何故か酷く息苦しかった。まるで首でも閉められてるみたいだ。……思わず俺は薄く目をあけてしまう。
……別に危険な気配もないし……のんびりに身体が慣れている近頃では寝起きはあまりよくならないんだが…それでもこの圧迫はきつい。
「…………………?」
あれ? おかしいな……確か俺の隣に寝ていた奴がいたような気が…………
違和感に俺ははっきり目を覚ます。………隣にいた筈のバードがいない?
そんでもって人の上で気持ち良さそうに寝ている虎はそのままなわけか。………どおりで息苦しかったわけだ。
ってちがう。えっと……? そうそう! バード!
おっかしいなー、あいつが何も言わないでどっかに行くとも思えないけど………
…………タイガーは知っているかな?……寝てたって言われそうだが…まあ聞いてみるか。
そろそろ起きる時間だしな。
「おーい、タイガー。そろそろ起きろ!飯とってこねーとな」
「………ガウ」
飯の言葉で鼻がひくつくとタイガーはぼんやりと目をあける。………おい、その大きく開かれた口はなにかな?
…………………カプ。
「ギャー!! なに寝ぼけとるッッ!!!」
冗談ごとでなくお前のキバは痛いんだからな!肉食獣に見えなくたってお前は立派な虎な筈だろうが!!
叫ぶと驚いたように虎のシッポが立った。………こいつやっと起きたな。
そして軽い爆発音のあとにそこに座っているのは困ったような顔をした好青年が伺うようにこちらを見ている。
………子供かお前は。口で『ごめんなさい』と言えないかな。
視線だけで訴えられても……俺は保父でないんだからさ…………
小さな溜息を吐き出して俺は怒られる事に怯えたまま腰の引けているタイガーに声をかける。全く世話の焼ける!
「ああもういいから。ったく、お前ね、もう少ししゃべりなさい」
「………ごめん」
声をかければなんとか返ってくる言葉。……まあこれがこいつの精一杯なんだから仕方ないんだけどさ。
さて。そんな毎朝の恒例行事は置いておくとして。早速俺は本題をタイガーに尋ねる。
「なあタイガー。バードの奴どこに行ったか知っているか?……って寝ていたからしらねぇよな」
「知ってる」
「やっぱそうだよな。ったく、あいつどこいったんだ?」
俺にもタイガーにも言わないで。……ん? 知ってる?
そう言ったか、タイガー?
思わず詰め寄る俺に、にっこりとタイガーが笑う。……こいつ時折妙に子供になるな。普段無表情な癖に。
「タイガー、最初バードの羽根枕にしてたから」
………なるほど、だからバードが動いたのに気づいたわけね。………って人を枕にするんんじゃないってのに……。そのあとは人の腹枕にしてたなこいつ………
「で、どこいくっていってた?」
「いってない」
「は?なにが?」
タイガーは単語しゃべりだから間違えて意味を掴む事もあるんだよな。注意して聞かないとぼけた結果よく掴むし…………
確認する俺にタイガーはぴっと指を立てて応える。
「バード、ヒーローに縄でぐるぐるにされて連れていかれたから。何も言ってない」
至極真面目な顔で言ったタイガーの言葉を俺の脳が理解するまでたっぷり30秒はかかっただろう。
その間にもう会話が終わったと思っているタイガーはまた虎の姿になってのんきに毛繕いなんぞしとるし!!
「……なんじゃそりゃああぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
やっとショックから立ち直った俺の口から出た大音響にタイガーが驚いて跳ね上がる。
………こんの馬鹿虎は……なに思いっきりのんびり悠長にしているかな。
「なんでヒーローがここにくるんだよ……!?」
いまヒーローは天上界で修行中だろ!? 天帝としてまた天上界を統べるのに必要な知識もあるからって…………
しかも!! なんでよりにもよって俺に会いにくるより先にバード連れ去っていってんだよ!
