別になんつーか、俺はどうでもよかったわけだ。単にヒーローがこいつに会いたいって泣きわめくから連れてこようかなーと思っただけで。
 俺自身が会いたかったとか、傍にいたいとか……思ったわけじゃない。絶対にっっ!!!!
 ちょっとドキドキと高鳴っている胸に対してかなり苦しい言い訳をかましてみる。………判ってんだよ、言い訳だってことくらい。
 ちらりと隣を見てみればすぐ傍を飛んでいる男の顔が見える。……ガキくさいよな、実際。外見年齢大差なく思えるぞ? まあいったら顔顰めるだろうけど。
 「………ド? おい?」
 ぼんやりとそんな風に眺めていたら突然それがドアップに。うを!? い、いきなり近付くんじゃねぇよッッッ!!!!
 顔が赤くなるのを感じながら、それを誤魔化すことも含めて大声を返す。
 「…んだよ! いきなり近付くなっ」
 ちょっと乱暴に引き離した肩が痛いのか眉が寄ってた。………力加減、失敗しちまったかな?
 器用に少し間合をとって、改めてシンタローがこっちを見やる。ぷいっと顔を逸らしちまったからあんま顔見れなかったけど。
 「いや、あとどれくらいか聞こうかと………」
 困ったような顔と声。………あんだよ、まるで俺がいじめてるみたいじゃねぇか。いくら不良呼ばわりされていたって、意味もなくいじめたり暴れたりはしねぇぞ。あんたの幼馴染みじゃあるまいし。
 …………思い出した金の髪に思いっきり顔を顰める。あんのくそ海人、わざと牽制のためだけに目の前であんなマネしやがってっ! やっぱり一思いに殺しておけばよかったか? この人が庇うような気がしたから地面に半埋めくらいで留めておいたけど。
 憮然とした俺の気配に気づいたらしい相手の腕がのびる。………あんだよ、近付くなってのに。あんた近く来ると動悸がひどくなるってのっ!
 上気するってわかりきっている顔を晒せるわけもないから視線は逸らしっぱなしだし。………絶対にこいつ、俺に嫌われてるって思っているよな……。いや、気づかれても困るからいいんだけど。
 「まだ気にしてるのか、アラシのこと?」
 ………………………………。
 この人、勘がいいのか鈍いのかはっきりさせてくれ。
 これだけ俺らの感情には気づかない癖に、なんでこういう時のはあっさり理解するんだ?
 ムスッとしたまんま睨むみたいに顔を見る。…………声だしたらなんか、別のこと言い出しそうだし。墓穴は掘らねぇようにしねぇと。
 「まあ、あんま見ていて気分はよくないとは思うんだが……子供がじゃれついているような感覚なんだよなー、俺には」
 ……………ガキがじゃれついてキスするってのかあんたは! つーかあんたよりガタイのいいガキがいてたまるかっ!
 ありありとそんな俺の気持ちが雰囲気&顔に出ていたらしく、ますます困ったようにシンタローは言葉を探している。わたわたしてまあ………本当に、ガキくさいなあんた。
 ずっと地上を見てたけど、あんたもっと堂々としてなかったか? どんどん退化していってるみてぇ。
 でっかい目でじっと人見て………なんでこんなかわいいんだ?
 ………………………………………。
 ちがーうっっっっっっ!!!!!!
 可愛くない可愛くないッ! これはヒーローを育てたってだけの大ッ嫌いな地上の人間!!! 血迷うな俺ッ!
 思わずわいた考えに俺は頭を思いっきり振る。それを自分の言葉への否定ととったらしいシンタローがまた苦笑してなにか言おうとした。
 「リキ…………っくっしゅん!」
 …………人の名前をくしゃみに変えんなよ。って、ああそうか。もうこの辺、氷雪山に近いから気温も下がってたか。俺らにはたいした影響ないけど、人間にゃあ辛いんだったな。
 というか……あんたの格好が悪いようにも俺には思えるんだが? なんだって腰みの一枚でいるんだ? そんな格好してっから寒さに弱いし、ああいう変な輩に襲われんだろーが。もっと自覚出来ねぇのかよ。
 ちらりと諌めるようかと視線を向けて………思わず俺は再び前を睨み付けてしまった。
 なんでって……こいつ寒さで顔赤いし、ちょっと震えたりしているし、生理現象とわかっちゃいるが目が潤んだり眉寄せてたりッッッッ!!!!!
 直視出来るわけねぇだろうが! 悪いかちくしょうーッッッ
