その存在を思うと締め付けられる心臓がある。

そのぬくもりに触れれば走る電流がある。

その思いに混ざり合えば溶ける心がある。


自分のどこかが狂ったようにそれを求める。
渇望している。まるで砂漠が水を吸い込むように、餓えている。
………その子供の姿を見つめるだけで泣きそうな滑稽な自分。
それを見つめ…不器用に笑いかける子供が愛しくて、またこの腕を伸ばしてしまう。




微睡みの思い



 微睡んでいた意識に触れる甘い声。
 まだ幼さの色濃く残った、男というよりは中性的な旋律が優しく眠りを覚ます。
 目を開ければいるであろう存在に自然笑みが零れる。
 ………それを隠しもせず、少年は目を開けた。ゆっくりと、腕を伸ばしながら。
 「…………なんだこの腕は」
 少し憮然とした声が、首に絡んでくる少年の指先に非難を向ける。
 けれどまだ、少年は笑っている。……当然だ。目元を赤く色付けてそんな台詞を呟いたって効果などない。
 それに気付かない幼い子供を引き寄せ、少年は腕の力を強めた。
 「ちょ……!人の話を聞かんか!寝ぼけていないでさっさと目を覚ませ、現郎!!」
 腕の中に搦めとった幼子は慌てたように叫ぶ。
 もっとも、力ではけして適うはずのない体格差なので包み込んだ肢体は暴れはしなかったけれど。
 それに小さく笑い、少年は子供の背のたわみを撫でた。
 顔を顰め、子供はむずがゆさをやり過ごす。……まだなにも知らない子供はその指の動きに何の疑問も浮かべない。
 それ以上を強制することも出来ないので、少年は小さく息を吐いて上体を起こした。その腕の中に子供抱き締めたまま。
 自分とそう外見上では年齢の変わらない少年の膝に座ることを余儀無くされた子供の顔がさらに朱に染まった。
 それを横目で見て、少年は間近にある形のいい耳に唇を寄せる。
 「………で、なんの用があったんだ、爆……?」
 低く、多分に甘さを含ませて囁いた声と吹きかかる吐息に子供の身体が跳ねる。
 意味に気付かなくとも、生理的にそれは受け止められる。くすぐったいと眉根を寄せる子供の顔に灯るものを…きっと本人は自覚していない。
 それを目を細めて楽しげに見つめ、返答が返るまでの数瞬の間に少年は子供の耳に口吻けた。
 赤く熟れたそれを眺めながら幼い旋律を待てば、悪戯な唇を諌めるように子供の指が少年の金糸に絡み、剥がすように強く後ろに引かれた。
 微かな痛みをやり過ごし、すげなく返す子供に苦笑する。
 まだ愛情よりも友情を。………触れあうことより、心の繋がりを。
 そんな幼いものを求め…それだけで充分満足出来る子供は少年の触れたがる腕から逃れることに必死になる。
 男であるプライド故に、どうしたって守られるような位置に反発を覚えるのだ。なにより子供は強いから、少年の腕の中で大人しくなどしていることはない。
 小さな苦笑に気付き、子供は視線を逸らす。……時折見せる大人びた少年の笑みに、子供は追いつけない距離を知る。
 それを確認したくなくて逸らされる視線を少年は判っているけれど…少しだけ切ない。
 もっとその瞳に映りたいのだ。他の何者も映さないで、ただ一心に自分だけを。
 …………そんなこと不可能だと知ってはいるのだけれど。
 「俺が用があるんじゃない。……お前があるんだろう?」
 小さな子供の声に、少年は軽く首をかしげる。
 なにか用事などあったかと悩んでいる少年の仕種に、腕の中に収まった子供は深い溜息を吐いた。
 自分は確かにこの少年が眠る前に聞いていたのだ。……片暇に聞いていた自分が覚えていて、きちんと言い付けられた少年が忘れているとは一体どういうことなのだろうか。
 呆れたような子供の溜息に少年は顔を顰める。
 ………全く覚えていないのだ。一体なにがあったのだろうか。
 視線だけでそれを尋ねてくる少年に子供は小さく笑う。
 しゃべることすら余りない少年はその視線で語ることが多い。………それを知ることが出来る程度には、自分は彼を理解できたのだと思うと微かな自尊心が疼く。
 それを気付かせないように笑みの下に隠して、子供は口を開いた。
 「馬鹿もの。貴様は昨日激と会う約束をしていただろう」
 「………あー……、した……ような気ぃするな………」
 まだ完全に思い出していないらしい少年は寝ぼけたような視線のまま宙を睨んで思い出そうと努めていた。
 腕の中でまた小さく息を吐く音がする。
 軽く子供を見つめてみれば、約束を忘れられた哀れな師への憐憫が微かに浮かぶ。
 ………それに少しだけ面白くなさが浮かび、少年は子供の顔を覗き込む。
 「…………?」
 突然視線を搦めてきた少年になに用かと囁く大きな瞳は不思議そうに瞬く。
 それを受け止め、微かな意地の悪さを口元にのぼらせると……少年の笑みは子供の噤(つぐ)まれた唇に重なった。
