空は綺麗に晴れ渡っている。
  清々しさはいつも通り。気分よく俺は目の前の折り紙を切り落とした。
 ん? ああ、この折り紙なんに使うかって?
 なんせ今日は7月7日! 七夕飾り作る為に決まってんだろ!
 …………本当はもっと早くに作って今日は飾るだけな筈だったんだけどな………。いつものごとくいらん邪魔ばっか入ってずっと作れなかったんだよ……………
 今日は来るなと祈りつつ、俺は軽い足音に顔を向けた。
 振り返れば満面の笑顔の息子と息子を乗せて御機嫌な虎。平和な図だな〜♪
 「パーパ!ヒーローなにすればいい?」
 「お、短冊は書けたな? じゃあ飾り作ってくれるか?」
 書いた短冊を見ようかなーと手を伸ばしたら慌てて隠される。……寂しい。
 まあ願いごと、だからな。恥ずかしいのかな?
 成長したのだろうと寂しいながらも納得して俺は自分の使っていたハサミと折り紙をヒーローの前に置いてやる。
 ………やっぱ細かい作業は合わないな。肩が痛くなって仕方ない!
 お子様二人(片方は俺と3つ違いだが)後は任せ、俺は笹を探しにいってくると声をかけて外に出た。
 背中から元気のいい声。……とともに虎の悲鳴が。あーあ、あいつ虎の手でハサミ使えるわけないんだから………。
 まあヒーローがいるし、手当てしてもらえるでしょう。大体いい大人がちょっと切ったくらいで騒ぐのもな…………。もっとひどい傷なら平然としている癖に………。ま、戦場と普段でのギャップは俺にもあるからしかたねぇか。
 眩しい陽光に顔を一瞬顰め、自分の羽を思いっきり羽撃く。
  風が顔にあたって気持ちい〜v
 ……………………………………この調子で気分よく何事も終れば俺の人生、かなり幸せだと思わんか?
 しばらく飛んでいたらなんとなく感じた気配に嫌〜な予感が………
 これってまさか……いつもの騒ぎへの予感?
 でもおかしいな……。そういうのなくす為に今回は各家で楽しもう!ってことになって騒ぐのは明日。
 キリーが泣いてプルルちゃんとデート出来るって喜んでいたし………(サクラは不貞腐れていたけど)
 んー……まあいいか。たまには気のせいってこともあるよな! そう祈りたいって気持ちもかなり大きいけど。
 まだどことなく後ろ髪を引かれつつも俺はいつもと変わらず竹林へ。
 ………実はここアマゾネスの所有地だったり。毎年の恒例で勝手に貰っていっていいことになっているけど………一応声はかけないとなー。枝振りの見事な竹を眺めながら俺は地面に下りてみる。やっぱこういうのは直に歩いて楽しまんと!
 なーんて風流な事考えるんじゃなかった………………………
 竹林の先に見慣れた金の髪! 微妙になにか作業している感じに動いているけど気配のなさがまさにあいつである事を物語ってくれる。腐っても軍人(?)だからな………。迷惑に強いし。
 ふふふ…嫌な予感的中。でもまだ相手は気づいていないよ……な?
 逆側に廻っていこうとくるりと俺は方向転換。一気に走るなんて馬鹿な真似したら一発でばれちまうから変わらずゆっくり気配を殺して……………………


――――――ギュンン!!!!!


