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空に瞬く星。
闇夜に浮かぶ月。

青に溶ける雲。
晴天に映える太陽。

それはその人の姿。
互いが全く違う、正反対の相手。
思いも姿も祈りも願いも伸ばした腕の先さえ違うけれど。
それでもたった一つ同じだった。
それは叶えたい本当の願い。
………この魂の奥底に眠る源泉だけが番のように同じだった。


その事実に深められた笑みに、ただ不思議そうな子供に視線が映った………




泡沫の涙



 風の匂いが変わる。
 ………いつの間にか覚えたその気配。
 出会ったのはたった1度だった。
 けれど自分の生きる道を変えるほどに強烈なものだった。
 それはほんの1時間にも満たない逢瀬。………触れあう事も交わす言葉さえない。
 ただ………残像だけが相手の瞳に焼きつけられる。
 変わらない互いを映す視線だけが……愛しさを伝える。
 遠く離れたその人の…記憶すら薄れる面影。
 ―――――それでも募る。
 腹立たしいほどにゆっくりと……蝕む。
 やんわりとしたそれに包まれて、そして微睡む。
 願いを……望みを…信仰を。
 なに1つ同じにする事はないけれど。
 ………見つめる未来の映像も、生きるべき星すら違うけれど。
 それでも傾斜する。
 この思いに意味などない。
 この思いに名などない。
 ただ……そこにあるという事実だけが存在し、この心臓を捕らえて離さない。
 捕らえたのは…どちらだろうか。
 捕われたのは…どちらだろうか。
 目隠しをしたまま、それでも変わらない。
 ……………この身体に灯る熱。
 この魂を揺さぶる衝動。
 息苦しさにかしずいても…まだ触れるどころか言葉さえ交じらせる事は出来ない………………


 ゆっくりと目を開けた。
 ……吹き抜けた風を追い掛けるように、陽炎が現れる。
 それは愚かな自分の願いが具現した姿。
 きつい瞳を持つ、なによりも純乎なる魂を受け継いだたった一人の子供。
 すぐ間近にそれはある。………握りしめた腕を伸ばせば触れられるほど傍に。
 けれど少年はそれを願わない。
 ………否。願えない。
 思いに負けてその影に触れたなら、泡沫は風に溶けて消えてしまう。
 それがなによりこの心に負担をかける。
 …………消える瞬間の泣きそうな顔。その影の主は決してそんな顔をしはしないと知っているのに。
 それでもいつもこの身体を凍てつかせる。
 知っている。何者にも溶かせなかった自分の内に巣食う無限の孤独を溶かした子供。………彼は自分の前で弱音を吐く事はない。
 瞬く星のように、色褪せない。
 灯る月のように、包み込む。
 なにも願わず望まず……無償で誰かの為に命を賭けられる類いの人。……それを人は奇蹟という。
 それが欲しかった。失ったぬくもりの変わりに…抱き締めたかった。
 その言葉がどれほど子供を傷つけるかなんて……知らなかったのだ。
 自分に問ってそれは最高の賛辞だった。
 尊敬していた。愛していた。畏怖していた。
 ………共に生きたいと願った初めての人。
 その血を継いだ子供は……自分のものだと決めていた。ゆっくりと時間を掛けて取り込んで……自分なしでは立てないようにしたかった。
 そんな事…あの魂を前にして願える筈はないのだけれど…………
 ゆっくりと……少年は瞬いた。瞬間瞑られた瞳の端から……水滴が落ちる。
 子供の指先がゆっくりと持ち上がる。
 無表情といえるその表情の奥にある、瞳の揺らめき。それだけが如実に子供が痛みを感じている事を物語った。
 それはかつての人とは違う。
 けれどそれを愛しいと思う、心。
 ………………何故…人は変わるのだろうか。
 こうして思う心の変化が少年には苦しい。
 あの人だけだと思っていた。……それだけでいいのだと、頑なに信じていた。
 失ったなら変わりを探す……そんな簡単な思いではなかった。
 けれど鼓動は確実に反応した。願い続けたかつての男の再臨。………恐れていた子供の消滅。
 どちらも願い……どちらも願えなかった。
 眇めた少年の瞳に映る、掠れた子供の顔。湖面に浮かぶ泡沫は、微かに眉を顰めて少年を覗き見る。
 小さく……唇が開けられる。
 囁かれる声は聞こえない。……そんなもの存在しないから。
 それでも染み渡るぬくもり。
 こんな……泡沫の姿でさえ子供は少年を癒そうと腕を伸ばす。
 それに見合う人間であるはずがないと……少年は唇を噛み締めた。
 誇りを……得たかった。
 せめて子供の残像に笑いかけられるくらいの誇りを。
 過去にあった愚かしいものではなく。…………全く新しい、自分自身で手に入れるもの。
 それがなくては……会う事も出来ない。
 ………視線を絡める事も言葉を交わす事も。……まして触れる事も………………
 ゆっくりと息を吐き出す。
 伸ばされた子供の指先。触れても熱のない影。
 それに、少年の涙が触れる。………まるで受け止めたかのように手の平を握り締め……子供は不器用に笑った。
 愛している……と。影にさえ聞こえない声で囁き、少年は固く閉じられた子供の指先に頬を寄せる。
 …………………………触れる瞬間に突風が吹く。
 影は……風に攫われる。
 風と共に現れ、風と共に消える想い人。
 手に入らない彼方にいる子供を思い少年は唇を噛み締めた。
 必ず……手に入れる。子供と向き合っていられる自分を。
 それがいまの自分の願い。
 ………長い深紅を翻らせ、少年は風の通り過ぎた先を睨み付けた……………


