正直な所、いま俺は具合が悪い。
 頭も痛いし、気分もよくない。ついでに言えば喉がイガイガしていてしゃべるのが少し億劫だ。
 だから……この状況を打破する気力もあまりない。
 背後からべったりと人を羽交い締めにする勢いで懐いたアラシに顳かみを引き攣らせつつ俺はそんなことを思っていた。
 ………きっとこいつにしてみれば大人しくなったな、やっと観念したか。くらいの馬鹿な思考回路で辿り着いた答えの重みしかないのだろうけどな。
 鬱陶しいが、別段振り払う気も起きない。珍しくただ懐いているだけのアラシは特になにをするわけでもなく犬のように頬を寄せてくる。…………まあそれが怖いと言えば怖いけどな。いい加減三十路も見えてくるという年齢の男が同い年の男に頬すり寄せている図なんぞ俺は眺めたくはないが。
 軽く溜め息を吐いて俺は腕の中で眠っているヒーローの頭を撫でた。
 ………この子がいるからこそ、余計に抵抗しきれないという点も補足しておいた方が誤解されなくていいか、もしかして。多分アラシは充分理解していると思うけど。
 ちらりと肩に埋まっている髪を見てみても………蹲って顔も見えやしない。いらん時は不必要なほど近付くくせに間の悪い奴だな!どこかお門違いないら立ちを沸き起こしかけながら泳がせた視線の先には眉さえ垂らして困った顔の虎がこちらを伺っていた。
 ヒーローの傍には勿論、俺の膝を枕代わりにヒーローと昼寝などできるわけもない状況はよくわかっているらしい。ついでにいうと自分がアラシの視界に入っちゃいない事もよく理解しているらしく少し淋しげだったけど。………お前、こんな傍迷惑な男に認められても気苦労増やすだけだぞ?
 ちょっとそんな自分が憂鬱になりそうな事考えつつ俺はタイガーに声をかける。
 「タイガー、悪いが飲み物とってくれるか?」
 残りの少なくなった湯飲みを指さしてねだるとパッと嬉しげな虎のシッポが振られる。………物頼んだ身で喜ばれるとなんとも変な感じだな。そんなに淋しかったか。
 背中の重し……とまでは言わないがとりあえず邪魔な物体がなければ別に自分で入れるんだけど、コレじゃあ動けないんだよな。
 いそいそと湯飲みを銜えて台所に向かった虎を見送りながらそんな事を考える。どうでもいいけど案外器用な奴だな。そんな銜え方していて牙、邪魔じゃないのか?
 それ以前に落とさない事が不思議でならないが、まあそんな事言ったらあの肉球付きの前足で買い物してくるんだからなんでも出来るのかもしれないな。
 相変わらず動きもしない背中を見やってみても見えるのは流れる金の髪だけ。窓の傍だったら多分見愡れるくらい綺麗なんだろうな。タイガーと微妙に違う金色で。
 結構ガキの頃は魅入ったりもしていたんだが……その度にからかわれて結局意地になって見ないようになったような気が。
 ……………そうしたら余計にいじめられたような気もするが。なんつう奴だ、今更ながら!
 なんとなく思い出した記憶に遅まきながら腹を立てた俺が、面倒だし抵抗するのやめておこう、なんていう自分の体調を気遣う事も忘れてその髪を掴んでみる。
 やわらかいな、髪自体が細いせいか? 俺とは大違い。
 なんて馬鹿な感想はいいんだっ! さっさと起きんかこの馬鹿!
 「……………ん?」
 掴んだ指先はそのままに俺は訝しげに肩に埋まった後頭部を見てみる。………動かないし?
 奇妙なものを見るようにアラシの髪を掴んだまま固まっていた俺にお盆にのせた湯飲みを運んでいるタイガーが傍に来た。そして俺以上に奇妙なものを見るように首をかしげる。ちゃんとお盆置いてからでなかったら物凄い大惨事だな。
 なんて冷静な判断は置いておくとして、俺は掴んでいた指をほどいて溜め息をひとつ。
 それを見ていたタイガーがすり寄ってくる。
 …………もちろん、安全だと判断したから。
 それに苦笑して俺は身体から改めて力を抜く。結構こいつが傍にいると無意識に緊張するんだよな。過去の経験からだが。まさに自業自得の条件反射をどこか面白くなさそうに見てくるけど仕方ないと俺は思うが。
 でもそうだからって別に寝ちまっている奴にまで警戒しなくたっていいよな?
 ゴロゴロとまるで猫のように懐くタイガーの頭をなで、細まる視線のまま俺は目を閉じる。
 なんだか奇妙な昼下がりだ。………へんてこなメンバーでの昼寝タイム。
 ま、たまにはこんな日があってもいいかな。

 まだ少し喉が痛いし頭も重い。身体だってだるいけど。
 そばに寄ってくる体温が結構気持ちいいし、ホッとする。
 油断しちゃいけない相手だってよ〜くわかっちゃいるけどな。
 ………極々たまに、なら、信用するか。
 こうして寝ちまうくらい無防備な時くらいなら、な。








というわけでちょっとやわらかな話書いてみましたv
………アラシが出てきてほのぼのって、難しい?とか思いつつ。
いいんだ。ようはアラシがしゃべんなきゃ優しいストーリーにもなるんだよ。
あいつの天の邪鬼な言葉のせいでああなっていくんだから(遠い目)

でもこういう感じの話は好きですv
…………まあ私はほのぼのとかギャグ書くの大の苦手な奴ですけどね。