブを見つけたんです。あげたら、代わりにこれくれました♪」
物々交換!と言いながら、確実にケーキの方が手間がかかっていそうだと青年は苦笑した。と同時に、ふと気付く。
ハーブ。………ハーブと、今、少年は言った。買ったのではなく、見つけたとも。その二つを脳裏で検索に掛けてみると、弾き出された記録に、青年は思わず寛いでいた姿勢を少年に詰め寄るものに変えた。
「ハーブ……って、え、まさか、この間の任務の?!」
「?はい、そうですよ?」
突然迫ってきた青年の顔に、ケーキはあげないと言わんばかりに更を引き寄せながら少年が答えた。そんな仕草は横に置き、青年は呆れたような顔で少年の鼻先を人差し指で押さえつけた。
「そうですよって……お前、あの時、怪我してんのに聞かないと思ってみれば、そんな理由………」
あれは確か、奇怪の調査の筈が、見事にAKUMAに待機されていて、任務地に着いて早々の戦闘だった。
二手に分かれての交戦中、お互いどちらも怪我は負った。かすり傷ではないが重傷でもない。今も包帯がお互いの身体には巻かれているが、日常生活に支障はないレベルだ。
結局奇怪自体は空振りで、無駄な怪我を負ったと嘆く青年を他所に、少年は帰り道の途中、崖を見上げたと思ったら突然登り出したのは驚いた。
言われれば伸でそこまで連れていく位するというのに、ただ待っていてと言ってサクサク登り始めるのだから、見ているこちらは気が気ではなかった。
「だって、本当に欲しそうでしたから。目の前にあるなら、あげたいでしょ?」
キョトンとしたその声は、あの時自分がどんな思いで見ていたかも、きっと解っていない。誰かの負担になる事が嫌いな彼だから、そんな些細なところでも一人で頑張ろうとしてしまうのだろうけれど。
「だからって、何も怪我してまで……」
思わず溜め息を吐いて少年の鼻を摘むように押えれば、フルリと振った首に拒まれた。少しは痛かったのか、鼻を押えて睨まれてしまった。
「別にそれ採る為に怪我したわけじゃないんですから。それにちょっと崖登ったくらい、たいした事じゃないですよ」
「アレンはお人好しさ。どうせ頑張るなら、もっと自分の為に頑張りゃいいのにさー」
膨れるように青年が言ってみれば、不思議そうに少年は目を瞬かせる。
「違いなんかないでしょ、それ」
「………大有りだかんな。いっとくけど」
お互いに何を言っているのだろうという声で言い合ってみて、目を合わせる。どちらも本気で、だからこそ、目を逸らす事がなかった。
「うーん?でもね、ラビ」
それを眺めながら、少年は首を傾げる。
「僕が手に入れたもので、誰かが笑顔になってくれたら、僕は嬉しいですよ」
それがどうして悪いのかが解らないと、少年は首を傾げた。
…………何故なら、それを自分に教えたのは、紛れもなくこの目の前の青年だからだ。
自分が何かを持つ事自体許されないと思って、何も抱えず生きていた中、沢山のものを貰って欲しいのだと差し出し与え、返せるものもない自分を戸惑わせた。
そうして、ただ笑ってくれればいいと、そう願ってくれたのは、優しく口吻けた彼自身だ。
当然、それと今の話題のケースとでは意味が違うし思いも違う。
それでも、与えられる喜びを教えてくれたから、諦めからではなく祈りを持って、差し出す気持ちを携えた。それを咎められるなんて、思いもしなかったのに。
「ラビだって、僕にお土産買ってくれたり、どこかに連れ出してくれたり、するじゃないですか」 そもそも自分以上にそうした真似をしているのは、彼自身だ。駄目だと言われるような事、1つもないと首を傾げれば、青年の眼差しがようやく揺れる。
「それは……」
不思議そうに言われてしまうと、言葉に詰まる。
……………どう言い繕っても、彼が好きで大切で、だから笑顔が見たいと思うし、優しくしたい。それは当然、突き詰めてしまえばきっと、とても我が侭で身勝手なものだ。
解っているから、即答はしづらい。それすら解っているのだろう少年は、クスリと笑んで悪戯っ子のように唇で弧を描いた。
「自分の為、なんですか?」
言い分としてはそうなります、と、楽しげに少年はケーキの上の苺を摘んで口に放り込んだ。酸味が程よく甘い苺だ。料理長は料理の腕だけでなく素材を見る目も確かだ。
