――――それは眩い輝きを秘めたもの。
背にある翼さえ不必要なほど、その子供は強い光を持っていた。
……けれどそれを陰らす哀しみに、自分は彼方の空から憂いていた。
大人となった子供を救う赤子を、この空の上で自分は見つめていた………
優しく脆いその大人を癒してくれと祈るように……
翼ある者
英雄たち全員がこの天上界に修行に来てからというもの、騒がしい事この上ない。
誰かが必ず叫んでいる。そんな状況だ。
……そんな中フォローをしては黙々と強さを身につけようとする男を、興味深く自分は見つめていた。
血の欠片も繋がらない、空から降って来た光る赤子。……気味の悪いそんな者を、それでも男は受け入れた。
深すぎる哀しみと傷に溺れ、何も見えなくなった目を開き、その心の輝きをより一層引き立たせて………
見つめていた輝きは自分が思う以上に美しく成長していた。
どれほど生きていこうとも、こうした人の真直ぐな魂が自分は好きなのだと自覚するほどに。
けれど、それでも度を越す努力はいけない。
ミカエルを相手に連日休みなく戦っていた男が、ふいにその力を無くしたように動きをとめる。
………否。崩れ落ちたのだ。
「シンタロー!?」
鳥人の声が響き、他の英雄たちもなにが起こったのかと視線を向けた。
………倒れたシンタローにその姿を模したミカエルが風を集めて止めを刺そうとしていた。
「あぶね…………!!」
それに逸早く気付いた鳥人は自分の姿をした敵を薙ぎ払ってその元に駆け付けようとする。
獣人もまた、それに続く。しかし二人の手が届くより早く、風がシンタローの身体を引き裂く事が判り、他の英雄たちが息を飲む。
………風の襲来が、二人の目の前であった。
すうっと、血の気の下がる思いで二人は土煙りの中、男を探す。
「シンタロー!?返事をしろ!」
「パーパ……!」
その声さえ震えている。
確実な絶望。届かなかったこの腕。
歯を食いしばり、二人は震える腕を押さえ付ける。
風にのって霧散する煙りを見送りながら、二人が目にしたのは………
「……ったく、無茶しやがる…」
シンタローをその背に庇い、ミカエルを捕まえている男…元はガマ仙人であるケエルだった。
マントを翻し、足下でまだのびている男を見、呆れたようにため息を吐く。
無事なシンタローの姿を認め、二人は駆け寄る。それに続くように他の英雄たちもつめていた息を吐き出して駆けて来た。
「なんだー!?こいつ、熱あるじゃねーかっ!」
「バード、落ち着け……」
殴りつけかねない勢いで抱きかかえたシンタローに叫ぶバードに、虎は押し止めながら小さい声をかける。
小さく舌打ちをし、バードは駆け付けた花人に目を向ける。
「サクラ、お前解熱の薬草あるか?」
突然話題をふられたサクラはきょとんとした顔を向ける。……次いで口元に意地悪気な笑みを浮かべた。
「えー、あるけど〜?サクラ新しい服欲しいなー?」
「テメー……、昨日シンタローに気に入りの指輪落としたっていって、池に丸一日つけておきながら……」
「ガウ……」
「……あー、そういや、こいつだけ律儀に探してたなー」
花人の我が侭を聞く暇などなくて、聞き流した記憶がある。
それはいつもならシンタローもなのだが……
「こいつが人の形見なんて嘘でも言われて見捨てれる訳ねーだろ!」
頑として言葉を聞き付けない、昨日の男を思い出す。
暖かな食事さえ、冷えきってから食べていたのだ。今までの無理も祟って、一気に身体に負担がかかったのだろう。
責める真剣な視線に、花人が一瞬身じろぐ。
「…わ、判ったよ!ったく、ほら退けよ!」
乱暴な手付きでバードを退かしながらも、サクラの手は柔らかくシンタローを支えている。
不器用な優しさしか見せられないサクラは、たとえ心配していてもそれを口にはしない。
……それでも時折こぼれるそれに、大人は苦笑する。
しかし薬草を取り出し、その口に押し込もうとしたサクラの手を、突然掴む腕があった。
「………なんだよ、ガマ!」
