ぼとぼたと大粒の雨が空から降ってくる。
………これが本物の雨ならまだ我慢しよう。自然現象に腹たてるほど馬鹿じゃないしな。
でもこれ……生温いし。
大音響のように響く泣き声にうんざりとしている俺らはみんな一様に薄笑いしているが………呼び出した当の本人には関係なしのようだ。
小さく吐く溜め息もなく俺はその固まった笑顔のまま前にいたリュウに声をかけてみる。
「………リュウ………一体竜王様になにがあったんだ…………」
そう。オイオイと子供のように泣きわめいているのはこの世界の父ともいうべきはずの竜王様。なんでこの世界の王様っていうのは子供もつと人の迷惑顧みずに泣くかね。その巨体で泣くとすでに災害なんだよ…………
ふとそんなことを思って気づきく。
あれ……………? 竜王様が片時も離そうとしないあの愛息子さん……いないな……………?
…………まさか…………………
「お、なんか思い当たったみてぇだな。まあ正解だろうが……クラーケンがいなくなったんだよ」
あっさり笑っていったよこいつ………。一応上司だろうが………………………
「イカがいなくなったからってなにに困るんじゃ。タツがいれば龍人界は世界を握れまちゅv」
…………………タッちゃん………目が本気です。一応仲間をそんな風にいってはいけないんだぞ………ってこの兄弟にそんな常識求めても無駄か。
すぐ傍にいたヒーローに目をむけ、これが息子の友人なのかと改めて思うとちょっと溜め息………。でもまあタッちゃんヒーローには誠実だし、いいけどさ。
軽い溜め息に気づいたヒーローはにっこり笑うとタッちゃんに声をかける。
………ヒーロー? どうしたんだ??
「タッちゃん! ヒーローと外で遊ぼうv」
「ん、そうでちゅね。馬鹿なイカのことはリュウ兄ちゃんたちに任せるでちゅv」
にっこり満開の笑顔にコロッと騙されてタッちゃんはあっさり外へと向かっていきましたとさ………。オイオイオイオイ……ヒーロー……………………
笑顔で手を振って無言で邪魔者は連れていくね♪といわれちゃね………。
「オーオー、なかなかヒーローもやるな。こりゃタツの奴尻敷かれるわ」
……………………………なにあっさり嫌な言い方するかね、この兄弟はさ……………
溜め息は一気に深くなったが、ヒーローも俺の負担減らす為にタッちゃん外に連れ出してくれたことだし、頑張らないと!
「で、一体いつからクラーケンはいなくなってんだ?」
さすがにあの強さを誇るクラーケンが誰かに誘拐されたとは思わないが………
竜王様の愛情にさすがにうんざりしたかね………。うちもたまに引っ越したくなるしな………。思わず自分の父親の顔を思い浮かべてクラーケンの苦労がわかってしまった。
そんな俺にニヤリとリュウが笑う。……なんだその笑いは。物凄く企み笑い………?
ヒクリと顔を引き攣らせるとお互いの額が当たる。………痛いんですが……。なかなかいい音が響いたけれどそんなことお構いなしのリュウはその状態のまんまで呟いた。
…………できればさっきの状態のままで話して下さると嬉しいのですが…………………
そんな俺の考えは絶対に見抜いているリュウはそのまま楽しそうな顔でイヤーなことをいってきやがった…………
「実は昨日の夜からなんだがな。………俺のところにあいつ珍しく来て、妙なこと聞いていったんだぜ?」
「………なにを?」
このリュウの言い方からそて絶対に俺は聞かない方が幸せ。多分渦中にわざわざ足踏み入れるようなものなんだろう。……がだからといってこのまま放っておくことができる性格でないことは自分もみんなもよく知っている。
………………この苦労性どうにかしろってまたバードにいわれるな………………
「あいつ「嫁にできない奴の傍にはどうすればいれる?」って聞いてきたぜ? よかったな、玉の輿だぜv」
……………………………………………………………………
一瞬にして頭の中が真っ白でした。思わずトンネルの先には雪国広がってるってな妙なフレーズが頭を過ってしまうくらい。
ほっほう…………それはつまり俺のことをいったとリュウはいいたいんだな……………………
ふざけんなー!!!!! 俺はれっきとした男ッ! クラーケンだってそうだろうがッ
ギロッと睨み付けて悪い冗談をいうリュウに文句のひとつも……と思った俺の頬になにかが当たる。
……………なんか生あったかいやわらかいものが…………………………
ヒクリと頬を引き攣らせて脱力した俺にリュウは何事もなかったかのように笑って声をかけてきやがるし……
「まあ駄賃はこれっくらいでいいかね。………健闘を祈るぜ?」
最後の言葉……すっごくとってつけた感じがするんですけど…………………
ああもういいや……どうでも…………………
重くなった背中を引きずってとりあえず竜王様に声を……って……あれ? なんか……本当に背中が重い………?
