「………で、なんで俺はこんなの着なきゃいけないんだ………?」
全部話して、とりあえず息子から雲隠れしていることに同情(?)したらしく、アマゾネスは家に置いてくれるらしい。……らしいのだが、なんで俺は十二単なんていう重いだけで機能性の欠片もない、しかも女の服を着なくてはいけないんだ?
てっきりこれが正式な服なのかと思ったが、この数週間でわかった。……これは身分の高い『女』の服。俺が着る必要性まったくなし。
物凄い疑問の視線を訴えれば、あっさりとした返事が返ってきた。
「そんなの変装に決まっているでしょ。ったく、あんたどんどんでかくなるから私のじゃ少し小さいくなったわね」
この星のレベルに合わせて巨大化してきた俺は、タイガーと同等程になったのではっきりいってアマゾネスよりかなり背が高い。更に言わせてもらえばアマゾネスは普通の女より大きい方だ。………つまり俺は異様にでかい女装バレバレの姿ということになる。
それでもまだ……なんとかアマゾネスの言葉には一理あるかもしれない。でもなにが悲しくてこんな真似を……………
深い溜め息を吐いて、なんとか覚悟を決めた俺の耳に能天気な虎の声が…………
「パーパのコト見たっていう奴から紙渡された」
うわー……なんだその抱えきれない量の手紙は。俺この竹藪や山以外どこにもいってないけどな………。なにかやったか?
不可解そうな俺とは裏腹にアマゾネスはなにか思い当たるのか颯爽とタイガーの傍まで詰め寄った。
おおーい、タイガーが怯えてるぞ………。せめて睨むのやめてやれよ………。
「なに?見せてみなさい」
そういってアマゾネスは手紙を何枚かひったくってビリビリと封を開けて中を読みはじめる。
………………オイ、俺宛の手紙をまっ先に何故お前が封を開けてみる。まあいいけどさ。
それを読み切ったらしいアマゾネスは……無言のまま恐ろしいオーラを吐き出してその手紙をシュレッダーにかけた。………なんでそんなものがこの時代にあるんだ?
いや、それよりなにより気になるのは背を向けたままのアマゾネスの雰囲気の恐ろしさ!!!
ちょ……なんでそこまで怒るんだ!?俺はなにもしてないぞ!?!?!
まさか不幸の手紙でも渡されたのか?……でもあんな量の不幸の手紙はイヤだな、流石に………
「……シンタロー……あんた外出禁止」
「ハア!?ちょ……冗談だろ?そんなことしたら俺退屈で死ぬ!」
「いいわよ、その辺で腐ってて」
………………………………おい。
顔を引きつらせて本気らしいアマゾネスにちょっと下手に出てみる。………まあこいつがなんにもないのにそんな意地悪いうはずないんだが。
「あ、あのー、アマゾネスさん?せめて理由くらい………」
「理由?」
ゆら〜り、と………なんでアマゾネスのバックだけ歪んで見えるんだ?ちょっとお前人間越えてるぞ??
いや、いまはそんな当たり前のコトはどうでもいい。なにを気にかけるべきかっていったらやっぱり………
――――――――――バキッ!!!!
物凄い破壊音とともに風通しのよくなったこの戸だよな………………
そしてそこにたむろしている5人の男たち。………中には小さな少年もいるけど。
こいつらこんなところでなにしてんだ?
訝しげにみているとアマゾネスの怒気が膨れた。あわわわ……空が暗くなってきたー!?
「…………このストーカーどもに攫われたいわけ?」
………………………絶対ノー……………
顔を引きつらせて慌てて俺は逃げようとする。……と靡いた髪をガシッと掴まれた感触が…………
お化けがいるとわかっていて振り返るような気持ちで俺はゆっくりと背後を見てみる。…………金の髪の男が楽しそうに笑ってるぅ〜……!!
パニックになりかけた俺を引き寄せ、男が耳に唇を寄せてきた。ああ……この服動けねぇぇっっ!!普段だったらこんなボケ風呼んで吹き飛ばせるのに!!!!
