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いつから一緒か。
どこまでも一緒か。
わかるわけもないけれど。
隣が居心地良くて
また、丸まって眠る。
そうしたならあなたはしかたなく笑って、
風邪を引かないように、なんて言いながら
柔らかな毛布をかけてくれるのでしょう。
いつから一緒か。
どこまでも一緒か。
わかるわけもないけれど。
ただ、あなたの傍らで眠りたい。
初雪の舞う夜
室内は適度に盛り上がっていた。
各自で持ち寄った材料をもとに始められた鍋パーティー。奇妙なものから極上品まで、あらゆるものがそろえられている。その上それらにあうようにと何種類にも分けられた鍋はテーブルを所狭しと埋めていた。
「おいこら、リュウ! まだそれは煮えてねぇから食うな!」
「あん? 半生くらいがうめぇんだよ」
「アホか! そりゃ牛肉だけだ! 鳥はヤバいからやめろ!」
「安心するでちゅ。リュウ兄たんが死んだら財産相続はたっちゃんが引受けるです」
「………たっちゃん、そういう子供らしからぬ発言をいたいけなお顔で言わないでね…」
いつもと同じメンバーが集まり、いつもと同じようにどんちゃん騒ぎで、当然ながらストッパーもなく無礼講。
元気な子供たちだけでなく、大人たちも暴走しがちになった頃、空はすっかり暗闇になり、もはやここに泊まらない以外の選択肢が残されなくなっていた。
もっとも大部分の人間がそのつもりで来ていたし、主催していたリュウ自身そのつもりで部屋も城内に用意させていた。会場提供を快諾した竜王は今頃各国の王たちと一緒に似たようなパーティーをしているのだろう。今年の会場は花人界と言っていたから、さぞ風情があるだろうと出国する際に寄った城での会見で父たる人王が楽しそうにいっていた。
考えてみればここ数年は色々なことが起こり過ぎていてパーティーなど出来る状態ではなかった。そう考えてみれば随分久しぶりな気がした。
見上げた高い天井には幾人かが面白そうに飛んでいた。酔っているのだろう、大分フラフラな飛び方だった。こういう光景が見れるのもやはり城が会場だからこその特典だ。空飛ぶものたちが飛んだままグラスを満たせるようにと遥か上空に備えられている酒樽も少々奇妙ではあるものの、見慣れればインテリアのように自然に思えてきた。
「しっかし、こんだけ大勢集まったのは久しぶりか?」
会場の端、壁に背を預けながら杏酒を飲んでいると不意に隣から声をかけられた。よく見知った幼なじみの声。
「んー、そうだな、ここ数年では本当に内輪だけだったし、それも結構…自粛してただろ」
特に自分に関わるものたちは、とこっそり心でつけたしながら苦笑して答える。……自分が死に、そこから復活するのにかかった時間は長過ぎた。待っていなくても良かったし、正直、己の意志のままに生き、そうして死んだ自分をそこまで心に蟠るように残さなくても構わなかった。
もっともそうしたくなくともしてしまう人たちだからこそ、自分は守るために死ぬことを恐れることもなく散っていけたのだが。
「お前の復活祝いも込みなんだし、もっと中央に行けばいいじゃねぇか」
こんな端でひっそりとしていなくてもいいだろうと首を傾げれば、慌てたように彼は首を振った。
「いや、もう本当に遠慮する! 俺はこういうので注目浴びるのは苦手だって、知ってんだろ?」
「まあ昔からそうだったけどよ、一回…じゃねぇか、二回死んでも変わらねぇな、そういうトコロ」
面白そうに、あるいは、安心したかのように彼は言い、その羽根を揺らせながら空を指差す。酔い覚ましに少し飛ぶかと誘っていることは解ったが、ふと目に入った光景に首を振ってしまった。
きょとんと目を瞬かせる青年に理由を指し示すように彼の後ろ、こちらに近付いている影を顎先で示した。
「……………パーパ…」
心底困った顔と声でその一言を言った金と黒の斑(
まだら)
髪の青年は、話をしていた二人を交互に見上げながら自分の腕にいる子供をどうしたらいいかと訴えていた。
幸せそうにその腕で眠っているのはまぎれもなくたったいま声をかけたパーパの一人息子、ヒーローだ。騒ぐだけ騒ぎ、満足したように眠っている。時間も時間だ、そろそろ眠ってしまうだろうとは思っていたが、布団にいくまではもたなかったらしい。
「悪いな、バード。こういうわけだから、俺はヒーローを部屋に寝かせてくるよ」
「だな。また寝かせたら戻ってこいよ」
「そうするよ」
そう話しながら腕をタイガーに伸ばし、その腕の中で眠るヒーローを受け取ろうとするが、彼は動かず抱え直すだけだった。首を傾げてみせるが、逆に不思議そうな顔で見返される。
その全く同じ仕草をしているくせに通じていない二人の様子を見てぷっとバードが吹き出してしまう。
