―――――――――はああぁぁぁぁ………………………
思わずもれた溜息は地を這うほど深かった。それはきっと俺と同じ立場になったら誰もが身をもって知るだろうと思うけど。
なんだって俺はこんな所にいなきゃならないんだ?
どこかって………ここは森の中。俺は家で待ってるヒーロー達の為に果物取りに来ただけなんだよな。
だけどあんまりにも気持ちいい風に眠気を誘われて、ちょびっとだけ昼寝をしていたわけだ。
そして起きてみればこの状況。
「なんでテメーがここに来てんだよ!海人界に帰れ!!」
「テメーこそ鳥人界のナンバーワンがいつまでも人間界にいるんじゃねぇよっ」
バードとアラシが何故か俺を挟んでずっとなんか言い合ってる。……なんなんだ。
でもどっちの言い分もあってるな。なんでこいつらいつまでも人間界にいるんだ?
まあ退屈しなくていいけど。……でもアラシ…ほぼ毎日海人界から来てんだよな?スゲェ体力だな………
って違う。そんな事はどうでもいいんだった。
まずはとりあえず……この状況から脱出しねぇとな。
互いを睨んだまま一歩も引かない二人を眺めて俺はこっそり腰を浮かせてあとずさる。
背を向けた瞬間、ガシッとなにかを掴まれる感触が走る。痛くない……という事は髪の先を掴まれた?
顔を引きつらせつつ振り返れば……ジトッと俺を見る二人の視線。
………な、なんだよ。俺は早く家に帰りたいんだよ!昔っから仲悪いお前たちの仲裁してる暇ないの!
「……なんか用か?」
とりあえず俺は二人に小さく声を掛ける。………物凄ーく不自然だけど!
ああ、視線が痛い!! お前らなんでここにいるんだよ〜!!
泣きたい気分でそんな事を恨む俺の髪を掴んでいたアラシがニッと笑った。
………………物凄いいやな予感。
こいつがこういう顔する時は俺にとって嬉しくない時。
さっと顔を青ざめるが……もう遅い。
ぐいっと引かれた髪に悲鳴をあげる暇なんざあるわけもない。無駄と判っていても手足が無意識にばたついて抵抗を示す。
…………それで止めてくれる奴だったらよかったな……
力任せに引き寄せられたせいで頭皮が痛みを訴えてるけど……そんな事構っている暇はない。ついていけなかった髪が何本か抜けた。
それが風に乗るより早く……俺の頬になにかあったかい物が触れた。
………なんだ、ぶよぶよとして気味の悪い…………
それを見極めようと振り返った俺の視線の中には至近距離で口元だけを笑みに象ったアラシの顔がアップで映る。
なんでお前そんな傍にいるんだよ。……ん、バード、なに固まってんだ。あーあ、真っ白になって………
待て……よ?俺はいま頬になんか当たって、それがなにか見ようとして振り返ったわけだ。で、そこにあったのはアラシのドアップの顔で?こっち見て固まってるバードがいて……………
……………………………………………………………
なにか?俺はこの男にキスされたわけか??
一体なに考えてんだこいつ…………
深く息を吐き出して俺は改めてアラシを見た。
目が合うとにっこり邪気なく笑われる。……久し振りに見たな、無邪気なこいつって。何年ぶりだ?
思わずぽかーんと魅入っていた俺の視界に影がかかった。
………………………忘れていた。こいつは俺に対して嫌がらせをするためならどんな事も厭わない馬鹿だった。
塞がれた口で文句をいおうと腕を突っ張りつつ口を開く。………なんでこいつはこうバカ力なんだ?俺もかなりあるはずなのにほどけねえ!!
しかもまだ髪掴まれたままだから下手に動くと俺の方が痛い。こいつ、こういう事ばっかり頭周りやがる………
「…………………んんっ!?」
唐突に深くなったそれに思わず終わるのを待とうかなーとか考えていた悠長さが吹き飛んだ。
もがきにもがいて、暴れるに暴れて。人のこと抱き締めてる腕に思いっきり爪立ててやってもアラシの腕は緩まりゃしない。
離せー!!苦しい気持ち悪いこそばゆい息も出来ねーだろうが!!!
一気に思い付く限りの文句を考えても……まあしゃべれないんだから無駄なんだが。
埒も開かないと思い、噛み切らない程度に舌を噛んでやろうかと犬歯を確認した瞬間、強い力で腕を引っ張られた。
……これもかなり痛い。
容赦なく引っ張られれば……普通肩抜けるんだよバード…………
って聞いちゃいねぇな。まあ俺もいう余裕ないけど。
肩で息をしながら必死になって酸素を取り込んでいる俺の背中をバードがさすってくれる。サンキュー……本気で苦しかったから助かったぜ。
あのバカ……なに考えてんだか。普通男にするか?嫌がらせも手段は選べってのによ。
そう思って文句をいおうとした俺の目の前をなにかが掠めた。
………………ちょっと待て。
いま俺の目にはバードの羽根に見えたぞ!?あいつの羽根って……確か武器代わりだろうが!!
本気の攻撃に大慌てで俺はアラシの安否を確認する。
………さすが。余裕の笑みで受け止めてやがる。これはこれでなんかむかつくけど。
ジト目でそれを見ていたら、またバードが俺の腕を引いて自分の背に俺を庇うみたいに押しやる。
おーいバード………俺これでも人間界ナンバーワンの自由人なんですけど?
人に庇われるほど落ちちゃいないって………
ちょこっと顔を覗いてみると………オイ。目が座ってるんだけど!?
