なんつーかもう……本当にな?
 俺だってそう多くは求めやしないさ。いい加減慣れているし。
 でもな。

 「シンタロー! やっぱ結納のときは着物だろ?!」
 「ヘタレ鳥は消えろ。成金趣味出しまくりの選択してんじゃねぇよ」
 「お前の選ぶ服は布少なすぎなんだよ! っていうか、俺とシンタローのスイートライフを邪魔すんなあぁぁぁ!!!」
 「はっ! な〜にがスイートだ。テメーの脳みその味じゃねぇの、それ?」

 …………………………………………。
 いい加減縁を切りたいと本気で思い始める俺は薄情でしょうか……………
 「パーパ………頭痛い…………」
 ぐったりした俺の膝元では虎と人型交互に変わりつつどっちの方が楽なのか試しているタイガー。でもどこか満足そうなのは多分この二人と目的が違うから既に十分なせいだろう。いや、まあ結局騒動の一番の発端だった気がしなくもないが。
 …………そう。事の発端はもう本当に馬鹿らしくなるくらい普通の事なんだよ、これが。

 

 今日はミイちゃんがアマゾネスの家に里帰り。ついでにヒーローが食事に呼ばれ、俺は荷物持ちを手伝うならと条件付きで付き添った。まあアマゾネスのところ男手ないしな、俺で出来る事なら別に食事でつらなくても手伝うけど。
 結構な量の材料を抱えて帰り、その整理を手伝いながらころりと転がった小さな瓶に目をやった。
 「あれ………これって」
 「あら」
 かわいらしい桜の切り絵のラベルがされて小さな小瓶が2つ、コロコロと転がる。明らかに同じものだ。
 いくら内容量が少ないとはいえ、これ2つも必要なのか?
 訝しげにそれを手に取ったらその片方をアマゾネスが受け取った。
 「どうやら間違って発注してしまったようね。うちは1つあれば十分だから、それはあなたが責任持って消費しなさい」
 命令口調で居丈高なものいいに吹き出しそうになる。だってコレ、俺の好物だぜ?
 小さい頃の事なのにちゃんと覚えていてくれたんだなー。なんだかんだ言って本当に面倒見のいい奴だ。
 「…………なに笑ってんの、グータラ親父!」
 ちょっと幸せに浸ってにんまり笑っていたらギロリとメデューサも真っ青な暗雲背負ってアマゾネスが振り帰る。ヒイィッ! 目が光ってる!(それ既に人じゃありません)
 ……………スミマセンでしたッ!! 謝りますから踏み付けないでッッ!!!!

 まあちょっと命の危険を感じながらもいただいた小瓶をぽーんと放りながら幸せ気分で家路を歩く。………あいつ、いい加減照れたときに攻撃的になるの治さないかな……。そうすりゃ絶対にもてるだろうに。
 想像したおしとやかなマダムに逆に鳥肌だったのはあいつには内緒な? ってまだ鳥肌ひかないし。
 そんな怖い想像は追いやって俺は手の中の小瓶を見た。可愛い花びらが窮屈そうに入っている。中身はなんて事はない、普通の桜茶用の桜の塩漬け。
 「家に帰ったら早速飲もう♪」
 ワクワクしながら帰った先はちゃんと我が家です。
 …………そのつもりだったんだって、本当に。
 がらがらと家のドアを開けて……ばたんと閉じました☆
 一呼吸置いて、さて次の行動は。
 逃げます!!

 「待たんかシンタロー、酒くらいきっちり飲んでいかねぇかぁ」
 「俺まだ未成年っす! 帰して下さい〜っ」
 「つーかそいつ連れてさっさと帰ってくれっっ!」
 「それはお断りっす!」
 「ちょっと、つまみないんだけど!」
 「テメーもなにくつろいでんだよっ」
 「ガウウウウッ」

