柴田亜美作品 逆転裁判 D.gray-man 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
風に靡く髪を眺めることが好きだった。 影法師の児戯 木漏れ日が微かに瞼を撫でる。 それに促されるようにゆっくりと目を開ければ、間近に人の気配があった。 ぎょっとして思わず上半身を起き上がらせれば、傍にいたらしい小鳥たちが逃げる羽音がした。 「………………………」 混乱しかけた頭がゆっくりと思い出してくる。………いま傍らで少年が眠っているのは確か買い物帰りに立ち寄った公園があまりに心地よくて横になった自分に付き合ってのことだった。 微かに息を吐き、子供は苦笑を零す。 ………誰かの気配がこれ程間近にあっても起きないとは、随分この気配に慣れてしまった証拠だ。 誰とも深く関わらずにいた自分が珍しい。なに故に彼なのか……判らないわけでもないのだけれど…………… 眠る吐息を眺めながら、子供は微かに吹き掛ける風が冷たくなってきたことに気づく。 寄り添っていればあたたかいなど……幼子でもあるまいしと自嘲げに笑い、薄着の少年の肩を揺する。 初秋ではあるが、日も翳ってきた時間だ。いい加減気温も下がり外気に晒された顔が寒さを伝える。 長袖を着た自分でさえこの状態だ。………こんな薄着では少年は風邪をひいてしまう。 揺するリズムとともに、子供の声が響く。やわらかく少年を包むように……… 「カイ、そろそろ起きろ。日が沈むぞ」 淡くなり始めた陽光は、まだ赤くはない。それでもゆっくりと微睡みから帰ってきた少年の開かれた瞳は鮮やかに赤く染まっている。 夕日よりなお際やかなその色をこれほど間近で見ることになるとは出会った当初は想像すらしなかった。 あれ程失礼極まりない自己中心的な暴走少年だったというのに。………これだから時間というものの魔力はすごいと思うのだけれど。 はっきりと開かれた瞳は覗き込んだ子供の瞳に驚いたように固まった。 ………次いでバネ仕掛けの人形のような勢いで起き上がり、顔を真っ赤にして謝罪してくる。これももう、想像出来ていたこと。 「す、すいません!!私まで一緒になって眠ってしまって……………!」 少ししたら起こせと頼まれた立場でありながら反故してしまったとしゅんとした律儀な少年にこぼれる苦笑は絶えない。……それはやわらかく優しいものではあるのだけれど……………… 仕方なさそうに俯いた少年の頭を軽く叩き、子供は立ち上がると荷物を抱えた。 「爆殿………?」 どこか怯えるような声音に吹き出しそうになりながら、子供は笑みを落とす。 深く……幼い笑みを。 「貴様は細かいことを気にし過ぎだ。………もっと肩の力を抜け」 赤く染まる空に包まれた子供は、際やかな笑みを隠すことなく少年に与える。大抵のことは許されているのだからと囁くように、滅多に見せないただの子供の笑みを………… 自分のうちにある微かな怯えまで溶かす子供に少年は情けなさそうに不器用な笑みを浮かべた。 囁く声音は泣きそうに濡れている。愛しさに溶けた音色は深く子供を包むけれど………… 「まだ…時間がかかりますよ」 不作法者に、なれるわけがない。彼の価値を認めた瞬間から、自分はもう捕われている。 手放さないように………手放されないように、ずっとずっと脆い糸を抱えたまま彼の背を見つめていたから。 きっと、他のものより多少は彼を知っている。 ………それはあくまでも子供が自分に見せてくれたから、なのだろうけれど…… 痛みを誰よりも敏感に感じ取れる。………そのくせ自身の痛みには空恐ろしい程無頓着だった。 大丈夫だと囁く姿が痛々しかった。完璧なものが存在するわけがないと知っていても信じさせてしまう彼の強さは透き通り過ぎていて掴み所がない。 彼は知っている。知ってしまう者だから。………傍にいる者の抱えるものをその類い稀な魂はどうあっても察知してしまう…から………………… そうすることで自身が傷つくことさえ厭わない清廉さこそがもっともこの子供を輝かせ、貶めるのだろうけれど………… それでも平気な顔をして、涙さえ飲み込んで、傷などないと不遜な態度を崩すことはない。 傷だらけの子供は精一杯の強がりと背伸びであやふやなままの足取りを誰にも気づかせずに威風堂々としていた。………微かに零された弱さは、きっと不本意だったのだろう。 だけど見てしまった。知ってしまった。 ―――――――彼の中にある、繊細過ぎる硝子細工。 それを支えたい。包まれるのでも縋るのでもなく、与えるものになりたい。 せめてその笑みをなくさないように、息の吐ける場所を作りたい。 その願いを、彼は叶えてくれるのだろうか…………? その価値が、自分にはあるのだろうか…………? 判らないけれど、子供はそれでも道を残してくれる。 彼の傍らにいることのできる、その資格を何の気兼ねもなく許してくれた。 