大きく伸びをして、俺はやっと終った片づけに満足した。
 ぐるりと部屋を見回す。うん、きれいきれい。すみからすみまでピッカピカだ。
 小さな夫婦は今日は里帰り中でいない。……まあ里帰りっていうような距離でもないけどな。
 アマゾネスがヒーローとミイちゃんを連れて祭りにいくというから頼んだけど……護衛代わりのタイガーもきっとなんか食わせてもらっているんだろうな。
 ………ってあいつ虎のまんまでいる気か……? 人の形でないと護衛の意味あんまりないんだが………
 「ま、平気か。アマゾネス強いしな」
 俺だってかなわねぇよ、あいつには……… ちょっと顔を引きつらせつつ呟く俺の声に誰かが答える。
 「誰だ、それ?」
 不思議そうな声音がなんだかおかしくて、俺は少し笑いながら背中から聞こえたその声に応えた。
 そういえばこいつは知らないんだっけか、アマゾネスのこと。
 「ああ、ミイちゃんの母親………ってアラシ!?」
 ちょっと待て!? なんでこの男がここにいるんだよ!
 せっかくきれいにしたってのに汚れるだろうが!!
 どこか的外れな突っ込みしている気もするがこの際どうでもいい! 問題はこの男がなんでいきなり人の家に居座っているかだ!
 パニック状態な俺を無視してアラシはズカズカと入り込む上に勝手に茶箪笥あけて勝手にお茶入れてるし………
 お前、茶の入れ方なんか知っていたのか。……ちょっとびっくり。
 「なに座り込んで茶なんぞ啜っとる! 用がないんならくるなっていってるだろうが!」
 慌てた俺の声にふんとアラシは鼻で笑う。……相変わらずむかつく態度だな………
 そして立ち上がって喚いていた俺の傍まで来る。……無言で。
 あの……お前ただでさえ苛めっ子面してんだから無言のまま来るな。はっきりいって腰が逃げ打つんだよ。いままでの経験上…………
 そんな俺の心の声が聞こえたのかこの上もなく楽しそうにアラシが笑った。……ウウ、嫌な予感………
 バン!!っと俺の顔の横で思いっきり大きな音がした。アラシの腕がある。……なんでお前は俺をこう追いつめとくの好きかね。
 楽しいとはあまり思えんのだが……変な奴だ。少し呆れの入った俺の耳にからかうようなアラシの声が聞こえる。
 「ほぉ……そういうこと言うか。じゃあ今日はあの鳥で酒でも飲むかねぇ」
 勝手に飲めよ……。俺は酒飲まないんだから誘われても断る。
 ………ん? 鳥?? 鳥って……言ったよな………………?
 なんかすっごくいやな予感するのはなんででしょうかね?
 少しだけ俺の顔が青ざめるのが判る。……まさか…ね…………
 思い当たってしまった親友の顔を打ち消しつつ、俺は妙に顔寄せてきてる男に声をかける。
 ………邪魔だからとりあえず横においとこ。
 「イデッ!!」
 「鳥って……何の事だ?」
 アラシの声を見無視して俺は尋ねる。
 この馬鹿……なにやらかしたのかな………。また俺の頭痛の種巻いたんだろうってことは判るんだが。
 大きな溜息とともに囁く俺の声に憮然とした目でアラシが応える。
 「…………この体勢でそれ聞くか」
 この体勢っていうのはなにか? 俺がお前の顔掴んで横に剥がしてる事か?
 ………邪魔なんだよ、そんなに男の顔近くにあったって嬉しくないだろ? しかもアラシは俺よりも体格いいというか……背が高いというか…………………
 はっきりいって圧迫感が強烈なんだからいやなら近付くなっての。
 「いいだろ、別に。いやなら顔近付けんなよな」
 「近付けんと何も出来んだろ?」
 「……………………なんもせんでいい」
 思いっきり真面目に切り返されてしまった。げんなりした顔で答える俺にアラシが不貞腐れたように眉を寄せる。
 こういうところは昔のまんまなんだがな………。ってそんな事はどうでもいいんだった!
