柴田亜美作品 逆転裁判 D.gray-man 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
本当に自分にとってそれは他愛無い事。 言葉のうちに眠るもの 眼前に晒される異様な光景は一体いつから続いているのか。 ちらりと時計を見ながら激は小さく息を吐く。 別に何も変わらない日常だった。…………突然訊ねてきた子供を歓待した弟子が眉を顰める瞬間までは。 そこから始まった追いかけっことさえ言える応酬。触診をしようと伸ばそうとした腕のことごとくを見事に避けている子供の息も荒くなってくる。 いつもの子供であったならまずそんなことはないだろう運動量で苦しげな息になるのだから、それは多分弟子の見立ての正確さを語っているのだろうけれど。 それでも曲げない。 それでも、受け入れない。 それが何故かくらい解らなくもない。自分や、あるいは弟子にも多分内包されているもの。もっともこの子供ほど意固地でも頑なでもないけれど。 ………強いという事は、多分弱ささえも隠し込む事。無敵など存在しないのに、そう信じさせるのは弱さを誰よりも抱えているが故の虚勢。 その全てを自分一人で携え乗り越え……見せない事を決めている孤独の決意。 わかっていて、それでも見守る事を選んだのはその弱さを優しく開花させられるのが自分ではない事を知っていたから。 が、しかし。いい加減これもそろそろ終止符を打たなくてはと軽く息を吸い込む。なにが悪い訳ではないが、それでも状況は悪化の一途だ。 上気し始めた頬と熱を帯びて潤み始めた瞳。普段とは比べる事のできない緩慢さと時折様々な所に身体をぶつけてしまう注意力の散漫。それでも愛弟子に掴まらないようにと必死な時点で、もうすでにその殻が破れかかっている事に何故気づかないのだろうか…………? 呆れたような溜め息は微笑みとともに。 気づかずに晒されるものの尊ささえ知らない子供達。世間に蔓延る汚濁すら抱えてそれでもなお清廉でいられる命。似ていて……それが故に対極の姿。 もう二度とそんな姿を自分が愛でる事ができるなんて思っていなかった。ただ朽ち果てていくと思って中で見つけた、煌きと呼ぶに相応しい世代。穢れた腕さえ躊躇わずに認めとってくれる。幾霜月ものあいだ生き続けた自分を、それでも救ったのはこの幼い腕たち。 知りもしないでそれでも確かに掬いとって生きる意味を与えてくれた。感謝という言葉すら求めずに極自然に…………… やわらかな微笑みを浮かべかけ、これから行なう悪戯じみた行為を思い浮かべて少し激は口の端を歪める。やはり、こういった真似の方が自分らしいと笑うのは幼さというものか。 「うりゃっ!」 「……なっ!?」 「えぇっ!?」 見事に重なった三人の声の先には成功に満足そうな響きと純粋な驚きに染められた音しかなかった。 ついいまさっきまでは呆れたように自分達の追いかけっこを椅子に座ったまま紅茶を飲んで眺めていた筈の相手が、唐突に自分達のあいだに割って入った。それこそ気配など感じさせない、ましてや瞬間移動の震動など気づかせない一瞬の出来事。それだけでも充分相手の力量は伺えるが、如何せんいつも戯けた顔を晒すのだから油断を招いてつい不様な姿を晒してしまう。 すっかり失念していた存在に腕をとられ、2人はあっさりと放り投げられるように後方に引き寄せられる。逞しいとは言い難いその腕に内包されるには強大な力はどさりという音とともに2人をソファの上に投げ付けていたが。 ………ちゃんと手加減されていたせいか痛みはないが、あまりにも突然のことでいまだソファに座り込まされた状態のまま2人は惚けている。言葉の出ない状態はそう長くは続かないことをちゃんとしっている激はニッと笑い、2人に指を突き付けてからかう声音を紡いだ。 「仲がいいのも結構だがな、現状悪化させるなんざ、馬鹿のする事だぜ?」 