傍にいるのが心地いい。
そう思ったのはいつからだろうか………?
誰かに頼るような性格ではないし、ひとり生きられることをこそ願ってやまなかった自分なのに。
それでも彼の傍にいることは安らげて……自然甘えている気がしてならないのだ。
見上げてみれば不意に絡む視線。
……………自分では到底汲み取れるわけのない深い思慮とどこか億劫そうな悲哀を溶かした独眼が苦笑する。
囁ける筈もなくて噤む唇。
時折戯れるように熱が降り注ぐ。
何故だろうか。
………そんな真似許せる筈もないのに。
潔癖な自分が笑って受け流せるわけがないのに。
眇められた視線の先、切なく笑み姿が気になるのか。
開きかけた唇をどこか戯けて再び閉じる仕草が気になるのか。
二人きりの時…どこか困ったように居心地悪く逸らす視線が気になるのか……………
それともそんなこと何一つ関係はないのだろうか。
ただその瞳を覗き込み、笑めば安堵の溜め息が降ることを知っているから。
寄り添うように背を溶かせば震える気配を知っているから。
溶けた熱の先、泣くように顔を歪ませるその背を抱き締めれば溶けれる緊張を知っているから…………
たったそれだけで……いい。
ただ心地いいのだ彼の傍は……………………
零れ落ちた珠玉
見上げた空は馬鹿みたいに晴れ渡っている。
紺碧よりもなお深い宵闇の瞳が溶ける色を微笑むように瞬きながら頬に風を受け止める。
………本当によく晴れていたのだ。
これほどさっぱりとした風と陽射しはジャングル内では珍しい。
だからこそこんな日は息子とともに空の散歩をするのが男のいままでの日課だった。
……………が、それもほんの1年ほど前までのこと。
男はあらためて自分の現状を省みて深い溜め息を落とした。
目の前にいるのはいつも通りの幼馴染みが二人。
ひどく見目麗しく映る二つの影はあまりに見知った人物たちで。当然のごとく自分のいく先に何故か立ちはだかるのだ。
片方は明らかなからかいとほんの少しの焦燥を込めて。
………もう片方はその腕から自分を守ろうとして。
日の光を吸い込んだ美しい黄金が風に揺れて紫水晶を煌めかせるように包む。………彼の前、自分を庇うように立ちはだかる青年の背にのせられた空よりもなお深く清らなる青が憤りに震えるようにバサリと音を立てて羽撃く。
眺めていても飽きない二人の容貌だが……あまりに剣呑とした気配にのんきに鑑賞などしている暇がないことを知らされる。
軽く息を落とし、男は辺りに顔を廻らせる。……特に気配もなく、多少騒いだとしても被害を被るものはいないだろうことを確認すると己の背に意識を集中させる。
―――――――――バサリ………………
微かな風音とともに男の背に何かがうまれる。
振り返った青年の孔雀石の瞳の中、研摩された黒曜石のように艶やかな透き通る羽が写し出された。
風に愛しまれるように男の長い漆黒の髪が揺れ……羽撃く羽に薙いだ。息を飲む音が背後で聞こえる。
対峙した金の髪の男さえも飲み込まれていることに気づき魅入られたように動けないなか微かに青年は安堵した。
いま男がこの光景を破壊しようと腕を伸ばしても…自分が動ける自信がなかったから…………
凍り付いた彫刻に変わった二人に笑みを残し、男は微かに羽を揺らして……風を造り出す。
軽く蹴った地面さえもまるで綿であったかのように音もなく男は宙へと吸い込まれた。それを追うように……慕うように風が動く。
…………突風が空へと舞い上がった。
金の髪がそれに巻き込まれるように乱雑に揺れ、吹き上げられた土煙に顔を顰めると腕で防御した。
それは勿論青年も同じで………風に抗うようにその背の羽根を広げようとして、それでも圧倒的な自然の威光にかなわずに閉じ込める。
遥か彼方から降るように……男の声が落ちてきた。
やわらかく……どこか子供を窘める響きを滲ませた慈父の声音が………………
「ったく…ちょっとは頭冷やしてな。夕方になったら家に戻るから」
それまでは出かけることを示唆し、男は一瞬で二人の前から姿を消す。
………もちろん物理的に消えたわけではない。ただ……その気配が追い掛けることを拒み晒すことなく掻き消えた。
一瞬の沈黙が二人の間を流れた。
互いに空を飛ぶことが叶う身で……追い掛けようとしたなら追いつけないほど飛行能力の違いがあるわけでもなかった。
それでも互いに動き出せない。
……………不愉快げに眉を顰め、金の髪は青年から視線を剥がすとおもちゃに飽きた子供のように振り返りもせずに森の中へと歩を進めた。
その少し寂しげな背を眺めながら、互いに追い掛けることも出来ない事実に青年が苦笑を零す。
