ちょっと辺りを見回して、警戒心むき出しに気配を探ります。
…………これがいまのところ俺の習慣。ヒーローが天界に修行にいっちまってからやたらと強襲かけてくる馬鹿が増えたんだよな………
おっし、今日は誰もいないな!早速俺は背中の籠いっぱいに果物を詰め始めた。俺もよく食うけど、それ以上に居候がよく食べる食べる。男と女の体格差を差し引いても食べ過ぎじゃねぇかと思うが…………。そのせいで近頃膝に乗せるの重いんだよな。
今度ダイエット食でもアマゾネスに聞きにいこうかなー………なんか怒られるような気もするけど。
そんな風に色々と考えていたせいですっかり警戒心を解いてしまった俺は肩を掴まれるまでまったく気づかなかった。………つうかこいつの気配のなさなんて今に始まったことじゃねぇんだよ!今更気付っていわれたって俺だって困るわ!
俺の肩を軽ーく掴んでいるでかい掌の持ち主が誰かくらいよくわかります。………なんせ逆の腕は腰に回されていますからv
………………………一回ぶちのめしてもきっと罪はないと本気で考え始めた俺の耳にいや〜なくらい甘ったるい低い声が注がれる。くすぐったいから耳元でしゃべるなと何回言ったら学習するんだこの男。子供の頃からだっつーのに。
「よお、久し振りだなシンちゃん。相変わらず刺激的な服で誘ってくれるねぇ♪」
……………………昨日もお前は人の家に夜這いにきただろうが。まあ何故かやっぱり窓から乱入してきたバードと喧嘩になっている間にタイガーとともにアマゾネスの家に避難させてもらったが。
思い出した嫌な記憶……しかも鮮明なそれにちょっと鬱が入りかけた俺を見事に現実に帰らせてくれたのはこの男の腕。…………なに勝手に人の身体撫でてんのかなッッッッ!!!!
胸と腰だけを覆っている俺の服は確かにビキニみたいなもんだけどなっ! 結構この辺の住人はこういう服が普通なんだよッ。下手に着込んでいる方が湿気にやられるしぶっ倒れちまう。………その方が危険だってことはよ〜くわかっているしな………………
「離せっての! 俺はお前と遊んでる暇はない!」
思いっきり肘鉄付きでいってみました。ちなみに俺とアラシの身長差からいって肘鉄がクリーンヒットする位置は鳩尾v
………そのままちょっと地面と御対面していて欲しいのだが確実にすぐに復活するのはわかっているので俺は急いで羽を出して空に逃げる。あーあ…まだ籠半分しか埋めてないのに…………
抱えた籠の中身を確認しながらちょっと溜め息。色々なものを何故か押し付ける奴らはあとを断たないけど、そんなもの触りたくないし……友達にまで恵まれたくないしな。自分達の食い扶持くらいはなんとかしているけど、如何せんこうして邪魔が入るとすっごく迷惑なんだが。………いったらきっと有無をいわさず自宅に拉致監禁して飼われそうな予感が………。ガキの頃マジでされかけた身には笑えない想像にちょっと青空が悲しい。こんなにいい天気なのに俺の身の上って危険な記憶しかないのかなー……………
「シンタロ〜v いいところで会ったぜ!」
かなり落ち込みそうになった頃、後ろから声をかけられる。これは幼馴染みの声。さすがにわかります。
「なんだ、バード。どうかしたのか?」
「いや、今日の昼飯まだなら一緒にどうかと思ってさ。力作だぜ♪」
にっこり紳士的な笑顔で優しい言葉。パッと顔を輝かせて飛びつこうとした瞬間………思い出した言葉に固まってしまった。
「………シンタロー?」
抱き着くとばっかり思っていた俺が固まった上に青ざめてしまったせいか両手を間抜けに差し出した体勢のままバードが問いかける。………いや、多分きっとお前は悪くないんだが………でも約束が………
「……悪い、バード………。俺、一人で男の家いくなって厳重に約束たてさせられてンだ………」
「ハァ!? 俺も駄目なのかよ。タイガーも連れてくるんでもいいケド?」
怪訝そうな顔もわかる。わかるが俺はあいつを敵に回したくないッ!