どちらも同じことを思っているのだ。どうしたのだろう、と。そのくせ相手がどうしてそうしているのかは解っていない。
奇妙な同居人たちは似通っているからこそ、どちらもどこか抜けていてボケ倒してしまうときがある。
「ほら、さっさと二人でいってこい。早く戻ってこいよな」
通訳するかのようにそう声をかけ、バードは愉快な友人たちに手を振ると床を蹴り、空を舞った。
そういうことかとやっと解ったらしい男はホッと息を吐いてさり気なく教えてくれた青年に感謝するように手を挙げた。
「パーパ?」
「いや、いくか」
宴もたけなわ、周りは楽しげな声と顔で溢れている。久しぶりの空気だった。平和だからこその、饗宴だ。
会場を出ていく時一度振り返りその喧騒を見つめ、戻って来れて良かったと、心からそう思った。
「ふう、やっぱり広いな、ここは」
一人では確実に迷ったという感想は言葉にはせず、きれいに準備されている子供用のベッドのヘッドライトの明かりをつけた。ふんわかと灯された照明は天井のものとは違いどこか郷愁的な暖かさがあった。
「ヒーロー、すごく嬉しそうだった」
「ん? ああ、そうだな」
嬉しそうな声でそう言われ、青年から息子を受け取りながらベッドに潜り込ませる腕がそのまま柔らかな髪を撫でる。ずっと、きっとこの子供は我慢をしていたのだろう。失った命を探すことに奔走して。あるいは、断つことを強要された命の重みに耐えながら。
そのどちらもが自分が原因なのだから、居たたまれない。こんな小さな愛しい我が子に、重すぎる枷ばかり与えた。
時折考えてしまう。自分のような身勝手な大人ではなく、もっと素晴らしい誰かが彼を見つけ育てたなら、もっと幸せだったのではないか、と。
「タイガーも嬉しい」
「そうだな、こんなパーティーは久しぶりだっただろ?」
ニコニコと幼子と同じ顔でそういう青年に微笑ましそうに声を返せば不思議そうに首を傾げられた。
「違うぞ、パーパ」
「へ? なにがだ?」
「ヒーローが嬉しいのも、タイガーが嬉しいのも違う」
目を瞬かせながら、年の割には幼さを残す彼の単語的な話し声が部屋に響く。
健やかな子供の寝息。大事なものを包むように、その小さな短い指先が父の指先を探して迷い、ぬくもりを見つけたと抱きしめた。
見つめるその幸せな光景に、青年の笑みが深まる。
大好きな二人が、一緒にいる。
なんて、幸せなことだろうか。
「ヒーローもタイガーも、パーパが一緒にいるのが、嬉しい。それが一番」
目の前に二人が一緒にいて、腕を伸ばせば触れることのできる彼が、そこにいる。
それはなんと、嬉しいことだろう。
「ずっと、それだけ、欲しかった」
他のどんな幸いよりも、彼一人が欲しかった。それ以外はいらないのだと。そう、思ってしまうほど。
息を飲み、そう囁く青年を見返せば……深い、その瞳。幼くて、息子同様守ろうと思うその人は、けれど自分と同じようにやはり守るために生きようと、そう思う人種なのだと思い出す。
目蓋を落とす。ヘッドライトだけが灯された、静かで厳かな室内。指先には幼い子供のわずかに高い体温が絡まっている、ただ当たり前であるが故に満たし胸を締め付ける光景。
そうして開かれた瞳には、鮮やかな金と黒の斑髪。
その髪越しにちらちらと窓の外に静かに降る雪が、見える。
「ずっと待ってた。だから、今日が嬉しい」
満面の笑みで彼はいう。嬉しいのだと、臆面もなくそう伝えてくれる、幼いけれど確かな音。
静かに降りゆく外の雪のように、そうして降った音たちは確かに積もり、この胸を満たしていく。
不器用に小さく笑みをこぼし、感謝の言葉を伝えようと開いた唇は、けれど思いが深すぎて、言葉にならない。
泣きそうなほど満たされた胸の内、呼気を落とすようにやんわりと笑んだなら、掠めるようにぬくもりが呼気を攫う。
「また来年も、三人だといいな、パーパ」
子猫がじゃれるように間近なその頬をなめとり、嬉しく弾む音がやんわりと身を包んだ。
指先には、幼い子供のあたたかなぬくもり。
この身には、傍にいたいとすり寄る虎の体温。
大切な大切な家族の、かけがえのない暖かさを噛み締めて、頷く。
どうぞ、来年も一緒でありますように。
誰一人欠けることなく、幸せに笑っていますように。
雪よりもあたたかに積もる胸の中の音を、
愛しく抱きしめ、そう、祈った。
キリリク31565HIT、ヒーローリクで「虎パーで冬に関するもの」でした~。
私の書く虎パーって、見事なくらいに熟年夫婦ね。子供がいることはネックではなく幸せなこと、みたいになっているわよ。
そんな二人(というよりはむしろ3人)が大好きです。
鳥はいつも当てられ役で!(笑顔)
この小説はキリリクを下さったカメ吉さんに捧げます。