 すっかり忘れるところだった親友のことを思い出し、俺はまた顔を寄せようとしているアラシを殴って離して玄関にむかった。
 ……なんかドカッてすごい音響いた気もするがまあいいや。
 「イッテェ……。普通人の顔壁に叩き付けるか?」
 ぶつくさと人の後ろで文句をいう声も聞こえるがきれいに無視! 原因が自分にあると分かっちゃいないなこいつ………
 そしてそのまま玄関のドアをあけて………脱力。
 視界に入ったのは馬鹿でかい縄のボール。……そこからつま弾きにされたように青い鳥の顔と僅かな羽が見えた。
 「んぐー!! ぬぐぐ!!!」
 「バード……………なんでお前は……………」
 疲れ切った声でグルグル巻に縄で巻かれてボールのようになっている青い鳥に声をかける。
 おいおい……お前それでも一応鳥人界のナンバーワンでしょうが………。
 ったくなんだってこの男はこう人を苛めて回るかね!
 責めるように背後に立っている男を睨むと……返ってくるのは楽しそうな笑顔。
 テメェ……まったく俺の怒りは取り合わない気だな??
 「ちょうどここ来る途中でうろついてたから持ってきたんだ。鳥鍋でも作ってやろうか?」
 ………なに爽やかな笑顔でいってんだよオイ………
 あーもう…また頭痛の種が家にきちまった……………
 早速痛みを最大で伝える頭を宥めつつ、俺は暴れまくっているバードの縄を切ってやった…………


  とりあえず怒り狂ってるバードを宥め、そのまま人の家の玄関先で喧嘩初めそうな二人を殴って室内に招いた。……ことを後悔するのは悪くないと思う。
 ああ……またなんか火花散ってる………。なんでこいつらこんなに仲悪いわけ?
 なんとか二人のこの一触即発!な雰囲気を無くそうと俺は声を掛けた。
 ………顔が引きつるのは仕方ないと思わせてくれ……
 「で、お前ら一体何の用だったんだよ。近く来てたってことはバードも用あったんだろ?」
 なんか声出すと同時に溜息っぽくなってしまった。……まあいいや、疲れているって判るだろうし。
 そんな俺の気持ちとは裏腹に二人は応えた。
 二人同時に。
 『俺は祭り………』
 ……………それはもう見事にハモっていたぞ。思わず拍手してしまったくらいだ。
 ってヤバ……雲行きが一気に怪しくなった!?
 「テメー……なに人の真似してんだよ」
 いや、バード。見事に同時だったから用が同じだっただけじゃないのか?
 「鳥の分際で人のもんに手ぇ出す気か?」
 …………なにがだコラ。勝手な事いってんな!
 また喧嘩始めそうな子ども二人に溜息を吐きつつ、俺は啜っていたお茶をテーブルに置くと二人を止めるために立ち上がった。もう毎度過ぎて見る気も起きんのだが…………
 ……………………………………バキッッ!!!
 はい………? いまの音はなんだ!? 明らかになにかの破壊音だったぞ!?
 ぱっと顔をあげて二人を見てみればアラシの足がテーブルをまっぷたつにして固まっている。
 ついでにバードも青ざめている。…………一応自分達がなにやったかは判ってるみてぇだな…………
 沸々と沸くものを腹の奥にしまったまま俺はにっこりと二人に笑いかけた。
 笑顔が張り付いているのが自分でも判る。ついでに言えばこの二人は昔なじみ。……俺がこういう顔した時がもっとも怒っている事は骨身に染みて理解している。
 ………またバードの顔が青ざめる。っていうか紙みたいに真っ白だな。アラシは背中しか見えないから判らんが………。
 さて……どうしてくれようかこの馬鹿共を……………!!