 無言のまま俺は自分の着ていた上着を脱いで投げ付ける。たいした差はないかもしれないが、直に寒気が肌にあたるよりはずっとマシな筈だ。あんな顔ずっとされててたまるかよ………こっちの理性が…いや、だから別に俺はッッ!?
 考えれば考えるほど深みにハマていく俺を心配そうにシンタローは見ている。………多分寒さでヤバくなったかとか考えてんだろうな。顔に思いっきり出てるぞあんだ。
 「リキッド、俺は大丈夫だから着ておけ」
 …………だからその顔して服を差し出すな。背景違っていたら滅茶苦茶危ない光景だな…………
 「あんたの方が寒さに弱いだろーが。俺ら超人は気候になんか左右されねぇんだよ」
 ベーっと舌突き出してからかうみたいに言ってみる。………ガキくさい仕草で悪かったな。茶化さなきゃやってられねぇ俺の気持ちも察しやがれ!
 強がりでもなんでもない言葉だし、なにより活用出来るものは活用出来る奴が持っていた方がいい。そう言えば……ふんわりとシンタローが笑った。
 う………わぁ………………
 び、びっくりした。どこをどうとっても女っぽい点もないし、別に綺麗な顔立ちってわけでもねぇくせに、なんだってそんな笑い方できんだ?
 周りにあんだけ危険がゴロゴロしていて純粋培養がよくできたもんだぜ…………。人王ってある意味育て方最強に上手いのか?
 確実に顔が赤くなっているからそれをなくすために必死で別のコト考えてみるが……無駄だ。同じシーンが繰り返されてる。俺の頭ってビデオだったら相当性能いいか、逆に壊れてワンシーンのリピードしか出来なくなってんな………………
 いそいそと上着着ているシンタローには判らないだろうっていうことだけが救いだ………………
 なんて馬鹿なことやっているうちにやっとついたぜ蛙の門!
 ……………毎度思うがなんで入り口が蛙でなきゃいけなかったんだ…………? ガマのじーさんの考えることは判らん。
 「………ん?」
 「どうかしたか? リキッド」
 「いや………」
 キョロキョロと辺りを見回してみる。………いねぇ…よな? おかしいな…いまなんか乱世兄貴の気配があったような気が………。ま、まさかな! 兄貴はヒーローの相手してるはずだし!
 「うをーい、ガマのじーさん! ちょっと通っていくぜ!」
 どこにいるかも判らない相手に思いっきり怒鳴ってとりあえず来たことを伝える。……長居する気は勿論ないけど。どうもガマのじーさんは俺からかって遊ぶ癖があるからな…………
 しかも今日はシンタロー付き。あの人にしてみりゃ絶対におもちゃがおもちゃ連れて遊ばれに来ましたvってな具合だ。………嬉しくねぇ。
 ずかずかと勝手知ったる道を歩いていく。………なんで俺、味方の家に来ているのに油断しちゃいけねぇとか考えてんだろうな…………
 ちょっと溜め息つきそうになった瞬間、真後ろから悲鳴のような声が。
 「わーッッ!? ちょっ……ガマ仙人!?」
 「苦しゅうないv ちょっと黙っておれ♪」
 ぶちゅっと………おいガマーッッッッッッ!
 なんでいまあんたが人形に戻る必要があんだーッッッ!!!!!
 「なんだよ、この俺様とキス出来るなんて光栄だろーが。落ち込むとは失礼な」
 「いいからさっさと離れろ」
 ずびしっキレのいいツッコミをしてぐったり項垂れているシンタローの肩に置かれているガマの手を払う。それでもまーだ納得していないみたいな顔してるよこの人は…………
 ………………蛙にキスされればそりゃ落ち込むだろうよ…………。つうかあんたなんのために出て来たんだ?  「俺たちは急いでんだよ。なんか用か?」
 嫌な予感をしつつもとりあえず確認。……………うわ、笑った顔が悪人ヅラになった。
 「もちろん。退屈だから相手していけ」
 「急いでるっていってんだろーがッッッッッ」
 人の話を何故聞かないんだあんたはっ! ちょっと臨戦体勢に入った俺を止める腕が。…………ちょっと待て。お前、仲裁は入れる力量じゃないって判っているからってなにも身体全部で思いっきり抱き着かんでもっ!!!
 ヤベェ………顔が笑う。それを隠すように口元を手で隠していると人に抱き着いているせいで僅かに下の顔が、上目遣いに……………
 「落ち着けリキッド! ガマ仙人もちゃんと考えがあってのことかもしれん!」
