一人で生きることが当たり前だと信じていた頃、こんな気持ちは知らなかった。
誰かがいるだけでほっとする。
誰かが笑うだけで灯る温かさ。
誰かに触れる事の心地よさ。
その声を聴く事が好きで、その目に写る事が嬉しくて。
子供のようにその背を追い掛けていた。

その背は優しく自分に振り返り、早く来いと声を掛けてくれる。
――――その瞬間にその人の口元にのぼる笑みが、この心を揺り動かすのだ………





和らぎを包む



 苦しそうな息遣いが耳に響く。
 吹き出る玉のような汗を拭って、青年は子供のように困った面持ちのままその様を見つめていた。
 発熱からか、普段よりも赤い顔。苦しげに寄せられる眉。
 ……いつもなら絶対に見る事のない、疲弊した男の顔に虎は猫のような情けない声で鳴く。
 その声が聞こえたのか、閉じられていた瞼が震える。
 ゆっくりと、けだるそうに瞼は少しだけ持ち上げられる。覗く黒は濡れていて、普段のような精悍さに欠けていた。
 それが悲しくて青年は泣きそうな顔で男を見た。
 微かに苦笑する気配がする。
 男の目にも青年の情けない顔は写っていて、あまりにも幼いその顔に思わずこぼれる笑みは普段と変わらない。
 「………タイガー。そーゆー顔、してるな」
 掠れた声がゆっくりと呟く。
 喋る事の出来た男にほっとしたのか、青年はその顔を覗くように近付いた。
 息が触れるほどの近付いても、掠れた声は聞き取りづらい。
 それでもその声を聴きたくて、タイガーは声を掛けた。
 「……パーパ、苦しくないか?水、ある。……飲むか?」
 なんと声を掛ければいいかわからなくて、タイガーはいまは薬草を探しにいっているバードとヒーローに言われた事を尋ねる。
 ……人の看病などした事のないタイガーは、発熱時には水分を多く取らせる、と言う事を知らなくて二人から念を押されたのだ。
 その様子を想像したのか、シンタローが目を細める。
 たった一匹で生きる事を当たり前に思う虎。つがいの相手とさえ、ともには暮らさない。
 それでも、この目の前の野生の虎は自分達と一緒にある事を選んだ。
 流れた涙があまりの幼く純粋で、驚いた事を覚えている。
 ……乱暴者は、寂しいと叫んでいるただの子供だった。
 伸ばされる手に戸惑っていて、まるで怯える捨て猫のような様に苦笑した。
 その戸惑いを無くせないままに、ぬくもりを求める手を拒めなかったのがどうしてか、まだわからない。
 それでも青年はこの虎が愛しいと思う。
 不安に目を揺らせて自分の傍を離れない。
 ……あるいは、責任を感じているのだろうか?
 この胸にある傷は、つい先日負ったものだ。……それは子供を守ろうとしていたタイガーの代わりに受けたものだ。
 幼い子供を守るためにその身を晒していたくせに、自分が同じ事をしたなら泣きそうな顔をする。
 たまたまその相手の爪には毒の成分が強く、解毒作用の発熱にいま襲われている。
 ……それでもあの瞬間、タイガーが負おうとしていた傷よりはよっぽどましだ。
 ぬくもりを知った虎は弱いものにひどく敏感になった。生来の優しさを曲げる事なく溢せる幼気な青年を男は気に入っている。
 だから、その目に溢れる不安も辛さも、そのまま自分に移るほどこの身には痛い。
 それを癒そうと、男はだるい身体を励ましながら手を伸ばした。
 ……じっと自分の動きを追う幼い視線。
 「喉、乾いた。………水をくれるか……?」
 間近な顔を包んで囁けば、青年は慌てて頷いて近くに置いておいたポットの中の氷水をコップに移す。
 それを見ながらしばし青年は固まる。
 ……コップに移した水をどう飲ませればいいのだろうか?
 困っている青年に男はその目だけで笑いかける。
 その意図に気づき青年は頬を微かに染めた。
 弱っている男に触れたがる自分に気づかれないようにしていたつもりだが、男の目は簡単に看破してしまう。
 タイガーはまたシンタローの横になっている布団の横に座った。
 ……冷たい水を口に含み、熱く熟れた唇に触れる。
 体温がいつもよりもずっと高い。触れる唇さえそれに侵されていて、火傷しそうな感覚を虎は感じた。
 それもいいと、思う。
 男の持つ熱に焼かれ、溶けて一つになれるなら……。
 ………閉じられた瞼に口吻けながら、その熱を乞うように虎は男の頬に浮き出た汗を舐めとった。

 たった一人はもう寂しくて。
 この優しい男の目がなければ立ってなどいられない。
 そのぬくもりを。熱さを。強さを………
 無条件に与えてくれる男の傍らで、ただその存在を感じたい。
 疲れたように眠ってしまった無防備な男に苦笑して、青年はうずくまりながらその様を見つめる。
 穏やかなその気配に微睡みそうになる自分を叱咤しながら………








キリリク2525HITタイガー×パーパです!
フフフフ……♪この二人をリクエストいただけるなんて夢のようです!
絶対にこないと思っていたので。
最初は風邪引きにしようと思ったんですが、あんな格好で風邪引いたらただの馬鹿なので……(笑)
解毒作用による発熱にしました。
看病しているタイガーを書きたかっただけとも言いますが☆

この小説はキリリクを下さった裕樹彬様へ捧げます。
大好きな二人をありがとうございました!