首元をチリリと焦がす視線。
それに目を向ければ必ずいる少年。
気づかないと本気で思っているのだろうか。
………そうだと言うなら、馬鹿にするにも程がある。

つい吸い寄せられる視線。
気づかれはしないだろうとすぐに逸らす。
逸らした頬に感じるその視線にいたたまれなくなるけれど。
気づかせるわけにはいかない。自分のこの思いを…………




視線に溶ける思い



 空には初夏の陽射し。目の前には優しい木々のせせらぎ。
 ……………そんな自然の芸術の中、なぜそれはいるのだろう。
 どっかりと芝生の真ん中を陣取って眠る少年に子供は呆れたような顔で息を吐く。
 まだそれほど熱くないといったって、直に陽射しを浴びていれば寝苦しいだろうに。
 そんなこと気にもしないで寝入っている少年にある種…賞賛の拍手を送りたくなる。
 「………おい、現郎。起きろ」
 仕方なさそうな声で名を呟き、子供は少年の肩を揺する。
 鬱陶しげに潜められた眉は、間近で囁かれる子供の声に驚いたように開かれた。
 それに引きづられるように下にあった瞼が持ち上げられる。
 ………開かれた瞳に映るのは、幼い子供の大きな目。
 どこかからかうような輝きをのせたそれに、知らず少年は魅入る。
 それに気づき、子供は苦笑した。起きたにもかかわらず、少年は上体さえ起き上がせないで固まっている。
 瞬くことを恐れるように一心に自分を見る。まるで夢の続きだとでもいうような態度におかしさが込み上げる。
 「……おい?起きたか?」
 その目を覗き込んで、子供は少年の頭を軽く叩く。
 さらさらと質のいい細い金糸が指先にあたり、手袋をしているのが勿体無いと一瞬思う。
 ……そんな子供に気づいたわけではないだろうが、ようやく少年は開いた瞳を動かした。
 辺りを見回し、ただ広いだけの芝生の海にいたことを思い出す。
 上体を起こして子供と同じほどに視線の位置を高めると、寝ぼけたふりをしたまま…ぶっきらぼうな声が呟く。
 「……んだ、爆。なんか用かよ」
 どこか冷たい声をいまさら吐いたって、苦笑の種になるだけだ。それに少年は気づかないのだから始末におえない。
 仕方なさそうに苦笑さえも飲み込んで、子供は腕を組むと高飛車な声を出す。
 「いや。暇だったから来た。相手をしろ」
 「………………………はぁ??」
 きっぱりと言い切られた言葉に、間の抜けた声で現郎が返す。
 一体なにをどうしたなら、そうなるというのだ。
 特に……自分と爆は親しいわけではない。にもかかわらずこのところこうして子供は当たり前の顔をして自分の前に現れる。
 いい加減…困るのだ。
 不意に見せられる無防備な顔や、幼い煌めき。伸ばしてしまいそうな腕をどれほどの自制心で押さえているかこの子供はきっと知らないのだ。
 だからこそ……こんなにもまっすぐに自分を見て、まっすぐに笑いかける。
 ほとんど語ることさえない自分とそれほど一緒にいても楽しいとは思えない。……自分が感じるほどの充足を与えることはない。
 だから……早く帰って欲しい。
 ……………いつこの腕が子供を捕らえてしまうか怯えながら傍にいるのは苦痛なのだ。
 だから、ゆっくりと少年は子供に視線を合わせ、囁いた。
 子供が激怒するだろう皮肉を込めて…………
 「お前って……犬みてぇだな」
 「…………………」
 目を細めて、嘲るように笑って。
 ………冷たい声が子供を斬るように吹きかける。
 それでも子供の視線は逸らされない。むしろ呆れたような顔で見返してくる。
 これだけでは足りないかと思い、少年は心の中で息を吐き出す。……誰も好き好んでそんなことをいいたいわけではない。
 どこか言い訳がましいことを思いながら、少年は小さい声で呟く。
 ………声が震えはしなかったか、少しだけ自信がないけれど。
 「ぱたぱたシッポ振って引っ付いて……いい加減ウザイ…………」
 胸が…痛む。心にもない言葉を吐いた故ではない。
 ………そんな人のいいことではこの心臓は痛まない。
 子供が向けるだろう怒りと………決別が痛かった。それを望み、離れようとしながらも矛盾していると思うけれど。
 それでも……と。この愚かな心は痛むのだ。
 欲しくて欲しくて……仕方なかった。かつての友の遺児。……この手で守りたかった。
 けれど傷つけることの方が多くて、歯痒くて情けなくて。
 ………主が思い寄せていることに気づいてからは必死になった逃げた。
 こんな弱くてなにも出来ない自分よりも、きっと主は子供を大切に守ってくれるから。
 だから……離れることを決めた。自分からは近付かない。
 それでも近付く子供にこの胸はどれほど高鳴ったか判らない。
 これ以上は……もう耐えられない。近付けば近付いた分手放すことが惜しくなる。
 未練がましい自分の思いが子供を縛り付けてしまう。
 ………泣きそうな思いで囁いた言葉に、まだ子供は応えない。
 早く…と願う。この痛みを少しでも早く終わらせて欲しい。子供を前にして切り捨てられる瞬間を待つ地獄は恐ろしいほど長かった。
 瞬きもしない大きな瞳に胃が痛む。
 これを……歪ませるのだろうか?
