春も盛りとくれば勿論花見! そんなわけで桜綺麗だったな〜となんとなく言った俺の一言からいつの間にか花見ツアーが始まっていた。…………不思議だ。
タイガーの背中にヒーローを乗せて俺はなかなか荷物になっている山のような弁当とシートを抱えていた。………背負うだけじゃ足りなかったんだよ。
「遅いわよ、ぐうたら親父!ミイちゃんが風邪を引いたらどうするの!」
「………アマゾネス……これから俺たちは外で花見だぞ………」
風邪引くなんていっていたら花見なんぞできんだろうが。……なんて命知らずなことを言った俺の目の前を矢が去って行った。…………スミマセンごめんなさい。何もいっていませんッ!!!
真っ青になって声も出ない中、首を振ってなんとか俺は自分の失言を取り消した。なんで俺こんなことやってんだとか言わないでくれ。怖さは誰もが知っている!
と、とりあえずシートを引こう。ばかでかい宴会用のブルーシートをリュウのところから借りてきたが……でか過ぎ。俺一人で必死になっていたら何故だか知らんがシートに絡まったッ!?
「………お母様……お義父様が…………」
「虎に加勢に行かせたから大丈夫よ」
ワタワタ混乱している俺の耳には勿論そんな冷静な女二人の声は聞こえはしなかったが。
なんとかひっぺがしてもらったはいいが……タイガー……助けてもらって文句は言いたくない。言いたくないんだが!
頼むから力任せにシートを引っ張るという荒技は二度とするな。あんまりにも鮮やかに空に放り投げられて飛ぶことも忘れたぞ。………アマゾネスの「羽ある癖に馬鹿ね」なんていう言葉も聞こえたしな…………
すっごく申し訳なさげに俺のコトを伺っている虎の頭を撫でて取り合えず端を銜えていろと一方の角を手渡す。俺も角を持つ。
…………………。
あ、あの……どう考えてもシートは四角なのであと二人必要なんですがアマゾネスさん。ちなみにヒーローとミイちゃんはしっかりちゃっかりすでに花見に洒落こんでます。ああヒーロー、枝は折っちゃだめーッ!!
シートをはためかしたまま叫んでみればわかったぞーとのんきな声が返ってくる。ふう……アマゾネスは……足りないものないかきっちりチェック中。いま声をかけたら殺されるな。
ばさばさ虚しい音が俺の耳に響く。これは……どうしろと?(涙)
そんな虚しい涙が風に乗っていた頃、後方でかなり重たい物の落下音が響く。振り返るより早く声が聞こえたけど。
「…………馬鹿かあんたは」
かなり哀愁漂わせていた俺の背中に本気で馬鹿だと言いたげな声が降り掛かった。結構見知っている声に顔を確認するまでもなく名前を呼ぶ。
「リキッド!ちょうどよかった!あっちの端持ってくれ」
かなり間近だった翼が顔に触れそうになってちょっとびっくり。それでもまだよかった。なんせ人手が手に入った! 突然名前呼ばれたことに面喰らったような顔してしぶしぶリキッドがシートを持ちに行く。見た目不良だけど素直だよな、この子。さすがはヒーローの兄弟だv
さて。ここで問題です。シートの角は4つ。しかしここにいる使える人材は3人。そしてこのシートはでか過ぎて…………荷物を置くくらいじゃ置いていない端に行っている間にはためいて荷物ぶちまけてくれちゃうことが予想されます☆
…………ビョー……………
「……………で、いつまでこの格好で固まってんだよ」
それは俺が聞きたい。………いや、聞きたいことなら何故リキッドがここにいるかも聞きたいが。
「それよりなんでお前がここにきたんだ?ヒーローから聞いたのか?」
そう問いかけたら視線逸らされてしまった。……なんか嫌なこと聞いたか?
「………………ガマ吉が知らせにきて、俺だけ先に荷物抱えて落とされたんだよ」
あの……なんでそこまでどんより雲背負っているだ? さっきの落下音が荷物だよな。……なに…抱えてきたのか聞いた方がいいのか無視決め込んだ方がいいのか。……………………微妙だ、あの人が相手だと。
まあ取り合えずこのシートどうするかと悩んでいたら何故か今度は予想なんぞ出来もしない人物が現れた!
いや……気づくべきなのか?どっちだ?…………まあいいや。この際使ってしまえ!
