どこまでも透き通った青空。
……あいつはまるでそんな空のなかにぽつんとまぎれた雲のようだった。
どこまでも異質で、混ざることがない。
そのくせ、なぜか周りをひきだたせ、よりその魅力を強調できる。
そんな捕らえ所の無い雲のようだと、感じたのだ――――――……。

 

その心さえ信じた証

 

 今日はとても天気がよかった。雲さえもない蒼天は鮮やかな太陽に照らされて目に眩しいほどだ。
 見上げた空の美しさに爆の口元も綻ぶ。横ではジバクくんがコロコロと転がりながら坂下りを楽しんでいた。
 とても平和な一日だ。もう昼も過ぎているというのにトラブルコールも鳴らない。
 平和で退屈。……そんな時、ふと思い出してしまうあの顔に爆は苦笑した。
 気にしているつもりはない。意識していると言われてもあまり嬉しくない、おそらくは自分の野望には障害でしかないだろう相手。
 ……そのくせ、誰よりも先に自分を認めた不思議な男。
 出会ったのはたった一度。周りの者の言う情報の方が多いような、そんな遠い関係だというのに、
 なぜ自分達はこんなにも相手が気になるのだろうか………
 ――――否。
 (違うな。オレが、か……)
 出会ったのはたった一度。相手が果たして自分のコトを思っているかなど判りはしない。
 爆の口元に再び苦笑がのぼる。
 ……ただそれでも知っている。
 相手が一目で自分を認めたことを。
 そしてその証を与えたのだ。この国にたった一つしかないかけがえの無いものを……
 それは自分にとって、おそらくは最高の贈り物。
 ……かけがえの無い存在を、与えてくれたのだ。
 そんな爆の考えを看破した訳もないのだろうが、転がっていたジバクくんがぴたりと止まった。
 坂を駆け上がってきたジバクくんが爆の元まで近付き、その手の上に乗る。
 それに気付いて爆は声を掛けた。
 どこかしら楽しさを匂わせながら……
 「全く……。お前はいつもそんなで、よく炎のやつと気があったな」
 自分のようにその行動に突っ込みを入れるような人間に見えない。それとも、ジバクくんがネコを被っていたのだろうか?
 どちらにしろ端から見ていたらおかしなやつらだったんだろう。
 それを見てみたかったとも、思う。
 あんまりにも自分は炎を知らない。
 そのくせ、その背ばかり見せつけられる。
 ……ハッキリいって面白くない。自分の夢の為にも、誰かの背が目の前をちらついているのは困るのだ。
 早く、少しでも早く。炎を追いこしたい。……せめてその隣に立ちたい。
 同じものを見て、あの余裕に満ちた顔を崩したい。
 憧れてなどいないのだ。崇拝などする気も起きない。
 ただ、あの遠くを見る目がなにを写しているのか、知りたかった。
 ……判りたかった。
 そして言ってやりたい。自分もまた、お前を認めたのだと。
 そう言ったなら、あいつはどんな顔をするだろうか…………?
 苦笑してそうかと言うだろうか。
 子供の言葉と取り合わないだろうか。
 「…………………」
 珍しく弱気な発想に爆の口元が歪む。
 たとえそうであったとしても…………
 爆は静かに空を見上げた。
 そこには一面の青空で、彼に似ていると思った雲は一つとしてなかった。
 それを微かに寂しく思っている自分に苦笑して爆は視線を下に落とした。
 視線の先にちょこんと大人しく居座るジバクくんに、爆はどこか笑みを含む幼い声で訊ねた。
 「お前も、会いたいか?あいつに………」
 笑って言った言葉に、なぜか曖昧にジバクくんは頷いた………

 その意味も爆は知らなかった。
 ただひたすらに聖霊はそのパートナーを思っていた。
 絶対的な裏切りが、その心を引き裂くと知っていたから。
 ……そして、自分は創造主を裏切れないと、知っていたから―――――。