「だってアマゾネスが特にお前の食事の誘いはタイガー付きでも駄目だって……………」
「あんの女ーッッ!?!?」
半ば泣きの入った状態で伝えてみれば激昂したバード。………そこまで怒らなくてもイイじゃんか…。アマゾネスも誘えばきっとOKだぞ。そういったら何故か血の涙を返されましたけど………
こ、怖いよ…………。ちょっと青ざめつつ薄情なことは理解しながらも俺は思わず距離をとってしまいましたv いや………実際これ見たら引くって誰でも。
そんな俺の背後に嫌な気配。………あ、そういえば…まだたいして距離とってなかったような……気が…………………
ちょっと顔を引き攣らせて恐る恐る後ろを覗く。ホラー映画を見る奴らの心境ってこんなものなのかね……?
やっぱりーッッッッ!!!! 想像に違わずに金の髪が靡いていますッ!っていうか頼むから唐突に人に抱き着くお前の癖治せーッッッッ
そんな俺の心の声など聞こえたところでどこ拭く風。聞く耳もたないどころか余計に楽しむサド男にいう気はないが。…………………お前がこういうふざけたことすると確実にバードから嫌な音が………ほら…プチっていうの聞こえたぁ…………
本気で泣きそうになりながら胸を触ってくる腕をなんとか取り除いていると問答無用でウイングカッター!!!
バード!! 俺にも当たるからやめろってそれッッッ
………まあキレているときは無駄なんだよな……いっつもこのあと詫び入れに家に訊ねてくるの日課に近いし………………
どうやって収集したらいいかなーとか頭痛がし始めた頭でいく通りかの手をシュミレートしてみたら……なんか首筋に生あったかいものがッッッ!!??
ゾワーッッと全身に鳥肌立てて首元に顔埋めていやがる馬鹿を睨んで見ればこの上もなく楽しそう。この男、人の首舐めてなにが楽しいッ!!
「てめーアラシッ! シンタローにそういう真似していいのは俺だけだーッッ!!」
……………いや、バード……悪いがお前でも嫌だけどな……………
「ヘッ、せこい手使って毎日通ってるヤローに遠慮するいわれはねぇな。俺のものどうしようが自由だろうーが」
お前も毎度毎度見事なくらいに人をもの扱いしてくれるよな………。いい加減俺以外のものに目を向けてくれんかね?
まあこんな俺の祈りが通じていたらとっくに俺は自由の身なんだけどな。何故か男の幼馴染みは毎度この恒例行事にも似た喧嘩を必ずするんだよ。さて。喧嘩はしても殺し合いじゃなきゃ止める気もないし、さっさと逃げる算段を…………
とか思っていたらなんか空の上からと地上からなにかが二人を落としました。
………………まて。光に当たった俺の背後にいた筈のアラシ…すっごく嫌な鈍い音たてていたぞ………?下からなにかに射抜かれたバード………かなりな流血で森に消えましたけど。
大丈夫……かな…………? かなり不安げに足下に落ちていった二人を見やれば間近に戻ってきたアラシに体当たりしたらしい人が乱暴な口調で話し掛けてきた。
「ったくあんたがこうだからヒーローも修行に集中出来ねぇんだよ!あんなのとりあえず殺しておけっ!」
…………お前かなり本気でいっているけど……一応俺の幼馴染みなんですが……………
そんなさもゴミを捨てるみたいに嫌な顔して苛立たんでも。まああまり教育上よくないシーンを見られはしたと思うが…………
「リキッド………何故ヒーローじゃなくお前が帰ってくるんだ?」
超人兄弟の3男に当然の疑問を投げかける。末弟ことヒーローが唯一の弟だからとかなり可愛がっていたから絶対にヒーローがいなければここにはこないくらいの地上嫌い。……………まあいいか。とりあえず助かったし。アラシのことだからちょっとやそっとじゃ死なないしな!
改めて礼でもいうかと振り返った瞬間にリキッドはここにきた理由をいってくれた。………出来れば言わないまんまが嬉しかった…かな……………
「水晶球見る度にあんたが男に襲われてて、その度に聖王剣振り回して帰るって暴れンだよ。いい加減止めるのも大変だからあんたの監視にきた。あんなんじゃ、俺もおちおち寝てらんねーし」
呆れたようにいう言葉の中に俺を鬱にする内容が加わっていることにかなり落ち込む。………そんなに俺、襲われまくっていたか? 通りでアマゾネスが同居持ちかける筈だ…………
ちょっとこんないい天気には似合わない暗雲を背負いつつ、そうかと答えた俺にははにかむような…というかついでたセリフを思いっきり否定しようと必死なリキッドの姿は目に入っていなかった。
もっとも一通りの言い訳をし終えたあとのもう1つ割り込んだ言葉にはザーッと青ざめるたけどな!