 真剣一途な目。懇願するみたいに見るなーッッッ!!!!
 頭の中がまーたグルグル渦巻くものが…………。硬直しきって動けなくなった俺を考え直したと勘違いしたらしいシンタローが改めてガマに向き直る。
 って馬鹿かあんたは! いいおもちゃと思ってる相手を真面目に相手にするなーっ!
 「突然お邪魔して申し訳………」
 「なんでお前、それ着てんだ?」
 「は…………?」
 「服。リキッドのだろ?」
 真顔でじっと見られながら言われた内容にシンタローがきょとんと首をかしげる。なにを言っているのかよく掴めてませんって表情しているんだろうな、きっと。にっと楽しげに笑ったガマの顔でよ〜く判る。
 「男から服渡されても着るもんじゃないぜ? それ脱がしたいって下心込みだからな」
 自分と同じにするなーッッ!! 考えないわけじゃないと言い切れないところが痛いが。ってだから違うっ!!!
 「いや、リキッドはそういうことは……」
 困ったみたいに俺を弁護してくれるのは有り難いが、目の前の男にはからかう材料提供に過ぎないから黙ってろって!!!
 「ま、どっちでもいいか。ちゃんと俺が脱がせてやるし?」
 にっこり邪気なく言った内容に思わず俺の腕がのびる。この人……言ったからには行動する! 長年の付き合いから身に染みてんだよ!!
 「なに勝手にいってんだよっ!」
 「じゃあお前が脱がすか?」
 「当たり前………ってだから違うだろ!!!」
 危うく乗せられるところだったっ! この人………こいつをネタに楽しむ気だ!! 俺がばれないようにって思ってんの判ってるってコトは……乱世兄貴どっかにいるな!?
 やっぱさっきの気配は気のせいじゃなかったか!! つーかいまなんか「パシャリ」って音がッッッ!
 「乱世兄貴ッ! いるんだろ!? 何の真似だっっ」
 叫んでみれば………オイ。あんたもう少し隠れていようとかそういう気持ちはないのか? なにあっさり悪びれもなく出てきてんだよ。
 顔を引き攣らせてそれを眺めてみれば、最強タッグを組んだ最悪な親友同士が声を揃えて答えてくれた。
 『リキッド初デート編のアルバム作り☆』
 ………………………………………。
 思わず白くなりかけた俺より早く、硬直した感触が腕に伝わる。………ばれたのかそれともただ単にこの兄貴たちの言葉に現実逃避したくなったのか。どっちにしろ俺には有り難くない。
 恨みがましく二人を睨んでみれば嬉しくない言葉がもうひとつ飛び込んできた。
 「まあ時間的にそろそろヒーローが水晶鏡見る頃合だし。もしかしたらすっ飛んでくるかもな♪」
 …………別に俺はあいつと取り合いそたいとかそういう気はまったくないが。
 はたしてヒーローは俺の言葉を聞くだけの理性を残してくれているだろうか。……思いっきり抱き着いちゃっているは、俺の服…この人来ているは…………誤解しかねない……よな…………?
 嫌な汗をかきながらも、とりあえずこの人は巻き込まずにどうやって事態回避をできるかを、考えることが苦手な頭で必死になって考えた。

 …………………いい案浮かぶほど俺の頭は性能よくないけどな!!!!







 キリリク58000HIT、「リキッド×パーパで二人のデート(妨害付きで4兄弟出演のギャグ)」でした。
 今回のリキッドはデートという意識まったくなしでとにかく護衛。
 …………自分がなんとかしなきゃマジで危険だと思っている辺りちょっとアマゾネスと話があうかもしれないですね。

 一回書き直しましたv
 …………乱世視点の話も同時にアップします。小説置き場へどうぞ………。
 つうかね。どう考えても人様にあげられる水準の話じゃなくなったんです(涙)なんで見なくても全然OKv
 むしろ見るな?(笑顔)
 なら載せるなとお思いでしょうが……一応話的には繋がっているんだもの……。端折らせてもらった分載せないと…………

 リキッド視点。可愛かったです(笑)
 素直でないけど自覚してきていて……でも否定したい!みたいな。
 でも結局リキッドもヒーローは可愛い。取り合いは出来ないだろうな………。パーパの一存に任されております☆

 この小説はキリリクを下さった華鈴さんの捧げます。
 遅くなりまして申し訳ありませんでした!(汗)