はあぁぁぁぁぁぁぁぁ………………………………………

　深い溜め息がひとつ。
　これでもかっていうぐらいのどんより雲を背負ったままで俺は誰はばかることなく地を這う溜め息を吐いた。
　なんでって………自分の格好見たらもうそれ以外の言葉なくなるぜ？
　なに着てるかなんぞ視界に入れたくもねぇ……………
　そんな俺にはお構いなしに隣に立つ男がニヤニヤ笑いながら方に手を回してきやがった。
　………………動きづらいから振払うのにも一苦労なのはもう……十分経験済み。
　「なんだぁ、シンちゃん。そんなにその振り袖気に入ってくれたのか？」
　「………人は幸せな時に溜め息は吐かん」
　機嫌のいいアラシに荒んだ目で切り返す。……いい加減俺も慣れてきたよ、こいつのこの手の嫌がらせに。
　なにを好き好んでこんなばか高いもの嫌がらせのためだけに用意するのか気がしれんがな。
　そう……俺はいまそれはもう豪華絢爛な着物に身を包んでいる。正月早々……なんで…………
　年始回りは出来んな、これじゃあ…………
　少しずつ足早になる俺の方を引き、アラシは殊更ゆっくりと歩く。…………この男、楽しんでやがるな…………
　「アラシ。俺は早く帰りたいんだが………？」
　棘の加わった声で簡潔に問いかける。
　………睨み上げた先には満足そうな笑み。
　こいつ相手に怒りを持っても無駄ってことかと思わず落ち込む俺を誰か慰めてくれ…………
　「いやか？　俺は我ながらいいバツゲームを考えたと思ったけどな♪」
　滅茶苦茶幸せそうな物言いに怒りを覚える以上に呆れる。………これ当たり前の反応だよな………
　怒りも深すぎると呆れに変わってそのうち哀れみになっていくんだ、確か……………
　思わず遠くを見ながらそんなことを考えていた俺の意識をまた自分に向けるようにアラシがぐいっと肩を自分の胸に寄せる。
　まあ当然ながらたたらを踏みかけつつも俺はアラシの腕の中に収まってしまう。
　………こんなガタイのいい男を抱き寄せてなにが楽しい？
　額に軽く当たる唇にゾワゾワと全身が総毛立つが……我慢我慢。
　家に帰るまではこのバツゲームは持続する。ので怒りに任せて殴ることが出来ない。………帰ったら遠慮なくさせてもらうが。
　一体何のバツゲームかって？
　………昨日の夜にやっていたなんかの歌番組。よく知らんが赤組と白組に別れていて……そのどっちが勝つかっていう賭けを（強制的に）させられて…………
　ものの見事に負けました。………しかも俺は酒飲まされていてよく覚えてないけど、初詣に一緒に行く約束＆その時は勝った方の自由にさせるという誓約書まで……。
　……………ハンコが血判だったんですけど。自分の左の親指確かに切れてるし…………
　この男……本当に合意の上で書かせたんだろうかとかなり疑ってしまうのは俺だけだろうか…………
　いや……疑うのはよくないってわかっているんだけどな！
　しかも勝ったか負けたかも判らないうちからこの男はこんな特注もののばかでかいサイズの振り袖を用意していたんだろうし…………
　思わず疑ってしまうのも無理ないよな…………。
　「シンちゃん疑ってんだろ？」
　ぎくっっっっ！
　あっさりと俺の考えを看破してアラシがいった。………なんでこの男は俺の考えを読み取るのがうまいんだ？
　そんなに顔に出ないのにな、俺……………
　アタフタとなんとか誤魔化そうかと考えるが……無駄だろ、この男相手に。
　溜め息吐いて、ただ頷く。と、心外そうに苦笑される。
　……………珍しい。この男の雰囲気がやわらかいなんて…………
　「俺が嘘ついてたら昨日一緒にいた英雄どもがなんかいってくるに決まってンだろ？　特にあの鳥が」
　………そうなんだけどさ。
　つうかこいつもいい面の皮だよなー………。英雄たちの宴会に堂々と乗り込んで仕切っていたよな…………
　悪いとはいわんが、幼馴染みながら底知れん。
　「いいだろ、今日くらいは。せっかくの新年なんだし、意地悪しねぇでいてやるよ」
　……………………………………………………………………
　この格好は意地悪でないと思っているらしいこの男の思考回路を本気で解明したくなったぞ、俺は。
　はあ…………。俺はまた溜め息を吐く。
　それでもさ、こんだけ楽しそうなガキの笑顔向けられると……俺も無下に出来ねぇんだよな。
　わかってやっているのかもしれないけど、まあいいや、この際。
　とりあえず、今日一日は付き合いますかね。
　寄せられたぬくもりと、肩を包む指先に確かに悪意は感じないし？
　………まあ邪気がないんかといわれたら悩むけど。
　ちょっとだけ昔に戻ったつもりになってもまあ、いいだろ。
　せっかくの新年。不貞腐れて不機嫌な顔で一日過ごすよりはよっぽどマシ。

　………ってことで納得するから、人の顔にやたら口寄せるのだけはやめてくれ。
　思わず涙ぐんでいった言葉はただそれを助長するだけにしかならなかったけどな。

　一年の計は元旦にありっていうけど……俺こんな一年は絶対に嫌だ。
　 神頼みは好きじゃねぇけど、しっかり祈ってこようと決意を新たにまた歩き出す俺の背中はかなり憂愁が漂っていたらしい………………

イラストのほのぼの〜な雰囲気にあてられてみました（笑）
この二人があの格好であんなに穏やかに……！とv
……そしたらギャグでなくなりましたねー。やはりギャグにするならバード出さないとダメですね☆