今日はいつもと同じメンバーが、いつもと同じように家に来ていた。特になにをすると言うわけでもなくて、単に平和になった世界に英雄なんて大層なものもやる事がなくて暇を持て余しているから。
………もっとも。ここにはいつもいて当然な奴が一人いない。
そいつの顔を思い出し、このところ被っている厄介な事この上ない事を思い出す。
「はあぁぁぁー……………」
思わず漏れた大きな溜息に、周りのみんなの視線が俺に向かってくる。
………その原因を知っているせいか、みんな心配しているというよりも楽しそうなからかい顔だったけど!
ムッとした俺の雰囲気が伝わったのか、リュウがニヤニヤ笑って声をかけてくる。
「なんだ、シンタロー。バードがいなくて退屈か?」
「………いないから大っぴらに溜息吐けんだよ」
なにをいいたいのか判ってはいるけど、誰がそれに乗るか。
リュウの相手をしているとまたややこしくなると思って周りを見回す。
………リュウを黙らせられる奴、いるか?
ああ、いた。俺も怖いけど………
しかしなんと言って話題を逸らす? 不自然な事は言えないしなー………
うーんと………
「なあサクラ。お前あいつがなんで彼女出来ないか知ってる?」
………………………………馬鹿か俺は。結局似たような話題に他の奴巻き込んでどうする。
ん?あれ、おかしいなー。いつもなら面白そうと思ったら即乗ってくるのに。
可愛い顔をした花人界英雄はヌイグルミのように抱えていた虎の耳を引っ張って不機嫌な顔になっている。
ありゃ?? こりゃ、鬼門だったか。
「俺が知るかよ。あれは自業自得!」
「オイオイ、100回も貢がせておいて、それはねぇだろ?」
サクラが不機嫌そうに言うと、リュウが面白そうに応えた。
あ、ラッキーv 考えていたのとは違うけど、とりあえず話題が逸れた!
……はいいけど、タイガー……いい加減逃げて来い。ヒゲ、ひしゃげてるぞ…………
無言で来るように手を振ると、痛かったのか即反応して虎は俺の膝の上で丸まる。
うーん、サクラがヌイグルミ代わりにしてる気持ちが判るかも………。
なんで獣化するとより子供になるんだ? まあいいけど。
俺は寝る体勢に入ったタイガーを撫でながら、リュウとサクラの声に耳を向ける。
まだなにか言い合ってるなぁ。バードの彼女の話題は有り難いが…困る。
みんなして俺に結び付けようとするんだよな。あの結婚騒動のせいで………
あ、なんかムカっときた。大体、なんで俺があそこまでされなけりゃいけねーんだ?
女装なんて情けねぇ真似させられるし、……ガキの頃からの親友に………………キ……はされるしッ!!
おまけに親父まで壊れるしな………。はあぁー………。このところロクな事ねぇな、俺。
目を瞑って物思いに耽っていた俺の耳に、どこか怒ったようなサクラの声が突き刺さる。
……………その高い声はどこから出るんだ? お前一応完璧な男だろ……?
「いっとくけど、あいつに彼女出来ないの絶対におっさんのせいだからね!」
まだジーンとしている鼓膜を押さえながら、俺はとりあえず視線を向けられている事に気づいて目をあける。
…………ウオッ!? なんでみんなして俺を見てるんだ!?
ん…………? サクラの指先がはっきりと俺を指してる……?
もしかしてサクラのいっていたおっさんて俺か!? 鳥王かと思った………
「おいおい、なんでシンタローなんだ?」
どこか戯けたリュウの声に、俺は慌てて同意を示すように頷く。
冗談じゃねぇぞ。これ以上厄介な事に関わらせるなよ!
「そうっスね。シンタローさんが邪魔してる事なんてないし………」
当たり前だっ!!! むしろさっさと彼女作れっていってるんだからな、俺は!!
