俺は高鳴る鼓動を持て余すしつつ、バードの持っているクジを引いた。
例によって例のごとく。女装メンバーを決めるクジ。………まだした事がないのは俺とキリーとタイガーだけ。
面白がったリュウとサクラの提案で3人だけでやる事になってしまった………
息を飲み、勧められるままに1番にクジを引いて………撃沈。
………………初っ端で普通当たるか!? こういうのありかよ!
助けを求めるように視線をタイガーとキリーに向けるが………おいキリー。天に召されてるぞ。そこまで自分でなくてよかったか。
まあぷるるちゃんも参列するもんなー、毎度のごとくの騒ぎになったら。……そりゃいやだわな。
深く息を吐くと、膝の上にヒーローが乗ってきた。
「パーパ!ヒーローはなにするんだ?」
「へ………?い、いや、ヒーローはついてくるだけで……」
とんでもない事を言い出したヒーローに目が点になった……。ヒーローにまで女装なんてさせられない!あんな可愛かったんだから、本当に誘拐でもされちまう!!
慌てている俺の耳に、イヤーな声が………………
「そうだな、この際おもしれーからみんななにか着るか」
「サクラ、ウエディングドレスv」
「………それはシンタローさんだろ?」
「俺のが断然似合うね!参列者は金持ち多いし、貢いでくるヤツ探そうっと♪」
「………サクラ相変わらず無敵っすね」
「じゃあ俺は国のヤツ着るか」
「………は?リュウさん………??」
「リュウはなに着るんだー?」
「中華式白無垢があったなー」
「…………それって俗にいうチャイナドレスじゃないすか………………??」
「お、よく知ってんな」
「なんでリュウさんみたいに体格いい人に合うのがあるんすか!?」
「あ?宴会用に決まってんだろ」
「納得だぞー」
「タイガーはミィちゃんだからな。俺のリボン貸してやるから、エスコートしろよ」
「ガウ!? パーパのエスコート??」
「俺の!」
「ヒーローはー?」
「んー、ああそうだ。ドレスの裾持ちやれよ。おめかしして」
「ほーいv じゃあタッちゃんと一緒にやるぞ!」
……………………………………………………………………。
なんでお前らそんなに楽しめるんだ? 俺がくそ真面目に考え過ぎなのか?
なんか視界の端では神に祈り捧げてる青い鳥もいるし………
俺……こいつらと一体なにが合うから一緒にいるんだ…………………。まあ腹括るしかないんだろーけどさ。
深い溜息を1つ吐いて、俺はとりあえず無理矢理女装させられそうなキリーに助け舟を出しにいった…………
それが確か昨日のことか。なんかすっごく昔のコトのような気がするぜ………
真横に位置する男の顔を覗いてみるが……はあぁぁぁ…………。なにが哀しくて人生初めての結婚式を女の格好で受けなけりゃいけねぇんだ?
………おばさんもいい加減諦めろよ。バードは女運悪いんだって。こんなゴツイの本当に嫁にしたかねぇだろ。
しっかし………。なんでバードは目を輝かせてんだ? いっつも通りに白く燃え尽きると思ってたのに………
なんか参列者の方も凄いな………。
サクラ……本気で着てきてるよ、ウエディングドレス。俺のより豪華はねぇのか? いっそ代われよ……そんなに似合うなら。あーあ、騙された男が群がってる………。タイガー……付き合うのも程々にして逃げて来いよー。
…………視界に不快なもんが飛び込んだ。なんでリュウもあんな格好なんだ!? っていうか、本気だったのかチャイナドレス!? …………白龍までつき合わされてるよ………。哀れな弟だな。けどなんかそろそろキレそうな雰囲気だ………。
ぷるるちゃんとキリーがいた。おお、結構お似合いじゃねぇか!おめかしして………こんな場所にまともなのがいて嬉しいと思うのは二人に悪いな。キリー、ちゃんとぷるるちゃんに変なものみえないように守ってやれよ。……ここ危険地帯だからな! 絶対に具合悪くなる…………
いまの所ヒーローとタッちゃんが相手してるから平気だろうけど……ああ、リュウ!挨拶になんぞ行くな!!
