柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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空にはきれいなお月様。
見かけるのはいつも夜で、
白い月というものを見上げた覚えがなかった。
柔らかなその光は見上げても目を射ることはなく
熱を発することのない冷たい光は身体を蝕みはしない。

 ただ冷えた空気に身体が(すく)む。
 ベッドに入ったなら止まらなくなる咳に
 幾度起き上がり月を見つめただろうか。

空にはきれいなお月様。
星さえ見えない暗闇の中
たった一人で起きている。

……………寂しそうに微笑みながら。



ハーブ・ガーデン   6



 明かりを消してさして時間が経たずにすぐに寝息が聞こえた。とても寝付きがいいらしい魔女の潜っている布団を視界に入れようとして、まだ暗闇に慣れていないので上手く掴めない像を探した。
 その間も胸がざわついている。数度、喉奥で咳をして、布団で無理矢理音を掻き消した。籠ったような嫌な咳の音は、静かな夜にはひどく響く気がして冷や汗が出る。
 暫くそんな風に過ごしてはみたけれど、胸の内はおさまりそうにもなく、痛みが付随し始めた。眠った体勢では悪化するばかりだと諦めて、少女はベッドの上で起き上がった。
 レースのカーテン越しに、月明かりがベッドを染めている。それを掬いとるように手を差し出せば、青白い肌が浮かんだ。
 苦笑するようにそれを見つめ、次いでそこから引き剥がした視線で出窓に置いている小さな引き出しを見遣った。
 小振りな箱の中には、室内で過ごさなければいけない少女が、それでも起き上がっていられる時間を一人過ごすために覚えた、色々な種類の作品があった。
 いつもはぬいぐるみなど小物を多く作るけれど、小さなモチーフをいくつも組み合わせて作ったレースのストールは、最近出来たばかりの作品だった。
 それを片手に取り上げて、また窓を見つめる。レースのカーテン越しの月明かりは、直に見るものよりも一層淡く優しくて、咳が喉奥で霧散するような甘みを覚えた。………もっともそれは感覚的な感傷であって、現実的な効果は期待出来ないのだけれど。
 ひっそりと身体を動かして、ベッドの淵に座る。段々慣れ始めた目には、健やかに眠っている魔女が映った。
 お客様だからとベッドを提供しようとしたなら、子供から寝床を奪うほど落ちぶれていないわと、朗らかに明るく笑って布団を希望した。
 快活で開けっぴろげで、ひどく彼女は誠実な人だ。真っ直ぐに人を見て、本質をこそ知ろうとする。
 それはどこか和也に似通った性質で、きっとこうして院に一緒に来る程仲良くなれたのも、当然の成り行きだったのだろうと思った。
 そう思って、ほっとする。
 外の世界は広くて、色々な人間がいて。あるいは傷付くこともあるのかもしれないけれど、それでも必ず救いはあるのだ。
 だから大丈夫。そう自分に言い聞かせるように思う。
 月明かりは優しくて、時折感傷を沸き起こさせる。覚悟くらい、いつだってしている癖に、こんな夜は残す人たちを思い、未練が湧きそうになってしまうのだ。
 肩にストールをかけて、少女は立ち上がった。
 眠れそうもない。横になって咳をしていれば、いずれ魔女も気付いてしまい、迷惑もかけてしまう。
 それなら落ち着くまで少し月を眺めていよう。
 そう決めて、そのままベッドサイドの袋の中に入れてあるサンダルを取ると舞い戻り、ベッドを乗り越えて出窓に膝を置いた。
 ふわりとその上に身体を乗せると、レースのカーテンが僅かに揺れる。
 それを頬に受けながら、ひっそりと窓を開いた。柔らかい月明かりと同じ程の、微かな風が室内に迷い込む。
 それを楽しむように視線を細めて見つめ、サンダルに足を通すと出窓から膝下だけを垂らす格好でじっと月を見上げた。
 今日はどこで月を見よう。あまり遠くには行けない。そう考えながら、袋の中に一緒に入れてあるカードをひらりと広げ、その中の一つを取り出すと、振り返って枕元に落とす。
 それがあれば、巡回に来たシスター達が驚く事もない。
 カードがきちんと見える位置に落ちたことを確認して、少女はそのままたいした距離のない足下へと降りた。微かに膝に衝撃が来る。少し顔を顰めそうになって、けれど浮かんだのは笑みだった。
 あまりこうした動きを日中は出来ないけれど、体調さえ良ければ、案外夜は動く事が出来た。
 カードに書かれた花の咲く中庭を目指して、ゆっくりと散策を楽しむように歩き始める。
 月はそれを歓迎するように足下を照らし、迷わないように煌々と明かりを与えてくれた。
 後少し歩いた先の塀には、時計草が蔦をはべらしながら群生していた。今日はそこで少し時間を潰そう。
 調度今が花の盛りだ。こんな時間だから花は見えないだろうけれど、それでもいい。その花の別名を思いながら、小さく自嘲気味な笑みが口元を染めそうになる。
 それを押しとどめ、少女は空を見上げた。
 綺麗な月だ。たったひとりぼっちで、それでも悠然と輝いている。こうして外を歩く名も知れぬ人間のために、ささやかな灯火を落としながら。
 そんな風に生きられれば、いい。いつからかそんな風に思うようになった。
 決して強烈な印象ではなく、極当たり前に甘受される存在で、それでも必要なものを確かに与えられるように。
 「…………月に、なれればいいけど…………」
 太陽は強すぎて、自分は焼け爛れてしまう。見上げる事も出来ないあの存在は、どちらかというと和也に似ている。
