なんだかすごくうるさい。………すごくいい気分で寝ていたっていうのによ………
不機嫌に眉を顰め、俺は開けたくない瞼をゆっくりと開いた。
最初に映ったのは足。……ナゼ足??
謎に襲われながらも俺は改めて瞬きをして焦点をあわせる。……まぎれもなく足。細くて白いそれはどうみても女のモノで………
でも俺……ベットにいるわけではなく床に直接横になってるし。このまま視線をあげるのは相手に失礼であろうと一度目を瞑って俺は起き上がった。
………ん?なんか……視線が低いような……。
違和感を覚えた瞬間、足の持ち主が俺の気配に気づいて振り返った。……ちゃんと目を閉じて起き上がってよかった。殺されるところだったぜ…………
「シンタロー!? 起きたのね?」
まぎれもなくアマゾネスの声。……なはずなんだが……なんか威圧感があるんだが………?
いや、もとからこいつはその態度や存在感で十分俺を圧倒してくれるが……これは純粋に物理的な圧迫。
妙にでかい気がするんだが………??
「どっか具合悪くないわけ? そんな格好になって!」
訝しげに眉を潜め囁く乱暴な言葉の中に女特有の優しさといたわりが見える。……が一体なにに対していっているんだ?
………そんな格好って………なにが?
そう思った俺は自分を見ようと視線を落とした。……………瞬間に硬直。
気のせいでしょうか…………………。俺の胸元に何故か谷間が見えるんですケド??
これは……明らかに胸だよな………? 有り難いことに服を着ているからモロ生で見ることはなかったけど。
確認するように俺はそれに触ってみる。…………その間ずっと凝視する視線が山ほどあったことに気づかないほど混乱していたらしい。
ぷにっとやわらかい感触。…………アハハハハハ………夢ではないかなー……………
そんな現実逃避に逃げ込むところだった俺の肩がガシッと掴まれる。
……イテェ!? こんな軽い掴み方だってのに……なんでこんなに痛いんだよ!?
僅かに涙目になっている俺の耳元に男の声が注がれる。
………………………なんでこいつがいるんだよ。っていうか……ここどこだ?
「すーっかり美人に変身したじゃねぇか、シンちゃん。丁度いいからこのまま式でもあげるか?」
ザワザワと全身が総毛立つ感覚をどうにかやり過ごし、俺は身体を震わせつつ人にもたれ掛かっている男を睨みあげた。
う……なんかこいつも圧迫感強いな。……そっか、考えてみれば普段から俺よりでかいんだから、アマゾネスさえでかく感じるいまの俺が圧迫感じないわけないか。
「……痛いから手を離せ。ついでに顔を寄せるな、鬱陶しいわっ」
近付いてくる端正な男の顔を思いっきり退ける。……が、力が出ない。……なんだこの非力さは!?
とはいってもまさかそのまま近付く顔を許すわけにもいかないので必死の抵抗を試みるんだが……どう見てもこの男楽しんで嫌がるッッ!!
思いどおりにいかない自分の身体に泣きが入りかけた瞬間、威勢のいい音とともにアラシの顔が遠ざかった。………いま一瞬……俺の視界にはヒールがアラシの顔を蹴り倒したように見えたのですが……気のせい、かな…………?
まあ見間違いでなくともそれっくらいでどうにかなるやわな男でないことはわかっているし、まあいいか。
そう判断してそそくさと俺は弛んだアラシの腕から逃げて立ち上がった。………なんかすっげー情けない。
回りを見渡せば……ここって龍王様の城じゃねぇか。なんでこんなところに?
普段の何割か大きく感じる室内を見ると、少し離れたところにクラーケンとリュウ、キリーにタッちゃんがいた。………おや、珍しいな……バードやタイガーがいないなんて………。このパターンなら親父もいるかと思ったが…………?
まあいいや。とりあえず避難しておこう。あいつらならまあ……危なくないだろ!
なんとも嫌な判断のもと俺は足早にみんなのところに近付いた。………後ろで追い掛けようとしたアラシを蹴り倒す音が響いたけど……あえて振り返りたくない。
……………アマゾネス……なんであいつ英雄に入ってないんだ? 絶対に誰もかなわない気がするんだが……
ってそんなこと同じ国に住んでいて英雄やってる俺が考えることじゃないか。………なによりいま現在貸しを山ほど作っている真っ最中(しかも進行形)だしな…………
なんだか泣きたくなるが……異様に広い距離をとりあえず走り抜け、俺は一番手前にいたクラーケンに声をかける。
………なんでこいつ奇妙な顔してんだ………? っていうか…微妙に顔が赤い? 熱でもあんのか………?
