柴田亜美作品 逆転裁判 D.gray-man 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter | 目を瞑ると鮮やかに映る幼い思い出。 彼はまっすぐにただ前を見て歩んでいた。 その背に追いつきたくて…追いつけなくて。 歯痒くて仕方なかった。 やっと……追い掛けられる。 長かった別離が終わる。 嬉しさに胸が弾む自分を、彼はどんな顔をして迎えてくれるだろうか………? 彼はいつも必死になって追い掛けてきた。 伸ばす腕はあと少しという所でいつも自分は先に進んでいた。 それを厭いもせず…諦めもせず。 ただ無心に追い掛けるその姿。 だから約した。……追いつけと…願った。 この長い時間の間彼が本当に追い掛け続けているかなど知りはしないけれど……… 不朽の約定 少年は息を吐き、日の暮れた森の中で薪を拾った。 もう少し、早くに里に出る予定だった。思いのほか未開の地というのは不便で、想像よりもかなり足留めを喰らってしまった。 まだ誰も人の入り込まないこの森は、針の塔が消えたことが影響したのか…あるいは眠り姫の大樹が成長を促進させたのか判らないが、突然出来た大地の1つだ。 そうした未開の地を歩み、危険がないかを調べ不便のないように道をどうつければいいかを考える。それがいまの少年お仕事だった。 肩で豪快に寝ている聖霊を見ながら、少年は仕方なさそうに苦笑する。 ………今日はかなり彼にも働いてもらった。 いつもならそれほど凶暴な生物はいないのに、今日はその当りばかりが引かれた。 重い息を吐き出し、泥のように疲れた身体をそれでもしっかり歩ませて野宿出来るポイントを探す。 途中川を見つけ、血に汚れた顔を洗った。……その振動で起きたらしい聖霊が嬉々として川の中に飛び込んだ。 「バッ…!!ジバクくん!なにをやっている!」 咎めた少年の声に聖霊はニッと笑って小さな手で水を掬ってかけてくる。もっとも、体格の差からいってそんなものはほとんど意味をなさないが。 それでも楽しげな聖霊を見て、ふうと少年は息を吐いた。 もう、日も暮れてしまった。あれこれと歩き回るよりは、この近くに決めた方が利口かもしれない。 そう考えて少年は上着を脱いだ。ほつれた袖や切り裂かれた肩を見て、もう着れないと憮然とする。 怪我は大したことはないが、どうも紙一重で服を掠めることが多い。……それは多分、このところ見る夢が原因であろうと思うけれど。 それを思い出し、少年はまた息を吐き出す。 ………そんな女々しいことを認めたくはない。 認めたくはない、が……。それでも否定出来ない自分が情けなかった。 無敵であった子供は大人になるとなぜ無敵でなくなるのだろうか………? そんな理不尽なことに軽い怒りを持ち、少年はシャツも脱いで傷口に水をかけた。なにか腹立たしかったり、思い悩んだりした時はこうして身体を刺激させる。反射的に考えることを忘れられるから。 それを数度繰り返し、思考をクリアーにしてから…少年はゆっくりと息を吸い込む。 片手だけでまく包帯は、随分と上手くなった。 幼い頃はいつも一緒にいた仲間がしていてくれたけれど…一人となってからは全て自分で行ってきたから。 そんなことが上達するくらい、時間は流れた。 まだ追いつかないと少しだけ胸の中に残る子供がむくれる。 …………早くしろ、と。急かしてまだ遠い腕を無理矢理引き寄せたくなる時があった。 そんな真似をしたところで、結局自分達はまた互いに納得して自己を研摩しにいくのだろうけれど。 新しいシャツを着込み、少年は遊び終えたらしい聖霊を呼び戻すと当りを見回した。 寂しい考えに陥って、ぬくもりが欲しくなる。慰めるように頬に近付く聖霊に笑いかけ、少年は川を後にした。 川から大して離れていない所に、ちょっとした草原があった。 1部屋程度の広さだが、寝床としては十分な場所だ。荷物をおろし、少年は聖霊を肩から地面に向かわせた。 当りを見回し、気配を探るが少年は特に危険はないと判断する。 