  「どわあぁぁぁ!?!?!?!」
  鋭い風を切る音と俺の悲鳴が綺麗に交じる。
 ………眼前……どころか避けなかったらクリーンヒットな竹の強襲……………。ちょっと待てっっっっ!!
 なにをどうしたら竹が真横に振払われる!? 俺は普通に歩いていただけで…………
 驚いたために肩で息をしながらまだ振り子のようにギュンギュン音を立てながら頭上で左右に揺れている竹を眺めながら混乱ここに極まれり?
 なーんて混乱する必要はまったくないんだけどな! ほーら、俺の肩になにかがあたる………
 いや、確実にさっき見た影の腕だけどよ……………
 振り返りたくない。……気配がむかつくくらい楽しげだから尚更に!
 でもそうしたら余計に喜ばすだけだってことも俺は骨身に染みてよ〜く知っているんだよ……。かなり深い溜め息を落とし、俺は嫌々ながらゆっくりと振り向きつつその影の名を呼んでみた。
 「………アラッチ………。あの竹、お前か?」
  「御名答〜v まあぶち当てるつもりだったのはお前じゃねぇけどなv」
 にっこり邪気なくなんか……怖いこと言っている気がするんですが。俺の気のせい……じゃないよな。
  この竹藪の所有者は勿論俺の頭のあがらないあの女。………まさか………………
 ざっと顔色を変えた俺に大体思考の読めたらしいアラシが呆れ気味に声をかける。……珍しく優しいな。つうかこの程度で優しいと思われるっていうのもどうかと思うが。
 「いっとくが、あの女相手にこんな単純なの使わねぇぞ。これは鳥用」
 「どっちみち俺の親友だー!!!っていうかアマゾネスにはもっと高度なのやる気だったのか!?」
 思わずノリツッコミの流れで即刻言い返した俺の目の前にはなんか異様に凄んだ感のあるアラシの顔。………どうでもいいがあんま近付くなよ…。お前煙草の匂いきつくなってないか?
 身体に悪いといくらいってもききゃしないんだよな。一体なにがうまくて吸うんだか…………って違う。こいつの煙草はとりあえずいまは関係ないな。
 息苦しい感じがするので接近した顔から一歩後ろに避けてみる。……また一歩近付いてきやがったけど。
 「当然! ………あの女にはそれっくらいで調度いいだろ?」
 ………………ニヤリと笑ったその笑みはかなり本気。………顔を引きつらせた俺は肩に置かれたアラシの腕を軽く振り落としてバサリと羽を出す。
 いや……この馬鹿がなにやろうと構わんが、さすがに人に危害加えるとなると……な。しかも一体どこから仕入れた情報か知らないがそろそろバードが竹を運ぶ手伝いにきてくれる予定だったり………
 ついでにいうなら大体切り終えた頃にはアマゾネス(去年まではミイちゃんも)も来て一緒に家に来るのが毎年の恒例。
 ことの事情話して注意させんと……ってアラシ!?
 がっしり人の足掴んだ腕にぎょっと顔を見けると楽しそう〜な苛めっ子モードの笑顔が……。
 あ……駄目だ。生理的に受け付けん。こいつがこういう顔すると条件反射でザワザワ鳥肌立ってくる…………………
 逃げ腰気味の俺の目の前まで飛んできたアラシがまーた近付いてくる。空中とはいえ竹藪の方に背を向けている俺には逃げ場がかなり限定されていてきつい。
 絶対にわかってやっているけどな、この男……
 顔を引き攣らせてなんとか身体を捻って目の前のアラシの身体から遠ざかろうとしても……さすがは特選部隊隊長。ちゃんとこっちの動き先読みしてさり気なく逃げ道塞ぎやがるぅ……………………
 とりあえず落ち着こうと深呼吸を2回。スーハースーハー。………この程度で落ち着けるわけもないけど鳥肌は収まったかな?
 ………………ってのにこの男の一言で最大級に再び出現しやがったけどな。
 「シンちゃ〜ん? 腰ミノ一枚なんて随分サービスよくねぇ?」
 クツクツという笑い声が響く。…………ドアホッッッッッッ!!!!!!
 男がっんなサービスしてたまるか!!! なんていう俺の心の叫びは音にはならない。
 …………鳥肌が……ほら見ろよ両手足に満遍なく…………。あんまりにも綺麗に出てきた上に硬直した俺に感心したのかアラシがマジマジと観察している。
 そんな感心いらんから早く帰ってくれ………………………………
 …………かなり悲痛な叫びは本人の耳にはたとえ入っても無視されるってわかっているけどさ。
 「そんな顔してると余計いじめたくなるぜ? ………いじめてやろうか?」
 半分本気です、この男。鳥肌をおさめて今度は顔面蒼白。
 さて。……………逃げるッッッッッ!!!!!!!
 意表をつく意味も込めて俺は上にはむかわずにアラシの下を通ろうと羽を動かす…………いや、動かしたはずなんですが。
 「イッテェッッッ!!!!!」
 思いっきり羽を鷲掴み?! ちょっとあんた、羽なんか掴まれたら俺空に浮かんでいられな……………ッ!!!
 はい予想通りに急降下。でも羽の付け根の痛みはひどいっていうことはアラシが掴んだ羽である程度落下スピード落としてくれているらしい。
 ………嬉しくない。痛みでちょっと生理的な涙が……………
 なーんて思っていた俺の顔面すれすれになにか鋭い物体がギュンって飛んできましたことですよ!?!?!
 何事だ!!って待てアラシ、お前羽から手離し……………ッッ!
 ……………………………………………………………………………
 …………………くくく…… 思いっきり顔面から地面に抱き締められましたよ………。痛みにちょっとうち拉がれつつも文句はいわない。なんでって?
