柴田亜美作品 逆転裁判 D.gray-man 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
どうして、とか。 星屑の涙 たまたま、だった。本当に偶然赴いて、そうして、多分必然的に顔を合わせたのだろう。 お互い始めは目を丸めて。………言葉に一瞬詰まって。そうして差し出されたのは、満面の笑み。 「久しぶりじゃねぇか、爆!」 開口一番に響いたのは懐かしいんでいるとも喜んでいるとも取れる弾んだ音。 その圧倒的な好意に爆は小さく苦笑し、頷いた。 「相変わらず元気だな、お前は」 「あったり前だろ。じゃなきゃジャングル飛び回るなんて出来ねぇよ」 今はもうゼロの樹の毒素によって生まれるトラブルモンスターは激減して希少だが、それでも危険な野生動物もやはりこのテンパが最も多いのだ。身体こそが資本の働きをしているのだから、いつだって健康体でいなければいけないのは義務でさえある。それはお前もだろうと揶揄する事さえない健全な笑みは無邪気とさえ言える喜びに染まっていた。 随分長い事、会っていなかった。多分それは他のGCたちもだろうと、思う。 眼前の子供はもう、子供と括るには失礼なほどの偉業を成した小さな覇王だ。それでも近しかった日々がそれらを払拭し、変わらぬ親しみを捧げさせる。それにほんの少しの安堵を、多分覚えているのだろう子供は僅かに歩を進め、幾分離れていた距離を縮めた。それはそのまま、僅かに硬直していた意識を緩めた証でもある。 そうして小さく笑いながら、不意に気づいたように爆は空を見上げた。 そこは赤く染まった夕焼けが鮮やかに広がっていた。美しく荘厳な気配はいま暫く続くだろう夕闇を思わせ、しっとりと空を潤わせていた。 もうあと少し、夜まで時間のある微妙な時刻。この国を出て赴くであろう土地までの距離を考えたなら、よい頃合いなのかもしれない。 そうだとしたなら、迷惑なときに 「………先を急いでいる途中だったか、もしかして」 どこに行くと明言は避けた問いかけに含まれるものに気づいてハヤテは目を瞬かせた。次いで、夕焼けに染まった顔を僅かに俯かせてしどろもどろに言葉を紡ぐ。 「いっいや?べつにその……そんなこともねぇし、えっと……、待ってるってわけでも…ねぇし。だから、あー、うん、平気?」 最終的になんと言えばいいのか解らなくなってきて、逆に爆に問いかける顔はどこか心もと無さげで幼かった。体格的に恵まれ、精悍な顔つきに生まれながら、それでもどこかこの鳥はその身に宿すものが清く幼いままだ。 それに吹き出すように軽く笑い、爆は苦笑した。心底困った顔は自分にも会いたかったのだと明確に示していて、けれど同時にこれから会いに行く相手も疎かには出来ないのだと訴えている。 真っ直ぐすぎる願いは、けれどだからこそ、汲み取られて呵るべきなのだと爆は笑う。 「平気かどうかは知らんが…俺も久しぶりに会いに行くか」 それが一番スムーズに事が運ぶだろうと提案してみれば、華開いたのは鮮やかな笑み。 「いいのか?!」 明るく弾んだ声音はまっさらなほどに真っ直ぐに。そうして弾けんばかりに溢れる喜びに染まった笑みは惜し気もなく満開に。………鮮やかにその背に舞う羽根が広がった。これから訪れる闇夜さえも包むだろう、鮮やかな蜜色の羽根。 頬の傍に漂い落ちたその羽根の残り香を視線で追いながら爆はこれからハヤテが向かうはずである方角に足を向けた。それに従うハヤテの気配は上機嫌だ。思い人に会いに行くのに自分が一緒では邪魔だろうにと不可解にも思うが、上辺だけあわせているわけでないことは明白なので敢えて問いかけはしなかった。 道々ハヤテは色々な話をしていた。近況報告の合間に黒衣の少年の話もよく混ざる。それだけよく会いに行っているという事なのだろう。話を聞きながら、不意に浮かんだ影を沈めるように爆は瞼を落とした。 それは一瞬の事で、決して鋭いとは言えない鳥が気づくにはあまりに些細な仕草だった。 それなのに、不意に止んだ声音。 静謐の支配した空間に、ただ足音が響いた。 ジッと頬を見つめる視線が痛かった。問いかけるその視線の含むものが、あまりにも自分には解りきっていたから。 はぐらかしてしまえばよかったかもしれない。それでも、それは自分から遠ざけるにはあまりに自分が思い過ぎており、彼は有耶無耶にするほど大人ではなかった。 僅かな沈黙の間。足音が響く。それは同時に近付いてくる夜の音。静寂の足音とともに夜の帳は静かに舞い降りてくる。ゆっくりと暗がりを増やす空に反比例して、間近には輝く羽根。 