そんな嬉しそうな横顔を眺めながら、結局それが理由だと思い、青年は仕方なさそうに唇を笑みに変えた。この子が笑ってくれる、それが最後には最優先されてしまう答えなのだから、もうどうしようもない。
「……………アレンが喜べば、嬉しいし。だから、俺の為?」
誘導されるように出てしまった解答に、青年は溜め息を吐きたくなった。………どうもこの少年と話していると、自分がひどく間抜けな気がしてならなくなる。
とても当たり前で、知っていて当然のような事を、一から教えられていると思うのだ。
そうしてそれを教える少年は、至極当たり前の事を嬉しそうに笑んで告げてくれる。一番初めに忘れてしまいそうな、そんな優しさこそを大切に抱えている少年は、にっこりと笑んでフォークでケーキを突ついて告げた。
「ほら、同じ。……ね?嬉しいっていうのは、誰かにあげれば膨らむものです」
喜んでくれて嬉しかった。嬉しかったからまた、誰かにそれをあげようと思う。そうして、喜んだ人は、その喜びを分けようと、また誰かに手を差し出すものだ。
とても些細で小さな事かも知れない。それでも、循環し続ければ必ず大きくなって、最後には一人から発したなどとは思えない程多くの人を笑顔に変える。
それを信じて疑わないというように笑むその思いが、決して世の闇を知らないわけではない事を知っている青年は、軽く息を吐き出して人の善性を祈るように信じる少年に答えた。
「でもアレンはさー。なんか、自分が必要って思っても、あげちまいそう」
何にも執着しない少年だ。自分が持つものならきっと、それが欲しいと望む人にあっさり与えてしまうのだろう。思い、見つめながら、食べ物だけは別かと、その頬に付いたクリームを拭って舐めた。
その程度の仕草には慣れてくれたのか、ほんの少し咎めるように目元を赤くした少年は、それでも文句は言わずにまたケーキを口に含んだ。
その美味しさに、フォークを銜えたまま幸せそうに少年が笑う。本当に嬉しそうに食べる子だと、キッチンからこちらを窺っては幸せに浸っているだろう料理長を思った。
「そうでもないですよ?現に、僕は自分が拾ったもの、誰にもあげません」
クスリと笑い、少年はまた美味しそうにケーキを頬張った。その仕草は子供のようで、きっと幸せしか思わなかっただろう、ほんの数年の彼の至福の月日を思わせた。
そんな少年を見つめ、ほんの微か遣る瀬無く、青年は吐息を落とす。我ながら浅ましいけれど、その笑みが自分によって作られればいいなんて、傲慢な欲が湧いてしまう。
「………知ってる。一生、手放さなそうだもんな」
彼の中、永遠に横たわり消える事のない、たった一人の影。それごと全部、自分は受け入れると決めて、傍にいるけれど。
こうしてそれを見せつけられると、どうしたって苦しくなるのはどうしようもない。
………自分の使命も責任も全部解って受け入れて、そうした上で、どうしても諦められずに伸ばした腕の先、躊躇いとともに抱き締めてくれたこの命を、本当は誰にも分け与えたくなどないのだ。
そんな青年を横目で見ながら、呆れたように少年が息を吐く。
物思いがバレたかとバツの悪い顔をして視線を向けてみれば、少年は仕方なさそうにフォークでこちらを指差した。…………自分がやれば確実に行儀が悪いと彼に叱られそうな仕草だ。
これは窘められるかと思い苦笑すれば、少年は片眉をあげてほんの微か叱るように、言った。
「…………ラビ、多分、知らないですね」
「え?」
それは予想外の言葉で、思わず間抜けな声が洩れてしまった。
「ラビは知らないです。知っていたらそんな事、言いません」
それすら気に入らなかったのか、珍しく少年はあからさまに顔を顰めた。どちらかというと控えめに自分というものを押え易い彼には、滅多にない反応だ。そんなにも自分の言い分はおかしかっただろうかと、青年は冷や汗を浮かべた。
「え?え?……ちょ、なんか怒ってねぇ?」
いくら考えてみても、少年がそんな風に怒る言葉が解らない。
ただなんとなく想定してしまった相手へ、ほんの微か悋気を向けたくらいは認める。けれど、そんな事はもう、今更だ。もっとあからさまにぶつけた時だって、そんな顔はしなかった。
何が原因かが解らず、困ったように少年を見遣れば、唇を引き結んで泣くのを我慢するような子供の顔でケーキを見つめていた。