 辿り着いた針の塔。
 数多の思いをその身に焼きつけて、爆はその人と対峙した。
 沸き上がったのは、一体なんだったのだろうか。
 嬉しさや喜びなどという、馬鹿馬鹿しくも軽いものではなかった。
 疑念疑惑。淡い期待と絶望的な予感。
 ……口元が、引き締まった。
 遥か彼方で嵐の音がする。
 けして…その耳に聞こえることの無い、嵐の鳴き声。
 それが意味する事実を爆は知っていた。………そして、認めたがらない愚かな自分も知っていた。
 耳を塞ぎたい衝動にかられる瞬間。
 ………開かれた彼の唇。
 穏やかと言ってもいいほどの静かな声音。
 与えられた、隠す気すらない彼の真実。
 不思議そうな瞳が爆を射抜く。
 ……思い上がっていたのだろうか。
 彼を判っていたつもりになっていただけだったのだろうか。
 ――――ただ嬉しかっただけだったのだ。
 幼い自分の言葉をそれでも本気で受け止めてくれたと………
 彼にとっては違ったのか。意味などなかったのだろうか。
 ……自分はこんなにも泣きたいほど苦しいのに。
 悲しくて辺りも構わず慟哭したいというのに………
 彼の目は醒めていた。
 ただ狂うような思慕を向けている。
 初めて会った時に感じた、自分をただ認めている瞳。
 ………その目に自分は映っていない。
 自分の後ろに、彼は誰かを見つめている。今までの言葉さえ、本当はその誰かに向けられていたのだ。
 そんなことさえ気付かなかった。
 ――――自身の愚かさに嘲笑すら湧かない。
 ……それほどに傾斜していた。
 それを認めたとしてももう、遅い。
 憧れなど粉みじんに壊された。……彼は自分を侮辱した。
 それだけではない。
 爆の友人達の不幸の全ては、元を辿れば彼に辿り着く。
 友人たち全てが、彼を思い、その存在を支えとしていたというのに……
 その思いさえ彼には届かない。
 気付かれも、しない。
 ――――――……許せない。遣る瀬ない………
 爆の腕のなか…冷たくなった聖霊を見ても、彼は自らに従わなかったことしか口にしない。
 長い間共に居たかつてのパートナーさえ、道具でしかなかったのか。
 流れる涙は相棒の死に対してだけではない。
 そこまで狂っていた炎へのモノも、あったのだ。
 それさえ、今は気付かれることはないのだろうけれど………
 流れゆく雫は確実に自分を蘇らせる。
 この心の片隅に巣食っていた彼への憧れさえ流し尽くす。
 彼は、変わったのではないのだ。
 自分達が彼に理想を当てはめ、勝手に幻想を抱き、……幻滅したのだ。
 その切ない事実への思いも全て吐き出して、立ち上がる。
 それが、せめてもの自分の償いだった。
 彼自身を見ていなかった、彼の後ろに見え隠れする肩書きや噂を信じた愚かな自分の……。
 再び向かい合おう。
 この命くらい、共に旅立たせても構わないから……
 遠くで嵐の音が聞こえる。
 それは自分の鼓動。
 ……暗雲を吹き飛ばす為の、ただ一つの武器。

 ―――――彼は、確かに雲だった。
 気紛れに太陽を隠し、雷雲と変わる。
 ………決して空と交わらない、絶対零度の凍える雲。








 暗い……。暗いですね。なんか救いないし。
 私的にはこいつら甘……ぐらいのが健全であっても炎と爆の関係だったのでショックでした。
 しゅなちゃんに教えてもらって炎を嫌いになりかけていたりしてv
 爆を本当に傷つけたのって、結局炎だけなんだから変なものです。

 今度また書くのは明るいのにしたいですね。
 次はカイです!実はカイ爆が本命だったりしてv
 でも雹とのその後もやってみたいv(書くのだとこの二人がイイかな)

 ラスト少し変えてみました。
 でもやっぱり暗い。ただ前を向く爆にしたかったんです。
 前のは泣いて終了だったんで。
 ちょっと爆っぽくないなぁと。
 これもこれでまあ、心中しそうな感じがあってヤバいのですが。
 って思ったら本誌の方でも似たこと起こってるし!
 嬉しいような嫌なような……