柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
はい、はじめまして。何の御用でしょうか? え?お話、ですか?なんのです? ………シスター?えっと……ここの人はみんな「シスター」なので、どなたの事か……… あ、写真があるんですか?拝見させていただいても………あ、はい、知っていますよ。シスターの何をお聞きに………え?何でもと言われると逆に困りますね。 いえいえ、そんな事は……そうですね、とりあえず、どうぞ中に。紅茶でもお出ししますよ。 シスターの事……ですか。うーん、彼女が生きていた頃というと、私は14歳ですね。はい、ちゃんと覚えていますよ。 でも多分……彼女の事なら、私達程のものよりはもっと年配のシスター達に聞いた方が無難ですよ?あ、いえ、そういうわけではないです。ただ彼女は身体がとても弱くて………はい、先天性的なものだとは聞きましたが、詳しい事は……。 ええ、そうなんです、そうした条件下で、彼女は子供を育てていましたから。自然と、ね。どうしても生活の全てがその子供を中心になりがちなんです。 苦痛そうには見えませんでしたよ。むしろ誇らしそうでした。何と言うか………ああ、そうですね、幸せそうだったんですよ。 私は彼女の小さい頃なんて知りません。5つ離れていましたし、私がここに来た頃にはもう、彼女は子供を育てていましたから。 いや、血は繋がっていないですよ。彼女が見つけたと聞きました。でも………どうでしょう。あの二人は本当に、良く似ていたので、あるいは血縁者だったのかもしれないですね。 いえいえ、そんな……顔は似ていないんですよ。何と言うんでしょうか、気質というか、気性というか……いえ、もっと深い、そうですね、魂とか、そう言い表されるものがひどく似ていたんです。 彼女は真っ直ぐな人でした。本当に不思議なくらい真っ直ぐと、堂々としているんですよ。 ほら、普通人間というのは何かしら後ろ暗さっていうものが、あるじゃないですか。そういう、なんというか負い目のようなものを感じさせない人でした。 いつも彼女の周りだけ温かな、のどかなイメージが付きまとっていたんですよ。 ええ、そんなですから子供たちに大人気でしたよ。いつも誰かしらが傍にいました。負担じゃないか、なんて………その頃は考えもしませんでしたけど、多分、あれだけ四六時中ずっと付きまとわれているのでは、相当身体に無理をかけていたんじゃないですかね。 でもね、彼女はそんな事おくびにも出さないんです。いつだって笑っていました。………微笑んでいた、というべきでしょうか。彼女を思い出すというと、淡く静かに笑んでいる姿が浮かぶんです。 優しい人でしたよ。でも、同じくらい厳しい人でした。 たとえばね、嘘……吐いてしまう事があるじゃないですか。子供ですから本当に他愛無い嘘ですよ。怒られたくない叱られたくない、そんな事から言ってしまう嘘です。 大抵の大人は嘘だと解ればなんで嘘を吐く!って言って終わりじゃないですか。結構あっさりと流されてしまうんですよね。 でも、彼女は違いました。もうどんな嘘を吐いたかも覚えていないんですけど、私も彼女に何か嘘を吐いたんです。ええ、私も彼女の事が大好きで、嫌われたくなかったとか、そういう理由のものですよ。 彼女は……真っ直ぐ私を見ました。いつもの微笑んだ口元を静かに引き締めて。 奇麗な目が、ただじっと私を見ていましたよ。 そうして、言うんです。言葉は戻る事はないって。どんな感情から発せられたものでも、自分で言葉に換えたなら、責任を持たなくてはいけないって。 ………子供だからとらなくていい責任などないんだって、真っ直ぐに目を見て言うんですよ。正直なところ、あの時はその言葉の意味なんて解りませんでした。 ただ大好きなシスターに嫌われるかもしれないという、その恐さだけで、泣いて謝ったんですよ。 多分………彼女は解っていたと思いますよ。そんな浅はかな謝罪は。 それでも、過ちであっても、確かに後悔して謝るものを、彼女は無下に出来ないんですよ。 だからですかね、彼女の傍にはいつも、弱いものがいましたよ。子供や、傷付いた人。悲しんでいる人。………誰よりも一番彼女の傍にいたあの子供は、あるいは誰よりも一番、痛んだ人間だったのかもしれないと、今はそう思う事もあります。 シスターの外見ですか? その写真の通りですよ。 長い黒髪が、印象的でしたね。すらりとした毛並みで、上質の絹糸のようでした。 あとは大きな目ですね。睫毛も長かったと思いますよ。それに白い肌!本当に、透けるような色をしていたんですよ。外出もあまりしていなかったですしね。 え?ああ、違いますよ。日中は、という意味です。 日中は子供は学校に行くじゃないですか。だから彼女はこの院で、まだ学校には通わない小さな子供の相手をしていたんですよ。でもそうした時、私は彼女が駆け回るのは見た事がありません。 本当に必要な時にだけ、彼女は動き、子供の間に入ります。それ以外は子供の自由に遊ばせていました。 トラブルがあってもすぐには駆け付けないで、子供同士で決着が付くか見つめていました。動かない分、まるで全身がアンテナみたいですよ。あっちでケンカこっちで意地悪。でもちゃんと全部把握しているんです。びっくりしましたね。 ああ、私も、だったんですよ。いえ、学校に行かなかったのは。 違いますよ、至って身体は健康でした。お恥ずかしながら、ちょっとした不登校です。 5歳差とは言え、やはりこんな小さな院ですから、一括りにされるんですよ。でも、そういう集団というものを、彼女は持っていなかったんですよね。 