 絶対完璧確実、この男は自分で飛べる癖に鈍くせぇとかいってくんだよ!! そしてその通りなんだから言い返せねぇんだよ!!!!!!
 そんな俺の前になにかが降り立つ気配。フワリと背中に落ちてきた羽根の感触は………そりゃここに来る予定だったバードのもの以外ある筈もなくて…………
 あー………忠告する前に着いちゃったか。有り難いんだか困ったもんなのか微妙だな………
 「あん、鳥………わざわざ俺らにあてられに来たのか?」
 そんな俺の心情を察しているのかアラシは相変わらず挑発的にバードに声かけるしよ……… バード……冷静にいるかなー………。かなり楽観したい気分のまま俺は振り返って………思わず再び顔を背けた。
 あああああああああああああ………バードの背中に馬鹿でかい怒りマークが見える!! 
 顔を引き攣らせつつももう一度勇気を持って俺は二人に顔を向け……る前になんでお前ら戦闘体勢はいってるわけ? ちょっと気が早過ぎるぞ二人とも……………
 まるで教科書のように綺麗な攻撃と防御。ややバードが押され気味だけどアラシは余裕そうだ。まあ実力から考えてしかたねぇけど………
 なんて実況または解説気分で見ている場合じゃないんだよな……。とりあえず……まず押さえるとしたらこの男…だよな………
 俺は大きく息を吸い込んであらん限りの声で中断を呼び掛けるようにその名を叫んだ。
 「アラシッッ!!!!!!!!」
  大音量のそれにぴたりとアラシの動きが止まる。ついでに自分が呼ばれなかったことがショックだったのか微妙に凍ったバードも。
 よし、とりあえずこれ以上の被害は押さえられた。…………といってもすでに二人の余波に巻き込まれた哀れな竹は目もあてられない姿に変わり果ててるけどな………
 ああああああ……… アマゾネスに顔あわせるのが怖い……………
 心の奥底で泣きながらどっか遠くにいってしまいたい俺の間近に嫌な気配。……アラシ…いつの間に近付いてい……たあ!?!?!?!
 「血、出てたぜ? もっと消毒してやろうかv」
 ブンブンブンブンブン!!! 思わず扇風機になれるくらいの勢いで首を横に振った俺をそれは楽しそうにアラシは観察している。ついでにいうならバードは氷のまま一回砕けていた………。
 こ、この男はなに考えているんだ……? 人の顔…しかも男の顔舐めるか普通………。いやこいつに普通なんて定義を求めちゃいけないってわかっちゃいるんだが!
 さっきのバードのウイングカッタでできたらしい傷を手で隠し青ざめつつ後退していた俺にゆっくり近付くアラシ……に気づいたバードが氷(しかも砕けたくせにいつの間にか補修されてる)から舞い戻って文字どおりに飛んできた!
 それに気をとられてくれればその隙に逃げようと思った瞬間………空が真っ暗に。
  何故?…………ってアアアアアアア!? ゴロゴロピカって…………空飛んでいたバードの骨格が綺麗に見えた気がしたんですけど…………
 さすがにそれには驚いたのかアラシが呆然とそちらに顔を向けている。ちょっと薄情かと思いつつも俺はこれ幸いとアラシから離れ、こっそり遠回りしつつバードの様子を観察していた。……なんでいきなり落雷なんかが………
 明るくなった空に訝しげな顔をして原因探究に乗りだしたらしい好奇心旺盛さは子供のままなアラシにちょっと微笑ましく溜め息をついてみる。……バードの手当てしたいんだがな………。
 とりあえず薬草探してくるかと背を向けた瞬間……なんだか身に覚えのある音がシュッと微かに響く。
  これはもしかしなくてもさっき俺が喰らいかけた……………
 「へぶ!?」
 アラシの奇妙な悲鳴……というか空気の漏れた音?が響く。
 ……………いまのは……スパイクボール……………。アラシの奴一体何個仕掛けたんだ?
 いや、それより問題はいまの落雷&スパイクボールを使ったのは………………
 ギチッと固まった俺の背中から高らかな声が謳うように響く。ふ、振り返れない………
 「まったく……人の所有地で一体なにしているのかしらねー、このグウタラ親父はッ」
 竹藪がちょっと壊れ気味なのは俺のせいじゃないんですけど……。でもそんなこと言おうものなら怒り倍増するに決まってる。怖々と俺は振り返りたくない思いを殺しつつ顔を声に向ける。
 そこには当然ながら俺のもっとも畏れる人が悠然と控えていまして………。
 ついでにいうならその足元にはブルブル震えた虎の背が………。さっきの雷はタイガーか。………お前バードにまで落雷落としていたぞ?
 なんていう軽口をたたく余裕があるはずもない。叱られるのを覚悟した子供のような面持ちで俺は次の言葉を待つ。
 うう………もう三十路になる大の男がこんなんでいいのかよ…………………
 近付いた気配にぎゅっと瞑った目がなんとなく痛い。昔っから駄目なんだよな……こいつが目の前いると無意識に叱られる!!って身体が動かなくなる………………
 そんな俺の腕をぐいっと引っ張る小さな掌。ん…………? アマゾネス?
 惚けたように目を開けてきょとんと間近の顔を見つめてみれば、笑みを溶かした女の顔。
 「さっさときなさい。ミイちゃんもヒーローくんも待っているわよ」
 「へ? ………あ、だけどまだ竹を……………」
 「そんなものそこに転がっている二人が持ってくるわよ。………わかったわね?」
 最後の部分だけ凄みをきかせて流血&焼け焦げた二人にあっさりと言い放つ。なんでだろう……一瞬この辺の気温が一気に下がった気がする……………
 なんとなく後ろ髪を引かれつつも俺は自分の腕を引くアマゾネスに従って竹藪をあとにした。