「いいところに来たクラーケン!悪いがその端になにか重い物置いてくれ!」
「……………」
「…………いや、桜はもぎ取らなくていいから……というか、傷つけちゃいけないからな。その辺転がっている荷物を頼む」
本気だった、あの視線は絶対に。特にそれに頓着するわけでもないからきっと天然なんだな…あの思考回路は。
飄々と近付いたクラーケンはあっさり示した先に荷物をどさっと置いて仮止めしてくれた。
そして心底不思議そうに…なによりも不可解そうな視線でいってのけた一言。
「花見というのはそれを持って風に吹かれながら花を見ることなのか?」
………かなり本気で言ってます。オイオイオイオイ。
簡単に花見のコトを説明し、なおかついま現在の俺たちの状況が何故あったのかも教えてなんとか納得させている間に段々メンツが増えてきた。
「おや、まだガマ仙人はいらしていないのか。いい酒を持ってきたのだが………」
「ちょっと待て親父。なんであんたがここにいて、なおかつ人並の大きさになってんだよ」
思いっきり胡散臭げにさも当たり前のように現れた親父に投げかけてみれば……なんだよそのまるで雷にでも打たれたような衝撃のリアクションは。
呆れた視線の先ではおいおいと泣き始めながら切々と耳を塞ぎたい言葉が連なってきた。
「あ、あんまりじゃ〜っ!この前のピクニックは駄目になってしまいおったし、その後の海はお前が風邪を引いて没になったから、冬はと思ってみればバードどもと馬鹿騒ぎしおっていた癖に〜!正月も城に来て挨拶したらパーティーにもでんで帰った薄情者がそれでもやってきた父親をないがしろにしおる〜〜〜ッッ!」
「パーティーはあんたがお揃いの服なんて用意したからでなかっただけだが。そんなことよりむしろ俺はなんで今日ここで花見をするといっていないにもかかわらず知っているかを聞きたい」
「安心しろ。お前の家には変な虫がこないようにきっちり防犯システムを登載してあるし、危険がないように監視カメラと盗聴器は星の数じゃ!」
「威張っていってんじゃねぇよ!この天然ボケ親父ッッ!」
素だ。確実にこの人のこの言動は素だ!!! だから余計に質が悪いッッッッ!
家帰ったら即燃やすか!? 燃やしても絶対になにか残っていそうで嫌だけど!!!! ………そろそろ引っ越しの時期かなー……………
「取り合えずお祖父様、こちらで桜茶でも召し上がりませんこと?」
「おやミイちゃん。すまんのう。ヒーローとは仲良くやっておるか?」
俺たちの怒濤のような言い合いにまったく動じることのないミイちゃんを見ているとアマゾネスの血を実感するな。…………将来、アマゾネスを上回ったらどうしよう…………………
って待ってミイちゃん! なにその企み笑顔は!! ああ親父!? なんでお茶飲んだと同時にコテッと倒れる!?
「御安心なさって、お義父様。ちょっと睡眠薬と痺れ薬を調合しただけですわv」
振り返ったミイちゃんはこの上もなくかわいらしい笑顔で俺に報告して下さいました。………女って…………………
まあ取り合えずぶっ倒れた親父を抱え………重いよあんた。まさかとは思うが目方は巨大な時のまんまなのか? ちょっと汗を流して固まってみたらがっしりと誰かの腕が親父を持ち上げた。いまのメンツから言って…タイガーかリキッドか?
「サンキュー……ってなんであなたがいるんですか!?」
「あ?俺がこいつに教えたんだぞ?しかもわざわざ普通サイズに戻してやったし」
「………やたら重い気が……」
「人間そう簡単に体重の増減は操れないものだからな」
……………つまり早い話が重さは変えられないのかよ…………。
あっさり笑顔で言ってのけてガマ仙人はポイッと人の父親をシートの上に放り捨ててくれました。……………一応その人王様なんですけど……………
「おい」
「ドワアァ?!ってクラーケン。お前もうちょっと気配出して近付いてくれ」
「気づかない方が悪い。………それより、いいのか?」
相変わらずぶっきらぼうな言い方だなー。絶対に損するタイプだよな、こういうところ。まあこれで大分素直になったんだが。で、なんだと?
「いいかって…………アーッッッ!!!!!」
クラーケンの指差す方に目を向けてみれば俺は叫ぶ以外の行動が頭の中から消えてしまった。
なんでいきなり目の前にすでに花見が始まっている光景を拝まなければいけないんだ!?俺たちが苦労してシート敷いたのに!!!
「なんでお前がいるんだよリュウ!!」
「あ〜ん? 俺からシート借りといて俺がこないと思ってたわけじゃねぇだろ?」
ぐ………っ! 確かに予想しておくべきだったか?! ………いや、普通家族で花見すると言っておいたにもかかわらず乱痴気騒ぎ始めるとは思わないだろう………常識として。
ってこら! 酒臭いから顔寄せるなっ! 腰抱くな!! アルコール嫌いなんだよ俺はッッッ!
「まあ手ぶらじゃなんだからな。つまみと酒は山ほど持ってきたぜ。ほれ、飲んでみろって♪」
「ギャーッッッ!!!!!!!」
なんで顔を近付ける!!って言うかこのパターンは嫌になるほど経験があるわっ! 離れろ退けーッ!!!
いつもなら絶妙なタイミングでバードとサクラの二重のツッコミがあってどうにか標的がキリーに移るが……今日は誰もいない! どうする俺ッ!!!!
なんて混乱している間にすでに顔はもうドアップ。半ば覚悟を決めていたら………急に圧迫が消えた。はれ……? 視界がクリアーだ。
「リキッド……多分いくら七世界最強の種族のナンバー1でも、神器使ったらあぶねぇぞ」
「うるせぇなっ! 首落としてねぇから大丈夫だろ! 地上人は無意味に打たれ強いし!」
いや……ちょっとそれは拡大解釈し過ぎなんじゃ……と思わなくもないが、俺個人としては自分の危機を救ってくれたわけだし説教のしようが………。悩んでいるとポンと肩を叩かれる。えっと、こっちにいたのは確かクラーケン?