そんな俺の心情まったく無視で男が声をかけてくる。
「よおシンちゃん。迎えにきてやったぜ。さっさといくぞ」
「…………なんで数回あったことがあるだけの奴にそんな馴れ馴れしくされにゃいかんのだ、アラシ?」
「細かいことは気にするなv」
「そうもいかねぇだろ。一応俺らもこれ狙ってきたんだし。なあ、キリー、ナギ、リキッド」
「ってちょっと待てリュウ!キリーとナギはいいとして、なんで人の息子の兄弟がここに!?」
「うるせーなっ!俺だって好きで来たんじゃねぇよっ」
顔を真っ赤にして言い返してきたリキッドにリュウが素直でないね〜なんていってるけど……もしかしてヒーローに全部ばれているんですか………?意味ねぇな……………
なんてコト考えていたらなんか服の裾割ってきてる手が!?
ぎょっとして俺が殴るより早く…………なにかがアラシを遠ざけた。
…………アハハハハ……アマゾネス、いま竹やり…………………………
怖いのでアラシの吹き飛んだ方は見ないことにしよう。うん。
硬直した俺&男どもにアマゾネスの声が降り掛かる。
そりゃあもう、反論しようものならアラシよりひどい目あうぞという雰囲気がひしひしと……………
「わかったわ……あんたたちうるさいからチャンスをあげる」
……………待て。人の貞操かけてなに恐ろしいこと言い出してる。
怖くて声を出せない俺は必死で視線とぱくぱくさせた口だけでそれを訴える。………が、うるさいという眼光一つで思わず石化。あ、アマゾネス……メデューサになってる…………………
凍った俺を差し置いてアマゾネスは5人にどんどん指示を与える。いや……だから俺の意志は………?
「リュウ、あんたは竜神の五色の珠を持ってらっしゃい。キリーは燕の子安貝!知ってるわね?ナギは火鼠のかわぎぬで、リキッドは金銀のなる木の枝!………アラシ、あんたは仏の御石の鉢を持ってらっしゃい。そうしたらシンタローに会わせてあげるわよ。…………それまで一切立ち入り禁止だからよく覚えておきなさいっっ!!」
言い切ってアマゾネスは5人の男たちをポイッと外に捨てた。その鮮やかさに思わず俺は拍手をしてしまった。…………スゲー無理難題をいってのけたのに…誰も文句いう隙がなかったぞ。
これでしばらくはうるさいのもないな。ほっと息を吐いた俺の頭を……どついたのは勿論アマゾネス。う………怒ってる。
「こんのぐーたら親父ッ!なんであんな迷惑この上ない奴らと数週間で縁ができるわけ!?」
「俺が聞きたいッ!山歩いてたら言い寄ってきたんだよっっっ」
泣きながら事実を訴えると…………当分の外出禁止令が下された。…………せっかくあのボケどもが来ない間外に出て身体鍛えようと思っていたのに………………
本気で泣きたい俺を慰めてくれるのはヌイグルミのようなタイガーだけだった………………
そんなこんなで数日が無事に過ぎた。……実はこっそりいま抜け出して山の散策しているのは内緒な。
流石にあの家だけで何日も過ごすのは無理。一日一回は羽伸ばししなきゃやってられねぇって………。
大体、あいつらは女装していた俺を見て、なんだから、こうしてモロ男の格好ならばれるわけねぇのに。アマゾネスは心配性なところあるよな。
まあそこが母親らしくていいんだろうけど。俺は笑いながら山を見下ろす。んー、やっぱり空飛ぶのは気持ちいいな。このあたりは見事な竹林だから足下はもう真緑!
鼻歌まじりにあっちこっち見回しながら飛んでいた俺は………ガンッと衝撃を覚える。突然なにかにぶつかった。ってなにがあるんだよ、こんな高度の高さに!?
驚いて前を見れば………青い翼が広がった。ゲッ、羽あるってコトは……帝関係者!?
「わ、悪い!大丈夫か?」
「………お前、名前は?」
慌てて叫んだ俺の声は無視か?打どころ悪かったかな……なんかぼーっとしてるけど………。
訝しがりながらも俺はとりあえず応えてやる。まあ余所見していたのは俺だしな。ぶつかったってコトはこいつもしてたんだろうけど。
「ん?ああ、俺はシンタローだ」
「お前が!?」
…………この驚きから察するに……きっと美化されまくった俺の噂聞いたんだろうなー………。現実なんてこんなものだぞと思わず肩を叩いてやりたくなってしまった。
まあそれはおいておいて、とりあえずお前の名前はって聞き返そうとしたら…………なんか下で大騒ぎが起こってる模様。
…………なんか火が吹いてるんですけど!?