……………………あ、ぷるるちゃんが倒れた。
そりゃあこんな化け物見れば倒れるわな。キリーとヒーローとタッちゃんが慌てて帰ってく。………よかった。これ以上ぷるるちゃんに不快なものが目に入らなくて。……一番強烈なの見ちゃったけど…………
ハラハラしながら客ばかり見ていた俺の脇腹をバードが肘でつっつく。……なんだよ、うるさいな。
見てみればどこか憮然とした顔。……こいつ、なに拗ねてんだ? こんなままごとみたいなもんで…………
顔を顰めて疑問を口にしようとした瞬間、マイクで拡張された清清しい声が響く。………相変わらず颯爽とした声。甥っ子いじめに人生賭けてるせいか?
「それでは各国の王からお祝の言葉を………」
進行役の鳥王がいった。…………おい、あんたさっきと服違くないか!?
お色直し用意してるって嬉々として言ってたけど……ドンドンきらびやかになってくな……。目が痛いんですけど?
まあそんな事はどうでもいいや。ふうと息を吐き出し、もう一度鳥王の言葉を反芻してみる。
……………各国の……王?
突然俺たちの立つ場所に影が出来た。雲1つなかった晴天なはずなのに…………。
イヤーな予感がして、俺は恐る恐る後ろを向く。
予感適中。…………外れろよ、こういう時くらい……………
親父が男泣きで立ってやがる。
思わず視線逸らしてしまった。………わ、悪い事してるわけじゃねぇっからな!!
そんな俺をお構いなしに親父の声が響く。
………身体もでけぇけど……声もでかいよあんたら…………
「シンちゃんがー!!こんな美人さんになって……死んだ母さんそっくりなのに!!なんで突然バードなんぞに嫁ぐんだー!!」
そういうわけわかんねーコトは人のいない所でこっそり言え。大声で喚くなっ!
誰が嫁げるっつーんだよ! 俺は男だっ!! 基本的事実無視して勝手に感傷に浸るなー!!
そんな俺の心の叫びは無視され、他の王たちが親父の周りに群がる。
「泣くな人王!わしらがついていてやるぞ!ほれ、思う存分泣いてええぞv」
………どっちなんだ獣王……。というか、嬉々として男に胸を貸すな。
どかっと獣王が弾かれ、親父の目の前に立ったのは今度は………樹王??
この人は結構まともな人……だよな。
ホッと息を吐いて見ていると………はい??
「人王、辛ければまた私の城に泊まっていけばいい。共に夜を明かそう……」
悪い意味では……ないよな? ないと思いたいんだが…………
信じようと無理矢理納得しかけた俺の耳に鳥王の一言が…………
「相変わらずもててますね、人王は。せっかくおめかししたのに泣いてばかりで見てもらえないし………」
ほほーう。………貴様ら人の親をなんだと………!!!
がんがんと頭が割れるほど頭痛がひどくなる。なんで俺が親父の面倒まで!!
ギッと俺は巨大な王たちを睨み付ける。
「親父!!」
この距離で、本人泣いてて聞こえるかどうか解らないという事は絶対にない。この人、俺の声聞き逃す事はねぇし。
思った通りぱっと顔を上げて親父は俺を見ると作ったような厳しい顔でしゃがみ込む。
「………今日、城に泊まりにいくから、いまから帰って用意しておいてくれ」
「……………………本当か?」
………親父……顔が弛んできてる…………。なんでこう親バカなんだ?
「本当だ。ヒーローとみいちゃんとタイガーも連れていくから、よろしくな」
にっこり笑っていえば、すっくと親父は立ち上がる。
二人の王の言葉も聞かずに颯爽と飛びさる姿は頼もしいな。……でも頼むからにやけヅラと鼻血は拭けよ?
もう見えなくなった親父を見送りつつ、深く息を吐く。異様にいまの一件で疲れた。……知りたかない事知っちまったし。
まあ真っ白になったままの王様たちは無視してよう。
そう思っていた俺の耳に爆発音!
――――――ドカン!!
…………なんだ!?この衝撃は!!
「ふざけるな!!」
これは……クラーケンの声? あいつも来てたのか……結構真面目な奴だな。
って龍王様にいまアイスボンバーかましてなかったか?
大丈夫かと見遣った先には無傷の龍王と、その手の中に大事に守られている純白の布。
……………あのー、龍王サマ……。俺にはそれがドレスに見えるのですが………?
