なんでこんな事態になっているんだろうか………
思わず溜息を吐きたくなった俺の耳には脳天気な親友の声。
「なんら〜、バード。しけた顔してんら〜v」
……………すでに呂律云々という問題じゃねぇぞ、お前!
顔を真っ赤にして上機嫌な親友は……からかうみたいに声を掛けて隣に座った。……まではいい。それはいつものコトだ。
でもなんでわざわざ凭れかかってくるかな!!!
肩にかかる重みにぎょっと顔を向ければニッコニコな笑顔でまたなにか飲んでいる。………甘い匂いがするからまあ……ジュースになったのかな?
もうこの際構わないけどよー……でももう飲むなっていいたい俺に罪はねぇだろ?
なにが哀しくて惚れた相手の一番無防備な顔大勢の前に晒さにゃならんのだ………。
他の奴には見えないように軽くシンタローの顔を腕で隠し、ウトロウトロし始めた年上には見えない男の頭を軽く叩きながら俺はまた盛大に溜息を吐いた…………
まあ酔ったおかげでいい思いもしたけどさ…………
……よけいに独占欲強くなってくじゃねぇかよ。
コトの発端はなんてコトはない。いつものごとく集まった英雄たちがいつものごとく酒盛りをはじめた。
宴もたけなわ。だんだん英雄以外の顔見知りも交じってきたりする。…………なんか部屋の片隅でリュウと白龍の兄弟が火花散らして一気のみ勝負してるけど……まあそれも恒例行事。このあと二人で馬鹿龍召還しなけりゃどうでもいいことだ。
いつもと違っていたのは……普段はまったく飲めないからと料理や酒の継ぎ足しに回ったり、酔っ払いの介抱をしていたシンタローが端で蹲っていることくらい。
………なんか嫌な予感。
いや……嫌な予感自体はすでにさっき来たクラーケンにくっついていたアラシを見た瞬間から始まっていたんだけどな!
気に掛けつつも俺も酔っ払いに付き合わにゃいかんし………。ふと気付いてみればシンタローは端で蹲ってるし。
一体なにがあったんだ???
………まあ確実に言えることはこのメンバーでシンタローになにかするやつはアラシくらいだってコトだけど。
ギロリと睨んでみれば視線に気付いたアラシがニヤニヤ顔を向けてくる。………別にかっこ良さをこの男に求める気はないが……罰ゲームでつけられてるリボン……妙に似合っていてカッコ悪…………
まあそれいったらシンタローも同じくなんだが。
………って思い出してもむかつく。アラシの奴、無理矢理シンタロー巻き込んで一気飲み大会しやがって。あいつが飲めないのなんてみんな承知してるんだからいいおもちゃにされるに決まってるだろうが!
しかも相手リュウだし。……勝つヤツいるわけねぇっての…………………
んで案の定負けた二人は仲良く同じ罰ゲーム。………どこにそんなフリルなリボンあったんだ??
それからなんか端にいって落ち込んでるんだよなー。これはやはりリボンが嫌だったか。………もういい加減みんな酔い回ってるし…こっそり外すように声かけるか。
クソ真面目だから勝手にとっちゃいけないとか思ってるのかね?
クスリと笑いつつ俺はなんか影を背中に連れてる親友の真後ろに立ってみる。……と気配に気付いたのか蹲ってる顔がちらりとこちらを伺うように見てきた。
…………………可愛いvvv
は!! 違うそんなこと考える時じゃねぇだろ自分!!
でもマジかわいい…… こいつもうすぐ三十路って本当かよ…………
なんか涙ぐんで子供みたいに上目遣いで見上げてこられるとどうしようもないんですけど…………
馬鹿みたいに早くなった心臓を無視しつつ、俺はしゃがみ込んでシンタローの顔を覗き込む。あんまり大きな声でいうわけにいかないし、かなり顔を近付けるが……そんなあどけなく見返すなっつーの。思わず手を出したくなるだろーが。
随分不当なこと考えてるけどまあ……惚れた弱味てことで気にしない。俺はそのままシンタローの耳元に口を近付けて、小さな声で囁く。
「シンタロー……?お前そんなに嫌ならリボンもうとっちまいな。誰も気付かねぇって」
かなり子供にいうように穏やかにいったつもりだが……ぜってぇに声上擦った。
頬は上気して赤いし、妙に無防備な顔してるし……目は潤んでるし。……………こいつ酔ってる………………
でもこいつが飲んだのってチュウハイ一杯だったよな? 一気のみの時それなりに見張っていたからそれは確実。………それだけでなに酔ってんだ大の大人が!!