「ああそういえば。……下で髪の長い女がこいっていってたぞ」
…………………………………………。
やっぱ……さっきバードを打ち落としたのって………………
ダバーッと涙を流した俺に何事かと大慌てなリキッド。嫌だ……下にいったら俺…殺される………。ちゃんと約束は守ったけどでもそんな言い訳聞く耳持ってくれない!!!
グルグルとどんな殺され方をするのか克明に映像化されてしまってますます怖くなる。………駄目だ。竦んで下を見れない………………。
青ざめたままにヨロヨロと俺は間近なリキッドの腕を掴む。この際、たとえ嫌われている相手でも構わない!!!!!
「た、頼むリキッド!一緒についてきてくれッ」
しっかり腕を掴んで離さないと半ば脅迫を込めて懇願してみる。正確にはまあ……腕掴んだ時点で強制移動。
「ちょっ、おい、ウデーッッッッ!!!」
何やら喚いているが………ああ、抱え込んでいるから腕に胸に当たっているからか。こんなおばさん相手になに照れてんだか…………
ちょっと呆れつつもわざわざ手を離すほどの距離もなく、恐れている地上がすぐに目に入った。………ああ、地面がのた打っているように見えるぅ〜……………
「ア………」
「遅いッッ!!!」
名前を呼ぼうとした瞬間の怒号に、予想をしていた俺は耳を塞ぐ。勿論わからなかったリキッドは可哀想にモロ餌食になって硬直。こいつの声って…なんで迫力あんだろ………
「まったく、あれだけ言ったのにま〜たこいつらに掴まって」
「俺だってちゃんと警戒してたって! だけどどこからかわいてくんだよ………」
「当たり前でしょ。害虫は根絶しないのが世の掟よ」
…………すでに二人とも人と見なされていないのか……通りで対応がキツイと思えば。
ちょっと同情を込めて苦笑いを返せばとっても凄みのある笑顔が迎えてくれましたv
わかってます。下手に情けはかけませんッ!
「まあいいけど。あいつらなら簀巻きにして崖から落としておいたから多分数日はやってこないだろうし」
………………なんというか。それをこの短時間で行なったお前に驚けばいいのか、あの大打撃を受けておいてなお簀巻きにされなきゃいけないほど逞しいあいつらを驚くべきか。…………それともこの近くの崖は急流の滝に繋がっているにもかかわらず冷静なアマゾネスに数日で復活することを予言されているその生命力に驚くべきか。
どれもごめんな気がする俺はとりあえず全てデリート。友達嫌いたくないしな………というか、俺の幼馴染みって何故こう人を超越してんだろうか…………
「で、本題よ。今度は何やらかしたの?」
「…………は?」
「人王がなにトチ狂ったか竜神界に戦争しかけるか悩んでいたわよ」
「はああああ!?!?!?」
「…………あら、本当に知らなそうね。でもあんたが原因でしょうし……ちょっと調べないと駄目ね」
そういって嵐のごとく現れたアマゾネスは俺を茫然自失の状態にしたまま優雅に去っていってしまった。
………………親父………一体なにを考えてんだ? やっと戦争も終って平和になったっていうのにっ!
沸々と怒りのわき始めた俺はぐったり項垂れた背中を慰めるべきかを悩んで間近にいたリキッドに思いっきり頭突きを喰らわせながらガバッと起き上がり、改めて羽を出して空を飛ぶ。
一回家に帰ってタイガーに事情説明してとりあえず親父を止めにいく!!!
かなりすごい形相な俺をちょっと同情したのかぽんと慰めるみたいにリキッドが肩を叩いてくれた。本当に……子供達の方がよっぽど優しく人を気遣ってくれるよな。ジーンとちょっとしてありがとうと笑いかけたら何故かそっぽ向いて鼻と口元押さえていたのが気になるが。つうか風に吹かれた先に赤いものが飛んでいたような………まあいいか。
バターンと勢いよくドアを開け、出迎えた虎を抱きとめれば………何故泣いているんだ?
