柴田亜美作品 逆転裁判 D.gray-man 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
小さく小さく囁きましょう。 唇にはのらない音 眠っていた。それは覚えている。 けれど何故自分がこんなところにいるのはわからない。 落とした瞼と荒い息。そうして手放した意識の先にあるどこか懐かしい空間。 目を覚ましたなら……一面の闇。それはあまりに見慣れた寂しい景色。 いや、多分目覚めてすらいない。 どこか浮遊感のある身体の、質量のなさからそれは想像がつくけれど。 それでも感じる気配や寂寞感、孤独感は言い様のないものがある。嘘だとわかっていても傷つく言葉があるように、現実ではないと知っていても恐れる夢はある。 早く目覚めたい。眉を顰め、嗚咽さえ零すことのない子供は舌筆に尽くし難い肌のざわめきに唇を歪める。 喉の奥が、痛い。 それが何の前兆であるかを知っているから。 早く……目覚めてしまいたい。 不様な姿を誰にもさらすことのないように、早く目覚めて……そして。 何事もないのだと、笑んでいたい。 この闇に捕まらないために…………………… ゆっくりと引き寄せられる感覚。それは闇のより奥ではなく……見えはしない現実への誘い。 髪が揺れ、微かな風を感じる。 鼻先を掠める木々の香り。………大丈夫、この気配を自分は知っている。 ほっと小さな溜め息を落とし子供は凝り固まった身体から力を抜いた。 河の水に流されるようにして子供のゆったりと導かれる。 優しい優しい声に抱き締められたまま………………………… 微かに霞む視界はぼんやりしていて、厭うように目を擦ったなら間近でなにかが動く気配がする。 小さな小さな掌が労るように自分の頬に触れる。それが誰だか知っている子供は不思議そうにそちらへと目をやった。 身体が重い。……首をめぐらせるだけで随分と気力が必要だった。 傾いた視界の先、思った通り小さな丸いピンクの影。うまく焦点があわなくてぼやけた姿だけれど、確かにそれは自分のパートナーである聖霊の気配。 微かな鳴き声が彼が悲しんでいることを教え、子供は眉を顰めて声をかける。 「…どうし………………」 …………掠れた音は紡ぎきることなく咳に隠されてしまったけれど…… わけのわからない喉の乾きに一瞬呆然として子供はむせた自分を観察した。 身体がだるい。………関節など動かすことがとても困難だ。 喉が乾き……ぼんやりとした視界は霞んでいる。 そして身体には清潔な白い包帯があちらこちらに巻かれていることが肌に触れる結び目でわかった。 思い至った答えに子供は深く息を吐き出す。 ………………失態も、いいところだ。 連日の疲れのせいか判断が鈍った。その結果の、不様な傷痕。 誰だかは知らないけれど、よくあんな樹海のなかに倒れていた自分を見つけたものだと感心する。あたりには聖霊以外の気配はなく、質素な室内は暖かみのある静かなたたずまいだった。 それだけでもとりあえず相手に対する警戒心を僅かに解く。居室というものにはその人の性格があらわれるから、それに好感を抱いたなら、悪い人物でもないだろうと判断する。………それに気づいたらしい聖霊が確認する子供の視線に頷いた。 それを確認し、起き上がろうとした子供は……途中でガクリと肘を折って再びベットに落ちた。微かにベットが軋み、揺れたシーツの上…聖霊が弾むように転がる。 起きあがれなかった子供は驚いたように目を瞬かせる。………身体に力が入らなかった。視線を向けてみれば指先が微かに震えている。 身体に痛みはない。……傷が開いたという感覚もないのだから、おそらくはよほど腕のいい医者が縫い合わせてくれたのだろうと思ったけれど……これでは少し合点がいかない。 感覚全てがないわけではない。ただ力が入らず……痛みもない。 これが医術ではない。自分にも扱うことのできる、けれど常人には決して不可能な技術。 顰めた眉が険しく聖霊を見やった。……この国で、なおかつ術を使えるものなど…………… 「だれ………だ………?」 判りきった答え。……けれどどこかで思った相手ではない方であればいいと願った掠れた音は、覆い被さるように開かれたドアに阻まれた。 長い黒髪が……揺れる。 …………自分よりも幾分背の高い影がベットを見やり……意識を取り戻していることに驚いたように目を丸くした。 一瞬の間。互いに言葉もない。 そして……広くもない室内を慌てたように駆ける足音が耳に響く。 ベッドの横に膝をつき、横たわったままの子供と視線を合わせた少年が泣きそうな面持ちで小さな音を紡いだ。 