「なんだありゃ!?」
顔を引きつらせて俺はぶつかった奴をほっぽりだして急降下した。……申し訳ないけど、いまは知らない奴を構ってる余裕がないから許して欲しい。
降りてみると…………なんだこりゃ………………
物凄く馬鹿馬鹿しくてこのまま背を向けたくなってしまった。
「……………アマゾネス。なんだこれ」
思わず静かに沸々と煮えてきているアマゾネスに声をかける。……余り答えて欲しくない気もするが。
なにが目の前で繰り広げられているかというと………何故か巨大火鼠が大暴れ☆な中をリュウがえらい美男な青年と喧嘩している。………だけでなくなんかナギがアラシに焼き入れらている上に妙な鉢が気味の悪い発光を起こしている。
……………………いつからここは化け物屋敷になったんだ? いや……原因がわかってはいるけどこれはすでに人としてダメだろう。
「…………キリーはもともとボケ帝のパシリで様子見に来てただけだから厄介払い出来たけど……その他は本物持ってきたのよ」
声が澱んでる……………。まずい、これは本気でキレる。
静か過ぎる声は逆に怖い。青ざめて俺はとりあえず事態の収集を…………
………………ってあれ?いつの間にか変な鉢が壊れてる。あれって……仏の御石の鉢じゃ…………。明らかに国宝級なんですが…………………
それに気をとられたのかアラシの動きが止まった。………ナギ………白目剥いてますけど……生きているんだろうか。
ちょっと怖いけどとりあえずいまは無事を祈るとして、この火鼠どうにかしないとな。俺は羽の力で雨雲を掻き集めて土砂降りの雨を降らせてどうにか火鼠の火を消してみた。……あ、小さくなってこれはかわいいかも…………
って違う。思わず小動物に逃げたくなってしまった自分をどうにか押し止め、俺はあたりを見回す。
ウワー…………家が全焼。更に言わせていただければ竹林も半分壊滅(リュウたちの喧嘩で)。
思わず真っ白になって見上げていた俺の肩に誰かの手が触れる。………いや、もう誰だって考えるのも面倒なんですが。
「とりあえず怪光線発してる鉢は壊したけど……あれはどうするんだ?」
あ………?なんだこいつ、さっきぶつかったやつだ。見るに見兼ねて手伝ってくれてたのか………
まあ見兼ねるか。この惨状じゃ………
深い溜め息を吐いて俺は青年に小さく笑いかける。
「あー………俺がいってくるから、悪いがアマゾネスとタイガー頼む」
ポンッと気軽に頼んでいいのか判らないケド……なんか人の良さそうな顔につい甘えてしまった。うーむ、あれは結構タラシなタイプか?
まあそんなのはどうでもいいや。俺はあまりに回りを顧みない迷惑きわまりない同族の喧嘩に水を注しにいく。………確かこいつは……竜王の息子のクラーケンだよな…………。まさか主人の息子の持ち物盗まないだろーと思ったが………ついでに腕試しまでやるか、普通…………
「いい加減にしろ、リュウ、クラーケン!!」
叫んだところで聞こえるわけもないか。……いや、リュウは聞いているな。楽しそうに笑い返しやがった。
プチッと俺も思わずキレてしまった。…………………止める気ないのはよくわかった。なら強制終了っっ!
問答無用で俺は雨雲から雷を呼び寄せ、二人に落とす。……これっくらいでどうにかなるほどやわじゃないしな。でもさすが水属性。雷の通りがイイな♪
一息ついて俺は改めて足下を見下ろした。
…………………確か朝俺がここ見下ろした時は本当に綺麗な景色が見えたはずなんだがな…………
っていうか、俺らは今日からどこで寝りゃいいんだ?