「こらタイガー!! 人形にならんか! 話が出来んわ!! ヒーローはいまどこだっ!!」
「た、タイガーもそれは知らない………」
「じゃあどっちの方向に行ってた!!」
すごい剣幕の俺になんか涙ぐんでるタイガーはなんとか東の方を指差していた。
………あっちって言う事は……ああ、広場があるか。
「ちょっと様子見に行ってくる!」
「タイガーも!ヒーロー会いに行く」
………だからヒーローに会いたいのは俺も同じだが……ヒーローがバード連れ去った事に疑問ないのかこいつ…………
のんきに明るい声のタイガーにこっそり溜息をはきつつ俺は羽根を出すと虎の足に追いつくよう低空飛行に繰り出した。
思いのほか二人はすぐに見つかった。………けどなんだこの光景は。
木の杭に捕まってるバード(鳥形)とバカでかい鍋に火をかけてスープを作ってるヒーロー………
これって……明らかにバードを食料に………??
「ヒーローお腹空いてるみたいだな」
「なんでそうなる!?」
こんの天然ボケ!! 腹減ってるからなんでわざわざ天上界から地上に来てバード捕まえて食うんだよ!
真面目なタイガーの顔を見ていると一気に疲れたぜ………。ああもう! 訳解んないなら特攻あるのみ!
どうせ息子と親友だ。喧嘩したならしたで、仲裁しなくてはいけないのは俺だろう。
……なんとなく関わりたくない予感に気づいちゃいたが、見過ごす事も出来ないので俺は森から出て、ヒーローに声をかけた。
「ヒーロー!久し振りだな」
………ちょっと引きつった顔も、ぱっと向けられた息子の笑顔に思わず緩む。
可愛いなーv わが子ながらなんてイイ子に育ったんだろうか…………
「パーパ! ヒーロー、パーパに会いたくて抜け出してきちゃったv でもヒーロー強くなったぞー!」
スープを掻き混ぜていたオタマまで投げ捨てて駆け寄ってくる子供の姿は全く別れた頃と変わっていない。
はあぁぁ……。ほんの数カ月だったけど、何年も会ってなかった気がするぜ。
思わず抱き着いてきたヒーローを抱えて抱き締めて久し振りの再会を満喫してしまった。……そんな俺の耳にタイガーの不思議そうな声が聞こえる。
「……バード、その格好寝づらくないのか?」
「寝てんじゃねぇよ! さっさと解かんかばか虎!!」
お約束のタイガーのボケにバードが唯一動かせる足で突っ込みを入れてる。………ああ、素直な感想言っただけなんだからそこまでせんでも…。泣いちゃってるじゃないか…………
って違う。俺も危うく目的を忘れる所だった。
抱えたままの息子の顔を覗き込み、困ったように笑って俺はヒーローに声をかける。
「ヒーロー。お前なにやってたんだ?」
「バードの調理だぞーv パーパに食べさせてあげるぞv」
………いや、親友の丸焼きを食べたいとも、煮込みスープを飲みたいとも思えないんだが………
なにからどう聞けばいいかわからなくなってきた俺は無邪気なわが子に問いかける。
「………なんでバードが材料なんだ?」
訳解らん質問だが……許して欲しい。もう俺にもなにがなんだかさっぱり☆だから………
思わず顔を引きつらせている俺の耳に、ヒーローの恐ろしい言葉が入ってくる。
「だってバード、昨日パーパにキスしようとしてたから」
「………は?」
「だから!!あれはいつもの癖でつい………!!」
慌てたようにバードがこちらの会話に加わる。
……なにがいつもの癖なんだよ、バード?
