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世界が暗闇に包まれる。

与えられた事実の闇色に身が捕われる。
……魂さえ、疲弊するほどに。
それでも立ち向かわなくてはいけない。

知っている。……自分達は他種族と交われない孤独の国。
強大であるが故に禁忌の多く存在する国。

運命なんて信じない。

それでも……………
焦がれるほどの思いはこの身を枯れ果てさせて………せめてもと伸ばす腕さえ断罪される。

罪は罪。
決して伸ばしてはいけないなら…初めから関わらなければいいのに。
それでも何故…自分達は他種族を愛しむのか。

瞬き程の一瞬しか存在しない、児戯ともいえる哀れさを……………

多分それは…自分達を映す鏡。
瞬きを得られないこの国が、たったひとつ煌めく事のできる事実。

思い馳せる事の罪を……どうか許して。





月下美人



 目の前の焚き火が微かな音を立てて火の粉を舞わせた。
  それを眺めながらゆっくり吐息を吸い込んで見れれば思いのほか熱い。
 肺の奥に沈下させた熱を緩く吐き出し、近くに積んだ薪を一本とると男は火の中に投げ入れた。……一際大きく吹いた火炎がまた、静かに燃える。
 一瞬思い出した男の独眼。
 …………溢れるような視線は…けれど本当に一瞬だけで掴みきる事も出来なかった。
 無意識に……指先が昨日刻まれた痕を探すように心臓を探る。そんなものある筈もないのに。
 肌を辿る自身の指はただなめらかさだけを伝えて男によって刻まれた刻印の痕すら探れない。………殺意さえない殺意によって落とされた毒は、けれど致死させる事もできないで結局は中途に途絶えた。
 願っていたのか。……願われていたのか。
  いまいち判らない自分の思考回路に溜め息をつけば不意に背後で気配が揺れた。
 よく見知ったそれに顔を向けることなく火を見つめた瞳は揺らめきながらその名を囁いた。
 「………どうした、バード?」
 気づかれている事を知っている青年は驚く事もなく当然そうに隣に近付き、腰を降ろした。
 頬に…視線を感じる。それでも男の視線は火に溶かしたまま。
 つまらなそうな苦笑を浮かべ、青年はその指先を男の瞳に被せた。
 …………不可解そうな眉の動きと、少しだけつめられた息に驚いたらしい事を知る。
 男の長い漆黒の髪が火に染められて僅かに赤く見える。………その身を染めるように。
 一瞬忘れかけた憤りが身の内で蘇るが…それを吐き出したところで詮無き事。
 飲み込むように瞼を落とし、青年は出来得る限りやわらかな音で小さく囁いた。
 「……今日の見張りは代わってやるから…お前は少し休め」
 その身を屠られかけて…それでもなお悠然と笑むから。誰もかもが何の後遺症もないと勘違いをする。
 男の笑みは強力だ。………落とされたなら、魅せられてしまう。
 大丈夫なのだと、無条件で信じさせられてしまう。
 でも自分は知っているから。無理をしている事も、まだどこか本調子でない事も。
 少しは頼れと拗ねるような声音に男は苦笑いを落とすが…答える事を躊躇った。誰もが気にしていない振りをしながら…けれどやはりまだ微妙に残っている凝り。
 それがなくなるまで少しくらい無理をしても許されると決めつけて笑んでいたけれど……今更それを途絶えさせるのは………………
 落ちた沈黙は拒否でも受諾でもなく、青年は呆れたように溜め息を吐き出した。
 なにもかもひとり背負わなくたって、大丈夫なのだ。自分達だって分別のある大人だし、なにより一国を代表する立場なのだから。
 それなりに……理解している。
 なんだかんだと文句をいったって、自分達だって同じ立場だったなら…………
 そう思い至ってしまうからこその薄ら寒い気配に身を震わせはするのだけれど……………。
 ………だからある意味…一番の重傷者が自分達ではない事も知っているけれど。
 微かな風に火が揺れる。同じように、揺れ続けている気配も、ある。
 少しだけ悔しいけれど、それでもどうしようもないのだからもう仕方ないと幾度溜め息を落とせば諦めがつくのかも判らない。
 それでも結局……その背を押してしまうのだろう。
 この男の歩む道が願うままにのびる事を祈って……………
 「んっな顔で蹲ってると明日に響くぞ? まだ…リュウも帰ってこねぇし、気晴らしに探してくれば?」
 散歩がてらついでに、と囁いてみれば気配が揺れる。………開きかけた唇が…今度は青年への遠慮によって閉じられた。
 それを感じ、茶化すように青年は笑むと包み込んだ面を引き寄せた。
 ………一瞬だけ頬に溶けたぬくもりがなんなのか理解しかねている男の瞳を包む指先を解き、そのまま教えるように自身の唇を辿った。
 一気に紅潮した男の頬は…けれど火に照らされていてあまり変化なく見える。
 「駄賃はもらったし、さっさと行けよ?」
 立ち上がった指先が歩む事を先導し、からかうような声がその背を押した。微かに振り返るような仕草とともに、掠れた声が感謝と謝意と込めて囁きを落としたけれど…………
 木の葉の先、闇夜に溶ける背を見つめ…緩く溜め息を落とすと青年はまた、火に向き合うように座り込む。
 ………切なささえ溶かし込む事を願うように…………


