柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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意味はさしてないと思う
ただなんとなく、で
それでもなんとなくを、なくしたくなくて

無意識というものを意識した

多分それは初めての自覚
数多く、知らぬ間に
振り上げた腕があったのに
それでもその場でそれを自覚したのは
それが初めて

喜びを、どう表せばいいのだろうか





テレフォン



 新学年が始まってから、ようやく一ヶ月が経った。もう秋も深まり、自然の少ない街中でも紅葉がちらほらと目に入る。
 そんな学校帰り、ぶらりと気の向くままに足を向けた商店街で、ふと目に入ったのはハロウィン商品の棚だった。色鮮やかな橙がひどく視覚に訴えるのは、黒と橙のコントラストの鮮やかさ故だろうか。
 面白みを感じて足を止め、少年はそのまま店頭のディスプレイに近付いた。カボチャやお化け、魔女の帽子。子供向けのお菓子を詰め込んだバックもある。いくつかを手に取ってはまた棚に戻し、手触りやデザインを確かめていた。
 復活祭は、院でもかなり大掛かりに行った。初めは、仮装をした子供達がシスター達を引き連れて町に繰り出し、お決まりの台詞でお菓子を集めるというその程度が始まりだったのだ。が、年を重ねる毎に、院の中でのパーティーも行うようになった。
 あまり町に近いとはいえない院での事なので、ほとんどが内々のものだったが、それでも子供達も手伝って当日の飾り付けを楽しんだし、普段ならば作る事のないカボチャのおやつが、山のように作られた。
 考えてみると、段々事を大きくしていったのは自分達だったかと、過去を思い出し少年は忍び笑った。
 少しでも楽しい事が増えればいいと、随分躍起になっていた時期があったと思い出すのは、少しは今が落ち着いたからだろうか。
 「やーねー、ランタン持って思い出し笑いって、正直気味悪いわよ〜?」
 不意にからかう高音が耳に触れ、思考が停止した。…………まさか今ここにいるとは、到底考えてもいなかった相手だった。
 ある意味彼女の通り名を考えれば、一年の中で最も今月が相応しく、このディスプレイも馴染むのかもしれないが、それにしてもと溜め息が出そうになった。
 「…………なんでこんなとこにいやがる、魔女」
 「ご挨拶ね、私の方が先にいたんですけど?」
 御覧の通り買い出しよ、と手にした紙袋を少年に示した。
 紙袋から覗くのは、想像に反して橙ではなく、稲穂を薄め鈍くしたような色だった。それがなんであるかに気付き、少年は納得したように頷いた。
 「月見の準備か」
 そういえば、それもまた今月だと、手にしていたランタンを棚の戻して店内の奥を見遣った。
 そこにはひっそりと、すすきや団子類が備えられ、店頭程ではないものの、その存在を主張していた。
 「お団子は自分で作るの〜。折角だし、あんたも来る?」
 どうせ明日は休みだからと付け加える声に、少年は顔を顰めるように疑問を乗せて答えた。
 「はぁ?なんでわざわざ」
 馴れ合いを好む程べたついた人間関係に縁のない少年らしい、鬱陶しそうな声に魔女は苦笑し、いうと思ったと明るい声で告げた。その響きには厭味はなく、からりとした爽やかさえ見て取れる。
 相変わらず取り留めのない女だと憮然と睨んでみれば、言葉が足りなかったかと笑い、魔女が理由を口にした。
 「いや、私も正直出来れば二人っきりがいいんだけど。でもあの人ってば、あんたに会いたがってるからさ」
 折角の伝手だし活用しないとと、悪びれもせずに明るく告げる魔女に、少年はあからさまな溜め息を吐き出した。
 「…………………………まだ言ってやがんのか」
 以前から魔女経由で言われはしたが、今はまだ将来のための基盤を作っている最中だ。とてもではないが土台造りの勉強以外、わざわざ人間関係を増やしている事が出来ない。
 そもそも一度付き合いを広めると、そこから派生する面倒事に煩わされなければいけないと考えると、今はまだ遠慮したいというのが正直な心境だ。
 「仕方ないじゃない。あんたの論文、それくらいにはいい出来だったのよ?」
 幾人かから誘いは受けているだろうと暗に仄めかされ、少年は顰めた顔を更に苦渋に染める。事実なのだから否定のしようもない。そして、それらを獲得するためにこそ、この場を選び努力も重ねた。
 現状は、確かに自分がそうなるようにした結果であり、努力が実っているといえなくもない。が、それらを手放しに喜べる程、人間というものへの偏見がないわけでもまた、なかった。
 浅く広く、適当に付き合うだけであればそつなくこなせる。けれどこと、己の領域に踏み込むものはかなり厳しい審査を経て、多くがふるいから落とされる事を少年自身自覚していた。
 珍しくふるい落とされる事なく居残った魔女は、確かに希少な存在だが、その魔女が選んだ相手が必ずしも自分の好む性質と能力を備えているとは限らない。
 同様に、自分に関心を向けて能力を援助しようとする人間達が、真実自分の考えに共鳴しているとも限らなかった。
 面倒な事だと、辟易とした溜め息を吐き出す。それがあまりにも最近よく見る姿だったせいか、魔女が笑いを深めて軽やかに少年の頭を叩いた。
 「って!」
 「まあ今日は勘弁してやるわよ。私だって久しぶりに逢瀬だしね」
