目の端に映る、淡い金の髪。
クルクル変わる表情。
……子供そのままの蟲人界ナンバーワンは、なんの穢れも知らないまま……心のままに行動する。
その危うさを危惧しながらも、どうしても引き止める事も叱りつける事も出来ず、結局その尻拭いに付き合う。
――――いつの間にやら、自分はすっかりイイお兄さんになっていた。





まわる ひとみ



 空の透き通った中を、一匹の龍が飛んでいた。
  ……それを見て取って、子供のような明るい声が元気よく響く。
 「リュウさーん!どこ行くんスか〜?」
 両手の鎌を大きく振りながら、虫の姿の少年は巨大な龍の目の前に突然現れた。
 気付かなかった龍は慌てて止まる。……そのまま進んでいたら肉体的な差異で虫は轢かれて地に落ちていただろう。
 それに気づかず、少年は笑って返事を待っている。
 苦笑した龍は、ちらりと視線を下に向け、降りるように指示する。
 それを言葉とされる前に理解した少年は龍を待つ事なく下へと降りた。
 一所に留まらない少年にまた苦笑を零し、龍もまた地面へと降りた。
 龍が地に着く頃、すでに降り立った少年は軽い爆発音を立てて虫の姿から人のそれへと変わっていた。
 ……それでもその背には虫の名残りであるカマキリの羽が残っていたけれど。
 大きな目が早く姿を変えろと催促している事を知り、龍もまた人型へとその姿を変えた。
 「うん、やっぱそっちの方がいいっスね♪」
 「あん?」
 突然楽しそうに呟いた少年の言葉の意味が掴めず、男は顔を顰めて疑問を示す。
 それを知り、突っ込まれるとは思わなかったと少年の頬が少し赤らむ。
 答えようとしないで視線を逸らしている少年の首に腕を廻し、リュウは力を加減しながらその腕で首を絞める。
 その行動を予想は出来ても防げない少年は慌てて腕を剥がそうともがきながら大声をあげる。
 「ちょっ……!リュウさん、苦しいっス!やめて下さいよ!」
 本当に意識を失うほどの締め付けでなくとも、それなりに力は込められている。
  逆に一瞬で落とされない分苦しい気もする………。
 それをよく判りながらもリュウはにやにやと笑って少年の首から手を放さない。
 「そーだなー。放して欲しかったらなにがイイのかちゃーんと答えなさい、キリーくんv」
 「…………………」
 リュウの言葉に、キリーのばたつきが止まる。その反応を奇妙に思って男は少年を覗き見た。
 ………その顔は真っ赤だ。
 金の髪さえ邪魔出来ないほど鮮やかに、キリーの顔は朱に染まっている。
 それに驚いたのも一瞬の事で、男は口元に意地悪気な笑みを見せる。
 少年の鼻を摘み、リュウはからかう声音を隠しもしないで呟く。
 「おーおー真っ赤に茹でられたなー、キリーくん。カマキリの佃煮なんてーの、あったかね?」
 「誰がっスか!!」
 摘まれた鼻が痛いのか、キリーは少し涙目だ。からかい過ぎたかと面白そうな顔の下で思い、リュウはキリーを押さえ付けていた手を放してやる。
 息を整えながらもキリーの目は少し恨めしそうにリュウを見ていた。
 それを笑って受け止めながら、男は少年の髪を力一杯かき混ぜた。
 その手に心地よさを覚えはしたが、少年は年長者である男の子供扱いに唇を尖らせた。
 「………ガキ扱いはしない約束っスよ?」
 同じナンバーワン同士なのだ。年の若い自分が下っ端である事は認めるが、だからといって子供扱いや除け者は許せない。
 ……それはもう、就任の日に宣言したキリーの譲れないプライドだ。
 その目の強い輝きに、リュウの口元が綻ぶ。
 幾多の敵を倒したとしても、この目の輝きは褪せない。
 幼さ故の愚かしい輝きは、それでも年経たものには微笑ましいほど美しい。
 ポンとその頭を叩き、リュウはキリーの顔を覗き見た。
 口元にいつもの力強い男の笑みを乗せながら………
 「悪かったな」
 たった一言の、それでも心のこもった詫び。
 リュウのこうした何気ない気遣いを少年は出会ってすぐに気付いた。
 多くを語ろうとしないその背ばかりを追い掛けていたから……
 「………ずるいっス……」
 ぽつりと、少年が男に返す。
 睨むような視線は、それでも赤らめた頬のせいで迫力がない。
 面白そうな男の目の輝きを知りながらも、結局は思い通りの言葉を口にしてしまう。
 ……適わない男を、それでもどうしようもなく思っているのだから、大概自分も重症だと心の内で苦笑しながら…………
 まっすぐに見つめた先には独眼の男。
 深い包容力を秘めた優しい戦士の目………
 「俺がリュウさんのそーゆー顔好きだって知ってて、やってないっスか……?」
 ふて腐れた言葉に、その目は破顔する。
 どうしようもなく思っている。……それはきっと男も同じで。
 落ちてくる優しい唇を受け止めながら、本当にバカだよなと、二人心の中で呟くのだった……………








書けるか判らないといいつつスラスラ書いてしまった龍蟲です。
この直前に龍パー書きました。……なにか因縁でもあるのか(笑)
やはりヒーローサイドの人は書き易いですね。ナンバーワンたち好きですv
もうちょっと長い話の筈だったのですが、無意味に続いてしまう予感がしたので余韻の残るところで終了しました。
この二人がもうちょっと私の中で煮詰まったらこの先書くかもしれませんが……今のところ予定無しです。スイマセン……

私自身この二人の話というものを読んだ事無いので世間一般でどのような二人が出回っているかなぞなのですが、……いかがでしょうか?
ほんわかした二人なので、なんかほのぼの出来てよかったです。
このところシリアス(しかもなんか暗い……)ばっかだったのでちょうどいい息抜きでしたv

この作品はキリリクを下さったかな様に捧げますv