  なんとなく…赴く足先にその気配が佇んでいる事をどこか予感していた。
 だから視線の先に横たわったその姿を確認しても驚きはない。
 ………ただ、どうしようもなく…………
 言葉にもならない不可解な感覚に吐き出した呼気さえ月が染める。
 それに気づいたわけでもないだろう相手は…ただぼんやりと月を見つめる視線をそのまま近付く男に向けた。
 受け止めた視線に内包されたなにかを躱すように、けれどどこか受け止めたかのように男は小さく笑んで子供をたしなめるように囁きかけた。
 「………こんな場所で寝なくてもいいんじゃないか?」
 「ここのが月が綺麗だろ?」
 木々の生い茂った野営地じゃこうは見えないと喉奥で笑いながら返した独眼は大人びた笑みを浮かべたまま上体を起こした。
 隣を示すように僅かにずらした身体に気づき、男は音もなく芝生を進みその傍らまで歩み寄った。
 座るわけでもない男の動作に不思議そうに視線を向ければその瞳は空に溶けている。………まるでたったいままで魅入っていた自分の見つめた先を探すように…………
 気遣われる身でありながら気遣う事を止める事のない男の不器用さに小さく笑い、その瞳を途絶えさせるように無骨な指先をからめとってみる。
 一瞬…跳ねるように震えた指先。
 それは別に拒絶というわけではなくて…………
 わかっているのに、柄にもなく傷ついた自分の感情に瞳の奥だけで苦笑してみる。
 表出されてもいないそれに、けれど何故か気づいてしまう男が申し訳なさそうに眉を垂らして紺碧に染めあげられた瞳を揺らした。
 情深い事くらい知っている。
 ………それはその一族の属性であり、彼の魂の由縁。
 切なくなるほど溢れているその祈りのようなぬくもりは……………だからこそ枯渇するものを引き寄せいつか彼を奪い尽くす予感さえ、ある。
 知っている。……だから伸ばさない腕をどれほど思ったか。
 自分は思ってはいけない身。だかを思う資格も権利も有してはいない。
 ………忘れる。沈下、する。飲み込んだ先、原形さえ止めないほどに溶かせたなら……………
 不意に浮かぶいつもの決まりきった思いに笑みが浮かぶ。…今度のそれは確かに唇を歪めた。
 できるわけもない事はただ積もり万年氷と化してこの身を凍えさせるのだけれど―――――――
 「バーカ、なに気にしてんだ?」
 「う………っわ!?」
 突然引き寄せられた指先は男が想像した以上に強く、あっさりと立っていたその姿を崩して腕の中に埋めてみる。
 …………愛しさをそのままに抱き締める事が出来たならきっと、もっと楽になれる。
 けれどそれを許されてはいないから。
 だから戯けて、みる。
 気づくなと願いながら…………………
 まるで幼子をからかうように豊かな黒髪を掻き回し、少し乱暴に腕の中に閉じ込めれば思った通りの抵抗が返されて…………ほっとする。
 「痛いだろっ!? お前馬鹿力なんだから加減しろ!」
 文句をいう声さえ、甘く聞こえる狂った聴覚。
 暴れる肢体さえ引き裂きたくなる……暗い物思い。
 ……………それら全部隠し込んで、独眼はやわらかく華開いた。
 まだ大丈夫。傍に…いる事ができる。
 こうして笑っていられる。笑ってもらえる。
 安心したように胃の奥が冷たくなる。……どす黒く渦巻いていた感情が、またひとつ凍えて氷と化していく感覚。
 それを嚥下し、喉奥で低く笑ってからかいを示していれば……不意に止んだ男の抵抗。
 どうしたのかと視線を向ければ………世界が凍てついた。

