じっと見ればニパッと返される笑顔。
ハァァァァ………わが子ながらかわいい!
まるで天使のように育ってくれたと思うのは決して親の欲目じゃねぇだろ!?
だっつうのに……なんでこいつらは時折ヒーローにびくつくかね??
そりゃ……天界の超人だから、俺たちなんて足元にも及ばないくらい強いけど、無闇に暴れるほど愚かに育ててねぇぞ!
ましてヒーローは心優しい子供だっていうのにさ………。
不思議で仕方なかった俺はとりあえず茶を啜りながらバードを見上げてみた。
ちなみにいまヒーローはない。天界にいって勉強中。まあ明日にはまた帰ってくるけど。
「………な、なんだよ…?」
何故かどもったまま顔を赤くするバードに不可解そうに眉を潜めながらも俺はとりあえず疑問を口にする。
………なんかこいつ、俺が見上げたりするとこういう反応返すんだよな。俺そんなに目つき悪いか?
ちょっと悩むな…………
「ん、いやな……。お前近頃怪我多くないか?」
顔をあわせる機会が多いが、このところ頓に絆創膏が増えていく。
いまもまあ……腕と顔と腹のところにもなにか貼ってるし。足と背中は服で見えねぇけど。
ひどいっていうほどじゃねぇが……気になりはする。量が量だから………………
心配だって声に滲ませていえばバードの視線はどっかそ知らぬ方を見つめる。
………なに黄昏れてんだよ、この馬鹿鳥。
答えない気だな、こいつ………。それなら口を割らせる! やっぱ気になるし……こいつが怪我するほどの相手なら、なにか原因があるにしても危険かもだしな………
「バード、ちゃんと俺の目をみてしゃべれっ」
昔っから真面目な話するとそっぽ向いてばっかだ。俺はそんなに怖い顔して話すのか?
あんま自覚症状ないんだが…………
ぐいっと逃げる顔を両手で押さえて視線をあわせる。
…………だから何故俯く。もしかして熱でもあるのか…………?
怪我から発熱起こしたか?! そこまでひどくは見えないが……我慢していたのか?
思わず俺はすぐ傍の額に触れて熱を計る。んー……別に熱はないな。でもそれじゃあなんだろ、この茹でタコは。
熱がこもってんのか??
悩んでいる俺をよそに、バードはぼーっとした顔のまま固まってる。……やっぱ具合悪いのか。
どうするかな……とか思っていると、少しだけバードが動いた。
息が触れあうような距離だから前には出ないで欲しいんだが…………
とか考えた瞬間、なにかが顔に当たる。正確には口に。
…………ん?
ちょっと待て。整理しようか。
俺はバードの額に額あわせていて、極至近距離にいました。バードが動きます。離れるんじゃなく、もっと前に出てきて。……当然俺にぶつかる、と。
…………………………………………どことどこ、が………?
整理したと同時に混乱した脳内はすでにパニック。
言語障害ってきっと精神的なもので充分なれるよな……………
パクパクと口を開閉することしか出来ない俺の視界にはバードの困ったような顔。………が見えた瞬間、潰れた…………………
な、なんだ!? なにか降ってきたぞ!?
「バード!?」
ぎょっとして叫んだ先にいたのは…………
「………………………ヒーロー!?!?!?!」
さっきのバードのことを呼ぶ声の軽く倍で思わず叫んでしまった。俺って結構薄情もの………?
とりあえずもうもうとある煙りの中に佇む子供の姿に俺は驚くやら喜ぶやら。
あー、ヒーローに会うのって結構久し振りだよな? 確か一週間くらいか?
あのちみっ子姿じゃなく、頭身は少し増えて美少年風になっているけど。……もう成長しちゃったのか、戻らないんだよなー………
ちょっと寂しいがそれは置いておくとして、俺は両手を広げてヒーローを迎える。
「どうしたんだ、明日じゃなかったか?」
「んー、パーパの傍に虫がいたから退治しにきちゃったv」
虫………? いたかな、なにか危ないの………。この辺はそういう物騒なのもいない筈だが、新種か?