牽制しあい、互いに彼に腕を伸ばして………けれど彼は自分達のどちらにも腕を返しはしない。
はぐらかすわけでも無視しているわけでもなく、彼にはもう伸ばす腕の先に人が待っている。
わかっていてそれでも諦めきれずに足掻くのだからお互い不毛なことこの上ない。
……それでもあの笑みは消えることなく与えられるから………………………
不様な悪足掻きをいまもつい晒してしまう。
静かに見上げた空の先、もうあの闇夜にも鮮やかな漆黒は揺れてはいない。
落とした視線の先………金の髪も存在はしない。
ただぽつりと青い羽根がたたずむ。
…………自分とは質の違う羽を背にいただく彼を求めて紡がれる吐息の先にあるのは決して手に入れることのできない幻影。
困ったように笑んで焦がれる視線から逃げられなくて……それでも毅然とそこにいる奇蹟のような彼の……………――――――――――
零れ落ちたのが吐息なのか雫だったのか………判るわけもないけれど…………………
羽撃いた羽がゆっくりと降下を始める。
………別段目的があったわけではなかったけれど…自然羽はここに赴いていた。
小振りのブナの樹。それでも青々とした葉は驚くほど広い傘をさして陽射しを遮り涼やかな木陰を作る。
間近になったその樹の麓に降り立ち、男は羽を身の内にしまい込むとブナの樹の根元に視線を向けた。微かな深緑の髪が風に揺らめいて誰かいることを男に知らせる。
小さく笑み、思った通りそこに寝転がっている彼を驚かせるように気配を消して近付き顔を覗かせる。
…………が思ったような反応はなく、覗かせた顔の下…まっすぐに向けられた独眼がからかうような色合いを浮かべながら戯けた笑みを唇にのせていた。
それを見つめて逆にきょとんと驚いた男は、次いでふて腐れるように顔を顰めた。
「………気づいていたなら声かけろよ、リュウ」
子供の癇癪のような言い方で囁く言葉に独眼が眇められる。
隣に座った男にあわせるように上半身を起こし、そっぽをむいた黒髪を引き寄せるように指先に絡めてからかう声を落とす。
「気配消してたのはお前だろ?」
男の言葉に間違いはないけれど…自分の意図も気づいてその上でああされては自分の立つ瀬がない。
無骨な指先が己の髪を軽く引き、こちらを向くようにと示唆するけれど面白くなくて男は無視したまま遠くの緑を見つめた。
…………どこまでも深い樹海。この漆黒の髪を絡めとる指を持つ彼の身に纏われた色。
視線を逸らしても結局はそれが浮かび、なんとなく悔しくて男はそれを閉ざすように瞼を落とした。
濃い影を顔に染めた男の面差しを眺め、独眼は微かに苦笑する。
…………わかっていてやっているのか…知らず誘っているのか。
どっちつかずな意識にこぼれる苦笑は数知れない。
それでも晒される無防備さを誇って一体なにが悪いのだろうか……………?
髪から指を解き、無骨な腕が漆黒の髪を包むように寄せられ……逸らしていた筈の顔容を向けさせる。
驚いたように開かれた宵闇の瞳の中、どこか寂寞を抱えた瞳が映る。
……………溶かされた吐息に再び閉じてしまった瞳はただ悲しげなその顔を思う。
自分がなにを願っているか判りもしない。
ただ知っている。
このどこまでも雄々しい男の背が寂しげに見えることを悲しんでいる。
だから……包む。
……………寂しいと泣かないで欲しいと願うように…………………
吐息の底に潜む思いに気づいてと囁く唇をいまだ知らないけれど…………………
キリリク35000HIT、パーパ争奪戦で勝者はアラシかリュウで、でした〜v
久し振りにリュウ書きましたv 考えてみるといつも出しはしても楽しいこと好きな人という感じのおふざけさんでしたね………
まともに相手役として書いたのかなり久し振り…………(汗)
もう1つ返礼で書きたい話ではアラシが出てくるので今回はリュウに相手をお願いしてみました。
………気のせいか…パーパの方が懸想中……………?(オイ)
まあそんなこともたまには……きっと………(汗)
今回はギャグではなくシリアス書きたかったのであまり人出してないです。
シリアスでヒーローは出せないし、タイガー出したらくっつけたくなるし(オイ)クラーケン出るとリュウいいお兄ちゃんになっちゃうし…………
苦肉の策であの二人に争っていただきました。
…………でも二人ともパーパがリュウのこと…ってわかっていたり(遠い目)
なんかとっても報われない役所でした………
この小説はキリリクをくださったまゆらさんに捧げますv
諦めて受け取って下さいv