だからいまはまだ、気が張ってしまうと囁く少年はまた小さく笑う。少年の不器用な笑みを見る機会の多くなった近頃を思い返し、子供は仕方なさそうに苦笑を零す。 もっと自分が許されていることも認められていることも気づけばいいのに。……自信を持てばいいのに。 もっとも、それは自分にも言えることなのだからなにもいえはしないけれど。 「仕方ない奴だな。さっさと慣れんと、家の中まで辛気くさくなるだろう?」 同じ場所に帰るのだから、それは御免だと笑うように囁く声音はあたたかく甘い。 それは確かに少年の背を支える言葉。 …………傍に、最も傍にいてもいいのだと認められている証。 自信なんて持てるはずがない。彼はあまりに高みにいて、さらなる高みにいる者たちからさえ望まれている。そこまで辿り着くことを約されている魂はしなやかに鮮やかに駆け登る。 追い掛けることが精一杯で、自分にはその先がまだ見えない。 そんな自分が子供の傍にいてもなにも出来ないとどこか自虐的に思っていた。なにも与えられないと、思っていた。 けれど子供はそんなことがある筈がないといってくれるから。 不可解そうに落ち込む自分を見つめてくれるから。 ともにいることに意味があると鮮やかに笑んでくれるから。 …………一緒にいればいいと、囁いてくれるから。 だから………本当に嬉しかった。 このまま離れてしまうのではないかと恐れていた自分をいとも容易く子供は掬いとってくれた。 当然のことだという、なんの疑問も持ち得ない瞳が……嬉しかった。 翻された背が微かに振動する。ゆっくりと自分が追いつくことを待って歩み始める歩調を知っている。 それは、とどまることはなくともその背を追い掛ける道を残してくれる子供の指し示す燈。 赤く染まり始めた空が子供を隠すように瞬く。それを愛しむように見つめ……それでも捕らえるのは自分なのだという微かな独占欲が自分のうちに見隠れするのが判る。 それを示すように、少年は子供の小さな…細長くなった影を踏み、荷物に塞がれていない指先を搦めとった。 驚いたように見上げる子供の瞳の無防備さに苦笑がこぼれる。 …………注ぐ囁きは、赤く染まる瞳よりなお甘い果実のように潤っている。 「待って下さい、爆殿。…………荷物、持ちます」 囁きとともに伸ばされた腕はあっさりと子供の抱えていた荷物を奪い、抱えてしまう。 その手際のよさに一瞬呆然とした子供は少し拗ねたような顔で傍らの少年を見上げた。 返される声音はまるで幼子のようで、苦笑を禁じ得なかったけれど…………… 「これっくらい、俺にだって持てる」 甘やかす少年にそうしたことに慣れていないのだと囁くように子供の頬が微かに朱を孕む。 その幼さを間近で見る特権は、自分だけのもの。 ………愛しさに溶ける指先をからめれば、子供は微かに視線を泳がせ、少年から頬を逸らして僅かに俯く。 指先が……包まれる。微かな子供の体温が応えるように。 ―――――――躊躇うように戸惑うように。 それでも躱さずに応えてくれる誠実さに、少年は綻ぶように笑みを零す。 笑みの気配に俯いた子供はなおいっそう不機嫌そうに顔を顰め、その目元を夕日に溶かす。 夕日に染まった赤い面を覗き込み、少年はその目元に微かに口吻けを落とす。 赤く彩られた頬は落日の色よりなおいっそう鮮やかな赤。 睨むように向けた視線の先には苦笑を携えた少年が佇んでいる。まるで夕日ではなく、自分の赤に染まって欲しいと願うように……………… あまりの馬鹿らしさに深く細く息を吐き出して、子供は微かな声音で囁く。 甘えた響きを微かに含む声音は、決して厭ってなどないと知らしめるけれど……… 「………こういうことは慣れんでもいい………………」 ぶっきらぼうな言葉は、それでも解かれることのない指先とともに囁かれる。 それに気づいた少年の浮かべる笑みの鮮やかさに、噤んだ唇はやわらかく塞がれる。 怯えるように硬直した肢体をなだめるように、絡む指先を固く抱き締めながら……… …………やわらかな赤が、二人の影を隠すように包み込んでいた…… というわけでカイ爆新婚…………。嘘だ(あっさり) 本当はね、ピンクあたりにからかわせて、雹あたりに引っ掻き回されて、な二人の同居話、だったはずなんですが。 いつの間にかすっかり出来上がっただけの二人……………?? でもちゃんと一緒に住んでます。ついでに言い出したのは爆のようですねーということだけいっておきましょう。 だってカイ、家ないじゃん。村崩壊したし。……かといって激と同じ家に爆を加えるのは流石に……(遠い目)←私的にカイは激と住んでることになってる。 ごめんねー、斂さん………。せっかくリクしてくれたというのに、こんな大嘘くんになって(汗) でもこれで許してくれると嬉しいです……… |
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