走り回らなくても話し合いくらいできる年だろうと揶揄すれば恥じるのか、不機嫌になるのか、紅潮した頬とともに噤まれる唇。 本当に似たもの同士だ。もっとも、互いにそんな事認めはしないだろうけれど。 その成長を見つめていたものからすればこんなにも決定的に同じで、抗い難いほどの輝きもない。そのくせどこまでも異種であり、同胞の存在。手に入る事などあり得ないと囁くものの方が多い、それは夢物語に似た奇蹟。 手に入れて、それでもまだ気づかない。愚かしさ故ではなく、あまりにもそれが当たり前で見えない事実。 …………幼さを盾にも出来ない子供達はあまりに不器用で、あまりに美しい。 「走り回らねぇ方がいい事くらいわかってんだろ?」 どちらがより、かなんていう必要もない。幼さを色濃く映して不貞腐れたように視線を合わせない不遜な子供に視線をやれば頑な拒否の気配。 苦笑を浮かべて愛弟子を見やれば困ったように垂れた眉と、それを裏切るにあまりある意志を携えた赤い瞳。今更自分が調停しなくてはいけないような間柄でもない。少し淋しさを感じながら、激は愛弟子に笑いかけるとくるりと背を晒した。 「…って、仙人………?」 てっきりなにかしら享受されるのかと畏まっていたのに、なにをいうでもなく去っていこうとする相手に焦ったような声をカイが晒した。その中に含まれる爆を諌めて欲しいという幼さを必死で押さえ込みながら。 それを感じ、困ったように激は笑う。……2人に見えないよう、背中を向けたままで。 縋るような視線。それは爆も同じ。2人にされたなら、きっと挫けてしまう。甘えてしまう。それを知っているから、第三者を求める意志は、どこか淋しい。 甘えてもいいのだと、そう自分が感じ取っていながらも素直にそれを晒せないのはあまりに早熟に育った魂が故。己で全てを行なってきた意志が、大丈夫なのだと恐れるように悲鳴をあげている。 甘やかしたくなる衝動。愛弟子と、その子供とをどちらもを。望むがままに腕を差し伸べて頼りとされる快感と安堵。けれどそれだけで終らせるにはあまりに2人の持つ性情は清らかだ。自分の下卑た祈りを遂げるためだけに咲かせるには、それは美しすぎる。 自分の手さえ離れより高処へと生きられる命を、自分は見守り導きたい。そんな崇高な意志を携えられる身でもないけれど……………… 「痴話喧嘩なんざ犬も喰わねぇよ」 からかう音で囁いて、軽く振った掌にせめてもの勇気を。 手放さなくてはいけない幼かった2人の独り立ち。自分の腕を必要としなくなるときを恐れながら、どこかで祈っている。自分でも見る事の叶わなかった世界をどうか手に入れてと………… 静かに閉ざされたドアを捨て犬のように見つめる視線たちに気づかない訳もなかったけれど。それさえも一瞬のこと。すぐに子供達は自らの足で立ち上がれる。もう、後押しするくらいしか役に立たない腕を見つめて激は少しだけ淋しく……誇らしく笑い、固く指先を握りしめた。 しんとした室内。……いっそ先程までの追いかけあいの方がまだましな沈黙。 確かにこの距離ならさほど苦労せずに確かめられる。明らかな発熱の症状。当たり前に笑って、それに気づかないほど鈍感な訳がないのに、訝しんだ視線に本当に不思議そうな視線を返した子供。 ……………まさかと、息を飲んだ。 わかって、いないなんて。そんな筈がない。周りの人間の不調にすぐ気づくくせに、こんなハッキリとした徴候に本人が気づかないなんて………… 訝しみを確信に変え、囁いた。そうして確かめようと伸ばした腕は拒否された。大丈夫なのだと不快げに。 苛立ったとは、言わない。そんな感情以上に深く穿たれた痛み。 ………信用とか、それ以前の問題なのか。あまりに爆のなかには独りが根深くて、それを割り込むように声をかけても届く前に拒まれる。 恐れるように震えてしまう指先。けれどそれを晒して求めに応じて欲しいなんて思わない。 もっと、頼られたい。………大丈夫なのだと囁く相手ではなく、苦しいのだと息を吐ける存在に。 