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柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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傍にいる事が当たり前。

離れている事が当たり前。

どんな当たり前さえ無関係。

ただ繋がる絆の存在。



………微笑める奇跡に祝福を。





凍える先にぬくもりを



 小さく息を吐いてみれば、僅かに白く色付く。
 思った以上にここは気温が低い事を認識し、一瞬身震いしそうになるのをなんとか気力で耐えた。
 それでも肌を這う冷気に、凍てつくように固くなった身体に気づいた肩の上の聖霊が、僅かに身体を傾けて顔を覗いてきた。
 それに軽く笑いかけ、気に病むなと示すように左の指先で丸みあるその肢体を突きあげる。
 子供の乱暴な指先に少しの非難とともに鳴いた声には、安堵の色。
 ………聖霊はあまりこういった気候の変化に敏感ではなく、どこであっても耐えられるようにプログラミングされている。
 それ故に正確にはこの子供の感じる寒気を知る事はない。それが申し訳ないなどと思う事で、相手の負担となる事を知っているからおくびにも出さないけれど、それでも出来るのであれば自分も同じくそれを感じたかった。
 寒さが解らなければ、あたためる事も出来ない。分かち合いきれないものがある事くらい知っているけれど、ほんの少しの不満が、がらんどうの身体の中を満たした。
 それに気づかないわけもない聡い細き指先は、吹きかけた寒風さえあたためるように微かな笑みを乗せ、ぬくもりを求めるように肩に乗る小さなまろみある身体に頬を寄せる。
 そうする事であたたまる事はお互いに共有出来るのだと、そう囁く仕草に、風に溶けるほどの微かさで溜め息を落として、聖霊はその背を柔らかな頬に押し付けた。
 全身を使ってもその顔の片頬しかあたためる事の出来ない小ささを、僅かに呪いながら。
 「………わざわざ付き合わせて悪かったな」
 吹きかけた風の音と同じほどの微細な振動で紡がれた音に、聖霊が怪訝そうな視線を向けた。………一緒にいるのが当たり前なのだから、悪かったと、そう言った意図がよく解らない。
 それに気づき子供は苦笑した。
 …………言うべき相手を間違えた、と言うよりは、酷似した仕草につい零れてしまったといったところか。
 それに気づき、むっと眉間に皺を寄せる。
 腹立たしいわけではないけれど、面白くはない。傍にいるのに他のものを想起されて、楽しいわけがない。
 それでも………解ってもいるのだ。
 今ここにいるべきはずの存在を。
 自分ではダメと言うわけではなく、自分だけではほんの少し、足りないなにか。
 全てを充足させるには僅かながら欠けてしまっている。それが歯がゆく口惜しい。…………自分一人では満たせない部分がある事は確かなのだから。
 微かな返答は肯定とも否定ともつかない鳴き声。その内に響く不貞腐れた幼い音色を包むように、細くしなやかな指先が捧げられる。
 いつだって包んでくれるのはこの指先。この与えてくれる指先と同じように、自分の小さく丸められ続けた指先は子供を包む事はなく、髪を梳く事も頬を撫でる事も出来はしない。
 ………開くその時は粛正の時。子供を律する事などあるわけもないのだから、子供に向かって開かれる手のひらは存在するわけもない。
 いたわるように撫でる幼い指先に甘えるように頬を寄せ、ゆったりと瞼を落とす。
 子供の肩に乗る聖霊に伝わる振動のリズムは、崩れる事はなかった。淡々と、痛みすら当たり前に受け入れて子供は歩いている。
 寒い寒いこの道。
 出来ればその指先をあたためる者とともに歩んで欲しいのに。それは今は遠い場所で離れ離れ。
 ……それがいっそ腹立たしく思う時もある。
 子供が血に塗れた時さえ知らずに安穏としているのかと、憤る事もある。
 それでもそれに口出しなど出来るわけがない。
 認めたのは、子供。
 願ったのもまた、子供。
 互いに同じ道ではなく、それぞれの道を。追いかけるのではなく、並ぶ事を。
 同じ場所の遥か高処ではなく、別の道を同じ高さ、ただ少し先に進んで佇んでいるだけであるように。
 いつだって己を卑小に見ては、追いかける事に息も絶え絶えな愚かな少年を、諌めるように包むように子供は光明を示す。
 痛ましいと思う自分は、あまりに子供の味方過ぎるのだろうとも、思う。
 それでもいまこの姿を見たなら、誰もがそれを思うだろう確信もまた、あるのだ。
 小さな小さなその身体。細くしなやかと言うには未だ伸びきらない手足。それらを気力という見えるわけもない何かだけで、常人からは想像すら出来ない力を宿らせて立ち続ける、異端であり続ける子供。
 周りから一歩離れた場所から、それらに交じる事なく、それでもそれらを馬鹿にするのではなく愛しんで……守る為に一歩の距離を保つ切なさを身につけた赤子。
 もっと鮮やかに清らかに華開く事を約束された筈の魂は、痛みと傷を知っているが故に、それを晒さず人に与えず生きる道を学んでしまった。………己一人が傷つき全てを守る、幼く利己的な………深すぎる慈悲。
 それは悲しくも美しい光で子供を包む。そうであるが故に煌めく命であっても、傷など負っては欲しくない。
 …………微かな鳴き声の中、含まれる祈りの音。
 肌を震わせたその音に小さく笑み、子供は道を急ぐ。
 会いに来たのだと、それに告げる為に……………。


