なにを望まれているのか判らない。
 特別の意味が判らない。
 思いの深さが判らない。
 ……自分の価値が判らない。


  与えられるものはきっとあるはずだとは、思う。
 それでもきっと…自分が与えられるものと彼が望んでいるものは微妙に違うのだろうとも、思う。
 思いに意味を求められても困るのだ。
 自分にはその差が判らないから。
 ………一体、どれほどの差があるのだろうか。
 差があるかどうかさえ、自分には判らないというのに………

  だから、この思いだけを受け止めてくれればいい。
 だから、この身体だけを抱き締めればいい。

  そんなにも悲しげに瞬く必要があるのだろうか。
 それに痛む胸があることさえ、気づいていない彼に…………


  最初の切っ掛けなど覚えていない。
 ……不意に伸ばされるようになった腕。重ねられる唇。
 特に疑問を持つこともなく、自分は受け入れていた。
 縋るように強く抱き締める腕の確かさや、なにかを探るように深くなる口吻けも…なんの意味もないと思う。
 触れることで得られる安心というものに、子供は無縁だった。
 自分の足だけで立ち上がること。そしてまっすぐに夢に向かって歩むこと。
 ……それだけが子供の中で意味のあること。
 口吻けの合間に瞳を開け、その大きな黒曜石の瞳に映る青年に瞬きで疑問を投げかける。
 それを受け止めた青年は、苦笑を返した。……まるで泣きそうなその笑み。
 微かに疼く身体の奥の痛みを子供は静かに噛み殺した。
 「………爆……」
 囁く青年の声は掠れていて、泣いたあとのように儚い。
 そんな姿は普段はみられない。……どこか飄々とした青年は辛いことも苦しいことも自分の中で昇華出来る。
 ゆっくりと、子供は瞼を閉じた。
 自分が青年を見つめることが、なぜか青年にとって告発されているような圧迫を持つことを知っているから。
 ……強く自分を抱き締める、たいして大きさの変わらない腕。わずかに震えている唇。
 恐怖も不信もなかった。ただ切ない瞳に魅入られた。
 子供は何も判らなかった。……その行為にどれほどの感情が伴うのか。
 ただ恐れるように離れた短い口吻けに、奇妙な違和感を感じるくらい…青年の瞳は自分に触れたいと囁いていた。……それだけを鋭い瞳は感じ取っていた。
 きっと、青年の切なさを解消させるのはとても簡単だと思う。……それでも出来ない。
 疼く痛みの意味が、まだはっきりしない。
 ―――これが果たして青年と同じ感情から掘り起こされるものなのか判らない。


  腕の中、どこか居心地の悪い顔で瞼を閉じる。それは子供さえ気づいていない癖。
 それを知っているのは…果たして自分だけなのか。
 触れられることに違和感を持たない子供。それは何も知らないが故に、そのことへの執着も…羞恥もないからだ。
 けして、自分を思っているが故ではないと……知っている。
 それでも切ない瞬きを零して子供を縛り付ける自分は滑稽だろうか……?
 小さく震えながら、子供の名を囁く。
 ……子供の瞬きにのせられた問いかけを濁すように。
 答えなど、ない問答なのだ。
 子供はあまりのに強く清浄で。脆く汚濁にまみれた自分では、あまりにもつり合わないから。
 こうして触れることに何の意味があると囁く黒曜石に、意味などないと言える確かさを持っていない。
 触れることでしか、安心が出来ない。囁く声さえ、切ないのに…………
 自分を受け入れていながら…受け入れていない子供。
 伸ばした腕を拒なくても……心を明け渡さない。その瞳の向かう先が、いまだに自分は判らない。
 言葉にも態度にも、けして現さない。たった一人でも立っていられる希有なる子供。
 ………その背に惹かれたのだから、自分を嘲笑うことさえ出来ない。
 強く……小さな背に爪をたてる。
 覗き込んだ子供の顔は少しだけ潜められている。
 微かな痛みに気づいた子供は、ほんの少し青年の指先を顧みて……仕方なさそうにその胸に顔を埋めた。
 「………激……」
  その瞳が望むままに、小さく青年の名を呼ぶ。
 ……願えば、叶えてくれる子供。
 願わなくては、望んではくれない子供。
 ほんのりと、子供の声に温まる胸。……ゆっくりと、子供の声に切り裂かれる胸。
 それでも手放せないのなら、抱え込んで離さない。
 ……そう決めているのだ。
 たとえ子供が誰かを思う日が来たとしても、もう遅い。
 自分を拒まなかった幼さ故に、子供に選択肢は与えない。
 悲しい笑みを零しながら、青年は静かに子供に顔を寄せた。
 ――――重なる唇は微かに涙の味がした……………


  涙に疼く胸を知っている。
 それは、けれど特別ではない。
 触れられることをイヤだとは思わない。
 それは、けれど特別ではない。
 切ない瞬きにのせられた願いを叶えるのは苦痛ではない。
 それは、けれど特別ではない。

  ………あるいは、それこそが『特別』ということなのだろうか。
 それさえまだ、子供には判らないのだけれど―――――。







 キリリク4141HIT、激×爆『喪失感(というか気持ちを現さない爆に不安がる激)』です。
  メールのやり取りあるとリクエストの疑問がきけてイイですねー!
 最初違う話になるはずでしたv(オイ)
 激……なんでそこまで余裕ないかなー。
 まあこんな爆では仕方ないかなー。……でもこれ、私の基本的な考え方なんですが………
 判らないんですよねー。どれほど差があるっていうんでしょうか。
 大切っていう気持ちに、それほどの差があるとは思えないです。……なら、肉体的な意味以外で必要無いじゃないですか。
 それを必要とはどうしても思えない。
 ………うーん。このあと爆がどうやって気づいていくかも私には予想がつかないんですけど………。

 この小説はキリリクをくれた華羅ちゃんへ捧げます!
 ……彼女はこのあとまたシリーズモノを頼んでくれました。
 書けるかなー、爆総受など……………