でも熱なんてあった日には龍王様が大騒ぎするだろうしな…………
少し気になるけど、いまは俺の身体に起こったことの方がよっぽど大問題だ。ちょっと端に置いておかせてもらおう。
「なあクラーケン。一体俺、どうしたんだ?」
………うわー……なんつうかわいらしい声…………………
俺……確かもうすぐ三十路だよな? さっきも思ったが……この声や胸の張りからいって……十代じゃねぇのか、いまの外見年齢…………
目眩を起こしかけつつ俺は改めてクラーケンたちの顔をあげる。………なんでこいつらこんなにでかいんだよ。首がイテェ………
しかし……なんだってクラーケンは固まったままなんだ? いつもなら馬鹿にしたような声で冷静にあっさり必要なことだけいってくるくせに……………
だからこそこのメンバーの中で一番手っ取り早く現状を語ってくれることを期待して声を掛けたんだが………
「…………………な」
「は?」
真っ赤な顔のまま俯いたクラーケンをニヤニヤと眺めるリュウに呆れたように息を吐くタッちゃん。……オロオロとしているキリー。この辺はいつもどおりの反応だが……クラーケン一人普段と違う。
まさかと思うが……本気で具合悪いのか? 少し不安になって俺はクラーケンの額に腕を伸ばす。………でかいから背伸びしなけりゃ届かない事実に一瞬顔を顰めたけどな。
ほんの一瞬触れた指先は物凄い勢いで掴まれた。…………だから痛い…………。女の身体って…なんでこんなに華奢なんだよ。筋肉ないから直に痛みが伝わってきやがる……………
そんな見当違いなことを考えていた俺の耳にクラーケンの声とリュウの大笑いが同時に響いた。
……………………鼓膜が裂けるかと思った………
「触るな近付くなっ!! 殺すぞ!?」
クラーケン……腕掴まれていたら離れられないって…………
「ガハハハハハッ!! オメーこの手のヤツがタイプだったのか!? どおりでシンタローが担ぎ込まれてからずっと静かなはずだぜ!」
……………………不吉なことを楽しそうにいうリュウに顔を引きつらせてから俺はクラーケンを見上げた。
アハハハハ………顔真っ赤だよ。なにか……この赤面は俺が近付いたせいなのか?
ま、まさかな………クラーケンは結構真面目だし…………
ってなに問答無用でリュウにアイスボンバーかましてンだよ!?
…………軽々避けてるあたり、場慣れしてやがるな。こいつ……クラーケンからかうの趣味にし始めてたのか?
「そういうリュウにーたんの好みもパーパたん入ると思いまちゅが………」
冷静に一人で呟くタッちゃんの不吉な声…………。まさかと思いつつ顔を引きつらせるが………振り返った先ではアラシVSアマゾネス&クラーケンVSリュウの姿が………………
なんでこうわけわかんない事態に発展するんだ!?
泣きかけた俺を避難させるようにキリーがこっそり手招いて部屋の隅に誘導してくれた。その間も恐ろしい破壊音が漂っているんですけど…………
………まともなヤツが少なすぎる………………………
「悪い、キリー………」
なんだか脱力しつつ俺はキリーにいった。……力ない声に自分で突っ込む気も起きねぇよ…………
そんな俺に同情的な声が降る。……こんな年下相手に同情されるほど俺は大変な状態にいるわけかい………
「が、頑張って下さいシンタローさん。あの、いまタイガーさんがサクラのところにいって原因調べるよう頼んでますから………」
「サクラ……? ってことは……、また俺の食べた果物が原因なのか?」
前回の記憶喪失騒動を思い出し、俺がいやーな顔で呟く。それに応えたのはキリーではなく年の割に淡々としゃべるタッちゃんだった。
………いや、年という問題で考えるなら50歳過ぎてるし、不思議でもないのか…………??
「そうでちゅ。まーた寝転けてるところ、あのおばたんが連れてきたでちゅ。………自然と全員集まったのはわかりやすいでちゅね」
フフ………なんだろうな、その笑顔は………… なんかこいつ…昔から思っていたがなにもかも見通してる雰囲気があって怖い…………
しかし、今回はアマゾネスに厄介になったのか………。あとが怖いなー………。いま現在の状態も怖いけど…………
なんでアマゾネスの髪は風もなのに揺れたり膨らんだり……………。あれって武器なのか、もしかして…………
本気で馬鹿なことを悩んでいた俺の耳に、更に嫌な足音が響いた。
…………この馬鹿でかい足音は……まぎれもなく……………………………
「シンタロー!! 起きておるか!?」
「服もってきてやったぞ!?」
喧しい足音とともに登場したのは案の定の親父と……バードも?