「爆殿……気づかれましたか?」 「……………………見れば解るだろう」 どこかぶっきらぼうな物言いに隠された自身を恥じるような音。 こんな醜態、晒したくはなかったというその姿に苦笑がのぼる。どこまでもたったひとり、重過ぎる重圧に耐えながら弛まない背を晒す彼の努力が並み大抵ではないことくらい解っている。 だからこそ彼は人に頼るという言葉を忘れた。 まるで救われることにどこか負い目を持つように………………… それでも自分は彼の零す小さな傷痕さえも包みたいから……それを許して欲しいと願うように動けない子供の頬を優しく撫でる。 術で修復出来るのは欠損した細胞だけ。血液を製造することは出来ず……いま子供は極度に血が足りない。そのせいか触れた肌は冷たく、微かに顔も青ざめていた。 触れた指先が熱かったのか、子供が微かに眉を顰め……それとなく自分の状態に勘付いたように溜め息を落とす。 傷は塞いでも血が足りなければ動くことは出来ない。おそらくは増血剤くらいは打たれているのだろうけれど…それくらいで足りるはずもない。 しばらくはこのまま厄介になる以外ないと判断した子供はどこか躊躇うように指先を眺め……次いでそれを追って少年の瞳を覗いた。 放っておいてくれと、いったところで彼がそうするわけもなく。無理をして立ちあがったりしたらそれこそ縛ってでも養生させることが目に見えている。 厄介な相手に捕まえられたと思いつつも…………それでも胸の奥、どこかで彼でよかったとも思っている自分に吐く溜め息もない。 それを眺め、少年は微笑む。彼がここに留まることを了承したことを知ったから。 …………血に塗れた子供を見つけた瞬間の、身も凍る思いを覚えている。 近頃始めた遠距離映像の術が思わぬところで役に立った。たいした意味もなくあまり混乱しないようにと人の少ないところを探って映像化を試みていたけれど……その片隅に赤い吹き溜まりを見つけてしまった。 眉を顰めて近付いたなら………………愛しい影が赤く染まって蹲っている。 考える瞬間もなく身体は空間を超えていた。 駆け寄った先にいたのは……赤と光に包まれた子供。極限状態で自身を仮死にして肉体から流れ落ちる命の源を塞いでいた。 驚いた。……息を飲んで触れることすら躊躇われるその姿に平伏すように膝をついて抱き締めたなら………凍るように固まった肌が弾力を取り戻した。 言葉になんかならない……それを信頼と受け止めてもいいのだろうか…………? 泣きそうな思いで肩によじ登ってきた聖霊を落とさないよう気をつけながら少年は自分の家へと舞い戻る。 術も医術も自分にできる全てを行なって……それでも子供は目覚めないまま2日が過ぎていた。それにはさすがに本人は気づいていないだろうけれど………… やっと起きたなら彼はやっぱり変わらない姿で。………それでも零される確かな音に耳を澄ませる。 だからその音が途切れないように微かなからかいを込めて子供に額をくすぐる。 囁いた思いに隠された音に、気づいて欲しいと願わなくても伝わると知った所作に子供は不機嫌を装って眉を顰める。 「もうしばらく…ここにいて下さいね。お会い出来るのも久し振りですし」 眇めた視線のなかにどこか不貞腐れた色。 ………この分ならあと数日もすれば動くに支障なくなるだろうと窺いながら少年は薬と食事を取りにいこうと立ち上がる。 それを視線で追った子供の瞳のなか、微かな取り残される不安。………それを噛み締めるように閉ざされた瞼に気づき、少年はもう一度ベッドの傍に膝をつくと子供の額にやわらかく触れる。 ……………吐息の交じった額の熱に驚くように目を開けたなら、少年はその耳元に小さく囁く。 音になど出来ない思いをのせて、ただ傍にいるのだと………………………… つうわけで我がサイト300作目の作品はカイ爆でしたー!!! ………もちろん計算しましたよ………。 ちょっとね…思いっきり流血しているのを仮死状態で防いでいる爆を見つけたカイという映像が頭に浮かんでしまって。 書きたいなーと思ったら肝心のそのシーンすっごくさらとなっちゃった。 ………機会があればまた今度。でも流血沙汰あんま好きじゃないんだよな………… この小説は朱涅さんに押し付けです♪ 小説100作記念!!! 内ジバクが89作とはある意味私よりすごいです。 変な物体ですが受け取ってやって下さい♪ しかし300作目を人様の100作記念に送りつけるってまた変な真似してますね……私…………… |
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