あなたはあなた、私は私。そういう、悪くいえば個人主義的な潔癖さがありました。同じ足並みで同じ事を、という生活は、多分……彼女には出来なかったのかもしれないです。『自分』というものをしっかりともっていた人でしたから。 協調性がないというわけじゃいないんです、難しいですね………。 たとえば、AとBとCが友達だとして、AとBは理数系、Cは文系だったとするじゃないですか。仲間と離れたくないから、と自分がやりたいものを諦めて人に合わせる事が出来ない人だったんです。 あの頃の私には本当に眩しい人でしたよ。 私は人にあわせて無難に過ごす方ばかり選ぶ人間でしたから。そういう事に疲れ果てての不登校だったんです。 彼女のように一人になっても己であろう、とする力はなかったんです。あまり、いないですよね。そう出来る人も。 いえ、それでも私は好きでしたよ。あの人を嫌える人を、見てみたいです。 だって憎しんでみても、きっとあの人は愛してくれますよ。そういう人だったんです。 …………え?シスターの亡くなった時の様子、ですか? いえ、多分その質問に答える事の出来る人は、シスターの育てていた子供だけだと思いますよ。 あの子が、倒れた時から息を引き取るまで、さして長い時間ではなかったんでしょうけど、あの子だけが、傍にいたんですから。 聞かなかったのかって……聞けないですよ。いえ、子供相手だからなんて理由じゃないです。だってあの子は私なんかよりもよっぽど大人でしたよ。責任というものを真っ向から受け入れている、変わった子でしたから。 聞けないのは……もっと別の理由です。あの二人を一緒に見ていたら、誰もが言葉に詰まりますよ。 あんまりにも二人は一緒だったので。最期の時はどうだったか、なんて…………聞けないですよ。あの子はシスターが亡くなってから暫くの間、あの子は言葉を忘れてしまっていたんですから。 あの子の中でそれがまだ傷なら、敢えて聞きたいとは思いません。シスターもそう言うだろうと思いますよ。死んでしまった自分を思うより、生きているあの子を思ってほしいと。 ……………そういう、人だったんです。 あ、でもそういえば、なんだかあの子が伝言頼まれたみたいな事を言っていたような………んっと、ああ、そうです、和也!教えてやらないといけない、みたいな事を。 いえ、直後じゃないですよ。 あの子の声が戻って、少し経ったら不意に、という感じでした。ちょうど和也は49日に持ってきたい花があるからと院にはいなくて、どこに行ったのか聞かれたんです。 まあ実際は追いかけることは出来ないので、49日の時に話したんじゃないですかね。 私が彼女の死の直後で知っている事といえば、それくらいです。 ああそういえば、外見で思い出しました。 彼女は装飾品をつけていなかったんです。肌があまり強くないから、アレルギーが出るらしくて。金属アレルギーというやつですかね。 だから、何か……例えば指輪とかネックレスとか、そういうもので気に入ったものがあれば、身に付けるのではなくて、こういう、小さな袋の中に入れて持ち歩いていました。 彼女がそういうものを買いに行くのを見た事はないので、多分誰かからの贈り物なのだと思いますけど、結局誰から貰ったのかは教えてくれなかったんですよね。 ああ、そうですね、子供たちからそういう、紙とかで作った首飾りはよくもらっていましたよ。逆に良く、作ってもあげていましたけどね。 彼女、裁縫とか上手そうに見られるけど、案外不器用で、出来上がるものはちゃんとしているんですけど、必ず指に怪我をしているんですよ。そのせいですかね。周りの方が自然と覚えていってしまうみたいで。 ええ、あの子も器用に縫い物とか出来るようになっていましたよ。 ……うー…ん、そうですね、確かに彼女の怪我を心配して、もあったと思いますけど、私は多少の嫉妬があったんじゃないかな、と思っていました。 彼女は誰にでも優しいし、平等でしたから。 他の誰かのために頑張って、それで傷つくのが悔しかったんじゃないですかね。そんな気が、します。 あら、もうこんな時間でしたか! 申し訳ありません、お引き止めしてしまって。 いえ、こちらこそ。……久しぶりの思い出話でした。ええ……あ、でも話すのが嫌なわけではないんですよ? ただ……彼女はあまりにもしっくりとここにいたので、なんだかもういなくなって数年も経っているというのに、そう感じる事が出来ないんです。 話していたらひょっこり顔を覗かせて、いつものやんわりとした笑顔でどうしたの?って声をかけてくれる気がして。 だからつい……院内では話さない事が多いです。いいえ、不快なんかじゃないですから!みんな……本当にただ彼女の事が好きだっただけですもの。 はい、ぜひまたいらしてください。 今度は彼女の教育係だったシスターがいる時にでも。 私とは違う、それにもっと幼い頃の彼女の事も話して下さると思いますよ。 はい、ではお気をつけて。ごきげんよう………… 今回は一人称、対話形にしてみました。相手の会話はご想像にお任せいたします。大体解るようにしたつもりですが………(汗) 和也以外の人から見たシスター、を書きたいなと思ったんですよ。 大人になった(語弊があるな……精神的に、という意味で)シスターと彼女の教育者の会話も書いてみたい。 シスターは育てるには骨の折れる子供だったと思うのですよ。なまじっか、生きる事を知っている子供、というのは大人には手に負えないのですよ。 大人は、生きることから逃げて生きているからね。 04.12.17 |
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