………少し飲んだだけでこうなるなら今度から飲みならさねぇと……なにがあるか判ったもんじゃねぇ…………
「バーロォ…………」
上目遣いはそのままにシンタローがオドオドとした声でこっそり内緒話をするように顔を寄せて囁く。
…………なんか赤ん坊に戻ってねぇか、こいつ。いや、いつもとの落差でかなりくるものあるんですが(だから困るともいう)
「………バードだ。オイ…………? どうし……………たああぁぁ!?」
仕方ないので突っ込み入れつつ自分の平静保とうとしてみる。がしかし!!
なんでいきなりもたれ掛かってくる!? どわっ! なんで泣いてんだよ!?
混乱ここに極まれり。……妙に冷静な自分がそんなこといってた気がするがそんなことどうでもいい!!
子供みたいにポロポロ涙零して抱き着いて……マジ幼児返りしてる…………。しかもこっそり様子伺ってたアラシの視線がかなり突き刺さってるし。フ………思いっきり優越感感じるぜ。
子供をあやすのと同じくポンポン背中叩いてみる…が反応がない。……というかかなり俺も辛いんですけど………。
なにせ惚れた相手が泣いて縋るなんて……滅多にあることじゃねぇし。しかも相手こいつだから一生あるはずねぇとか思うし………。ああ、思いっきり抱き締めてキスしたい………………
よこしまな考えに飛んでた俺の耳に、小さな音が触れる。………ん? なんだって?
「………されたぁ…………」
は? よくきこえねな……? 酔っ払いの声ってだけでも聞き取りづらいってのに掠れてるは小さいわ、甘えるように下ったらずだわ…………。別のコト考えてこっちの意識も集中出来んし。
「なんだ? もう一回いってくれるか?」
困ったように言ってみると……また泣くぅ……………………
なんだ?? なにされたって??
………………かなり嫌な予感するんですけどね………聞かない方がいいかも……この反応からいってロクなことじゃねぇ気が……………
でもやっぱり気になるし……シンタローの口元に耳を持っていって精一杯音を拾うようにする。……あ、ヤベ。息が耳かかって集中出来ん…………。
そんな俺の考えを吹き飛ばすように、今度は大音量でシンタローが叫んだ。
…………オイ、耳が………… いまの声、この部屋といわずに家中響いたんじゃねーのか…………?
「アラシにキスされたああぁぁぁ…………!!!!!」
「はああぁぁぁ!?」
思いっきり不振そうに声をだし、顔を顰めた俺はアラシの方を見てみる。……あれ、いねぇ??
………っていつの間にこっちに!? なにシンタロー引っ付かんで自分の方引き寄せてんだ!!
イヤがってんだろーがっ!
「なーんだシンちゃんv そんなに俺のキス良かった?」
…………………………………こいつも酔っとる。
素面なら絶対に明かすはずのない言葉に呆気にとられた俺の目の前で……………
――――――ちゅーv
思いっきり濃厚にキスしてるよ……………
って冷静に見てる場合か!! 返さんかこのボケ海人!!
シンタローの腕を掴んで無理矢理引っ張ってアラシから引き剥がす。……あー、息上がってるし。さっきとは意味の違う涙が浮かんでて色っぽいのはいいが……むかつく。
顔を顰めてアラシになにかいってやろうと顔を向けた俺の顎に指が絡む。
あ? なんだシンタロー?? ちょっと待ってろって…………………オイ?!
「んー……」
かわいい声と共に……や、やわらかいものが口にあたってるんですけど………!?!?