………こんな美味しそうな大きなケーキを目の前に、この少年が見せる筈のない顔だ。
「怒ってません。悔しいだけです」
その癖、泣きそうな唇を小さく蠢かせて、そんな風に拗ねて告げるのだから、困る。
どうしてか解らないで謝っても、この少年は受け入れないのだ。否、受け入れたふりしか、してくれない。ずっとそのまま抜けない棘のようにそれを抱えてしまうのに、安易に謝る事も出来ない。
「なんで?俺、嫌な事、なんか言った?」
結局、少年自身に解答を貰う以外に術もなく、情けない事を承知で青年はその顔を覗き込んだ。………思いきり顔を逸らされて、湖面にたたえられているだろう瞳すら、舐めとらせては貰えなかったけれど。
「…………僕が拾ったもの、なんですか?」
ぎゅっと青年のいない隣を睨むように見つめ、少年が問い掛ける。
…………よりにもよってそれを、自分に言えというのかと、思わず青年は天井を仰ぎ見た。
もっとも言いたくない、どうしたって自分の中にある黒い部分を刺激する、その名を。
「……………………」
躊躇い言い倦ねて、青年はそっと顔を落とす。少年を見つめて許しを乞おうかと思ったが、その細い肩も逸らされた頤も、答え以外の言葉は求めていないと語っていた。
そして多分、それ以外を告げてもきっと、この少年は仕方がなさそうに全て飲み込み、笑んでしまうのだ。泣きたいその思いも全部飲み込んで、自分に差し出す事を諦めてしまう事だって、知っている。
「ラビが考えた、拾ったもの!ちゃんと言って下さい、構わないですから」
震えるのを必死に我慢したその声に、そんな風に告げられれば結局陥落以外術もなく、青年は小さく息を落とし、そっと息を飲み込んだ。
声を、きちんと作らなくては。ほんの微かでも厭う響きがないように。彼の抱えるその記憶と感情ごと、全部欲しいと言ったのは自分で、それを許してくれたのは、彼なのだから。
「………マナ、だろ?」
そっと溜め息よりも微かに、少年にだけ聞こえる程小さな音色で呟いた音が、ひどく苦い気がして青年は唇を歪める。
………打ち沈むようにその顔すら覗かせないように俯いて、小さく囁かれたのは、少年の養父の名前。
その名を予測していた少年は、むくれるように頬を膨らませた。解っていたし、きっとそんな風に思わせるのは、自分の普段の行いのせいだ。
解っている、けど。………それでも、どこまでも解ってくれていない、自信のない青年をほんの少し、詰ってやりたかった。
「ハズレ、です。ほら、やっぱり知らない」
ついその声さえ棘ついてしまったのは、許して欲しい。こちらだってほんの少し、傷付いたのだ。
伝わってくれていると思うのは、多分、身勝手な我が侭だ。伝えなくては伝わる筈がない事だって、解っている。
その声に目を瞬かせて、青年は驚いたようにその翡翠を自分に向けた。
「え………?じゃ、じゃあ何さ?イノセンス…な筈ないし!?」
嘘だと言わんばかりに目を丸めて、必死にその脳裏で情報を検索しているらしい青年は、かなり情けない顔で少年に詰め寄った。
彼の養父なら、もう諦めるしかないと解っている。どうしようもないくらい、彼の中に根深く染まっていて、引き離したならきっと、この少年自身も壊れてしまうくらい、同化してしまっている。
無理に忘れさせる気も、奪って壊す気も、ない。ただそのままでいいからその傍ら、一緒に居たいと願ったのは、自分だ。
それなのにそれ以外、一体何を手にしたというのか。その腕の中、何を抱え抱き締めているというのか。………なんであっても、それを快く受け入れる自信なんて、なかった。
そんな青年から顔を逸らし、少年は大きく切り取ったケーキを一口、口に含む。
甘くて美味しい、料理長特製のケーキだ。喜んでくれたその笑顔ごと、美味しさで溢れている。
…………それなのに、それがほんの少し苦く感じるなんて。
悔しいと思いながら、少年は銜えたフォークを皿に落とした。微かな金属音を青年が聞き取る中、そっと少年の唇が開かれた。
「マナは僕が拾ったんじゃないです。マナが僕を拾ったんですから」
それは立ち位置が違う。………拾われたのは自分で、その胸の中、大切に包まれ抱き締められた。
過ちでもいい。間違いだったとしても構わない。他人から見れば滑稽極まりない、自分達だった。それでも幸せだった。一緒にいるというそれだけで、幸せだったのだ。