ちょっと本格的に悩み始めた俺の眉間の皺に気づいたヒーローがそれをつっつきながらニパッと笑う。
なんか……この笑顔見ると力が抜けるんだよな。肩から余計な緊張がなくなるというか………
ほっと息を吐いて、改めて俺は苦笑をのぼらせた。
…………いかんな。まーだ俺はヒーローに寄り掛かってんのか………? いい加減子離れ子離れ……………
そう思ってもヒーローが無邪気にまとわりつくとそんな意志宇宙のブラックホールにポイッと捨ててきちまうんだけどな………。
「あのね、パーパ。虫はパーパには判らないと思うぞー」
「へ?なんでだ?」
「ヒーローにしか見えないから」
無邪気な笑顔で不可解な言葉。………一体どういう意味だ?
んーと……俺には判らなくてヒーローには判る、と。超人にしか見えないのか?ってことは天界の毒虫か??
つらつらと考えていた俺の耳にようやくなに瓦礫の動く音が聞こえる。
……………ヤベッッ! 忘れてた!
「バード! そういや無事か!?」
すっかり忘れていてもしわけないが、ヒーローにぶつかったんだから、かなりダメージだよな!?
ってよく見たらなんとまあ……綺麗な空が見えることやら。
屋根突き破ってきたのか? そこまでの破壊力はいらんぞ、ヒーロー…………
ちょっと遠くを見てしまいそうになっていた俺の耳に今度は怒号のようなバードの声が勝手に割り込む。
………………耳が痛い…………
「テメェ、ヒーロー!! 堂々と人のこと踏んでいくんじゃねぇよっ」
「バードがよけないからだぞー」
バードがヒーローに怒鳴るなんて珍しい………。さすがに痛かったのか?
っていうかヒーロー………。踏んじゃったんだからそれはないだろ………。子供らしい自己中ぶりだなー。
なんか冷静にその様子を観察していたら今度は半崩壊中☆なドアが開けられる。
………なんて律儀な。すでに家が半分壊れてきている状態だっていうのに。
誰だろうと思ってみていたら………は?
「ん? なんでこのガキがいんだ? 明日まで帰らねぇんじゃなかったのか、シンちゃん」
あ、アラシ? あのアラシがまともにドア開けて大人しく入ってきた??
あー………そっか。やっとわかった。
「いやアラシ、俺はどうやらまだ寝てるみたいだから起きにいってくるわ」
そっかそっか、やっと合点いった。
バードが変なのもヒーローが突然湧いたのも、アラシが生真面目なところ見せるのもきっと俺が寝てるからだな。
それなら起きねぇといけないし、ベッドはどこだー?
ちょっと家よりも俺の方が崩壊気味になりつつヨタヨタとばかでかい虎を抱えて俺はアラシのいる方に歩いていった。
そのまま通り越して寝室にいこうとしたら……腕を引かれた。
妙にリアルな感触だな。夢なのに………
きょとんとしたまま俺はアラシを見上げる。俺より背が高い奴だから当然なんだが、威圧感あるよな…………
まだ腕の中で寝ている虎にちょっと羨ましいなんて思っていると、掴まれた腕がそのまま引かれた。
……………なんだぁ?
ポフッと俺の鼻ッ面がアラシの胸板に押し付けられる。固い…………。いや、男なのにやわらかかったら問題だが。
打ち付けるほどではないやわらかさで引き寄せられたのがまだ救いだが……一体なんなんだ?
「アラシ!! なに勝手に湧いてきてんだっ」
いや……それはヒーローも同じはずなんだが、バード。つうかここのところ毎日来てるだろ。
「勝手にパーパに触るな! パーパはヒーローのだぞ!」
………ヒーロー、人を勝手にもののようにいっちゃいけないんだぞ? いやまあ……確かに俺の命はお前にやるっていったけど。……ってなんで知ってんだそんなこと。アラシがいったのか!?