 それはちっぽけな墓石だった。否、墓石と言うには正しいモノではない。
 そこに埋められているのはかつての針の塔の欠片であり、宇宙へと飛び立つときに残された異文化の残り香。
 それらは一種の禁忌を孕んだ事物であり、今のこの星には過ぎるテクノロジーを生み出す。
 話し合い、埋めたのは全員一致の意見だった。進み過ぎた科学が生み出すモノは碌でもない事が多い事くらい、嫌になるほど目の当たりにした子供たちだったからこその潔い決断。
 そうしてそこには……一緒に埋められたモノがある。
 果たしてそれが、正しく自分の思い描いた者を示すものなのかは、正直なところ子供自身にも解らない。
 それでも………たった一枚、奇跡的に残されたそれを、微かに震えた指先で、自分は埋めた。
 それは鮮やかな記憶。背に突き刺さる全員の視線すら克明に覚えている。誰もが何か言いたそうで……それでも言えないと唇を噤んでいた。
 両親なんて、知りはしない。
 その写真に写った者が父親とは限らない。
 そう言い聞かせながらも溢れる涙を覚えている。
 …………苦しい息の下、決別ではなく再会の為に、眠る故郷の欠片とともにそれは地中深くに佇んでいる。
 そこに植えた種はいつの間にか芽を出し、この辺り一帯を美しく染めている。もっとも、寒さの強くなった今の時期、見えるのは冬眠中の動物のようにひっそりと息づく気配だけだけだけれど。
 たった一枚残っていた、この手に与える為に舞い落ちたかのように佇んでいた写真。それをどうすべきかなど解らなかったのは確かで、けれど同時に確信に満ちた思いで舞い散る花弁を見上げた。
 母が今もこの地を守っている事くらい、解っていた。そうとは知らず随分失礼な態度をとったけれど、それはお互い様だ。決して彼女は自分に親だなどとは名乗らないだろう。
 負い目とは違い、ただ彼女は悟ったのだろう。それが弟との違いか。
 父も……また自分も。決して何かに括られのうのうと生きれる類いの生き物ではないと。女特有の勘のよさ故にその奔放を許し認め、その背を手繰り寄せるのではなく見送る勇気を携えた、潔き高潔の人。
 この世界のどこにも、二人をもう繋げあわせる事は出来ない。その身すら残さず守る為に消え去った者と、その身を植物へと捧げ地母神となった者。
 だからせめて……二人の形代を同じ地に。
 …………感傷だと解ってはいたけれど、湧きいでた思いを止める術もなかった。
 「………………」
 無造作と言うに相応しい無遠慮さでその地を眺め、ゆったりと足を踏み入れた。
 ここに来るのは春と冬。春は元GCが集まり久しぶりの逢瀬を楽しむ為に。
 冬はひとり。………花開くにはずっと先の姿を見つめ、挫ける心を叱咤しに。
 肩から囁きかけるように小さく鳴く声が聞こえる。いたわると言うより、物思いに耽ったような音。きっと彼は知っているのだろう。自分を生んだあの少女とさえいえる人を。
 それに問いかけるような真似はしない。感傷は人それぞれだ。己の為にその崇高な時間を壊すような不粋さは好まず、緩やかな歩調のまま眠る花園を一巡りした。
 今はひっそりと枯れ果てたように眠る姿も、春には芽吹き鮮やかな花弁を誇らしく広げる。
 …………迷いや苦悩さえ、いつかは美しく咲き誇る日が来るのだと、そう示すように。
 怯えたり恐れたり……そんなものとは無縁でありたいと思いながら、それをなくしたいと子供は思わない。
 それらを受け入れ認めた上で、踏み越え前を進む意志をこそ望む。
 尻込みする事なく信じる夢を突き進む為の拠り所を求めるのは幼さか、あるいは夢だけを糧に生きる事の出来ない大人の仕草か解りはしない。
 ただこの地に寒風とともに訪れると不意に浮かぶ影。
 ………苦笑を柔らかく溶かした唇を微かに開き、その名を呼ぶように蠢かす。もっとも、それが音を伴って紡がれる事はないけれど。
 「……行くか」
 帰る地は今はない。旅に旅を重ねるような暮らしを敢行しているのだ。当然と言えば当然だ。
 だから自然、帰るという意識は消えていく。
 それでも不意に湧く郷愁に伴う影。それを知っている聖霊は、己の我が儘のように振舞ってそれを叶えさせようと心砕いてくれる事も知っている。
 それでも大丈夫。………この風景は十分な糧になる。
 共にある事ではなく、遠く離れる事でもなく、それでも残され紡がれゆく絆の存在。

 信じるには十分すぎる廉潔な命たちの軌跡を前に、子供は深々と頭を下げた。








 今回はシスターではなく天で。
 しかも久しぶりだというのにカイは影だけの出演。
 ………ごめん、無性にジバクくんが書きたかったの。
 時折カイより好きなのか自分、と聞きたくなる事があります。悩むあたりそうだったりして(笑)

 今回の冒頭部分は拍手絵に使った文です。イラストのカイと爆の穏やかさはうちの雰囲気だよなーと思いつつ。
 相変わらず子供らしさのない人たちです。まあこんな10歳児もいるさ、きっと。

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