 間違えてバードの家に来ちまったー!! 真っ暗になっていたから方向解んなかったし、見事に家と反対方向っ!!!
 すっかり忘れていたけどそういや今日はリュウが飲もうなんて言っていた気が。でも俺アマゾネスに呼ばれていたから断ったんだった。………アマゾネスの名を出しただけで場が凍り付く位静まったのは記憶に新しい。さすがアマゾネス。英雄すら恐れさせてる!
 なんて現実逃避している場合じゃない! このパターンはヤバい。俺に確実に被害がくる!!!
 羽を出して夜空の星になりたくなった俺の足首ががっしりと掴まれる。ふ、振り返りたくない。むしろこのまま蹴りつけて逃げたい。
 そんな俺の希望を見事に打ち砕いた一言が聞こえました。
 「あ〜ん、シンちゃん……まだ生装備なのかよ。襲うぞ?」
 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
 俺の足を掴んでいたのはリュウでもなければバードでもない!! 絶対この場にいないだろうと高をくくっていたアラシ!!! しかも嫌な言葉付きっ!!!!
 ………思わず蹴倒して羽で風起こしてぶつけちゃったけど……生きている…かな? まあアラシがこの程度で死んでくれるわけもないんだが。ってバード。そこで墓作るのは非常に俺も賛同したいが、後々お前らの喧嘩の仲裁したくないからやめろ。つーかリュウ、なに脱いで踊り出してんだ………目にきつい物体なので視界に入れないようにしてそっと距離を取らせていただきました。
 ……………なんで俺、こいつらと英雄やってんだろ………………………
 「ちょっとおっさん、さっさと中入りなよ」
 「シンタローさーんー……俺帰りたいっす…………」
 見事な対照的な姿の若者に招き入れられて俺は外にいるおっさんら3人は無視してドアを閉めた。
…………この程度の壁じゃ5分も持たないけどな!
 さて。とりあえずこの惨状をどうしようか……。酒瓶と食べ物で座るところ探すのも大変だ。バードが帰れと言いたくなるのも解る。
 「あれ、おっさんなにもってんの?」
 ちょっと途方に暮れていた俺の腕に華奢な腕が絡み付く。そしてあっさりて持っていた瓶を取られてしまった。………まあ金目のものではないし、欲しがりもせんだろうが。
 「あれ、これって桜茶じゃん」
 「サクラお茶になったのか?」
 「バカ虎。俺がお茶になったら世界中の財宝積み上げても足りない値段だよ」
 ………サクラ…せめてつっこむときはタイガーの方見てあげなさい。落ち込んで丸まっちゃってるぞ?
 サクラの毒舌に斬りつけられた天然の虎の頭を撫でてやっていたら、あれ? 何かいい香り。………ってこれは!
 「サクラ! 人様のものを勝手にあけない! 使わない!!」
 「なに言ってんのさ。世の中のものはぜ〜んぶ俺のために献上されて呵るべきだね!」
 ああなに言っても聞きゃあしない! いや、そんな事は解っていたが。
 というかサクラ。いま問いたいのは俺の桜茶勝手に入れていた事だったが、振り返って疑問が増えた。………なんでいきなり着物きているんだ?
 「ほらタイガー、俺の前に座る。はい、この上着きて。それでコレ飲む!」
 「が、がう? ………サクラ…このお湯、まず………」
 「全部飲む! あ、おっさんたち、お祝儀ちょうだい、一人百万以上ね」
 「って結納していたのかーっっっ!!!」
 思わず叫んだ俺にきょとんと首を傾げて笑顔一杯にタイガーが問いかける。
 「パーパ、ゆいのうってなんだ?」
 「……………結婚する前にするもんだよ」
 多分これくらいの認識くらいしかこいつには出来まい。格式張った事嫌いだしな。そう思ってぐったりとした俺が言うと、タイガーがサクラの前に置いてあった湯飲みを取り上げた。
 「ちょっとタイガー、それ俺の………」
 「パーパ、これ飲む。そうしたら俺とヒーローと3人ずっと一緒v」
 ………邪心がない。邪心なく、下心すらないのはよ〜く解る。こいつのはただの天然。意味も解っちゃいない。それはきっと全員解っている。
 解っているのと感情は別問題、なんて事は俺にも解っているよ、チクショーっっ!!! サクラの目が光っている〜っ! 怖い、なまじ顔が可愛いだけに、怖い!!
 「た、タイガー………結婚は男女の間の事だから、な?」
 「………パーパ……俺一緒にいるのダメ?」
 うっわ、滅茶苦茶良心に突き刺さる言い方するな!! お前の後ろにいる着物きたお化けが恐いんだよ!
 「こら虎っ! ナニ俺様に断りもなくシンちゃん口説いてやがる!」
 「タイガーっ! お前にはサクラがいるだろ!」
 「なんか言い方気にいらないけどそうだよ、タイガー! こんなおっさんより俺の方が断然お得っ!」
 …………いつの間に復活した、アラシ&バード。よく見ると傷だらけってことは、やっぱさっきから聞こえていた破壊音はリュウの踊りではなくお前らの激闘のせいか。………外の風景、半壊ってところかな………。
 ものすごい身勝手な物言いしている3人をくる〜っと見てまわして、タイガーが小首を傾げる。そうしてまたくいっと桜茶を飲んだ。なんか、違和感あるんだよな……何だろ………っておいっ?! なんで顔が近付いてくるんですか?!
 「あーっっっ!」
 「離れろ虎っ!」
 「…………いっぺん殺っとくか……」
 そんな物騒な物言いはいいからさっさと剥がせっ! 苦しいから! 離れろタイガーっ!
 ばたばたと抵抗していたら口の中に桜の匂いが。ついでに酒の味もする。………こいつ、飲んだのか? おかしいな、酒苦手なはずだけど。…………とりあえず、目的は解った。桜茶飲まないなら飲ませよう、か。よ〜くわかりました。だからさっさと離れてーっっっ!!!!!
 祈りが届いたのか、あっさりとタイガーは離れてくれた。そうだよな……飲ませりゃそれでいいんだからそう長くはないか。慌ててたから時間わかんねぇけど。微妙に気管の方にまでいった桜の香りに咽せていればゆら〜っとやな感じな影が近付いてくる。ヤバ……逃げないと!!
 「逃がすと思うか、シンちゃん?」
 「ウワーッ、なに人の心読んでんだこの変態っ!」
 「シンタロー……見損なったぞタイガーとなんてー……」
 「船幽霊のようにしがみつくなバードっ!」
 「タイガーの馬鹿っ! サクラ傷ついちゃったんだから! もうこうなったら一升瓶一気飲みさせて既成事実作っちゃえっ!」
 「お前が原因か、サクラーっっ!!!」
 「もういい加減帰して欲しいっす! ぷるる〜っ」
 俺も帰りたいわ!! というか、俺の家はどっちの方向だ!
 つーかこの家のドアすらくっついてる奴らのせいで見えん!!! …………て、なんか……地鳴りしていませんか?
 顔を顰めてちらりと後ろを伺おうとしたら間近に顔!!
 「ん? なんだ〜? 自分からおねだりか?」
 「慎んでお断り申し上げ……………」
 ………言葉が全部言い切れませんでした。アラシの言葉とほぼ同時に返した言葉は爆音に飲み込まれましたよ☆