訝しげに俺が振り返ってみると眼前には金色の髪が揺れている。………忘れていた。こいつもいたんだった。他の奴はまだ来てないけど、クラーケンの側近だからすぐに呼ばれたんだな。
って冷静に考えている場合じゃない!! こいつがいるなら即離れねば…………!
「なーに逃げようとしてるのかね、親友目の前にして」
「………………親友というのは離れようとした相手の髪を鷲掴むものなのか?」
物凄い馬鹿力の指先に捕らえられてる俺の髪は思いっきり悲鳴をあげている。………生理的な涙が僅かに浮かぶが悔しいので絶対に気づかせん。
そんな俺に楽しげな顔が近付く。……なんでこいつらって顔近付けるの好きかね。
警戒しつつなので一応の距離はあけるが……まあ髪掴まれているんで限度あり。
「とりあえず退け。クラーケンのことだから猪突猛進したに決まってる」
………きっと家に帰ったらいるんだ。リュウのことだから押掛けりゃいいんじゃねぇの?くらいのこといったに決まってるし…………
深い溜め息つきたいところだがそういうわけにもいかない。間近にいる男の顔をとりあえず押し退け、俺は改めて竜王に向き直った。
………直ったんだが……気づいてくれない…………………………
なにいつまでもないてんだ世界の父ッッ! その威厳はどこに消えたんだッッッッ!!!!!
いや、そんなこといっても無駄だろうけどさ…………
しかたなしに俺は羽を出して竜王の肩まで登ってから大体のことのあらましを俺の予想付きで説明した。
はっきりいって……こんな説明俺はしたくない。
誰が自分を嫁にしたかったけど無理だから押掛けに来ているかもしれないです……なんてその人の父親に説明したいものか………………
説明を聞き終えた竜王は………案の定よりいっそう嘆いて滝涙を噴出中。
………………これは俺のせいじゃないよな…………
水害で城の兵隊たちが流されている中俺はとりあえず羽で飛んだまま自分の家を目指す。
兵隊さんたちごめんなさい。できる限り急いで原因を連れてくるのでしばらくの間我慢していて下さい。
関係なかったはずの俺はいつの間にやら事件の渦中どころか原因に仕立て上げられていることに気づいたさ……………
自分の家が……ない。
思わず北風が自分の後ろを過ぎ去ったのに気づいてしまった。
いや……家はあるんだよな。うん。でもこれ家じゃない……………
いつの間にか立派な城が建てられています。………ちょっと待てや。
俺は朝この家出る瞬間までこんな物体は見ていないぞ! だっていうのになんで存在してるんだっ!
唖然としていると後ろから声が。…………ああ、そういえばこいつも空飛べるんだった………
「おー……クラーケン様、張り切ってんな……。このまま俺と逃避行した方がよくねぇか?」
「……………………黙れ………」
あっけらかんとした声の中にもちょっと余裕のなさが見隠れしていたり。……しても俺になんと答えろと?
しかし、アラシのこの言葉。こいつクラーケンが画策(?)していたこと知ってたな………
でもあえて手出ししなかったとは。一応忠誠心があるのか? ちょっと意外だがまあ、いいことだしな。
とりあえずいまはアラシ以上に手強い子供の説得にかからなくては…………
………………………なんかすっごく気が重いのは何故でしょうか………
溜め息を吐きそうなところをぐっと堪え、俺はドアに向き合った。………いきなり開けるのはまずいかなーと思い一応ノックして声をかける。
「おーいクラーケン? ここにあった俺の家はどこに…………」
「遅いぞ。茶はどこだ?」
………………………………あの、なに真面目な顔でそんなこと聞いているんですか?