声を大にしてキリーに突っ込みたかったが、膝の上で熟睡しているタイガーを起こせなくて言葉を飲み込んでしまう俺って一体………
取り合えず大人しく言い合いの行く末を見守ろうと思うが……多分無駄なんだろうな。
軽く息を吐く俺を見て、サクラはフンと顔を逸らす。
ありゃ……なんだ? なんで拗ねられてるんだ、俺………
眉を顰めれば、サクラがつまらなそうに口を開く。
…………なんでそんな風に人の家でソファーにふんぞり返って威張れるんだ?
まあ、もういい加減慣れたけどな。
「あいつさぁ、自覚無いんだろうけど、同じ事ばっか言うんだよね」
「同じ事?」
「どんな事でしょうね?」
リュウとキリーが不思議そうに言っているのを横目に見ながら俺はうるささにぐずっているタイガーの背を撫でる。………いっそ俺も今日親父のトコ行けばよかったかな。
ヒーローたちがここにいないだけでもましか…………
溜息を吐いた俺の耳に、イヤーな言葉が入り込む。
……………思わず耳を塞ぎそうになったぜ。
「そいつの話だよ」
あっさりと言い切ったサクラの声に、一瞬部屋の空気が固まった気がする。
…………いや。絶対に確実に! 何度か下がって時間も止まってたな。
一体なにをどうしたら俺の話が出てくるんだよ、こんな時に………。
呆れた俺は深い溜息と一緒にサクラに声をかける。
「………あのね、サクラちゃん。そういう勝手な話は作っちゃいけないと思うけど?」
「事実に決まってんじゃん。バーカ」
きっぱりと否定して言い返すまで僅か0.1秒?
………相変わらず無敵な奴だな。
返答に固まった俺に変わって楽しそうなリュウの声が響く。
頼むからこれ以上人の頭痛の種増やす真似だけはよしてくれ…………。
そんな訴えに満ちた俺の視線は呆気無く無視されているらしいな。同情するようなキリーの視線が痛いぜ………
「で? どんな事いうんだ、あの馬鹿鳥は」
好奇心満々なリュウの声に、サクラは呆れたというよりバカバカしくてやってられないという顔をしてそれに応えた。
………そこまでくだらなさはっきり押し出すならいうなよ。聞きたくねぇから………
「あいつは最初っからナンパした子と誰かを比較してくるの! 『あいつはこうなんだ』とか『こういうのダメなんだ』とかさ」
「…………それって単に相手の気を引く手段なんじゃないんスかね?」
どこかフォローを入れようと必死なキリーの声は嬉しい。
………がしかし。
「バーカ。そういうのは数回が限度! 毎回言ってたら意味ないね」
即刻言い換えされてる。ああ、落ち込んでる…………
この面子じゃお前に勝ち目ねぇよな………
気にしてねぇからそう暗くなるなって。ポンポンと背中を叩いてやると申し訳なさそうに見上げてくる。
ほんとこいつ、ヒーローに似て素直だな。憎めないタイプだ。
にっこり笑いかけてやれば立ち直ったのかまた二人の間に入る。……だから無理をするなと………
そんな俺たちを見ていたリュウが不意にシニカルに笑った。………イヤな予感を覚えるのは俺だけか?
ゾクリとした瞬間にはリュウはすでに横にいるし。相変わらず素早いな………
あの女装した日からたまーに酔ってるとふざけて伸ばされる手を思い出して、正直身構えてしまうのは俺だけじゃないと思う。
ひきつりつつも笑って俺はリュウに声をかける。
「どうか…したか?」
「んー。いや、な。随分キリーと仲イイじゃねぇか?バード見てたら大変だぜ?」
それを耳元で顔ギリギリまで近付けていってるやつが言うか!?
ウギャッ!腰を撫でるな気持ち悪い!! ああ、キリーが白目になってる!!
気絶している暇があったら助けんかッ
しかたなしに俺はとにかくリュウを近付けまいとその肩を押し返す。
必死の俺の攻防に、膝の上のタイガーが目を覚ます。
……寝ぼけているらしいタイガーはそのままリュウの腕に噛み付いた。あーあ。リュウがキレる………
「なにしやがるッ!このバカ虎!」
「こ、こらリュウ!お前がふざけてたからだろ!?」
ひっつかんだタイガーを捨てようとしているリュウの腕を慌てて引く。
寝ぼけ眼もはっきり見開いて、なにがなんだか判らないタイガーがジタバタ暴れていたけど、そんなもんでこの男が止まるわけがない!