 ………………………ちゅど〜ん!!!!!!

 ぱらぱらと瓦礫が落ちてくるなか身を起こして辺りを見回す。
 先ほどの見解を訂正させていただきます。周りの景色半壊ではなく全壊ですv
 「リュウっっっ!!!! 紅龍召還するなーっっ! さっさとしまえっっっっ」
 俺の叫びはかなり空しく響き、説得に説得を重ねるよりも酒を浴びせて寝かせた方がよほど早かった事実だけ言っておきたい。

 で、結局。
 「だからこれ飲めって。ママに式の日取り決めてもらうから」
 その手に持っている披露宴のマナーbookを捨ててから物を言ってくれ、バード。
 「俺特性のしびれ薬入りだぜv」
 それ事前に言って意味あるのか、アラシ…………
 …………この後一週間以上桜茶片手にこの会話に付き合わなくてはいけない俺の身になって欲しい。そろそろアマゾネスがヒーローとミイちゃん連れてくるだろうから……そっちの反応の方がよほど怖いけどな!!!
 一人満足そうなタイガーは二日酔いで人の膝占領して寝こけているけど、多分きっとアマゾネスの地獄の声で心臓止まらせかけながら飛び起きてくれるだろう。

 …………この場の救いの女神は、同時にかなり地獄の使者、なんだよな………………








 お持ち帰りフリー小説、パーパ争奪戦でした〜v
 ………ギャグはテンションあげないとかけないから結構きついですね。
 でもキャラ多めにしたかったのでギャグで。

 今回は天然なタイガーをたっぷり出しましたv 私の本命タイガーですし。
 超人兄弟もどうしようか悩みましたが収集つかなくなるので止めておきました。
 そしてやっぱり忘れてはいけないアマゾネス!!! 彼女がいなくちゃ話になりませんね☆