持っていた薪を並べ、荷物の中から火種を取り出す。もう手慣れた野宿の準備。 ぱちぱちと弾ける火を見ながら、膝の上によじ登ってきた聖霊に少年は声をかける。 「……なあジバクくん…。あいつらに…会いたいか?」 一人旅するわけではなく、このパートナーがいる。それだけで随分と救われている。 最初、一人の旅がこんなに寂しいとは思わなかった。針の塔を目指していた時だって、途中からは一人だったから。 けれど思い知る。あの時は皆が自分の歩いた道を辿ってすぐに追いつくという保証があった。……安心があった。 なにもないいまは……ただ振り返ることも怖い暗闇だ。 それでも自分の選んだ道だから、手探りのまま少年は旅を続けた。 ただ……一つだけずっと心に引っ掛かるものがある。 追い掛けると……約束した者がいたのだ。共に生きたいといい、自分の力を手に入れたなら……世界を一緒に回ろうと。 その約束はまだ果たされない。忘れられているわけは…ないと思う。 彼は珍しいほど律儀で約束を破らない。………だから、自分は選んだのだ。 彼は決して自分の腕を裏切りはしないから。 家族のいない痛みの中、生きてきた自分達。その傷を舐めあう真似なんて互いに出来ないけれど。 ………それでも相手を気遣う心はほっとするのだ。 そんな切なさを瞳に映る火に宿し囁く子供に聖霊は小さく鳴く。 無理なことではないのだ。会いにいくことは。……ただそれは互いに交わした約束を信じていないようで気が引けた。 慰めるようにすりよった聖霊を手の平で包み、一緒に寝ようと囁いて子供は毛布を被った。 腕にはめたGCウオッチを見ながら、少年は溜息を吐く。 ………一体、彼はどこに行っているのだろうか。 やっと、許可をいただいたのだ。厳しい師匠は親心もあってか修行に私情は介入させない。 だからこそ無心に上を目指せるのだが、今回ばかりは少し恨みたくなった。 会うことどころか…通信を取り合うことさえ禁じられたのだ。この数年間、彼の情報はたまに来る少女がくれるものくらいだった。 いまさらもう……追掛けたって意味はないかもしれない。あの輝く子供はきっと世界を回る間に色々な人に思いを寄せられただろうから。 そんな中幼かったちっぽけな自分が選ばれ続ける自信ははっきりいってない。自分で思ったことに深く傷付き、痛む胸に苦笑する。 それでも、信じている。 子供はまっすぐに人を見つめることのできる人だったから。 何の連絡もしないで約束を反故にする人ではない。 だから、探している。子供の反応があったのは確かにこの森の中だった。 ……が、磁場が悪いのかなかなか映像がはっきりしない。 もうすっかり日も暮れて、猛禽類の光る目が見える。静寂の中、川の流れる音がして少年はそちらに足を向けた。 ずっと走り続けてきたせいで喉が干上がっている。大きくはない川の水を掬い一口飲み込んで少から、年は頭からそれを被った。 ………悪く考え込むのは自分の悪い癖だ。なにも考えず、ただ彼と交わした約束を信じて駆ければいい。 落ち込んだ顔を引き締めるように頬を両手で叩き、少年はニッと笑った。 後少し……きっと会える。 理由もない自信を胸に、少年は再び森の中を歩き始める。 遥か昔に交わした約束。 それを胸に、再び交わる互いの道。 ゆっくりと…その時は近付く。 ……微かな灯火に惹かれて…足を向ければ。 雨をたたえたまま眠る少年は立ち尽くす少年に気付いて目をあける。 ………………月も見れない逢瀬。 抱き締めあう腕の確かさに…濡れた瞳は瞬いた………… シリーズと化しているなー。『いつの日にか』の続きです。 やっとこいつら一緒にいられるんかい。 ………それだけのために何年費やしたの?? 本当に妥協しない子たちだわ(苦笑) 今回は本当は詩で書こうと思ってました。 まっている間の切なさっていうのをテーマに。 ………無理。そんな簡単にまとまりません。 なので結局小説に。 ……情けないなー……… |
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