 目映く真っ直ぐで、翳りなく歩む事が出来る命。勿論、それだけで構成されているわけではなく、彼が背負う多くの痛みも闇も知ってはいるけれど。
 彼はそれらを抱え背負う事を覚悟しているように、思えるから。
 …………自分の死すら、厭う事なく受け止めようと、そう努力してくれて………いるから。
 遣る瀬無さの滲む、それは彼の優しさ。
 見上げた月は、やんわりとその燐光を与えてくれる。あと少し歩けば時計草の塀に着く。視線を空から地上に戻そうとした瞬間、地面を踏み締める音とともに、腕を何かに掴まれた。
 「………………………っ!」
 「お前、こんな時間に何やってんだっ」
 息を飲んで瞬間的な恐怖を押し止めれば、響いたのは、昔よりも少しだけ低くなった少年の声だった。
 毎日顔を合わせていた頃は気付かなかったけれど、ゆっくりと彼は男性へと変貌する階段を歩んでいる。おそらく、自分は女性としての階段を歩んでいるのだろうが、未だにその予兆もなかった。
 ぼんやりと、月を浴びる彼の髪を見つめてそんな風に考えてみれば、掴まれた腕が揺すられる。
 「おい?…………寝ぼけてんのか?」
 「……ん…?平気、まだ、寝てないもの」
 ふわりと小さく笑んで応え、視線を落とすと掴まれたままの腕を見遣った。
 それに気付いたのか、少年の腕が解かれた。少しだけ腕に痺れたような感覚が残るが、痛みは感じない。
 微かな沈黙が月明かりに染められる。それを静かに見遣りながら、少女は一歩、また歩を踏み出した。
 すれ違うような格好のまま進んでいこうとする少女の腕をもう一度、今度は包む程度の力加減で和也が掴んだ。
 「………どこ行く気だ」
 「パッションフラワー、見に行こうと思って」
 そうして問いかければ、少女は柔らかく細められた瞳を空に架かる月に捧げ、やんわりとした言葉がを落とす。
 儚げなその様に眉を寄せ、和也は歩みを踏み止まらせるように、軽く掴んだ腕を引き寄せる。足音さえも希薄な気配が、空気の中、溶けるようにして残った。
 その事実にほっと息を吐き出し、和也は訝しげに寄せられた眉を隠しもせずに問いかける。
 「なんで夜中に」
 「ちょっと、眠れなかったの」
 魔女さんを起こすわけにいかないからと、微笑みながら少女は少年に腕を掴まれたまま前に出ると、彼を通り越すように一歩先で振り返りながら、囁いた。
 その目は、月に染まっている。やんわりと燐光のように瞬きをたたえている瞳は、困ったような笑みを滲ませた。
 何となく彼女の言いたい事が解り、溜め息を落とす。
 言葉にしなくとも伝わってしまう……というよりは、長年傍にいた功績故だろう。ただ寝付きが悪かったわけではないと、その顔を見て解ってしまうのは、誇りと思えばいい事なのだろうか。
 この辺りは、和也の通う学園のあるあの街に比べれば、夜間は涼しい。
 鋪装されていない道は土がむき出しで、緑の匂いが濃厚だ。アスファルトに閉じ込められた熱が空気をあたためることもない。だからこそ、少女にとって夜中は動き易い時間だった。
 日中の過酷な日差しに比べれば、夜の優しい明かりや微かにひんやりとする空気は枷としての能力は薄かった。
 「…………長居はするなよ」
 数度開閉された唇は、長く息を吐き出して、苦々しい思いを飲み込むような仕草を晒した後、ようやくその一言だけを紡いだ。
 否定や拒絶、あるいは禁止は容易く出来る。それでも、自分はこの少女にそうした事をされたことはない。
 自身を傷つけるなと、そうした意味で諭される事はあっても、それらは決して個体の尊厳を損なわせるものではなかった。
 そうした関わり方を、自分もしたい。それはひどく難しく、たった一人この少女にだけでもいっそ構わないと思っても、それこそが自分にとっては最も難しく困難な事であることは、確かだ。
 その身体の弱さを逆手に取って禁じてしまえば、安堵を覚えるだろう。
 遠く、自分になど見えはしないどこかを見つめる瞳を否定すれば、傍らにいるだけのその存在を縛す事だって、出来る。
 けれどそうした行いによって得られるものは、決して自分が欲しいと思っているものではない。それ位は、たとえどこまでも愚かで幼い自分にだって解っているのだ。
 「うん、少し落ち着いたら、戻るわ」
 そうした心遣いに気づいたのか、少女は夜気に溶けそうだった瞳を瞬かせ、真っ直ぐに少年に視線を送る。
 微風程の軽やかさで笑んだ唇は、それでもやはり、どこかこの世に帰属する気配の薄さを思わせたけれど……………
 掴んだ腕は細く白く、そして…どこか、遠い。まるで月のようだ。
 ほんの数カ月会わないだけで、少女はいつの間にかまた何か違うものに変貌していく。それは別段年輪を重ねるが故に現れる性という差ではなく、少女の内なる変化だろう。
 自分が学園へと通う事になり、学園の寮に入る事になったと告げた時の姿と、今のこの少女の姿は似て非なるものだ。
 あの時、初めて少女より一歩前に進めた気がしたというのに、あっという間にまた抜かされ取り残された感覚が身を占めた。
 いつだって、この少女の背中を見ている気が、する。
 細く小さなその背中は、けれど決して蹲らず凛と伸びている。痛みも苦しみも全て一人抱えて微笑める程、少女は毅然としていたから。
 「和也…………?」
 少しだけ気色ばんだ顔を月明かりが逆光となり、隠した。それでもその気配は消せるわけもなく、躊躇いを微かに含んだ声音が名を囁く。
 その小さな音に我に帰り、和也は掴んでいた少女の腕を解放すると、その隣へと並んだ。
 それは決して音とするわけではなく、それでも如実に見えるその言葉に、少女は柔らかな笑みを月に溶かし、頷くような仕草を落とすと、少年とともに夜気を孕んだ土を踏み締めた。


