柴田亜美作品

逆転裁判

D.gray-man

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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 それが始まったのはたった1通のメールから。
 軽快な着信音とともに懐かしい少女からいつも通りの他愛無いメールが届く。

『みんな、久し振り!今年最後の元GCの集まり、暇な人が多かったら聖夜にしない?ホワイトクリスマスかも、なんてもう嬉しくってv し・か・も!今年は特別ゲスト付き!やっと爆捕まえられたから、みんなもきてね(^0^///)』

 画面に出た長々としたパーティ招待状を一通り目を通し…………少年は暫し沈黙する。
 自分の名が載っている。……しかもすでに捕まっている、と…………………
 「俺は凶悪犯かなにかか……?」
 呟ける言葉が少なくて、少年はドライブモンスターの背の上でその一言だけを漏らすと、仕方なさそうに行き先を変えさせた。
 このメールが自分にまで届けられた意味は充分わかっている。
 ………誘ったところでそうした行事にあまり執着も興味も示さない自分を呼び戻すのは困難だ。
 けれど、ここまで大々的に自分がくると宣伝されていかないわけにもいかない。……少女を嘘つきにし、みんなの期待を裏切ることを願えるわけも、切り捨てることもできるはずがない。
 どうせ一人旅で気楽なものだ。早めにきた連絡に、数日前にはつけると未開の森の上空で小さく呟く。
 微かに鳴く聖霊の心配そうな眼差しに笑いかけ、少年は小さなバックの中から救急キットを取り出した。
 赤く染まった包帯を清潔な白に取り替え、粗雑だった応急処置を完璧なものにする。

 ………せめてあの馬鹿たちのところに付く前に塞がればいいがと、苦笑しながら。



聖夜に咲く花



 ドライブモンスターはあまり早く移動しないものを選んだ。………空を飛ぶのだからそれなりではあるけれど、他の空型にくらべればかなり速度は遅い。
 ゆっくりと流れる景色を視界の端にいれ、少年はその背の上に寝転がる。
 ひどく……眠かった。
 微熱がこのところ続いているのは多分傷のせいなのだろうけれど、身体がだるくて仕方ない。
 …………いく考えてみればあの森の中ではほとんど寝ていなかった。浅い眠りが身についた為、微かな葉音でも気配を探る癖が付いてしまった。
 ゆっくりと眠るという行為を放棄しなくては冒険家などやってはいられないが……流石に少し疲れが溜まっている。
 同じ旅でもあいつらと一緒の時は違ったと…苦笑とともに思い返し、微かな甘えを微睡みの中に溶かして少年は目を閉じる。
 傍らで少年の腕に寄り掛かりその具合を見つめていた聖霊を軽く包んで手の中に抱え、ぬくもりをわかつように少年は頬を寄せる。
 「……着いたら、起こせ……………」
 囁きは微かで、すぐに寝息がもれる。
 その規則正しい吐息に頬をくすぐられながら、とりあえず危険はないだろう上空の中、聖霊は小さく頷くと自分を包む指先を守るように抱き締めるのだった。

 見上げた先には懐かしいドライブモンスター。
 ………決して見間違えるはずのないその丸みのある面差しは微かに歳老いている。確実な時の流れを感じながら、青年は明るい声を空にむけた。
 朗らかな、優しさを含む懐かしい声音…………
 「爆殿!早いですね、もう来られたんですか?」
 パーティーは明日だと言うのに珍しいと苦笑とともに囁けば、見られると思ったバツの悪い顔で答える子供。………否、もう少年ほどには成長しただろう彼の人。
 かすかに怒鳴られることさえ心待ちにし、あのまだ幼い声音が自分の名を呼ぶのを待っていた。………が、反応がない。
 そして上空に佇んだまま、いまだドライブモンスターも降りてこない。
 嫌な予感が身を包み、青年は手に持っていた荷物を地面に置くと近くにあった太めの樹をよじ登りはじめる。
 まさかとは思うのだけれど……それでも無茶ばかりする子供だったから、不安になっても仕方ないと早鐘を打つ自分の胸を押さえながら…………
 なんとか同じほどの視線に立てた青年は視界内に入ったその姿に息を飲む。………倒れ込んだまま、僅かに大きくなった子供は動かない。ばたつく聖霊の手足が見えた。
 ゾクリと肌が泡立ち、青年は顔を青ざめさせた。
 考える間もなく足は枝を蹴り、軽やかな仕種で決して近くはなかったドライブモンスターの背にやわらかく着地した。
 「爆殿!?」
 切羽詰まった声音が、その人の名を紡ぐ。
 聖霊がその存在に気づいたようにくるりと回転してひっくり返りながらその顔を覗かせた。
 ………不安と言うよりは……………………困りきった仕種で。
 「………………爆…殿ぉ……?」
 聞こえてくるのは規則正しい寝息。
 倒れているのではなく………眠っているのだ。
 脱力した青年は詰めていた息を吐き出し、ぐったりとドライブモンスターの背に座り込む。
 微かな鳴き声で助けろと訴える聖霊の腕をとり、子供の指先から救出すると、聖霊は改めて静かにするようにと指令を受け渡すように指を唇にあてた。
 「……わかっていますよ」
 どうせ、無茶ばかりしていたんだろうと寂しそうに笑って囁き、青年は着地の声のかからない為にどうしていいかわからないでいるチッキーに声をかけるのだった。
 彼をいまだひとり、旅させることしか出来ない自分の腕を歯痒く思いながら。
 その背を支える力量を宿らせていない指先を、固く握りしめて…………