イヤお前が冗談いわない質なのはよくわかる。どちらかというと天然だろう。
でもこれはないだろ、これは……………
なんでクラーケンは当たり前のように俺が茶を入れるのを待っているんだ………………
シクシクと泣きながらも話をする為には仕方ないので俺は茶を入れてみる。ウウ………なんで年長者の俺が……………
なんとなく理不尽な気もするがこの際もう目を瞑る。細かいこと気にしていると何もできなくなることを俺はイヤになるほど知ってるしな…………
後ろで警戒心を持ったまま居座っているアラシの分もお茶を入れ、とりあえず借りてきた猫の居場所を作ってやる。…………そこまで緊張するなら入ってこなきゃいいのにな……。まあ心配してくれたんだろうけど。
「で、クラーケン。一体なにしにきたんだ?」
あまり聞きたくはないが、とりあえずはそこから攻めなきゃ何も始まらん。ぴくりとアラシの耳が動く。……なんだか猫みたいなやつだな。
俺の言葉に至極真面目そうなクラーケンは訝しそうに眉を寄せて答えた。………答えの内容はまあどうかとか聞くな。
「? なにをいっている。嫁に貰う相手とは一緒に暮らすものなんだろう?」
「………誰が嫁?」
「お前」
あっさりと指差された先にいるのは勿論俺。…………いかん、子供相手にキレちゃいかん。
ヒクリと顔が引き攣るのが自分でもわかったがなんとか耐えてみた。………のに真横でガチャンと嫌な音が……………
「クラーケン様ッ! シンちゃんは俺のだっていったはずですが!?」
「…………机ぶち壊して世迷いごとをほざくなアラシ…………」
ぐったりした俺の声など聞こえていないように睨み合いは続行。俺の溜め息とともに再び口火が切られた。
「欲しいと思った人間は嫁にするものだといったのはお前だ」
「それはシンちゃん以外のはっていった筈です! 大体アルバム見せた時にちゃんといったでしょう! 惚れちゃ駄目ですってッッッッ!」
「だから嫁ではなく婿養子というものにしたんだ。それならいいんだろう?」
「だめですっっっっっ」
ウワー……珍しい。アラシが正論吐いている。
…………って違う。つい論点変えちまったぜ。
つまりなにか、今回の騒動の原因はアラシだったってのか? 一体いつの写真見せたんだよ…………
とりあえず………まあ竜王様に報告にいってくるかね。この様子なら二人でキレて大喧嘩とかにはなりそうにないし。
こっそり二人の口喧嘩を横目にしつつも俺はドアから外に出て大きく息を吸うと空に飛び上がった。
いい喧嘩相手をお互い見つけられたのかもしれないが……この調子じゃ俺が絶対に巻き込まれるよな………
それだけでも頭が痛かったが、よ〜く考えてみたら……家なくなってるし。
しかもあの調子じゃ絶対にクラーケンは居座るよな………となるともれなくおまけでアラシも?
きっとタッちゃんもそれならって来そうな気がするし、タッちゃんがいたらリュウもくるかもしれないし、クラーケンいたら嫌が応にも竜王様が来ることも……………
………………………ちょっと待て。
俺本気で引っ越し考えなきゃいけないのか?
竜王様の城から吹き出ている洪水らしき量の涙に負けないくらい、きっと俺も泣いている気がしてきたよ…………………
キリリク30303HIT、クラーケン×パーパで押掛け夫(?)でした!
なんかクラーケンで話書いていくよりはその周りの奴らで書いていった方がギャグっぽくなると思ったのですが……その通りでした(遠い目)
クラーケン……天然ではあるがギャグキャラにはなりきれん奴。
しかしこの先この家はどうなっていくんでしょうね。怖くて想像したくないですv
この小説はキリリクをくださったまゆらさんに捧げます!
あんまりクラーケン出せなくてごめんなさい………