見上げればある空。
それは不変のもの。
それを愛でる事が好きだった。

見つめれば灯る光。
それは自分と出会って灯されたもの。
それを覗き込む事が好きだった。

なんてことはない事。……それは変わらないと思っていた事。
ただ当たり前だと信じていた。
――――変わるはずのない、事実。そうであるが故の変化。
微妙に変わり始めた自分達の距離に、まだ互いが戸惑っている………




不変の変化



 きょろきょろと子供が辺りを見回す。
 いつも一緒にいるはず二人の子供がいない事を確認し、少し急ぐ足が道を蹴った。
 ……別に、二人がいてもいいはずなのに。
 けれどなぜかそれを好まないと思う気持ちが浮かぶ。
 二人はいまから自分が会う人物がただ好きで、憧れて。その背を追い掛けるために、その人に追い付くために強くなった。
 本当なら自分が会うよりの二人が会った方が、その喜びの度合いは大きいのかもしれない。
 でも、なぜだろう………?
 GCウオッチに語りかけられた約束が、この胸を浮き立たせた。
 その約束が、他の者と共有される事を少し……イヤだと思うのだ。
 そんな事、いままでなかったのに…………
 考えてみればこうして走っている事も不思議だ。
 指定された時間には充分間に合う。……けれど早くと急き立てるなにか。
 ……走っているせいか…それとも戸惑いか。鼓動が随分早まった。
 昔、あの男に初めて出会った場所へ。
 学校の帰り道、……子供だけで通るには少し暗く鬱蒼と茂った木々の小道。
 翻るマントを目の端に見つけた瞬間、息が止まる。
 そのくせ高鳴る鼓動が鬱陶しいほどだ。
 ……その全てを走っている事のせいにして、子供は足を速めた。
 声を掛けようと開けた唇が音を形成する前に、足音に気づいた少年が振り返った。
 鮮やかな赤が風に揺れ、空の青と反発するように舞った。……子供の目にそれは鮮やかな残像を残す。
 息を飲み込み足を止めた子供に少年は優しく笑いかけた。
 「……随分早かったな、爆」
 声は穏やかで、いま目の前に少年がいる事を確かに知らしめた。
 ……どれほど久し振りに会うのだろうか。
 互いに忙しい身だ。こうして会う事など、ほとんどない。
 けれど、だからこそ。……この久方ぶりに会う相手を独占したいなどという幼稚な思いが沸くのだ。
 少年の余裕ある態度に子供は少し悔しくて睨むように上目遣いになる。
 ……もっとも、少年から見てそれはあまりに年相応の幼い反応で愛しく思えるだけだったけれど。
 「貴様こそ。今日は俺の方が早いと思っていた」
 少年より早く来れた事など一度としてない。
 いまだって30分は早くついている。それでも飄々とした少年はいつからここにいるのか、静かに笑ったままそれに答えない。
 ふうと子供がため息を吐く。
 いつも突然なのだ。夜いきなり通信が入り、ここで何時に待っていると言って切れる。
 いっそ無視してしまえばいいのかもしれないが、なぜかそうする事は出来なくて……。
 馬鹿みたいだと思いつつ、なにをするでも話すでもない少年との逢瀬を繰り返している。
 「………炎」
 いい加減、はっきりさせたい。
 ……このまま有耶無耶でいては自分の旅にも影響が出る。
 目の前の少年より強くなるのだ。この世界の全てを見つめるためには、力が必要だ。
 自分の足で自分の目で。この世の全てを記憶したい。
 それが子供の夢。……世界を制覇すると言う事。
 だから、知りたい。
 この少年との出合いの意味を。
 どれほどの価値が、自分にあるのかを………
 ゴクリと、喉が鳴る。息を飲み込む事がひどく難しい。
 まっすぐ見つめる爆の視線を炎は穏やかに受け止める。
 まるで爆の言いたい事を知っているかのように…………
 「なぜお前はこんな事をする?」
 「………お前に会いたいから……?」
 囁く声にすぐ返る答え。
 けれどそれはまるで子供に聞き返すような声。
 ……はぐらかされていると子供の視線が険しくなる。
 それを読み取り、炎は苦笑する。
 まだ自覚のない子供。……時間が経てば自然と気づくと思っていたけれど、その間さえ留まる事を厭う。
 前に進む事ばかりに躍起になっている一途な子供への思いに自覚したのはいつだったか。
 ……それを告げるにはあまりに子供は幼い。
 「俺の質問に答えもせずに聞き返すな」
 憮然とした声。自分を睨む事を躊躇わない真直ぐな視線。
 たとえ自分であったとしても間違った事をすればけして許さないだろう子供。
 …………それでいい。そうでなくてはいけない。
 笑みを深め、少年は子供を抱き締めた。
 厭いはしない肢体は、けれど居心地悪そうに揺れる。
 それに苦笑し、少年は子供の耳元に囁いた。
 「……お前が考えてみろ。俺の答えを…………」
 そうしたなら、自分の気持ちにも気づくから。
 その目にのる輝きの意味に、早く気づいて欲しい。……自分は気づいたから。
 吐息とともに注がれた声にはねる身体も瞑られた瞼も愛しい。
 それに口吻けることができる日を、ただ待っている。
 …………変わらない思い。だから変わる自分達。
 それに気付けと囁く腕は、切ないほど優しく子供を包む。
 「………炎……?」
 まだ揺れたままの瞳に、少しづつ募る光。
 ………それに染まったなら、子供が手に入るのだろうか……?
 怯えさせないように微笑む事も本当は辛いけれど。
 それでも手放せないのだから、苦笑するしかない。
 穏やかな風はゆっくりと雲を運び、太陽を陰らせた。
 ……少しずつ覗かれるその思いの欠片に子供は眉を寄せて戸惑う。
 光が再び二人を包んだなら、また一つ欠片を与えようと少年はその口元に笑みを灯した…………。







 キリリク3300HITの炎×爆ですv
 今回は初めて爆に自覚ないものを書いてみました。
 ……おお、珍しく炎に余裕があって爆にない!
 こんな二人も互いに自覚すると立場逆転します(笑)
 なんだかなー。

しかし、炎はこのあと一体爆になにする気ですかね………
 ほっぺか額にキス……くらいはするのかな…………?
 どうだろ?

 この小説はキリリクを下さった朝酒様に捧げますv
 無理言ってリクエスト変えさせて申し訳なかったです(汗)