 微かな音と風が全身を巡る感覚。不意を突くその感触に少年は軽く瞳をあける。
 ………視界に広がったのは、逞しい背中。
 見覚えのある長い鋭利な耳。引き締まった頬だけが昔よりも大人になった彼を示していた。
 懐かしい……少年。彼の時は幼く意固地だった、礼儀ばかり重んじる馬鹿な少年。
 決して伸ばそうとしない指先を苦笑と自制心だけで抱え込み……気づかせないでいられると信じているほどに………
 愚かしいというよりは……知らなかったのだろうとは思うのだけれど。
 微かな苦笑をのぼらせ、薄くいた瞳でその背を眺めれば、聖霊が自分の存在を主張するように頬をつついてくる。
 それに気づき、無視をされたと拗ね始めた聖霊をあやすように少年は丸みのある……この年月を経ても変わることのない聖霊の背を撫でた。
 「………爆殿?」
 たったそれだけの微かな気配に気づいたらしい声が、戸惑うように紡がれた。
 昔よりも随分……低い。まるで見知らぬ者のような気が一瞬して、続いてそのやわらかさも深いあたたかさも彼以外にいるはずがないと示す。
 そんな機微で知らなくてもいいだろうと小さくひとりごちて、少年ははっきりと目をあけると起き上がった。
 …………微かに、腕が痛む。まだ完治はしていないのだから仕方ないとは思うけれど。
 それを隠し込むように不敵な笑みを唇に浮かべ、少年は応えた。
 「……久し振りだな、カイ。いつの間に乗り込んだんだ?」
 からかうような声音に、許可もとらずに乗っていたことを思い出して青年の頬が恥じるように色づく。
 その様を見ながら、大体のことを少年は察した。
 ………日数的な差が出ないように久し振りに自分の家にでも帰っておこうと思っていたのだ。
 家の回りにある森はドライブモンスターが着地するには不向きで、入り口付近で下ろすように伝えておいた。……が、まったく記憶にないということはおそらく自分は眠ったまま起きはしなかったのだろう。
 よくよく思い起こせば聖霊さえ抱え込んでいたのだから、その手が解かれなければこれに起こすようにいっても無駄であった。
 地に足をつけた瞬間の微かな振動と、青年が答えるのはほぼ同時だった。
 「あの……ちょうど爆殿の家にいく途中だったので……声をかけても反応がなくて………」
 なにかあったのではないかと思ってつい樹から乗り移ってしまったとしどろもどろにいう様は昔と変わらない。
 どこか自分に遠慮したように……畏怖するごとく意向に添わないことに恐れる仕種。
 それを厭ったところでどうしようもないのかもしれないけれど、気分のいいものではあまりない。
 仕方なさそうな溜め息を吐き、少年は改めて笑みを浮かべると青年の言葉の中にある引け目を消し去るように気軽な声で囁く。
 「そうか、世話をかけたな。…………で、俺の家になにか用か?」
 ドライブモンスターの背から飛び下りた少年を追う青年の着地音が耳に乗るまで待って向けられた質問に……微かに青年の顔が強張る。
 それを視界に入れ、なんとなく嫌な予感を少年は持った。
 道に置かれたままの荷物はおそらくこの青年の持っていたものだろうけれど……それは小さなモミの樹に似た常緑樹。……それに飾るのであろう色とりどりの飾り物。
 真っ白に洗われているらしい大きめの布はおそらくテーブルクロスで、ゴロゴロと顔を覗かせている数々の果物も逃げ出さないように慌てて拾われているが………十分覗けた。
 これだけの証拠物件があれば推理は簡単だ。…………推理する気も起きないほどに。
 深い溜め息とともに、少年は青年に確認するように声をかけた。
 「………今回の会場は俺の家か………?」
 「…………………………………………………はい………」
 言い逃れることなど到底不可能で、当日まで戻ってこないだろうと予想していた少女の裏をなにがあってもかいてくれる少年に青年は少し泣きたい気分で答えるのだった………