「いい加減にしろよおっさん。タイガーいじめんな」
プスッとこの所よく聞くようになった音が聞こえる。…………うわ、やっぱり。
リュウの額から血が出ている。サクラの髪の毛の攻撃は唐突過ぎて身構える暇が俺たちにもない。
……というか、油断しきっている時ばっかりやってくるからだとも言うけど。
「サークーラー……テメェ殺すッ」
「ふん、バーカ、お前が死ね!」
お決まりの言い合いモードに突入したなー。これで当分俺たちには回ってこないな。
リュウの投げ捨て未遂に怯えて泣いているタイガーを慰めながら俺はキリーとともに部屋の隅に移動する。
やれやれ。やっと静かになった。………二人の言い合いの声は聞こえるけど。
キリーと二人お茶を啜りつつ、よく飽きねぇなーとか話していると、背中のドアが開く気配がした。
ドアを開けて呆れた顔をしているのはこの騒動の原因の男。
「あ、バードさん。鳥王様のお使い終わったんすか」
「ん……まあな。で、シンタロー」
キリーの声に簡単に返すと、バードはくるりと顔を俺の方に向けてきた。
…………イヤな予感がする。このところこの予感は外れた事がない。
とっさにキリーの方に逃げようかと思うが、それじゃあこいつが不憫だし。なんて考えていた俺の膝元にバードの足が降ってきた。
って、そこには……………
「ガウウッッッ!!!」
やっと落ち着いてまた昼寝に入っていたタイガーの悲鳴が響く。………そりゃ痛いだろうよ。すっかり安心して寝てた所容赦なく踏まれれば。
その下にあった俺の足にまで多少痛みがあるくらいだぜ?
少しは手加減してやれよ………。
「なにしてんだよ、バード!!大丈夫か、タイガー!?」
慌てて苦しがってるタイガーの踏まれて潰れている背をさすってやる。……と、ドヨーンとした雰囲気を背負ったまま背中に重いものが張り付く。
……邪魔だから離れろバード!! ギッと睨み付けてもどこ吹く風。タイガーのシッポを掴んで俺の膝から剥がそうとする。
だから痛がってるっての!!
「やめろっていってんだろ!?タイガーが痛がってるだろうがッ!!!」
「ガウガウウウウッッ!!」
「このバカ虎、なに人のもんの上でぐーすか寝てんだよっ!」
「誰がお前のモノだっっ!!」
タイガーを挟んでの攻防に終わりが見えなくて、俺は最終手段を出す。……そう、あの悪夢な結婚式の終止符を打った羽根!
それを見た瞬間、全員の動きが止まる。さすがにあの時のことを思い出しているな。
よし!
力の弛んだバードの腕からタイガーを奪取し、開いたままのドアから俺は空に向かう。
………これ以上あいつらに関わってられん。親父のとこに今日は泊めてもらうか。
ほっと息を吐いているタイガーに笑いかけ、とんだ災難だったなと声を掛ければ深ーい溜息が漏れた。
まあ、それでもあいつらとの付き合いはやめられないんだから、結局は類友なのかね?
そんな苦笑を残して、後ろから追ってくるだろう鳥をまく為に俺は大きく羽ばたいた。
キリリク6400HIT、『争奪戦!!』の続きですv
いやー、まさかこれの続きなんて考える事になるとは思わなかったのでビックリでした。
でもこれでいいのかしら…………
毎回毎回、なんかタイガーが不憫です。
いじめられてるなー………。パーパ、タイガーに甘いから…………
子供扱いとも言いますが。でも虎の姿のタイガーは可愛くて、いい子いい子としたくなってしまいます。
バード……こんだけしかでなくてスイマセン。
最初は出さないつもりでした。そして過去のサクラナンパ話でパーパのこと言うシーンを入れるつもりだった。
………やめました。そうするとなんか素敵にサクラ→バードっぽくなりそうだったので。
この小説はキリリクを下さったぢょ様に捧げますv
こんな訳解らないギャグになってしまってスイマセン。