 これを……雨で濡らすだろうか?
 いっそ縋ってしまいたい衝動を押し殺している少年の眉間に、子供の指が触れる。
 「……………………?」
 呆気にたられたように少年は唐突な子供の行動を見つめた。
 押し付けられた指先に少し頭が後ろに下がる。
 顔を顰めてなにがしたいと問えば、仕方なさそうな溜息が聞こえた。
 ………どこか年長者を思わせるその仕種は、過去の男を思い出させて少し切ない。
 「嘘をつくならもっとましな嘘をつけ」
 子供の口元に、苦笑が浮かぶ。
 これは不器用な男だと、思っていた。……が、ここまでとはさすがに思わなかった。
 自分に向ける思いの際立ちにも気づかないで、こんな泣きそうな顔でひどいことをいう。
 嘘であると判っていたって、人というものは傷付くことさえ知らないのだろうか。
 彼がなにに遠慮して隠し込もうとしているか、知らないわけではない。
 ………それでも彼のいった通りに近付く自分の真意にくらい、いい加減気づいて欲しい。
 軽い溜息は自嘲の重み。絶対に自分からはいわないと決めているのだ。
 だから……さっさとその腕を伸ばせばいい。
 「ここの皺はなんだ?そんな顔で言っても説得力はないな」
 とんと眉間を叩き、出来る限り軽い口調で囁く。
 ……………気付けば、いい。早く。いまこの瞬間にだって。
 それはきっと無理なことなのだと判っているけれど。
 子供に指摘された歪んだ顔に、少年は呆然として自分の顔を覆う。もっと、自分はポーカーフェイスが得意だった。誰にも気付かせないくらいには………
 気付くのはいつもこの子供の中に流れる血に持ち主だけ。
 ……胸が、痛い。キリキリと痛んで過去を現在を蒸し返す。
 彼が、好きだった。けして追い付くことの出来ない強さも、幼いままの魂も。
 そして失った。伸ばした腕に彼は捕まらなくて。……以来、怯えていた。
 伸ばす腕はいつか失う為にあるから。亡くす時が怖くて……逃げてしまう。
 この腕にはいい思い出がない。清廉な子供を穢すだろう。
 だから……近付かない。自分よりももっと子供を大切にできる人はいる。
 幸せであるならいいから……、近付かないで欲しい。
 ………自分はあまり我慢強くはないのだ。
 内に入り込んで子供の言葉を拒否する少年に、子供は呆れた溜息を吐く。
 ここまで言っているにもかかわらず、なぜ彼は判らないのか。
 理解されている感情を、それでも自分が厭っているように見えるというのだろうか?
 ………だんだん、腹が立ってくる。勝手な思い込みで人の幸せを決めつけて。人が望むものを勝手に決めてどこかへ逃げようとする。
 ムカムカしてきた思いを発散させるように、子供は少年の頭をひっぱたく。
 「なっ…………?!」
 突然の衝動に、殻に閉じこもろうとしていた少年に意識が戻る。
 痛む頭を押さえ少年は子供をみた。
 ………………吸い込まれそうな、無限の深みに捕われる感覚。
 魂さえも吸い込む深淵に緊張した肢体が固まった。……ごくりと、喉が鳴った。もっとも干上がった喉を潤すことなど出来なかったけれど。
 一心に自分を見る視線。チリリ…と、首元が焦げる感覚。
 覚えがある。これは自分が子供に送り続けたもの。……それを、自分に向ける子供。
 「………あ?」
 不意に、理解する。なによりも雄弁な視線。
 自分でさえ気づける思いに……子供が気付かないわけがない。それでも自分の傍に寄ってきた。
 それはつまり…………
 愕然と目を見開いて少年は子供を見つめる。……なにも気付かないで、自分はどれほどのことを子供にしてきたのだろうか。
 怖く……なる。なにも知らないわけではない子供。……否。誰よりも全てを見通す子供だから。
 ………この自分の内にある愚かな葛藤に気付いて…呆れて……離れはしないかと。
 それを問いかけるように、子供の口が開いた。
 「現郎。……一回しか聞かない。俺は炎のモノか?」
 お前がそう望むように、そうあれとまだいうのか……と。
 微かに揺らぐ瞳が問いかける。
 それは最後の設問。……2度目のない問い掛け。
 本当なら…頷くべきなのだ。自分ではきっとこの子供に傷を残す。……ちっぽけで弱くて…人との関わりを断っていた自分は無意識に子供を傷つける。
 それでも…………
 「…………………が…う………」
 掠れた声は否定する。
 揺れた視界は雫をまきながら横に揺れる。
 それを愛しそうに瞳を細めて見つめた子供は、プライドの高い少年を守るようにその顔を抱き締めた。
 「全く、貴様は寝ぼけが多過ぎる。しゃっきりしてればすぐ気付くだろう?」
 ………笑いを滲ませた声で囁いて、子供は少年の背に腕を廻した。







キリリク6601HIT、現郎×爆 現郎を口説く爆でしたv

………口説いてる?? ねえ、これ口説いているかしら??

考えてみるとうちの人たちってはっきり口説かないね。
爆が気付いちゃうんだもの。なんか初めて意識して人を口説かせた気がします(待て)
爆からモーションかけるのって難しいですね(遠い目)

この小説はキリリクを下さった藤恵様へv
今度デッド爆書きますね♪もうちょっと待ってて下さい。