 青年の持っていた多過ぎる荷物を数個奪って持った少年は軽く文句の言葉を吐く。
 「まったく、おばばに管理は任していたとはいえ、本人がくるかも判らんパーティーの会場にするか?」
 「………すみません……」
 どこか気の置けない人間の手抜きな作業を咎める声はやわらかだが………罪悪感にも似た思いを過らせていた青年には突き刺さったらしく、暗雲とともに深く沈んだ声が小さく囁かれる。
 内省的ともいえるその声に子供は呆れたように息を吐きながらその顔を見上げた。
 ………元々身長の差はあったけれど……この数年で確実な差が決定付けられたらしく、見上げなくてはその顔を伺うことが困難になりつつあった。
 それがなんだか不思議な気がして、くすぐったそうに眉を潜めながら少年は青年に答える。
 「いや、お前が謝らんでもいいんだが…………」
 困ったような声音に気づき、青年が沈んでいた面を挙げて少年を見上げようとして……不意にその身長差に気づいたらしくぴたりと足を止めてしまった。
 突然立ち止まった青年に合わせられず、一歩子供は前に出てしまう。振り返れば驚いたように目を見開いた青年がいた。
 驚くことは否めない。………けれどそこまであからさまにされては同じ男としての立場がないと少年は自分の後ろになってしまった青年の胸元を軽く叩く。
 どこか不貞腐れた面持ちに気づいた青年がやっと気づいたように顔をまた赤くする。……俯いら視線は地面を写すばかりで少年さえ入らない。
 ………昔から、ずっとこうだった。
 なにかあればすぐに自分一人で抱え込んで落ち込んでばかり。決して少年には分け与えようとはしない。
 それは自分も同じで、同じ歯痒さを青年も知っていて……けれど互いにそれを改められないのは文句もいえないのだけれど……………
 なんとなく我が侭をいうように……少年は手の中にあった花を青年に差し出した。
 土と葉の緑しか見えていなかった視界に突然見目鮮やかな花が現れ、青年はぎょっとしたように顔をあげた。
 なにがいいたいのだと問うような視線。……訝しげに顰められながらも教えを乞う光を消さない幼気さ。
 それに小さく笑い、子供は謎かけをするように囁いた。
 「………この花、名前を知っているか?」
 「え…………?」
 差し出された花は時計によく似た針を雌しべに持つ……大きめのその花の名は一般教養として知ってはいるけれど………
 少年の意図が掴めないと示すように眉音は寄せられたまま青年の答えは囁かれた。
 「それは……時計草、ですね」
 自分の管理する庭園内に咲いた花だ。間違うはずはない。………そう示すように呟いた声は力強い。
 それにゆったりと少年は笑う。
 ………子供の頃よりも、余裕のある笑みを零すと少しだけ青年は嬉しげに……誇らしげに眉を解いた。
 それを認め、少年は言葉を続ける。
 なにかを………指し示す標のようにその声に澱みはない。
 「そうだな。……これによく似た蔓植物は?」
 謎かけを深めていく少年にどこか遊びを楽しむ風情が加わる。………あるいはそれは青年の心への負担をなくす為に意図的に醸されたものかもしれないけれど…………
 それになんと話に気づきながら、青年はあえて少年の声に乗る。
 …………望まれて、出来ないことなどなにもない。この心はもうとおに少年に寄り添って存在しているのだから。
 分不相応だと微かな吐息を零し、苦笑すら笑みに換えて、青年は少年の囁きへの答えを指し示す。
 「……それは……パッションフラワーのことですか?」
 受難の名を抱く花はけれど痛々しいほど力強く大きく………まるでなにもかも背負うことを覚悟しているかのようにその花弁は閉じることを拒否している。
 儚くはないのそのさまが不思議で、手入れをする時も苦笑がこぼれる。それを思い出して囁く青年に頬にはやわらかな笑みが灯る。