  ごちそうを持ちながら、浴衣を着てから来るアマゾネスを残して家に帰る途中、俺は人型になって荷物持ちに従事しているタイガーにこっそりと問い掛けてみる。
 どーしても疑問。なんでこいつがアマゾネスと一緒にいたんだ? ヒーローと一緒に留守番していたはずなのに………
 そんな俺の言葉に、にっこり邪気のない虎の笑顔が広がる。この顔見るといつものだらけた虎もこいつだって判るよな…………
 まあもっとも………その口から零れた言葉は俺を石化するには十分過ぎたけどな…………
 「タイガー、ヒーローとお願い一緒だったから、追い掛けてパーパ守れっていわれた!」
 「…………ヒーローと?」
 「そう。ヒーローパーパもお嫁にするって。だからタイガーもv」
 ……………………………そりゃあもう無邪気に邪心の欠片もない笑顔で屈託なくいわれちゃ俺も突っ込む言葉がねぇよ…………………


  世の中一番厄介で手に負えないのは迷惑この上ない天の邪鬼でも周り見えない猪突猛進でもなくて、きっとこの手の天然なんだろうな…………
 物凄く確信しつつ石化したままの俺を不思議そうに眺めたタイガーはポンッと虎になると荷物とともに俺を背に乗せて家路についた。…………家には無邪気な息子も待っているんですけどね…………

 俺の願いごと……平穏無事にでも変えるべきかもしれない………な…………………
  たまには普通の願いごとさせろー!!!!!!








キリリク36000HIT、パーパ争奪戦ギャグ風味で勝者は誰でもでしたv
………質問。この話……結局誰が勝者?(汗)

初めは七夕関係なしにいこうかと思っていたんです。この日から私は卒論合宿だし………
でも逆に自分に期間を限定させてみました。つまりちょっと追い込んでみたと。
ギリギリ……完成。そして妙に長くなりました。普段通りの長さだったらもうとおにできていたのにな………

この小説はキリリクをくださった鈴花様に捧げます。
遅くなってしまって申し訳ありません。そして期間限定な話でさらに申し訳ありません(汗)