腕の持ち主は未だ人の姿をしたケエルだった。
睨みつけるサクラの視線を飄々と躱し、ケエルはその手の中の薬草は取り上げた。
「あ…………!」
「なにしてんだ、テメー!」
取り上げた薬草を遠くに投げてしまったケエルにバードが批難の声をあげる。
せっかくへそも曲げずに珍しくサクラが言う事を聞いたのだ。
それを邪魔するなど、ケエルであっても納得がいかない。……まして、倒れた男の呼吸は苦し気で、早く楽にさせてやりたいというのに……
「あ〜ほ!」
「ああ!?」
ケエルはシンタローを抱え上げながらバードだけでなく、他の英雄にも聞かせるようにいった。
「こいつが薬草で治ったらまた無茶しやがる。……ぶっ倒れたなら都合がいい。ベットに括りつけときゃ、いやでも休む!」
心配した声音は、ケエルも同じだ。
……人の為、わが子の為。
この男はあまりにも自分に無頓着になる。
もっとしっかり周りを見ろと、何度殴りたくなったか……
これほどに思われていても、この身体を傷つける事を美徳とする。それは愚かしいほど尊いのだけれど……。
この子供を、自分は生まれた時から見ていた。天界にいる友人の末弟を預けるに足る者か見張っていた。
けれどいつしか、そんな事を口実にそのものを見る事を喜んでいた。
こちらが望む以上にそれは鮮やかな魂を開花させていった。
愛しむ自分の心を止める術など、仙人と囁かれるようになってもケエルには見つける事は出来なかった………
抱え上げた身体はがっしりとした戦士のもの。
………それでもこれは自分達から見れば硝子よりも脆い。
荒い息を吐く口も、力なく垂れ下がる腕も、この声を聞き届けない耳も………
閉じられたその瞳にさえ神経が向けられる。……思った以上の重症さに苦笑しながら、ケエルは振り返らずに後ろで黙り込んでいる男たちにいった。
「お前らもほどほどにしろ。ぶっ倒れてももう運んでやらねーからな」
言葉もなくこの背に担がれる男を見つめる英雄たち。
自身の価値を顧みないからこその信頼と心配。
それを知り、ケエルの口元に笑みが灯る。まるで自身の事のように誇らしい。
この男は自分が見つけた光。
………この世界を左右する、重要なる鍵。
男たちの視線が無くなるとケエルは担いでいた身体を下ろし、愛し気に抱き締めた。
開かれる事のない瞳。この自分を初めて知ったという、驚いた顔。
当然の事実に傷ついた。それに純粋に驚いて……喜んだ。
この魂は嗄れてはいない。
人を思う情を未だ持っていた。
苦し気な吐息を微かに盗み、ケエルはその唇に息を吹き掛ける。
……楽になった呼吸を見て取りながら、再びその身体を抱き上げた。
すぐ近くにある部屋の一室を開け、簡易のベッドに横にすれば、男は微睡むような顔で寝返りをうつ。
なにも知らない男は幼子のようにやわらかな寝顔を晒している。
男に未だ教える事の出来ない大きな秘密を……ケエルは持っている。
それに心苦しさは伴わない。
………この男は全てを受け入れる事のできる魂を持っている。
この口からどんな言葉が紡がれようと、男は必ず立ち上がれる。
見つめてきたケエルは、シンタローの事を誰よりも正しく認識していた。
――――この先に起こるだろう哀しみも怒りも、その全てを昇華して強くあれ。
この手で抱き締める事の叶わなかった、かつて傷付き閉ざされた魂。
それを乗り越えて花開いた、この絶対的な眩さ。
自分の目に狂いはなかったと密かに思い、ケエルは眠るシンタローの顔を覗き込む。
触れる唇は柔らかく、微かに高いその熱をケエルの心に伝えた………
キリリク1230ケエル×パーパです。
いやーまともに出来てよかった……
しかしこれといい白龍といい、シンタロー知らないうちにキスされてます。気付けよ自由人……
ケエル好きですv
だからちょっとこのキリリク嬉しかったりしてます♪
カップリングとしては難しい人だったけど、健全でならかなり楽しそうv
……誰か書かないかな〜(他力本願)
この作品はキリリクを下さった霧夜様に捧げます♪