固まっている俺の耳に続いて入ってきたのは不思議そうなタイガーの声。
「パーパ。バード泊まりに来てた日いつもパーパにしてたぞ?」
………だからなんでお前はそう天然なんだよ。おかしいってことに気づけっての…………
しかしなにされてたんだ、俺……… 顔が青ざめるのがよく解る。……それに気づいたらしいバードが慌てて釈明するが………
「いや、別にやましい事はしてねーぞ!? ただあんまり寝顔が可愛かったもんだからちょっと触りたくなったというか………!」
それは充分やましい事だと言う事を知らんのかこいつは…………
言い訳で墓穴を掘っているバードをしり目に頭痛のしてきた頭を俺は抱える。
「パーパ、頭痛いのか?」
心配そうに顔を覗き込ませたヒーローに笑いかけ、ポンポンとその背を叩く。いかんいかん、息子に心配かけてしまった。
抱えていた身体を地に下ろし、にっこりと笑いかける。………意識しないといまはあまり笑える状態でないってことが哀しいな………
「大丈夫。パーパは元気だぞ」
息子に笑いかけていた俺の顎に誰かの手がかかる。ってイッテェよ!! なに人の顔無断でもっていってんだ!?
顎にかけられた指は問答無用で突然前を見ていた俺を横にむかせた。……もちろん、ゴキッて音が盛大に響いていた事は疑いようもない………
誰だっ! ……ってタイガーかよ。相変わらず言葉の足りねぇやつだな……
呆れたように息を吐き出すと、コツンと額が合わさる。……んと? ああ……心配してくれたわけね。
大丈夫だと言う代わりに小さく笑ってタイガーの頭を撫でてやる。……と何故か視線を感じるので振り返ってみる。
………なんでヒーローとバードがそんな恨めしそうな顔してこっち見てんだよ。思わず腰の引けた俺の腕をガシッと掴む二人。
はっきり言って………怖い。つうか痛いんですが…………
そしてなにか決意したような顔で真剣にヒーローが言う。
「タイガー!! それヒーローがやりたい!」
「ガウ?」
………そんな宣言するような大事じゃないぞ、ヒーロー………。俺もお前が熱ありそうな時にやってるだろうが。
呆れた俺の笑みににっこりヒーローは笑って掴んだままの腕を引っ張り、自分の背にあうように俺を引き寄せる。
それに従ってしゃがみ、額をあわせようとする俺。
…………チュv
………………………………………………………………………………はい?
いまなんの音がしましたか、ヒーローさん………?
「あー!! ヒーローテメー、人のこと責めといて自分もちゃっかりキスしてんじゃねぇよ!!」
あ、やっぱりその音でしたか……。はははは………そうかい。
思わず遠くを見たまま泣いてしまった俺に罪はないだろう。慰めるように背を撫でてくれるタイガーしか味方がいない事がなんとなくわかったぜ………。
「パーパはヒーローのだ! バードはダメでもヒーローはいいの!」
「阿呆か! お前みたいなガキに任せられるか! 大体お前は息子だろうがッ!」
子供らしい我が侭な理屈を真っ向から受けて立つ大人。……かなり見苦しいがいまはそれに関わる余裕がない。ふかーく息を吐き出し、俺はグテッとしたままタイガーに寄り掛かる。
「パーパ?」
「……帰ろう」
このままでは埒も開かない。さっさと帰って、とりあえず気分転換をしたい。……なにが哀しくて朝っぱらから親友にキスされてた事実を知って、息子にキスされにゃならんのだ。
タイガーの背で休みつつ帰っていく俺の背に、大声でまだ喧嘩している二人の声が聞こえる。
………あ、止まった。俺がいない事に気づいたか。小さく息を吐いてすぐに追いつくだろう二人をどう躱すか疲れ切った頭で俺は考えはじめるのだった………………
はあぁぁぁぁ………… 憂鬱な一日の始まりって……こういう気分を言うんだよな?
キリリク11400HIT、バードVSヒーローでパーパ争奪戦ですv
喧嘩どころか全く歯が立たないですね、バード………
でも今回の影の主役は天然ボケなタイガーですv
そして裏設定。……二人はそれなりに意識はしあっていたりしてv
おいおい、なんで全く関係なくそんな設定の方に力入れてる(遠い目)
いや、初めはそんな予定なかったんですが。ヒーローたちの所に行くまで進めていたらそうしたくなったというか……(いつも何も考えずに書き始めるから、ギャグって……)
この小説はキリリクを下さった朗様に捧げます。
危うくギャグ以外を書く所になって慌てて削除しました☆
危険な真似をよくする今日この頃です………… そして変な物体ですいません…………