 それを視界の端に留め、少年は大振りなその花に軽く口吻ける。
 「…………じゃあ、花言葉を知っているか…………?」
 まるで賭けをするような………瞳。
 それを受け、微かな息苦しさに青年は息をつめる。
 まっすぐ……澱みなくむけられる視線。何者も侵すことのできない至純の瞳は捕らえ難いほどの透徹さで青年を包み込む。
 押し迫る無辜の視線に気押される。声が、でない。答える術を模索することも出来ず、ただ無意識に肯定するように首を降った。
 喉が干上がったのか、吐き出す息の音が奇妙に響いた。
 それに気づき、空気をやわらげるように少年は不意にその瞳の強さを隠す。
 ……………伏せた睫が音を醸すように揺れた。
 「…あ…………」
 まるで青年を解放するように閉じられた深い瞳。……何色と特定することも出来ない、光の有り様で変わる透明の視線。
 惜しむようにもれた吐息に自ら苦笑し、青年は少年の言葉を待つ。
 なにを……示そうとしているのかを知る為に…………………
 囁く声音は……微かに震えている。
 まるでそれを唱えることを躊躇うかのように…………………
 「俺は………」
 僅かな間をあけ、逡巡したらしい唇は数度開閉を繰り返す。
 ………意を決したように、唇が強く引き結ばれた。
 風に揺れる長い睫が……緩やかに開かれる。
 青年以外を写さない瞳が、瞬くことも忘れて囁きを零す。
 ……………逃れることを、許さないというように……………………
 「パッションフラワーよりも、これがいい」
 抱き締める時計草が、微かな悲鳴をあげるように包まれた紙に皺のよる音を響かせる。
 その言葉の意味が………判る。
 判ることを知っていて、晒された。
 それは静謐の睦言。……………いまだ青き実が熟す術を知らずに醸す音色。
 ……どさりと青年の持っていた荷物が地面に落ちる音がする。それさえもう……耳に入りはしない。
 風が鳴く。
 鋭く際やかに。
 けれどそのやわらかさは信じ難いほどで……季節さえ忘れた薫風。
 青年は躊躇うようにその指先を持ち上げた。………微かに震えたその様にやんわりと笑む少年。
 「俺で………いいんですか………?」
 余裕のない声が、珍しい一人称を紡ぐ。
 …………それに苦笑して、その指先を受け取った少年はいまだ抱えている時計草を互いの前に指し示した。
 やわらかなる指のぬくもりはその花の持つ気高ささえ溶かして自分を包む。
 「貴様が、くれるんだろう………?」
 囁く声の誇り高さ。………それにまだ同じだけのものを携えてはいないけれど。
 それでも選んでくれるというならこの指先を………このぬくもりを離しはしない。
 それを約すように強くいまだあどけない小さな肢体を抱き寄せた。
 二人の体温に包まれた時計草が、振動に驚いたように数枚の花びらを落とす。
 惜しむように伸ばされようとした指先は絡められ、緩やかに口吻けられる。
 戸惑うように見上げた子供の吐息を掠め、ぬくもりを溶かす瞬間、微かな声音が染み入るように囁かれる。

 ――――――私が代わりになるのでしょう……………?







 というわけでクリスマスの二人でした。………まだイブにすらなってない気もするんですがね(オイ)
 ちなみに時計草の花言葉は「聖なる愛」でパッションフラワーは裏返った花は「恋の激しい痛み」です。
 …………笑って下さい(遠い目)

 しかし……この花ってこの時期に咲くのかね??(オイ)

 なんかうちの二人、くっつく前って絶対に爆が働きかけるんですよね………
 カイ受動的すぎだ……………まったく。

 クリスマスも終ったというのにこんなもの書いてすみません。
 間に合わせたかったんですが……無理でした☆時間ばっかりは私の自由にならないからなー(遠い目)
 さて、この調子でとりあえずキリ番もあげるぞ!
 あとちょっとで200作♪