 まずは壊した張本人をどうにかしますかね。
 「ア………」
 「悪かったっ!!」
 キーンッと耳を劈(つんざ)く大音響に思わず呆気にとられる俺の耳にまたアラシの声が入ってくる。
 …………というかむしろ無理矢理割り込んでって気がする……………
 「スマン! ちゃんと直すから怒るな!」
 呆気にとられた俺をガシッと抱き締めてくるアラシの肩が震えてる。……おやまあ珍しいな。こいつが自分から謝るなんて………
 まあちゃんと反省しているんなら……こいつ工作得意だったしテーブル程度本当に直せるだろうしな。
 先に謝られて怒るタイミングを逃した俺は仕方なさそうに溜息を吐くとアラシの頭を軽く殴って声をかける。
 もちろん、ちゃんと怒った声音のまんまだけどな!
 「今日中に直せよ!じゃねぇと口きかねぇからな!!」
 「はいはい。……ってシンちゃん、服汚れてんぞ?」
 「へ?」
 アラシにいわれて俺は自分の腰ミノを見るが………ウワー…見事に茶がかかってる……。熱くはないがシミになっかな………
 悩んでいる俺の耳に今度はバードの声がかかる。………耳が痛いんだよ、二人とも……………
 「なにヌケヌケといってんだよ! いま抱き着いた時にぶっかけたのお前だろうが!!」
 「あーん? なにを証拠にそういう事いってんだよ、鳥」
 「俺がこの目で見たんだよっ!!」
 またまた喧嘩モードかい。……まあさすがにもう手は出さないか。噛み合ってる二人を無視して着替えにいこうとした俺の髪がいきなり思いっきり引っ張られる。イッテ〜ッッ!!
 思わず涙目になって犯人を確認しようとすると、突然なにかが顔を覆う。……プハッ! なんだ、これ……布……………??
 驚いてそれを見ていると犯人が声を掛けてきた。
 「せっかくだからそれ来てこい。今日祭りだぜ?」
 「祭りって……これは?」
 「浴衣v シンちゃん用に特別仕立てだぜ?」
 「………いらん。持って帰れ、アラシ………」
 なんかこの柄……物凄く嫌な予感がするんだよな。大きさは俺にぴったりな気はするが……油断出来ん。
 あからさまに不審そうな顔をしてその浴衣をアラシに押し付けて再び自分の部屋に向かう……って人の髪引っ張るのよさんか!!
 「アラシッ!!」
 叱りつけるよな声で叫んだ先に……ありゃ? アラシがいない。
 「オイ、大丈夫か?」
 「ああ、とりあえず………」
 いるのは心配そうなバードだけ。……思いっきり引っ張られたせいでかなり頭が痛い。ついでに尻餅ついたからケツも痛い。
 でもそんな事構っているわけにはいかないらしい音がまた響いた……………
 ……………ドカッ!! バキッッッッ!!!!
 あんのボケ男ォォォ!! なに壊してやがんだっ!
 「アラシ、テメエなにシンタローの箪笥………!!」
 中を覗いたバードがぎょっとした声で叫んでる。………やっぱり壊されたか……………
 「あ? あとで直すっつってるだろ。喧しいぞ鳥」
 「それはこっちの台詞だボケ!!人のもん壊すな!」
 慌てて怒鳴る俺の声もききやしない。こいつさては………
 「お前さっき殊勝に謝ったのもこれ目的だったな!?」
 「当然v 俺が素直に謝るたまかぁ?」
 自分でいうな、自分で!! こんの最悪人間わ!! その不敵な笑い顔殴っても俺を責めるヤツはいないよな!!
 繰り出そうかと震わせていた腕に気付いたらしいアラシがしっかりと掴んでくる。……ちっ、目敏い!!
 「さてシンちゃん。ここで問題ですv」
 「つうか帰れよ、もういいだろうがこれだけ暴れたら………」
 「迷惑だしな」
 「鳥は黙れ。……残念だな、シンちゃん。今日は暴れるの目的じゃねぇんだわ」
 鋭い一瞥をバードに向けてからまた苛めっ子モードの笑みで俺に声をかける。……どうでもいいがバード……庇おうとしている気持ちは有り難い。有り難いんだが……俺に抱き着いてアラシに牽制かけるのはよさんか?