困惑していたら虎の姿からあっさり人形になって涙もそのままに話しはじめる。………どうでもいいがタイガー……お前人形になったら抱き着くの止めろ。手加減知らずだから滅茶苦茶痛い! あーあ、確実に痣になってるなこりゃ………
「パーパ、他の人のお嫁さんになるならタイガー貰うッ!!!」
「………とりあえずそういう話もする意志もないが、何の話なんだ?」
「? クラーケンが貰いに来たって中にいる」
『ハア!?』
何故かリキッドとハモった声をそのままに俺は中に突入! ………なんでクラーケン……お前こんな質素な室内に溶け込んでいるんだ……………。まったく気づかなかったぞ。
とりあえずなにかの間違いか、お互いの親の勝手な暴走か。どっちで話を切り出した方がいいかと悩んでいた俺の肩にぽんとクラーケンの手がのる。おや、いつの間にか立っていたか。
それを目で追って顔まで辿り着かせれば……………………あの、なんで顔真っ赤?
なんかこの反応……すっごく身に覚えがあるというか嫌な予感がするというか。ヤバい。逃げ出したい。
そんなことを脳裏に掠めさせている間にしっかり両肩掴まれちゃいましたv あああああ、またアマゾネスに叱られるーッッ!!!!
青ざめながら泣いている俺にしっかりクラーケンが向き直る。ウウ……色男なのはわかったから離して……………
「お前が欲しいといったら何故か竜王が暴走した」
「………は?」
思っていたのとは一応違う反応にちょっと安心して不可解そうに答えれば相変わらずの無表情加減で付け足してくれる。
「人王に結婚式の招待状を送りつけたといっていたから、お前を迎えに……………」
「親父の暴走はお前らのせいかーッッッッッ!!!!!!!」
しかける………あの人なら俺が結婚するなんていったら戦争くらい仕掛ける!!!!
ああもうなんでこういう親バカが王様なんだよこの世界は!!! 半ばやけになった心境のまま俺はクラーケンの胸元を掴んで揺さぶりながら喚いた。
「というかお前も! そういうことは冗談でもいうな!」
「いや……冗談じゃなく」
不思議そうに見つめ返す視線は………えらく真顔で。ザッと改めて青ざめた俺は慌てて手を離そうとしたらしっかり捕まえられてしまった。ヒーッッッ顔が近付くッ!!!!
「ダメッ! パーパはタイガーとヒーローの!」
ガシッとすごい音とともに俺とクラーケンを引き離してくれたのは勿論タイガー。よかった…まともな家族がいて、本当によかった! …………とそう思ったのも束の間。
「パーパはタイガーのお嫁さんになってヒーロー育てる♪」
……………そうくるか。いや、まあ端から見たらそういう図なんだが。って違うッッッッ!!!!!!
一瞬納得しそうになってしまった人懐っこい笑顔に慌てて否定するように頭を振れば再び誰かの腕がタイガーから俺を引き離した。なんだ!? クラーケンか!?
と思ったら間近なのは目の下にある傷。リキッドか。
おお! そうだよ、考えてみればこういうのから守るために来たっていっていたし! 最初っから頼りゃーよかった!
そんな希望的観測をものの見事にぶち壊してくれる一言に今度こそ俺は石化した。
「お前らにやるくらいならこのまま天上界連れていって俺が貰うッ」
………………………………………………
………この世に、俺の本当の味方って…………………………
黒い髪をたなびかせつつ、馬鹿な親子喧嘩の仲裁にいくために迎えに来てくれたアマゾネスが来るまで俺は固まったままだったらしい。
ヒーロー………早く帰ってこーい。お前がいれば一応みんなマトモだよ…………
天上界では水晶球を壊したヒーローと忍の壊れっぷりを面白がった乱世が地上にいく算段をたてていた……………
多分きっと当分の間。
………………………安息はない。
キリリク57000HIT、「もしシンタローが女性だったら?のギャグ話(もちろんシンタロー総受けで人王・ヒーロー・タイガー・リキッドは固定で出来るだけいろんな人が出演)」でした!
………いつもと違うのか……これ……。せいぜいシンタロー自身がいわれることに抵抗がないくらいか。
一人称だから外見上の違いはたいしてでないんだよな。
シンタローが初めから女だったら、ということで。………女………………
あれが女(遠い目) ふう。とりあえず、シンタローの性格に一切手を加えることなく、にしました、立場が変わるだけ。妙に女々しくなるのは絶対に嫌。
あとアマゾネスとの関係もちょっと変化。
回りの狼から大切な妹を守る感じで(笑) ………多分アマゾネスが最強になった経緯はシンタローに近付く輩を闇で抹殺していったためでしょう………。
しかしこのあと………一体どうなることやら。
ブラックヒーローとリキッドがどう対面するかも怖いですけどv
………クラーケン……忍から逃げきってね…………………
この小説はキリリクを下さった華鈴さんに捧げます。
これ以上キャラを増やすことが出来なかったです………………