アマゾネスのもとに降り立ってみると…………アハハ……想像通り、転がっている男どもを足げに。
なんかアラシも焦げてるけど………あ、そういえばあいつも水属性か。忘れてた。雷の余波がいったか。
怒りに任せているアマゾネスを止める理由もないので野放しにしつつ、俺は困ったように見上げてくる虎に声をかける。
「……タイガー……家なくなっちまったけど、どうする?」
俺とタイガーは野宿でも全然構わないが……まさかアマゾネスをそれに付き合わせるわけにもいかないしな。
心底困った深い溜め息に気づいたらしい青年が少し躊躇いがちに声をかけてくる。
……そういえばまだ礼をいうの忘れてた。
「なあシンタロー………」
「あ、悪い。手伝ってくれてありがとうな。助かった」
感謝しても仕切れんな。この馬鹿どもも少しは見習えばいいものを…………
思わず不可能極まりないことを考えてまたふかーい溜め息がもれる。
「…………行くところないのか?」
どうやらいまの溜め息を先程の会話と結び付けたらしい青年がおずおずと声をかける。………なんでそんなに躊躇うようなしゃべり方なんだ?
まあとりあえず意味の違う溜め息ではあったがそれも事実なので仕方なさそうに苦笑で頷くと、ガシッと手を掴まれる。……な、なんだ?
「だったら家に来い!部屋余ってるし、好きに使っていいぞ」
「………いや、見ず知らずの奴にそこまでは…………」
流石に甘えられないといおうとすると、ペシリとなにかを差し出された。………これは……文だな。
訝しげに開いてみると……これ帝からじゃん。話があって思わず意気投合してこいつには文返してたんだよな。…………………ってまて。こいつ確か羽あったよな…………
思わず疑い深い視線を向けると、青年が苦笑した。
「………なんだよその目は!前回の文に会いに行くって書いといたぜ」
「ってコトはお前バード!?つうか帝のくせになにあっさり抜け出してきてんだよ、お供もつけずに!?」
「あんな面倒なものいちゃ邪魔だろ」
「ちょっとそこ!なに勝手に決めてるの!?」
「ってアマゾネス、あつらの影がないんですが………」
割り込んできたアマゾネスにちょっと不安げに尋ねてみると………凄みのある笑みが返された。
…………………もう何も聞かない方がいいな。うん。わざわざ恐ろしいものを見ることはない…………
思わず二人の睨みあいから一歩引き下がっていると……突然空が暗くなった。………あ、もう夜になったんだ。月がキレイって……いままで昼間だったんですが…………
満月からいやーな影がゆっくり近付いてくる。……あれってば……お迎え?
思わず人型になったタイガーの後ろに隠れると、先発だったらしいリキッドが呆れたように声をかけてきた。
「…………なに無駄なことやってんだよあんた…………」
「うるさい!ほっとけっっ」
泣きながら言い返してみるが効果があるはずもなく………呆然とその光景を見ていたアマゾネスたちの前まで雲の御車がやってきた。………なんかイヤな予感がするんだけど…………
「パーパ!!迎えにきたぞーv」
「うわーっっ!やっぱり!?」
想像通り大きくなったヒーローがっ! 天帝バージョンは我が道いくからイヤー!!
しかも困ったことに体格もほとんど変わらなくなってしまうので軽々と抱き上げられてしまった。………待て。これではほとんど人攫いだぞ、ヒーロー。
「ってあんたなに勝手に攫っていってるの!?」
「それは俺の嫁だぞ!」
アマゾネスの言葉はいいとして、バード、それ間違えてるッ!!!
思わず突っ込んでしまった俺の前で今度は三竦みが発生した。
……………おかしい。なんでこんなに事態がクルクル変な回転起こしはじめるんだ?
深い溜め息をついてもまだ俺はヒーローに抱えられたままの情けない格好で…………
しばらくの間これは終了しないらしい。
頼むから平穏な暮らしを俺にくれ……………
キリリク24501HIT、鳥パーでかぐや姫でした☆
古文を読んで思ったのは、かぐや姫、帝のコトは好きだったんじゃないか?だったのでバードが帝役でしたv
イヤー……長いですね。全然まとまってくれなかったです。
どこで切ろうどこで切ろうと悩んでいくうちにどんどん増えていきました。
さすがは私。まとめる能力なし人間なだけあります(遠い目)
この小説はキリリクを下さったゆき様に捧げます。
……なんとも微妙な人選でごめんなさい………。