…………………いわないな、この男は。わざわざ伝える必要無いねとかっていう、絶対に。
まあそんなことはどうでもいいや。とりあえず事態をどうにか…………
「大体ヒーロー! お前が出てきたからおかしくなったんだろうが!」
「なにいってるんだバード! ヒーローが戻ってこなかったらパーパに手ェ出しただろ!」
「合意だったらいいんだよっ! 俺はお前と違って大人なんだからッ」
「ヒーローだって大人になれるぞ! パーパ嫌がるからあんまならないけど!」
……………どうにか……できない………………………………
つうかどうしろっていうんだ!?
なんなんだ、この図は! なにか、もしかして俺はわが子と親友に取り合いされているのか!?
ちょっと思い付いた言葉&図式にかなり自分でダメージが……………
またプツッと現実逃避で夢の世界にいってしまいたくなった。
思わず目の前の壁に強く拳を押し付ける。……ん? あったかい………って………………
見上げた先にはそういやいたよ、アラシ!!
ニヤ〜ッと笑った……………ヤバい、逃げんと!!
ワタワタと腕を動かすが、抱えているタイガーを落とすわけにもいかないのであまり効果がない。
いい加減起きろよタイガー!!!!!
「…………シンちゃんモテモテだねぇ………」
うぎゃっ! 耳元でしゃべんじゃねぇよ、こそばゆいっっ
ギロッと内容と行動の両方を睨み付ければクツクツ喉の奥で笑う。……こいつほどこういう悪人笑いが似合う奴もいないよな…………
「ベッドに行く途中だろ? 俺が連れていってやろうか?」
「…………え、遠慮します…………………」
どんどん顔を近付けるな!! 煙草の匂いが染みついとるぞ、貴様! あれほど身体に悪いと説教したのにまだ止めてねぇな!
………………だめだ。どうしても思考が現状受け入れなくて別のことに逃げる。
本当に一回寝て落ち着いてくるか………?
かなり本気で悩み始めた俺の耳に、軽く息を吹き掛けながら低〜い声。……男の色香を男に与えるのはやめろ。
「構わねぇよ。添い寝のサービス付きだぜ………?」
人の腰に手を回すな!! ギャーッッッ!!!!
思わず俺がタイガーでぶん殴ってやろうかと思った瞬間、フワンと抱え上げられて穴の開いた屋根の辺りに着地。……………次いで俺たちのいた場所がバードとヒーローの攻撃によって大破………?
いや……俺もさすがにこの直撃受けたら危ないんですが、二人とも………………
「パーパに触るな!!」
「アラシテメェには羞恥心がねぇのかっ」
「お前らだって同じようなもんじゃねぇか」
呆れたようなアラシの声に思わず同意しそうになった俺は深い溜め息を落とすことでそれを堪える。
ちなみにまだ俺はアラシの腕の中だったり? ……暴れたら遠慮なく落とされる…………。タイガーが起きればいいんだが、こいつ抱えたまま飛ぶのはきつい。
早く起きろと揺すってみると、ぼんやりと目が開けられる。
おお!! 天の助けか!?
そんな風にちょっと感激していた俺に……事態は急降下で最悪バージョンへ。
「パーパ…おはよー…………」
人型に戻っちゃったタイガーが……………チュッvと…………ね………………
虎の時と同じ感覚でするなといつもいっとるだろーがッッッッッッ!!!!!!!
ピシッとアラシに亀裂が入った。………ついでにいえばタイガーが人型に戻ったショックでそろそろ屋根も危険。
『タイガー!!!!』
「こんのくそ虎ッッ」
三人の声と崩壊する屋根の悲鳴と、きょとんとしたまま取り合えず落ちていく俺を受け止めたタイガの不思議そうな声と…………俺の心の叫びが一緒に谺する。
誰でもいいからこの収集をつけてくれッッッ!!!!!
キリリク26500HIT、日々やってくるライバルからパーパを守るちょっと悪人ヒーローでした。
………どの辺悪人なの?という突っ込みはしないで………………
大人気ないですねー……みんなして。
いや、アラシが一番余裕あるという時点で間違えていますが(オイ)
でも最後は気にいっています(笑)
タイガー! 無意識に全員挑発しました。さて……このあと事態はどう転がることやら。
私はすでに知りません☆(コラ)
この小説はキリリクをくださったまゆらさんに捧げます。
悪人が誰だかまったく判らなくなってしまってスミマセンでした。