完全に頭に血が上ってるよこいつ。慌てて俺はバードの背を叩いてこちらを見るように促す。
一体なんなんだよ……こいつら…………
「バード……なにお前が怒ってるんだよ」
呆れたように冷静になれといおうとすると………またなにかが口に触れた。
………………………………………………バード?
ヒクリと思わず顔が引きつってもきっと俺は悪くない。
触れたのは勿論バードの口で。結局この男もさっきのアラシと同じ真似をしたのだ。
開けた口も塞がらない状態の俺を囲んで、また二人がなにか言い合いを始めた。
「イイ度胸じゃねぇか鳥。俺のモンに手ぇ出すなんてよ」
どんより雲背負ってい大嘘言うなアラシ。
「けっ!テメェになんざやらねえよっ」
ちょっと論点ずれてるぞバード。
熱くなる二人を見ながら一人冷静な俺はこの二人に関わるとロクな事は起きないと結論付ける。
…………実際最悪な事しか起きてないし。
今度は気付かれないように気配を殺し、背を向けずに後ろ向きのまま静かに距離をとる。
お、いい感じ! この調子この調子!
いい具合に離れて来れた俺は機嫌よく地面を蹴って空に飛ぼうとする……と。
……………ガシッ!!
足掴まれた。
お前らは船幽霊か!? 目がイッてるぞ!?
思わずそんな二人を固まった空々しい笑顔で迎えてしまう俺に罪はないと言って欲しい………
俺は両腕掴まれたまま、またなにかわけ判らんトークに巻き込まれた。
……昼寝はこれからは家でしよう。それかヒーローかタイガー連れてに………
「このガキ!!テメエ7つの時にお化けがいるって泣いて寝ションベンしてたくせに!」
「そういうテメエだって9つの修行中にシンタローの後追い掛けて途中で見失って山で遭難してただろうが、この方向音痴!」
心の中でだけ思いっきり溜息を吐いて、さっさとこの二人が飽きて止めるのを待つが……さすが腐っても幼馴染み(?)だな。よくそれだけ過去の恥を知ってるな………
ん?こいつらはほとんど面識ないんだっけか。
なんでそんなに知ってるんだ?
「けっ!俺はテメーと違ってシンちゃんと同い年だから修行も一緒だったんだよ。だから身体の隅々まで知ってるぜ?」
………って俺のことまで引き合いに出すな!! つうかなんだそれは!!
「俺だってシンタローの幼馴染みだぜ。お前と違って家族ぐるみの付き合いなんだよ!」
バード、それ全然関係ない。っていうよりアラシの言葉に突っ込み入れろよ………
ガンガンと先程までとは比べ物にならない頭痛に目眩してきたぜ………
「お前ら!!いい加減にしろ!」
大声で俺が怒鳴ると、二人はびくりと身体を震わせて固まる。
………最初っからこうしていればよかったぜ。
ってアラシ……その含み笑いはなんだ? ゾクリと背筋に悪寒が走るんですが?
「そーか……考えてみればそうすりゃよかったんだ」
お前は何も考えるな。絶対に物騒だから! 思わずアラシの呟きを聞いた瞬間俺は真剣にそう思ってしまった………
ガシッと……また俺の腕を掴む。今度はバードじゃなくてアラシだった。思いっきり警戒している俺に、さっきと同じ優しそうな幼い笑顔。
…………はっ! また絆(ほだ)される所だった!
が、どうやら遅かったらしい。
腕を掴んだアラシはそのまま地面を蹴って空に浮かぶ。
なんだぁ!? なにする気だこのバカ!?
慌てた俺の視界には同じく慌てて追い掛けてくるバードが映る。
なんでもいいからどうにかこの状況を壊してくれと思わず祈ってしまう…………
………なんとなく…よけいに悪くなる気もするけど。
そんな俺の思考を凍らせるアラシの呟き。
「人王に嫁の承諾もらやぁ、あのガキも手出し出来ねぇもんな」
………………………………………………………………は?
よ、嫁??
いまそう言ったか? ………言ったよな!?
ちょっと待て! 親父にそんな事言う気か!? 本気で止めろ!!
親父が卒倒するだろうが!
暴れ始めた俺を気にもしないでアラシは一路俺の実家でもある人王の城を目指す。
ええい!! こうなったらもう頼みの綱はバードしか………!
………オイ。なに鏡見ておめかししてんだよ。なんだその手土産は。どこから出したんだ!?
プロポーズの言葉なんぞ考えんでいいからさっさと帰れ!!!
親父に会う前にどうにかこの二人を殴って馬鹿な真似を阻止しなくてはと俺は心に誓う。
あと城までほんの少し。
それまでは大人しくしていてやるから………覚えてろよ二人とも!!
キリリク10000HIT、バードVSアラシ。二人がシンタローを取り合った末に人王に息子をくれと申し込む二人です!
ネタ提供して下さったのでギャグ書けました。
いや……本当にネタないと書けないです、ギャグ(遠い目)
ちなみにタイトルの続きにパーパの答え『どっちもごめんだ!』が入ったりします。
相変わらず災難しか続かない人です、パーパ。
しかもギャグの時は完璧ノーマルだし(遠い目)
大丈夫、この人たちの中で一番強いのはキミだからv なんとかなる!
この小説はキリリクを下さったぢょ様に捧げます!
10000HITの申告頂けて嬉しかったですv
ありがとうございましたv(そしてこれでキリリクだけでめでたく110本目です/遠い目)