「危ないだろう、クーちゃん!お友達のめでたい席で………」
いや、めでたかないんだが……。って違う。そんなのはどうでもいいんだった。
「せっかく美人なんだから、このドレス着なさい。クーちゃんなら花人より似合うとパパ思うぞv」
…………再び硬直。そして虚しく爆発音が響く。
忘れよう、あの親子は。………割って入っても七世界最強の親子喧嘩じゃ仲裁する方が身が持たない。
同じ結論に辿り着いたらしい鳥王はくるりと俺たちの方に向き直った。
「じゃあ、とりあえず先進めますか。さて……お待ちかねの誓いのキスですv」
……………………………………………………はい?
いまなんかいいましたか、あなた。
引きつった顔でそばに控えてる、すっかり存在忘れていたバードを見上げてみる。
………怒ってる。声も掛けなきゃ顔も向けなかったからか?? いや、そんなのはどうでもいいんだ。問題はしっかり俺の腰捕まえてるこいつの腕!!
ギャー!!顔寄せるな!息がかかる!!!
パニックな俺の耳元に、バードの声が触る。
「………無駄な抵抗すんなって……」
するわボケェェェッッッ!!!!!
慌てて手足をばたつかせるが……バードは一向にお構いなし。
あとちょっとで触れると思った瞬間、再び爆発音が響く。
………今度はあの親子とは逆方向から?
あ、氷龍と火龍が出てる…………。ってことはリュウと白龍の兄弟喧嘩勃発!?
なんでこう龍人は喧嘩っ早いんだ!? 一番強いくせしてー!!!!
ハチャメチャになった会場を見つめて、呆気にとられて弛んだバードの腕からこっそり抜け出す。
なんとか逃げれた俺の腕を再び掴まれる。ぎくりと振り返った先にいたのは…………なんでアラシなんだ!?
「なんとか間に合ったな。ほら、いくぜ」
「は??ちょっ……アラシ!?」
何事かと思ってとりあえずバードに視線を向けると……いない。
ああ!? 地面に突っ伏して潰れてる!? さてはアラシが空から来てそのままバードに体当たりかましたな!?
………溶けなかっただけましか…………………
で。なんとか大騒ぎになった会場から離れはしたが……この格好はどうよ。
ウエディングドレス着たでかい男が更にでかい男にお姫さまだっこ?? ………情けない。
「おいアラシ、もう下ろせ!」
「あ?なにいってんだ。こんなとこじゃ追いつかれちまうだろ。もっと遠くいってからな」
「お前こそなにいっとんじゃ!!こんな格好でいられるか!さっさと下ろせ!」
「だーめ。シンちゃんはそのまんまの格好でもう一回俺と式上げんだから」
「……………………………アラシ。いい加減にしろ」
深く低く怒った声で静かに囁く。途端にびくりとアラシの肩がはねる。
昔からの刷り込みか、アラシは本気で俺が怒ってる声を出すと身動きがとれなくなる。そういう習性(?)をこういう時利用せんでいつ利用する!
ビクビクと情けない顔で俺を見ながら、抱き寄せていた腕が緩められる。………ふう、やっとまともに息が吸える。
自分の羽根をだしてアラシの腕から離れれば、犬のように耳を垂らしたアラシが不貞腐れて俺を見る。
随分とまあ、素直になったもんだな。小さく苦笑してから、俺はアラシに笑いかけた。
「……まあ、助かったぜ。せっかくだから、うちで茶でも飲んでいくか?」
久し振りに、幼馴染み復活するか? そういってみれば複雑そうな顔をして、それでもアラシは小さく頷いた。
全く、手のかかる幼馴染みばっかりだぜ。
……ま、それでも気に入ってるんだから仕方ないんだけどさ。
まだ会場で潰れたままのもう一人の幼馴染みもあとで迎えにいかなくてはと思いながら、俺は取り合えず邪魔くさいウエディングドレスを脱いで普段通りの格好になった。
まだ日も高いし……ヒーローたち拾って親父の城までピクニックしていくかな。
なにはともあれ……怒濤のような午前だったな………………
キリ番10200HIT、鳥パーの結婚式に乱入したアラシが花嫁強奪!なギャグですv
イヤー、細かいリクしてくれるのでなんとかまともに書けた……かな??
ギャグって……自分ではわからないですね(遠い目)
今回のポイントはやはり王様たちでしょう!
人王をパーパと同じ立場にしてみましたv
………そして気付いていない(いまだに)人王を取り合ってる他の王様方。
でもみんな仲いいのですv
この小説はキリリクを下さったれいこ様に捧げます。
リク……全部消化しましたか!? 覚えているもの全部入るように頑張ったのですが!