柴田亜美作品

逆転裁判

D.gray-man

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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見上げればその人がいた。
自分よりも小さいのに、いつも見上げるような不思議な感覚。
それでも何故かなんて、解りきっている。

どこまでもどこまでも遠い人。
歩み寄ってもらえなければ近付く事もできない高処の人。

傍にいてなんて思う事もできなくて。
息すら奪われるほどに焦がれて。
それでもどうしようもないのだと諦観に襲われる。

くだらないと斬りつけた人。
伸ばす腕を恐れない人。
………拒絶すらせず、微笑む人。

何も与える事もできないこの腕で、それでもあなたを思い続ける。
それを苦しく思うのだと囁いたなら。
きっとあなたは顔を顰めるのでしょうけれど…………





彼方の影



 小さく息をつけば蒼天には白い雲。
 呆れ返るほど平和な姿にため息のような吐息は消え、次いで淡い笑みがもれる。
 これは、自分達が必死になって望んで手に入れた世界。出来るわけがないと、幾度となく挫折しそうな心を、たった一人の子供が支え続け実現させた夢の形。
 奇跡と冠するに相応しいそれが、時折意味もなく空しくなるのは……きっと、感傷なのだろうけれど。
 瞼を落とし空を見上げれば日差しが赤く見える。
 かつてこの身は旅をしていた。
 それは決して気楽なものではないし、安らげるようなものでもなかった。それでもどこまでも満ち足りていた世界。
 わかって、いるのだ。
 あの頃は当たり前だった事が今は当たり前ではない事実。
 それ故に今を空しく思ったり、過去を賛美したりする。………過去に縋るような真似はしたくはないけれど、それでも今の自分という立場にはあまりにあの頃は煌めいて見える。
 目が覚めれば傍にある気配。ぶっきらぼうで不遜な声。決して逸らそうなどとはしない不躾で深い瞳。たゆまぬ腕で未来を掴む潔いその背。
 忘れる事など出来るはずもない鮮やかな残像はいまもこの身を捉えて離しはしない。それでも、今は別離の果てという事実。
 「追いかけて………」
 いっそ、何もかもを投げ打って追いかけてしまえたなら。
 そう思わないわけでも……ないのだ。
 送る事のできない手紙を幾通したためたか解らない。簡単に通信が出来るくせにGCウオッチを師に預けてそれを自制したり。旗から見たなら滑稽な自粛は、けれど間違っているつもりもないのだ。
 それでも漏れる声は、本心で。
 …………あの背が見えたなら歓喜に震える自身を知っているから、苦笑しか浮かべられない。
 瞼の先に浮かぶ赤い日差し。それさえも打ちひして、毅然と伸ばされた背が浮かぶ。
 その視線や声音。存在の全てを思い出すとき真っ先に浮かぶのは揺るがないその背。……いつだって、その背ばかり見ていた気がしてならない。
 自分よりも幼く細いその背が、決して崩れることのない城壁にすら感じていた自身の腑甲斐無さを今さら嘲笑っても仕方ないのだけれど。
 「なにを?」
 漏れた声には問いかけの音。
 ………一瞬聞き違いかと聞き流し、けれど感じた気配に息を飲む。
 本当に、何一つ自分の思い通りになどならない人だ。
 解っていた事だけれど、そんな当たり前の事を思う自分に小さく笑う。
 「多分、あなたの思う通りの答えですよ?」
 あえて明らかにしなかった答えに少しつまらなそうに眉を顰めた。それは視界に映さなくても解る仕草。
 うっすらと瞼を開けて日差しを見つめる瞳は眇められていた。
 長い耳が揺れ、その声音を求めるようにゆったりと振り返る。
 「お帰りなさい、爆殿。今回はどれくらい滞在されますか?」
 切なさも憧憬も。
 渇望も苦痛も。
 どれほどの意味も価値もないのだと知らしめさせる一瞬の間。
 ただその人が目の前にいるというだけの、小さな小さな事実。
 それを噛み締める為の一呼吸。それを侵さず、共有するように瞬きを落として息を飲む。
 そうした後にさらされた希有なる声音。
 決して他のものには真似などできない、彼だけの音。
 「さあな。長居はできんだろうが………」
 出来る限りはと言いかけて、希望を持たせない為にそれは途切れる。
 逡巡するかのように視線を巡らせ、吐息の底に続きは消えた。出来るか解らない約束をする事を好まない彼の、ほんの少しじれったい癖。
 たった一言。約束としてではなく願いとしていってくれたならどれほど自分が喜ぶかなど、きっと考えた事もないのだろう。己というものの価値はどこか見誤っている人。
 「僅かでも構いませんよ」
 だから、かもしれない。
 自分もまた願ったり望んだり、そういった事がひどく不得手だったのに、こと彼に関しては随分と……素直だ。
 「……あなたと一緒にいられるなら、それだけで…………」
 他の何も望みはしないから。
 小さく笑って誠意のみで示される音にどこか鹿爪らしい顔を乗せる幼い面。
 まっすぐに捧げられる音の心地よさに酔ってはいけないと、まるで自制するかのような仕草は少し……心痛い。
 それを払拭できるならどれほどいいだろうと思い、絶え間なく伸ばされる腕を、決して拒みはしない小さな肢体。
 「………桜茶がありますから、飲まれますか?」
 細い身体を抱きとめて、緩やかな音を吐き出す。決して脅えさせないように。
 求める物は多分、滑稽なほど小さな事。
 ただ心安らかに。
 ………あまりに当たり前で願いだというにはちっぽけで。
 それでもそれがどれほど実現が困難か、自分達はきっと良く知っている。
 だから願いを込めて桜茶を。

 仄薫る春の茶を分け合って、契りを忘れずに。



 また、離ればなれの日常を乗り越える心力を交えて、今はただ傍に。






 40分で書き上げた私を褒めて下さい。
 遅番で早番というシフトは家でなにもやる時間がないですよ!(汗)
 睡眠時間削っても大丈夫なくらい普段から睡眠とってはいますけどね…………

 初めに考えていた話ではどう考えても確実に今日中に書ききれないと思ったので、変えちゃいましたv
 本当は会えない期間の間さえ愛しいものなのさ、という話だったのですが。
 まあいいや。これはこれで(笑)

 ちなみに桜茶はみなさん知っていますよね?
 縁起のあるお茶で、塩漬けした桜に白湯を注ぐだけの物です。
 お茶を濁さないと言う事で婚礼の時とかお見合いの時とかに好まれていた物ですよ(笑)

 ではこれはお持ち帰りフリーで!■配布終了■
 新サイト設立記念の引っ越し蕎麦ならぬ引っ越し小説ですよ。
 まあ今日(3/1)なので何があってもとりあえず書く気でしたが。
 他のジャンルは少々お待ち下さい〜。
 アーミン系はとりあえず書きますよ。