 なんか腕掴む力が強まっていってるんだよな……。いくら俺でもアラシの馬鹿力で本気に掴まれたら怪我するんですが………… てきいちゃいないよな、二人とも…………
  仕方ない溜息を吐きながら、綴られたアラシの言葉に今度は目が点になる。
 「これ来たシンちゃんと祭り行くからさっさと着替えな」
 ………………………は?
 取り出されたのはさっきの浴衣。俺は解放された腕を撫でながら呆気にとられている。……こいつ、その浴衣着せたいが為だけに人の服に茶引っ掛けて、更には机や箪笥壊したってか?
 ……………………………………………馬鹿か?
 かなり本気で思ったがもうこの際どうでもいい。結局この馬鹿の思い通り俺の服は全滅だからそれを着る以外の選択がないんだし………
 「………とりあえず服変えるからそれ貸せ……………………」
 力のなくなった俺の声を満足そうにきいているアラシと悲愴な顔のバード。……いや、別に好き好んで着る訳じゃないんだが………
 アラシから浴衣を受け取った俺の肩を掴み自分の前に向き直らせて……今度はバードが喚く。
 ………俺はいつから保父になったんだ??
 「シンタロー!!こんな自己中ヤローのいう通りに着替えるこたねぇだろ!?」
 「それはその通りなんだが……着るものないしな」
 「だったら俺が浴衣持ってくる!!」
 ……………………お前は子どもですかい。駄々こねているように必死なのはまあ……昔からよく見かけるからかわいいこたぁかわいい。んだがいまそんな事いっても始まらない。
 いい加減この服も気持ち悪いんだよ、生あったかく濡れてて………………
 さっさと着替えたかった俺はあっさりとそれを承知した。
 「分かった分かった。じゃああとで着てやるからもってこい」
 「約束だぞ!!」
 いうが早いかバードはもう飛び出ていった。………なにが嬉しいんだ、男の浴衣見て…………
 見送りつつ部屋が視界の中に入った。それを見てまた溜息が出る。………アーア、せっかくきれいにした部屋がめちゃくちゃだよ…………
 だから掃除した日にこいつらが来るの嫌なんだ。やっぱ最初に追い返しておけばよかったな………
 重い空気背負いつつも俺は浴衣に袖を通して帯を…………
 「ってなんじゃコリャ!?」
 「なにって………浴衣」
 あほっ!! そんな事きいとらんわ!! 問題は………
 「なんで女物なんだよ!?」
 「似合いそうだったから。ほら、帯び占めてやるから動くなよ」
 「ふざけるなー!! こんなもん着ていられるか!!」
 脱ぎ捨てようとした俺の背中にとっても嫌な気配。…………アラシ……なにかな、その笑顔は……
 「そうかー、ぬいじまうか」
 「……わ、悪いかよ」
 男がなんでこんなもの着なきゃいけないんだ!
 「まあそっちでもいいがな。ちょうどベッドあるし?」
 「へ…………?」
 さっと顔が青ざめるのが判る。……さすがに意味が判らないほどこのボケとの付き合いは短くない。
 ……つまり、着なけりゃ襲うと?
 青ざめたまま固まった俺の耳にむかつくほど爽やかにアラシが問いかける。
 「で? どっちがいい、シンちゃんv 俺はどっちでもいいぜぇ?」
 …………その選択肢で俺に選ぶ権利はあるのか?
 絶対に服取り戻したらこのボケ殴ってやる!!
 腹の奥でそう誓いつつ俺は再び脱ぎかけた浴衣を着て帯を絞めるのだった……………








と、いう訳で、私なりにパーパが なんで女物の浴衣着ているか考えてみましたv
初めは三人でゲームして罰ゲームと思っていたんだけど… 暴走しました、二人が☆
収集つかなかったんでやめたんです(遠い目)
なので否応なく着ざるを得なくしてみましたv
アラシってば……そんな真似しなくてもいいのになぁ………
今回は珍しくアラシがちゃんとパーパ苛めていてビックリです。
久し振りにギャグ書くのでかなり奇妙な物体で 申し訳なさ一杯ですが………
今回のパーパはかなり二人に強気だなーとか。
……それ以前に二人の気持ちきちんと知っていそうだな…………