 その塀はすぐに目に入った。元々さして離れた場所にあるわけではない。
 蔓や蔦に混じって、時計草の花が月光の中に佇んでいる。思いの外、視野は悪くなかった。空に掲げられた月明かりが、皎々と冴えているためだろう。
 幾種類かの花弁を、似て非なる形ながら綻ばせ、あまり多くはない時計草たちはそれでも艶やかにその姿をたたえていた。夜だとういうのに寝ぼけた花も中にはいるものだと少しだけ呆れてしまう。
 けれどそんな物思いとは無縁らしい少女は、それを見つめて嬉しそうに微笑み、一歩少年より前に出ると軽やかな足取りで塀に近付き腰を下ろした。
 調度時計草の花が綻び、少女を取り囲むような姿になる。その光景を見つめた瞬間の、眩みのような目眩を、少年は月から隠すように首を振って霧散させる。
 時計草の別名は、どこか痛々しい。それは少女の抱えなければいけない十字架の重さを知らしめるようで、尚更だ。
 そんな事はないのだと、少女は他愛無い戯れ言のようにそれを受け流すだろうけれど、それでも事実として消える事のない現状は、多少なりとも感傷を生む。
 …………そうしたものに溺れる事を厭うからこそ、気丈なまでに少女は一人立つのだろうけれど。
 その儚く脆い、細く小さな身体で、たった一人。
 「ねえ、和也」
 塀に寄りかかるわけでもなく、膝を抱えて少女は丸まるようにその膝に頬を寄せて、問いかける声音で少年の名を呼ぶ。
 それに誘われるようにふらりと歩を進め、和也は少女の隣に腰を下ろすと、空を見上げるようにして言葉を待った。
 「あのね、嬉しかったの」
 「…………?」
 「和也が、学園の友達を、連れてきて、くれて」
 微かに微笑む音とともに告げられる言葉は、少しだけ痛みがある。
 そう思うのは、多分自分の傲慢さだ。そう自覚しながら、頷くように目蓋を落とす。朧げな月明かりはそれでも冴え渡り、目蓋の裏にまで侵入してくる気がした。
 それを見るともなく見つめ、少女は微睡むような声音で言葉を続けた。
 「私は…ここしか、知らないから、どんな場所か、解らないもの」
 柔らかな音は、月明かりと同じ波動で和也の目蓋に触れる。やんわりと沁み入るようなその音に、酔い痴れるよりもどこか、切なさが湧いた。
 「帰省、する度に……大人びていて、でも、同じくらい………和也は、辛そう、だったから」
 紡がれる音の深さと豊かさは、どこか現実離れして感じる。
 月明かりかしかない、この幻想的な空間でのみ許されたような、そんな音は、それでも確かに自分とともに生きている少女の醸す音だ。
 決して夢幻でもなく、ましてや触れる事も出来ない何かの囁く啓示ではない。
 生きて……必死で、ただ生きるという行為を繰り返してきた、たった一人の少女の音だ。
 「和也、は……進む道を、自分で見つけられる、人、だから。心配は、してないの。でも、辛い時に、辛いと………言わない、人だから」
 傍にいられない時に苦しんでいる気がして、それだけは少し不安だったのだと、苦笑のような微笑みで少女が呟く。
 どうしても自分達は、自分の行動を誰かと分とうとしない。
 自分が歩むべき道の責は、自分だけが背負えばいい。どこか個人主義的な根底の不信感を拭えないのは……生い立ちのせいと片付けるには、あまりに根深かった。
 遣る瀬無いその言葉の中の憂いに、うっすらと目を開け、月を眼前に睨み据えたままに和也が微かに唇を蠢かした。
 「………それは、お前もだろ」
 ずっと自分がそれは感じていた事だと、詰ることの出来ないその生き様を確認するように呟く音に、少女は微かに瞠目した。
 数度瞬きを繰り返し、少女は困ったように微笑んで、その視線を和也へと向ける。憮然としたその面は真っ直ぐに月に向けられているけれど、意識の全ては傍らに座る自身に注がれている事を感じて、少女は苦笑を柔らかなものに変えた。