  息が奪われる。喉が干上がる。………瞳さえも、逸らせない。

  月明かりに晒された冷たい肌の上、透明の瞳は毅然とそこにいた。
 逸らす事を許さず、逃げる事を厭って。
 なにを考えているかなど…看破されると知っている身体の奥が怯えるように震えた。………逃げ出したい衝動にかられた。
 それを許すはずのない瞳はゆっくりと瞬き、紺碧に月を讃えて静かに見つめる。
 飲み込んだはずの…衝動。
 …………掻き消したはずの情動。
 また溢れた狂おしい思いが身の裡を駆けた。
 独眼が月を乞うように…恐れるように眇められればふんわりと笑む唇。
 溢れかけた雫を飲み込んで、震える指先がその頬を辿れば許しを与える瞳は瞼の底に沈んだ。
 ……………重なるぬくもりを、本当は知ってはいけない。
 その身を穢したのは自分。昨日その命を刈り取る事さえわかっていながら、侵した罪。
 殺そうと思えば殺せる。……奪われたなら息を途絶えさせる事のできる自分の指先。
 暗く暗い衝動。狡猾で…他者を思いやれない傲慢な一族の血が確かにこの身には流れているから。
 灯しておいた小さな種。いつの日かその心臓を………………
 噛み締めた唇が吐き出しかけた呪詛を必死で飲み込んだ。
 わかっている。いつか残されるのは自分。
 決して…ともに生き続ける事は出来ない他種族を、それでもどうして思うのか。
 理由などある筈もない思いを吐き出して、拒めない男を得る事に意味など見い出したくないのに。
 噛み切りそうな唇を、優しい吐息がなめとってくれるから。
 罪を知って…贖罪を知らない魂のままに、祈れる命を包み込む。
 ……………結末を思う事を怖れた瞳は閉ざされたままに…………………

 

 永遠なんて言葉、信じる事はない。

 いまここに、ただそれだけを。

 荒い息を吐く唇を盗んで、星明かりさえ映す事を許さないでその瞳に自分を刻む。

 どうか覚えていて。
 …………どうか忘れて。

 

 この命ある限り、生きていて。

 不可能な願いと知っているけれど……………







……懐かしいよ自由人………(オイ)
いや~、すっかりジバクくんばっかり書いていたから久し振りですね他のジャンル☆(汗)
しかも相当懐かしいリュウ×パーパ!!!
…………リクエストに入っていないバード×パーパが冒頭である事は気にしないで下さい…………

リュウを書こうと思うとどうしてもネタが被るんですよね………。彼のイメージって「夜」とか「月」とか、そういうのなんで。
そして死龍の牙(笑)
ついでにやたらと真面目くさくなる所も。うちの子の特徴ですね(遠い目)

なんとも暗い雰囲気な話しになっていしまいましたが(汗)風鈴さんのHP開設を祝しまして!
…………いやだといっても無理矢理捧げさせていただきますv
いや、本当に暗くてごめんなさい(涙)