言葉を発する法を忘れ果てた喉が呼気を漏らすと、ぼんやりとした声が不意に響いた。 「夕日、終わっちまったな」 感慨深気な声は深くて。……深過ぎて、弾けるように視線を彼に向けた。 まるでそのまま消え行く事さえ当たり前のような、声。夜がくれば潰えるのだとでも言うかのように、それは空恐ろしいほど静かな音だった。 微かに凝固した子供の視線を受けて、小さくハヤテが笑った。先ほどのような全開の笑みではない、微かな思慮深さを覗かせる、笑み。 「俺はさ、夜が好きなんだ」 「……………?」 「夜はあいつがいるし、真っ暗でも、俺の羽根はちょっとは明るく出来るだろ?」 誰かの為に、ではなくて。…………たったひとり自分の決めた人の為に出来るなにか。 それは数多くあるように見えながら、とても少ないのだ。押しつけではなく相手が願い望んでくれる事など、それこそ一つあれば運がいい。真に必要なモノを求めてくれるという事は、それだけの信と思いを与えられている証だから。 「お前は?」 静かに、ハヤテが問いかける。深く幼い問いかけだった。飾り付けることが出来ない、不格好なままの原始的な音。 すとんと、その音は胸に落ちた。問いかけは、多分自分自身が発した音だった。 「…ぁ……………」 掠れた呼気に近い音が漏れ、爆は慌てて唇を噛み締めた。 会いたい、なんて……思いたくはなかった。思う事で枷となることが嫌だった。違う道を歩んでいて、自分は留まる事も出来ないほど奔放で。……………だからこそ、彼の足枷にだけはなりたくなかった。 身勝手な願いだという事は解っている。 それでも祈ってしまった。自身に課してしまった。会わないままでもいられるように、と。 そう思う事こそが特別など、囁く声には蓋をして。毅然と立ち続ける事だけ、守り続けていた。それはまるでボロボロになった宝物を守るような、そんな儚い努力だったけれど。 「なあ爆、会いたいって、当たり前の事だろ」 鳥が笑う。軽やかに、幸せそうに。 「でも」 真っ直ぐなその視線を躊躇う事なく捧げて、さえずるのだ。 …………どうかと、祈るように。 「そういう奴を見つけられるのは、当たり前じゃないんだろ?」 言葉にする事は簡単なのだ。口先だけでよければいくらでも運命なんてものは手繰れるだろう。 けれど違うと知っている。自分達は少なくともその荘厳さも尊さも知っている。そうして無意識の自覚が浮き彫りになっていく不可解な感覚。 愛しさとともに湧くのは、誇り。 己の存在を賭ける事の出来る相手を見つけだした事と、その相手が同様に自分を思ってくれる事。奇跡と言えば軽々しい必然。 「なあ、お前は?」 問いかけは優しい。包むように、注ぐように。 それは導くのではなくその手に抱える本当を見てみろと、笑っていた。 固く、爆は目を閉ざした。願う事は縛る事でもあるのだと、解っているから。 それでも同時に知っている事もある。愚かしくも、自分は願われたいと、思っているのだと。 矛盾は、同時に独占欲だと解っているから、閉ざしてしまいたかった。 そんな浅ましさ、消してしまいたかった。 けれど羽根は謳う。…………尊いのだと、笑う。 何一つ穢れていないのだと、その思いの本質は至純のままなのだ、と。 さえずり謳うその声に、爆は笑った。小さく、眉を寄せて。 「そう………だな」 微かな音で答え。空を見上げた。 今はもう空は茜を過ぎ、濃紺が色濃く支配をはじめている。その僅かな隙間に残された日差しの赤を、目を細めて見つめた。 鮮やかな赤を、思い出して。 小さく開かれた唇が綴る名に耳を澄ませ、ハヤテは笑った。 会いたければ会えばいいのだと、なにに支えられるでもない当たり前の願いを呪文のように唱えながら。 どこか遠くで星が流れる。 願いを聞き入れる仕草のように…………… というわけで。ハヤテデッド&カイ爆前提でハヤテと爆でした。 やっぱこの二人、なんだか兄弟のようだ。 そしてかなり一方的にハヤテが慕っている気がしてならない(そしてそれを仕方ないな、と許しているようで) 一応去年の誕生日小説のハヤテ&カイの方と微妙にリンクしている設定ですわ。もっともこの小説を持っているのは恵ちゃんだけだけどね(もはやプリント出来ないので私も持っていない) 前に既に続きは書いたけど、ハヤテが同じようなこと爆に言った場合、という感じで。 会いたい時に会う、という意識が悲痛なくらい真っ直ぐなのは彼だと思うので。 こんな作品だが、一応誕生日プレゼントだ! 逃げずに受け取って下さいませ。 |
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