シンタローからキス!? ………嬉し過ぎてアラシへの文句なんざ百億光年先まで吹っ飛んじまった。
シンタローの方が少し背が高いけど、ふにゃふにゃになってるから調度いい位置あたりまで崩れててし易いなーv とまあ冷静に思いつつたっぷり堪能して唇を離すと……俺がアラシに勝ち誇る前にシンタローがアラシにビシッて指を突き付けてるし…………
「ろーら!! はじめてもバーロなら最後もバーロらぞ!」
一体なに勝ち誇っているんですかこのおっさんは………… って初めてって何のことだ……???
思いっきり打拉がれて落ち込んでるアラシもかなり気になるけど……
さすが酔っぱらい。いつもよりもはっきりと力関係出てるなー。
そのまままたなにかやらかさないように距離をとろうと俺はシンタローの腕を引いてアラシからかなり遠ざかる。……珍しいな、あいつがあんなに簡単に引っ込むなんて。
部屋の端に座り込んで俺は溜息1つ。ヤレヤレ……普段こいつはいつもこんな風に気苦労抱えて宴会にいるのか?? 飲まないヤツの苦労がちょっと判ったぜ……………
「んー……バーロ? あれェ…アラッチはー?」
「あっちで沈んでる。って見に行くんじゃねぇ!!」
やっと離したんだから自分から近付くなー!!
「えー……でも喉乾いたー」
…………あ、なるほど。アラシのいる机の方にしかジュース置いてねぇわけね。
まああの落ち込みようなら暫くは復活しないから放っておいてもいいか。
あ、でもその前に確認してぇんだが………
「なあシンタロー」
「なんら?」
ニッコニコの笑顔で返される声に顔が緩む………のを必死で押しとどめる。顔に出やすいんだよなー、俺………
「さっきいってた俺が初めてって何のことだ?」
かなり気になった一言。……できればはっきりさせたいが……いまのこいつがちゃんと答えられるかね?
少し不安な俺の耳に脳天気に明るい声があっさり返ってきた。
「あー、あれなぁ。お前が4つの時、俺に好きーって言ってキスしてきたんら。アラシの目の前でv」
……………………………………………………はい?
あっけらかんと言ってのけた当本人はジュースを取りに去っていくし。目を点にした俺は一人残されて顔を引きつらせる。
なんとなーく。なんでアラシが俺に風当たり厳しいかよーく判ったような……………
でもまあ…シンタローも嫌がってるわけでないようだし。これは見込みありですかね?
なんて顔から幸せ滲んできた俺の耳にイヤーな声。
「ねえタイガー、バードが幸せそうだと意地悪したくならない?」
「ガウゥ??」
「あ、お前もそう思うか? ここはやはりアラシでも起こすか!」
「おっさん……弟どうしたのさ」
「100度のウオッカ大ジョッキ一気のみで潰したっス…………」
「白龍兄たんは大丈夫でちゅ! で、具体的にどうするんでちゅか?」
「そうだなー…………」
………………………テメーらには人の幸せ祈ろうって言う優しい心は皆無か。
顔を引きつらせつつ、どうこの酔っ払い共を躱してシンタロー一家を無事に家に届けるか悩み始めた俺の耳には妙に明るい思い人の声がかかる。
結局こいつに逆らえない俺も悪いのかね? まあ惚れた弱味と言う言葉もあるし……他の酔っ払い無視して今日は楽しみますかね。
………波瀾の予感は拭えないけどな。
キリリク14000HIT、パーパ争奪戦・勝者バードで酔っ払いなパーパ付きvです。
なんか美人さんと言うよりお子様になった………??
ごめん、うちの子はどうやら飲むとガキ(しかも我が侭)になってしまうようです(汗)
今回はバード視点にしてみましたv 滅茶苦茶難しかったです………
バード……なんでこんなに暴走してくれないんだ??
アラシの時は簡単過ぎて困るくらいだったのに…………
この小説はキリリクを下さったゆき様に捧げますv
相変わらずよく判らないギャグですが……受け取って下さい………