「…………来てはいけなかったのか?」
え? いやあの……そんな思いっきり真面目そうに真剣に問いかけられましても。
つうかすでにお前。人の作った弁当食べている? 口元に米粒…………
「まあ…いつのも馬鹿騒ぎ起こさなければ構わないんだが。アイスボンバーとかは禁止だぞ?」
口元を拭ってやってそう諭してみればちょっと目元が赤い。……やっぱついていると言って自分でとらせればよかったか? でもそれすると照れ隠しにそれこそ桜を散らせそうな予感が…………
「クーリン……忍頑張ってお弁当を………」
ヒイィィッッ!! 一体いつどこからわいて出たんだ俺たちの間に!? もうすでに気配云々と言うレベルじゃなかった。まるでテレポーテーション。………やりかねない、この人なら……………
よくよく見てみれば乱世も来ているらしくガマ仙人となにか話している。……微妙に手に持っていた雑誌が結婚式場とかのだったことが気になるがいまはそれ所じゃない。
忍は手に持っていたちょっと禍々しいオーラの出ているお重をずずいっとクラーケンに差し出した。おお。なんだかまるで懐かない野良猫を懐かせようと必死な図という感じにジリジリと互いの距離が縮まらずに動いている。…………まあ終止符は勿論俺に災厄が降り掛かる形なんだがな、いつも。
「…………もう腹が一杯だから捨てろ」
「…………………………………………………」
はっ! 忍の視線が俺に! なんで!?ってそうか! クラーケン俺の弁当食べちゃったから!!! 別に食べろと言ったわけじゃないのに俺のせいですか!?
「って忍にーちゃん、人に電波送るなよっ!」
「そうだぞ忍。いずれは義弟になる人なんだから」
「いや、弟にはならないだろ。ヒーローの父親なんだから……義父か?」
「なに言ってんだシンタロー。乱世が言っているのはリキッドの嫁という話だぞ?」
「本人無視してそんな話するんじゃねぇよッッ!」
「照れるな照れるな。兄ちゃんにはよくわかっているぞv 祝言の準備もばっちりだ!」
「つうかそんな話より忍を止めろーッッ!!!」
再びなんだか随分怨念込められた泥人形を出した忍に気づいた俺の絶叫にリキッドが慌てたようにそれをたたき落とした。ぺちゃりと忍の手から泥人形が落ちる。
……………………………………………。
思わず暗ーい視線とモロにかち合って引き攣りつつ笑いかけてみた。
「わーッッ!! 切るな切るなーッ! 食べる! クラーケンが食べなくても俺が食べるからよせ〜ッッッ!!!」
暗くなった雰囲気と同時に一体どこに隠し持っているんだこの人は!っていうくらいに鮮やかに取り出された剃刀が手首にあてられた。瞬間に思わずタックル。…………切れてないよな……
そうして見事なタックルの効果でちょっと血を吐いている忍からかなりの呪いを感じつつも俺はそれを開けた。………あ、中身はマトモだ。つうかむしろ俺より上手?
恐る恐る震えた手で卵焼きを1つぱくりと食べる。………なんだか周りの視線が痛い。まるで罰ゲームにロシアン卵焼きを食べさせられている気分だ。
でもこれって………
「忍料理上手だな! すっげーうまいぞ!!」
パッと満面の笑顔で忍に言ってみたら……………何故か血飛沫が。
「すんません。こいつ褒められるのに慣れてないから……桜赤くしちゃって本当にすんません」
………………いやあんた、バケツに雑巾で一体どうやって桜を元に戻す気ですか?
すでにそれくらいしか言い様のない光景を眺めながら、今度花見をする時は決して誰にも物を借りずに、計画はアマゾネスの家で立てさせてもらうことにしようと心から考える。
ポンと肩に置かれた細い指先に込められた力が克明にその意志を俺に伝えていることがよく判る。
………………いまのこの状況よりなにより、俺はこの腕の持ち主の怒りが怖い。
キリリク60000HIT、ヒーローで「家族参加のお花見会のギャグ」でした!
いや〜、久し振りにまともなキリ番っぽい数を拝めましたね。嬉しいものです。
家族で、と言うことでイロイロおまけはいるものの一応必要そうなキャラを総出演させました。
竜王でなくて残念☆ 他の王様たちが人王取り合うのも書けなくて残念。いや、別に私好きなわけじゃありませんけどね、王様カップリング。ギャグで書く分には楽しい。
クラーケンはリュウに誘われてきてます。先に着いた理由は勿論酒なんか調達していたリュウを置いて来たから。
リキッドが持たされた荷物。あまり深く追求しないで下さい。多分……結納セットですから(きっぱり)
まあそれを大人しくちゃんと持ってきている辺りが素直でないリキッドですv
この小説はキリリクを下さった華鈴さんに捧げます。
キリ小説200作目に続き60000HITまでとはスゴイな〜とひとり拍手しておりましたv