噛み締めるように握りしめられた指先を解き、ゆったりとカイは息を吸い込む。いま逃げてしまえば、元の木阿弥だ。沈黙を恐れている場合でもない。 言葉を紡ごうと唇を開きかけたとき、微かに響いたくしゃみの音。 伸ばしかけた掌が止まり、そっぽを向いていた爆の肩がまた少し、遠ざかる。 「やっぱり風邪引いているじゃないですかーッッ!!!」 「この程度、風邪だなどとは言わん」 慌てたような叫び声には冷静な一言。 周りが見たなら過保護な友人をたしなめているように見えても、事実は言葉通りでも態度通りでもない。 逸らしたままの視線が自分を言葉を信じていない事を知らしめているくせに、それでもなお意固地だ。 「どこがですか?熱だってでているし………!」 息も掠れている。普段よりも低めの声はどこか蟠るようで話しづらそうだというのに。 それでも何故そこまで…………? 勢い掴んだ肩から掌に伝わる体温は知っているそれよりも大分熱い。自覚症状が現れ始めたのか、あるいは先程の追い掛け合いで悪化したのか、呼吸も浅くなっている。 「病気の時くらい、頼って下さってもいいじゃないですか…………」 そんなにも頼りなくなど、ない。たとえ追い掛けている身であったとしても、それでもそれなりの自負はある。 苦しいときくらい肩を貸せる存在でいたいのだと泣きそうな声音が囁けば……きょとんとした瞳が不思議そうに囁きかける。 「いままでもこうしてきた。なのになんで気づく?」 言葉すら足りない。おそらく、自分が語っている言葉すらうまく理解はしていないのだろうぼやけた音。 ……………けれどそれはあまりに深く悲しい。 ずっと、その幼い身で苦しいときも誰にも知られる事なく耐えてきたのか。 それ故に、頼り方すら忘れたのか。否、頼るという言葉すら、覚えなかったのか…………? 零れ落ちた涙さえ、哀れみを誘う事を厭っている。ぬくもりに餓えているくせに、その餓えすら知らない肌。独り生きる事を刻んだそれはいたわられ思われる事に不馴れだ。 肩を引き寄せ、腕の中に閉じ込めてぬくもりを教える。心音が僅かに早まっているのは恐れからか……哀しみからか。 自分よりも細い肢体で、それでもなお過酷に生きる必要があったのか。甘えて誰かに縋れば愛され慈しまれて生きる事が可能だったはずなのに。潔癖過ぎた性癖が、災いしたのか。………このようにしか生きる事のできない生き物も確かにいるのかもしれないけれど……………… せめて気づくものでいたい。 気づいて……それが当たり前だと肩を貸せるように。それが普通に変われるように。 こぼれる雫を拭い、カイが不器用に笑いかける。 …………いたわられる意味を掴みかね、困ったように顰めた眉に口吻けて、その額に唇を寄せる。 せめてもの祈りの言葉とともに捧げられた癒しの術に、それでも縋った腕は無意識の産物。 …………それでもそれは、独り生きるようになってから初めて差し出した、甘えの腕。 というわけで久し振りのカイ爆〜!!! ごめん、滅茶苦茶楽しかった。というか、夜勤明けで書こうと思うのははっきりいってカイ爆くらいだ(きっぱり) ちなみに今回の小説は朱涅ちゃんのサイト移転記念。 ………いつの話だというツッコミのできる方、ちゃんと通っていますね! いや、本当の時期外しています。ちゃんと遅くなるとは宣言してリクいただきましたけど。 ちなみに気になるリクエストは! 「思わず周りが呆れるような凄いつまらない(下らない)理由で小競り合うカイ爆」 自分でリクしておいてこの人は私が苦手そうな内容だとのたまいました。 そして逃がさんとまで。私リクされたときにリクから逃がさないと言われたのは生まれて初めてですよ。 下らない理由での小競り合いではないですが、端から見れば犬も喰わん状態な二人。 ………また微妙なリク消化だな、自分……………… という事で朱涅ちゃん、返品不可で押し付けますv |
---|