「僕はマナに拾われて、マナの中でずっと、一緒です。でも、僕が僕として拾ったのは、違う」
そう、囁く声は凛と響く青年の肌を震わせた。………綺麗な、音だ。澄み渡っていて澱む事を知らない。
耳に心地良く心に響くその音に酔いそうになりながら、青年はそっと、小さく邪魔をしないように問い掛けた。
「…………違う?」
それならば何、と。必死の自制で震わせる事のなかった声を、少年は睨みつけた。
驚いたように微かに大きくなった翡翠を、銀灰は睨んだあとに、そっと目蓋の裏側に消えた。……逸らされた頤は、その顔も見せてはくれない。その薄ら寒さに凍えそうになりながら、青年は彼の声が綴られる事を祈った。
「拾われた癖に、なんで気付かないんですか、あなたは」
悔しそうに震える、少年の声。……………意味が、一瞬理解出来なかった。
きょとんとして、答える言葉を忘れてしまう。今、彼はなんといったのだろう。それは、自分に向けられた言葉だろうか。
思わず周囲を窺い見るが、食堂の中、相変わらず雑多な音は響くが、誰も自分達の傍には座っていなかった。
なら。………それ、ならば。その言葉が向かう先は、たった一人しかいなくて。
惚けたように、青年は少年の白い首筋と、それを辿って辿り着けた頤を見つめる。俯くその顔が、どんな顔をしているか解らなかった。
「他に欲しがる人がいるなら、大抵のものは諦めます、けど。……1つくらい、諦めないで掴んじゃ、駄目ですか」
小さく呟いたその声は、震えている。甘いケーキを目の前に、随分苦い言葉を綴らせてしまったと、慌てて青年はその肩を抱き締めた。
「…………まさか!むしろ、俺が丸ごと拾いたい」
鈍い自分はいつもの事だ。その度に少年が綴る言葉に躊躇い、飲み込むべきか晒すべきか悩んでいる事だって、解っているのに。
どこまでもまだ愛される事に疎く臆病な彼は、自身の思いがどれ程幸せを与えるかなど解らず、負担となる事を恐れて俯いてしまう。
それでも、きっと恐ろしい程の勇気を振り絞って、囁いてくれただろう、最上級の願い。
自分にそれを与えてくれる、なんて。震えそうな歓喜に、青年は腕の中の少年が恥ずかしさにもがく事も許さず、その顳かみに口吻けた。
…………もっと一杯、知ってくれればいい。少年の呟くたった一言に、こんなにも自分は怯え恐れ戸惑って。与えてくれる欠片程の思いで、こんなにも至福に塗れ喜びを知り愛おしさを溢れさせる事を。
「アレンを拾ったものごと、全部。一個も残さないで、拾わせて」
欠片程も逃がさない、と。…………いっそ貪欲な祈りで少年を抱き締める。
ほんの少し周囲の視線がこちらに注がれるが、今更だ。いっそ思い切り見せつけて、この子が自分の為に囁く全て、誰にも与えないのだと宣言してやりたい。
「…………欲張りですね、ラビは」
小さく呻くように抗議を呟いて。それでも、安心したようにホッと肩から力を抜いて。そっとそっと……少年は青年の肩に額を落とす。
甘える事は苦手だし、頼る事も怖い。今までは欲しがる誰かを探す為、拾った全ては手のひらに乗せて歩んできた。
自分が携えられるものなんてなくて、だから喜ぶ誰かがそれを大切に抱き締める姿が、一番嬉しかった。それでいいと眺めていた遠い景色のキラキラ輝く美しさに、微かに痛む胸も喜びに変わっていったのに。
…………それでも、欲しいと思って伸ばした指先が、拾える筈のない宝物を拾ってしまった。
誰かに見つけて欲しくなくて、そっと胸の中、隠して抱き締めた。
まさか、拾った筈のそれ自体にすら知られていなかったなんて、思わなかったけれど。
ちゃんと拾ったのだ、と。
………手放す気なんてない、と。
告げたなら返されたのは、大きな手のひら。
それは抱え切れないくらい重い自分の全て、ひと欠片も余さず包んで拾った。
……………最初で最後の、宝物。
再び槙原さんの歌よりイメージお借りしました。
大好き、槙原さん………!
あといくつかイメージ固まっているのがあるので、それもいずれは書きたいですね!
イメージとしては、左腕を取り戻した時の、あの回想シーンです。
本当にこの子はただ人の笑顔を遠くから眺めて幸せになろうとする子なんだな…とちょっと切なくなったものですよ。
11.4.17