………が、思わず俺はキリーの背中に隠れてしまう。なんでって……あいつらの手の中にある大量のフリルのビラビラな豪華な服を見れば逃げたくもなるだろうよ。
どう考えても話の流れ上…あれを着ろってことだもんな…………
そして隠れた俺を探している二人&喧嘩をやめた4人に気づき、キリーが泣きそうな声で叫んだ。
ばれるから喚くなとその口を押さえて顔を寄せると、キリーの顔が真っ赤になる。………それはもう気にしないでおこう。こいつにさえ背を抜かされているんだから、口を押さえれば自然胸が押し付けられるんだよな…………
「シンタローさん! 俺の後ろに隠れないでほしいっす!! 俺がヤキ入れられるんすからッ」
「そんなのはわかっとるわっ!」
承知の上で隠れてるんだから気にするなと喚けばキリーが真っ白になって泣いていた。……悪いが、この状況でお前の身を心配できるほど人間できてねぇよ、俺は………
そんな俺たちに関係なくあっさりタッちゃんがみんなに声をかける。………タッちャン……もしかして俺に恨みあるのか? いくら何度かヒーローとの世界征服の企み阻止したからって……それは親として当然のことなんだよ!!
泣きが入った俺の前に詰め寄ってくるかと思った6人は………途中で止まった。
………あれ? 不思議そうに眺めてみれば……第二次大戦勃発?
「あー、鳥、なんだよこの趣味の悪ぃー色は!」
「うるせぇな、お前の美的感覚に合わせてねぇんだよ。シンタローに合うものは俺が一番わかってる!!」
アラシ……お前の因縁の付け方はチンピラ並みに似合い過ぎてるからよしておけ。…………バード、そのセリフ嬉しいようで全然嬉しくねぇんだが。
「この白いヤツがいいな…………」
……………クラーケン? なにあっさりバードの持ってる服から選んでこっちにむかってきてるんだ?
「なにやってやがんだこのガキっ!」
おお、アラシ&バードの見事なコーラス。………二人一遍の攻撃、易々躱されてるぞー………。
「なんだー、ガキ一人に手こずって。それでも英雄と候補だったヤツかよ」
あ、リュウまで加わった。って……一番厄介なのはこいつみたいに騒ぐのが単に好きってヤツだよな………
事態が悪化していく………………
呆然とそんな4人を見ていた俺の耳に親父の悲鳴が響く。……な、なんだ!?
「ああー!? わしがせっかく持ってきたシンちゃん用の着せ替えセットが!?」
俺と同じく4人の阿呆っぷりに魅入ってしまったらしい親父の手の中では見事に燃えている服の炎と灰が見える。……熱くないのか親父。
そしてその足の脹ら脛(ふくらはぎ)あたりにはアマゾネスが………… あいつ……親父の身体よじ登って火かけてきたのか?
スターンと見事な着地を見せ、アマゾネスはそれはもう優雅に笑ってその惨劇を振り返る。
……こ、こわい。その笑い顔がまったく悪びれていないのがなにより怖い……………
カツーンと高いヒールの音が響きながら俺の方に向かってくる。思わず俺は泣きながらキリーに縋ってしまう。………悪いが、俺にこの女以上に怖いものはない。
硬直したまま動かなくなったキリーが一体なにを見たのか想像は容易い。……ヤベェ……メデューサ化してるってことは……かなり本気で怒ってる!?
冷や汗を流してその到来を待つ俺の肩は、存外優しく掴まれた。
………おや? 意外なことに目をぱちくりしながらアマゾネスを見上げてみると……苦笑した顔が映る。
「アマゾネス………?」
「とりあえず、これは貸しね。支払い方法はまた今度決めてあげるわ」
そう艶やかに笑った女は………しっかりと俺の腕をとったままこの阿鼻叫喚地獄から連れ出した。
……俺の背にはまあ恐ろしいほどに響いている音たちがこびりつくようだが……目の前の女はそんなこと気にもかけていない。
ふと考えちまったんだが………これってアマゾネスが男だったらもしかしなくても駆け落ち状態?
……………………………あとでこの借り返すの……どうやって返せばいいんだろうか…………
なによりそれが怖いと思う俺の耳からも、綺麗に怒号のごとき音たちは消えた。
あとに残ったのはただただ満足そうに笑うアマゾネスと、それに追従したまま深い溜め息を吐いている可憐な少女のままの俺だけだった………………
サクラでも誰でもいいから……早くこの事態を終らせてくれ………………
キリリク20202HIT、ヒーローでパーパ女性(というか少女?)化でしたv
………争奪戦なのかなー、これ………………
しかし……もう二度と女性化は書きませんv わけわかんないです☆
そしてなぜ外見上の特徴を一切いっていないかというと……………私が嫌だからです(遠い目)
クラーケンやアラシの言葉でどれくらいの美少女になったか想像して下さい。
私のも想像つかないのです………(遠い目)
この小説はキリリクを下さったユキちゃんに捧げます。
……一応頑張ってみたんですけど………頼んだこと後悔していませんか?