 軽く触れては離れるそのぬくもりを子供は眉を潜めて受け止める。
 いまさら…抵抗などする気はないけれど。それでもまだこうした触れ方に慣れることは出来ない。
 間近に迫る少年の睫に触れないようにと瞼を落とし、子供はいつも通りにそれが終わるのを待つ。
 ……けれど、それは突然動きを変えた。
 「………………んっ…!?」
 唇を舐め取られ、戦慄(わなな)く瞬間を狙ったように深くなった口吻け。
 なにが起こったのか判らない子供はただ溺れそうな激しさに翻弄され、まるでそれだけが唯一の確かなものなのだと訴えるように少年の背にしがみつく。
 息苦しさに震えた指先が少年の背に爪をたてる。
 ……怯えたような仕種に少し大人気なかったかと少年は唇を離した。
 解放され、喘ぐように子供は酸素を求める。目尻に浮かんだ涙を舐め取りながら、少年は自嘲げな笑みを浮かべた。
 その背をあやすように優しく撫で、力の抜けた子供の身体を支える。
 くたりとした肢体はいつもなら離れようともがく気配が見隠れする子供のものに思えないほど従順で、一瞬擡(もた)げる思いに精一杯の自制心で蓋をする。
 赤く紅潮した頬に唇を寄せ、息の整い始めた子供の瞳を見つめる。
 ………困ったように寄った眉根に苦笑して、少年は揺れる視線を隠すように子供の瞼に口吻けた。
 触れたいのは確かで。……それでも無理矢理奪わなくてはならないほど充足していないわけではない。
 子供の視線の中に漂う思いも。
 子供の伸ばす指先に込められた囁きも。
 判らないほど愚鈍じゃない。
 まだもう少しくらい、待てるから。………だから怯えるなと…小さな囁きが子供の耳に触れる。
 それを受け止めて、子供の目は大きく見開かれる。
 怖いわけ…ではない。恐れてなどいない。
 少年の指先は優しく、けして自分を脅かしはしないと信じられるから。
 その囁きは真摯で、嘘を塗り固めて構築されることはないと知っているから。
 瞬く視線の中には少し寂しげな少年が映る。
 ………どうしたなら、それを知らせることができるか、子供は知らない。
 紅を引いた頬を隠すことすら出来ない至近距離。
 それでも伝え切れない思い。
 惑うように子供は視線を泳がせ、不意に唇を噛み締めてなにかを決意したように目を堅く瞑る。
 その変化を見つめながら、なにをするつもりかと少年は面白そうに眺めた。………なにも知らない子供の中に、ほんの少しずつ…植え込んでいく種。
 それはきっと誰も知らない。判るはずもない。……けれどゆっくりと芽吹く時を待っている。
 背に廻っていた子供の指先に力が込められる。
 それに気付き、少年は身体から力を抜いて子供の好きにさせた。
 そうしたなら抱き寄せられる。………幼い腕の中に。
 戸惑いをまだ多分に漂わせ、それでも子供はゆっくりと顔を寄せる。
 ……触れるだけの…一瞬の口吻け。
 やわらかなぬくもりの心地よさに、少年の顔が朱に染まる。
 まさか子供が返してくるとは思わなかったそれに、高鳴る鼓動を持て余す。
 愛しくて愛しくて……少年は抱き締める子供の腕を引き寄せて掻き抱いた。
 ゆっくりと、最初の種が目を出した。
 子供の中にある、幾重にも植え込まれた様々な種はただ少年の与える水にだけ反応する。
 けして涸れることのない思いの中に沈んだ泉から汲み出されるそれを受け止めて、子供は躊躇うような仕種を残しながらも震える指先を少年の背に搦めた。
 あと少しだけ、この水に触れて溺れたい。
 …………待っているだろう青年の不機嫌な顔が脳裏を掠めるけれど。
 降り注ぐ思いの雨と熱い口吻けから逃れる術も意志もない子供は謝罪を思い浮かべながら少年の腕にもたれる。
 どちらからともなく重なる口吻けを、太陽は邪魔をしないように雲の中に隠れて微笑んだ………


 まだ知らなかった思い。
 知らないままでもいられた思い。
 それでも、少年は望み子供は応える。
 ゆっくりと静かに、たゆたう水面(みなも)のように近付いて。
 触れあう思いも重なる命も…手放せない。



 ――――抱え込んで離せない魂にただ口吻ける。







 キリリク7200HIT、現郎×爆の砂吐くような甘々です。
 つうかさ……誰?こいつら一体誰??
 あっはっはっは。ええ……ええ!現郎さんと爆くんですよ!(自棄)
 …………すいません、ちょっと壊れました。私が(オイ)

 私が書くと気持ち悪いですねー、ここまでいちゃついてる2人は。
 本気で私、砂吐きそうですうふふーv(壊)
 あー、こういうのもどうやら苦手分野みたいです。
 だって、なに書きたいのか判らないんだもの。テーマのないSSほど書きづらいものはないと実感しました。←

 この小説はキリリクを下さったアヤコ様へ捧げます。
 ………さあ、遠慮なく砂吐いて下さい。