 キラキラと輝くネイルに沿ったライトストーンが、日差しに煌めいている。鮮やかに笑う魔女にはよく似合う姿だ。相変わらず派手な女だと思いながら、叩かれた頭に手を添えた。
 その代わりと、魔女は含むように笑って目を細めた。何か企んでいる時のその顔に、少年が顔を引き攣らせる。
 彼女がこの顔をする時、少なくとも自分にとって喜ばしい事を言われた記憶はなかった。
 そんな少年の懸念を読み取ったのだろう、魔女はひどく嬉しそうな楽しそうな、そんな弾んだ声で告げた。
 「和也はあの子のところに電話、してあげなさい?」
 「……………………………はぁああ?!」
 唐突といえば唐突な言葉に、少年が素っ頓狂な声を上げた。
 この間の夏休み中、彼女が無理矢理ついてきた帰郷の際に出会った件の少女を、彼女はいたく気に入ってしまったのだ。
 別にそれ自体は、予測出来ていた事だし不思議はなかった。が、それが原因なのかどうなのか解りはしないが、それをネタに自分をからかうことが、たかだか一か月の間に増えたと思うのは気のせいではない筈だ。
 またそれかと、顔を引き攣らせて不機嫌に顰められかけた眉を引き止めるように、魔女の指先が少年の眉間を弾く。
 「言っておくけど、からかっているわけじゃないわよ?」
 確かにからかいたいけど、とこっそり小声で付け加えながら魔女は笑う。手の中の紙袋に包まれた、月見のセットを伺いながら。
 その笑みの中に加えられている柔らかな光に、訝しげに少年が眉を顰めた。不愉快とは違う彼の眉の動きに、その程度で感情の動きが解るのが面白いと、魔女が忍び笑う。
 「だってあんた、今月誕生日でしょ?」
 「………………………………」
 「でも帰る気ないんでしょ?」
 ついでに言えば電話だってしない気でしょう、と、まるで見知った事柄のように魔女が問いかける。疑問の形にしながらも、それは断定の響きを孕んでいた。
 無言のままでいれば、当然それは肯定以外の何ものでもなく、たかだか数年の付き合いとはいえ解り易い人間だと軽く溜め息が漏れる。
 鋭利な刃物のように棘ついていたかと思えば、ひどく彼はこうしてその手の内を見せてしまう面もある。
 人付き合いが不得手というよりは、距離感をとることが不得手なのだろう。その辺りも、なんとか在学中に克服出来るように導ければと、魔女は同級生でありながら生徒を思うような面持ちで考えてしまう。
 「でもあの子、きっと言いたい事あると思うわよ?」
 気恥ずかしいからと黙殺するのはどうだろうかと、暗に仄めかしてみれば、少年の顔は顰められ不貞腐れたような面持ちがの覗いた。
 その目元は僅かな朱を示してはいるが、それでもその目は一歩を進むのに勇気がいるように瞬いていた。
 ずっと、彼が少女の事を口にする姿を見はした。それはひとえに、彼が心を許し始めた兆しでもあったのだと、今更ながらに理解をした。
 心砕いて大切にしていると、そう思ってはいたけれど、あんなにも綺麗な絆だなんて、想像もしなかった。
 それは悲しいくらい、綺麗だったから。………だから余計なお節介だと解っていても、口出ししてやりたくなる。それが色褪せないようにと、そう祈って。
 「たまには自分の事でも動きなさいよ。男でしょ!」
 女に恥をかかすんじゃないと、揶揄するように言って背中を叩き、キャラキャラと楽しげな声を響かせて笑いながら、魔女は道路を一歩、少年とは違う方向に進んだ。
 少しだけ体勢を崩してしまった少年が、慌てて顔を向けた頃には、魔女は家路を進み始め、かけようとした声が小さく喉で響くと、それさえ知っていたかのようなタイミングで魔女は振り返った。
 「………今度あの子に手紙で確認するからね?」
 電話の一つも出来ないようなら、その時はある事ない事吹き込んであげると、楽しそうに煌めく瞳が少年に告げていた。
 その背を見送りながら、少年は苦々しそうに唇を歪め、呼気を飲むような仕草の後、ゆるく息を吐き出した。
 「いらねぇ世話だってんだよ、可愛げのねぇ女」
 ぽつりと呟いた声は誰にも聞き取られる事はなく、僅かに冷たい秋の風がそれを攫ように吹きかける。
 夕焼けが空を覆い始めた事に気付いたのは、ようやく今で、それくらいには余裕がなかった事を思い知らされたように忌々しさが湧いた。
 ガシガシと乱暴に己の髪を掻き混ぜ、もう一度少年は息を吐き出す。
 溜め息に程近いそれは、けれど吐き出す事で鬱屈としたものさえ追い出せるような、そんな気がした。
 まるで向日葵かなにかのように、元気良くおおらかな魔女は、自分とは対局にいる人間だ。
 だからこその反発がないわけではないが、年の差故にそれが相殺されている。彼女にとってみれば、自分など子供も同然で、世話を焼かれる事が恥じな筈がないとその笑みが当たり前のように教えていた。
 少なくとも笑いの種にする気はないのだと示した相手の誠意を汲み、少年は何と言って院に電話をかければいいだろうかと、楽しさの内包されている悩みに頭を痛めていた。



 空に月が浮かぶ頃、少年が電話だと寮母に呼び出されるのはまだ、誰も知らない。

 その日の夕焼けの中、少女の手の中で眠る赤子だけが、その囁きを聞いていた。








 結局少女の方が先に電話かけてくれてやんの。和也情けないね☆
 少女サイドも書こうかと思ってはいます。でもどう考えても嬉しいの和也なんだよなー。そう思うとなんだか書く気が(オイ)
 まあまだ書きたい話はあるので、その子達とどちらを先に書くかは解りません。適当に待ってみて下さいませ。

06.9.24