 「それでも、私には、あの子が……傍に、いるわ」
 遠い場所に今はいる和也にとって、そうした存在がいるかどうかは気掛かりだった。
 あの赤子を見つけた日、ただ錯乱した自分の無様さを、少女は今も鮮明に覚えている。その悔やみを糧として、子供の支えとなれる道を模索してきたのだ。
 方法も理由も何でもよかった。ただ自分がそうありたいと願う道を探して……そうして踏み出したのが、シスターというそのカテゴリーに加わる事だった。
 もっとも、思っていた通り正規のシスターとなるための手順を踏むことが出来ず、この院の中でのみそう名乗れるような、そんな中途半端さではあったが。
 そうであってもよかった。確実に自分は願う道を歩んでいる。そうしてそれを認めるように育つ小さな命は、真っ直ぐと自分を求めて腕を伸ばしてくれるのだ。
 未来だけを見つめて生きている、子供の大きな瞳の中に映る自分は、不思議な程精力的だ。過去の日の脆弱さを消し去る程に。
 自分の生きる理由に他人を当てはめる事は、どこか間違った感情だろう。それでも今はそれが拠り所だ。
 あの子供を手放してしまえば生きる道を見失いそうな弱さを、少しでも早く克服したい。愚かしい自分の今の願いは、身勝手極まりないと少女は嘆息する。
 「私は、我が儘に……生きて、きてしまった、から。和也の、抱えるものを、きっと、知らないわ」
 「自分以外の荷物を知っている奴なんざ、いねぇよ」
 吐き捨てるようにして呟いた言葉の毒々しさに、空気が恐れるように震えた。怒気に限りなく近い、それは悲鳴に聞こえる。
 それをぼんやりと眺めた少女は、膝を抱えていた片手を解くと少年へと捧げ、その前髪を梳くように触れた。滑らかな少女の指先の動きに、微かに歪められた眉が躊躇うように顰められた。
 「そうね」
 ぽつりと小さく少女の声が響く。月明かりのように静かに、けれど肌に染み渡るようにはっきりと。
 「解らない、から。傍に…いたいと、思うのかも、しれないわ」
 言葉を尽くしても感情の全てを捧げても、解る事など……ほんの一部だ。他者であるというその厳然とした一線は、決して溶け合うことはない。
 それでも知りたいと思う強欲さ故に、人は誰かを求めて互いに寄り添い合うのだろう。
 自分が、小手毬の中で見つけたあの赤子に生きる意味を見いだしたように。
 あるいは、こんな身体の自分を理解しようと、心砕いてくれる少年のように。
 霞んだ視界の先には、遠い空に浮かぶ月が映る。鮮やかで、美しい。けれど儚く見えるのは、その身の瞬きのやわらかさ故だろうか。
 少女の見つめる先を同じように視線で追い、少年の目には月の燐光が映される。
 淡くやわらかく………どこか綿菓子のような軽さと甘さを内包する月明かり。
 少女の漆黒の、その髪さえも染めるように注がれる明かりは、あんまりにも幽かすぎて………不安さえも沸き起こす。
 「………………」
 傍にいたいという感情は、素直な感傷だ。
 それでもただ一緒にいるだけでは何の意味もない。傷の舐め合いなど、自分達には出来ないのだから。
 成したいことがあるから道を歩むのだ。惰性で生きる事が出来る程の時間を、少女は許されていない。
 その切ない事実が自分の成長を促す促進剤だなど、言えるわけもない。
 うつらうつらと眠りに誘われ始めた少女の、小さな身体を見下ろしながら、遣る瀬無く息を吐き出した。
 幼い我が儘を叫べる程、自分達は子供ではなかった。ただ願えば叶えられると他愛無く信じるには、世の理を知っている。
 だからこそ、着実な歩みを目指す以外の術はなかった。
 「………寝たのか?」
 微かな寝息が耳に響き、ふと傍らの存在に注意を向けてみれば、蹲るように膝を抱えたまま器用に入眠していた。
 苦笑するように唇を笑みの形に変えて、少年は自分より幾周りも小さな身体を抱き寄せると抱え上げた。