 息を吐き出し、子供はそれを見つめた。
 いつからだろうか、これが現れるようになったのは。
 最初はただの灯火だった。小さな赤い靄(もや)。けれどあたたかい色で……不思議と恐怖はなかった。
 ただ切なくなる。……あまりにも彼の少年の髪の色に似ていて……目をつぶっては消そうと努めた。
 ………………それさえ無駄な足掻きと知ったけれど。
 あの赤の鮮麗さに、目を奪われた。はっきりした快活の、自信に溢れた声に感覚の全てが捕らえられた。
 その感覚を…いまもはっきりと覚えている。
 たった10年しか生きていない自分は……それでも餓え続けていた。
 同じ高みを見つめる瞳が欲しかった。自分より高くにあるものを知りたかった。
 少年は、圧倒的なまでに上だった。隣に駆け付ける事すら困難なほどに………
 嬉しかった。そんな少年が自分を見つめ、待っていてくれる事実が。
 だから……この影にも恐れはなかった。
 …………顔の溶けた、朧な影。
 言葉を綴る機能すら持っていないのだろう哀れな泡沫。
 ただ……自分を溶かすように涙を流す。
 まるで贖罪するように、その姿を掠れさせながら嘆く。………その理由を子供は知っている。
 少年は変わる思いも、生まれる思いも知らなかった。
 頑なに過去に縋り、思い続けたものだけを抱き締める事が正しいと思い込んでいる。
 そんな真似、生きている限り出来る筈がない。それでも生まれた思いの大きさに怯え、拒否し少年は殻に閉じ篭った。
 腹立たしくて……ぶち壊しにいった。自分を見ろと哭く事も出来ない魂で叫び続けた。
 やっと……少年の時が動き始めた。
 この影はその名残り。
 深すぎる互いの思いは時も空間も超えて愛しい者の元へと馳せる。
 ………切なさだけを抱き締めて。
 流れる涙を拭うように、子供は影に指先を向けた。
 それに気づき……影は小さく笑う。
 「………お前は本当に馬鹿だな…炎」
 不器用に笑い、子供は溢れそうになる思いを飲み下して質量のない身体を抱き締めた。
 ゆっくりと……光に溶ける影。
 まるで蒼天に浮かんだ白雲のように激しい印象。……そのくせ儚く消えるもの。
 自身で輝けるくせに……自ら影を作る光。
 まだ生まれたばかりの少年にやわらかく微笑み、子供は消えた影を追うように空にかかる太陽を見上げた。
 彼が……生き続ける限り消えはしない光を知っている。
 そして殻の中に植え付けられた灯火を知っている。
 互いが生きる道を見つめられるまであと少し。
 ……せめて向き合うその瞬間に笑えるように。胸を張って出迎えられるように。
 生きる道を見つけるための暫しの時の河を巡る泡沫。
 深く息を吸い込み、子供は変わらない笑みを浮かべる。
 生きる者の思いの深さを知れと、悪戯っぽく囁きながら…………







 キリリク6000HIT、炎爆ですv
  なんか……この人たち書くと離れ離れですね、いっつも(オイ)
 今度は旅立つ前のでも書いた方がいいのかな………(でもこういう遠距離恋愛(?)好きv)

 どうもうちの炎様は…弱いです。
 精神的になんというか……子供というか。成長しないまま大きくなった感じです。
 だからいま必死になって爆に追いつこうとしてます。
 ……ちゃんと前を見れるようになったら、爆を迎えにいこうと決めているから♪
 頑張れー、炎v

 この小説はキリリクを下さった木月様に捧げますv
 なんか炎様情けなくて申し訳ないです(汗)カニ眉様……どうぞお納め下さいv