 月はいつまでもその光景を見守るように煌々と照っている。
 まるでその歩みを躊躇わせる事なく進めるように、促すように………………








 ハーブ・ガーデンで結局書き進めています。思いっきり続きの形☆
 いや、本当はね、もっと時間あけようと思っていたのよ?
 でもね、たまたま家の前のガーデニングスペースに時計草見つけてしまって!
 なに、これは続きを書けっていう啓示ですか?!とまあ一人焦ってみました。うん。本当に空回り気味に。

 シスターはたまにこんな風に夜眠れなくて外にくり出します。
 はじめの頃それで騒ぎが起きてしまったので、約束事としてどこにいるかを書き残すことにしていました。最近では結構頻繁にあるので花のカードを作成してそこにいるということになっています。
 …………横になると咳が止まらなくなりそうで彼女自身、怖いのですよ。
 元気になって、出来る事が増えて、それでも確実に自分が背負っているものを忘れる事は出来ないから。
 で。それを知ってか知らずか、あまり睡眠時間を必要としない和也は夜遅く朝早いタイプで。適当に植物の様子観察していると、よくはち合わせています。そしてそのまま何となく一緒にいて、いつの間にかシスター寝ていて、毎度部屋まで送り届けています。
 …………ちゃんとお兄さんしているなぁ。←たまに和也が年上であることを忘れる。

05.7.14