柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
こんにちは、えっと…お手紙読ませていただきましたけど、本当に私なんかでいいんですか? はあ……いえ、正直な話、私でお役に立てるか解らなかったので。 あ、そういう意味ではないんですけど、ほら、この通り私、こんな足でしょう?ですから自分の身の上話は山のように繰り返してきているんです。なのでそういう点では気にしないで結構ですよ。 お手紙では確か……私が5歳の時の静養中の話、でしたよね。よく知っていましたね、こんな話。え?読んだ? ああ……そういえば、作文コンクールに出品されていましたっけ。それでも凄いですよ、そんなものまでチェックしているなんて。 はい、あの時に会った男の子の話ですね。覚えていますよ。多分私と同じか……ちょっと大きいくらいの子でした。 あの頃私、少しノイローゼ気味だったんですよ。ええ、事故にあったばかりで。 足もこの通り義足になって、まあ、まだあの時はなかったんですけどね。車いすで動くしかないなんて、あの年齢の子供にはちょっと酷ですよね。 ええ、それで、痛みは勿論ですけど、それ以上に不満とかやり切れなさとか、遊べないだけでなくって、みんなの目が、恐かったんです。 なんて言えばいいんでしょうね。いつもそれ、困るんです。 そうですね………動物園の動物になった気分、ですかね。ええ、見られているっていうのが当たり前なんです。それがとにかく私にはストレスでした。 それでヒステリーを起こすことが増えて、何度か自殺未遂もやって。あ、いえ、車いすで動こうとして階段から落ちたり、不慮の事故ですよ? でももしかしたらどこかで、死にたいっていう気持ちはあったんじゃないかって思いますけどね。小さすぎてそういう概念が良く解らなかっただけで。 環境を変えた方がいいっていう事で、一か月間だけ、あの土地に移ったんです。 別荘というわけではないですけど、どこかの施設が所有していたらしくて、父のコネらしいです。使用していないからって、快く貸してくれたらしいですよ。 それで、毎日毎日、ただ自然の中に放り込まれたんです。まあ、気は楽でしたけどね。ええ、奇怪な動物ではなくなったので。それに放り込まれたっていっても、母はいましたし、一人で外は出れないので、大抵バルコニーにいるか、部屋の中で外を眺めているかって所でした。 どれくらいで会ったのかな……うーん、その辺りは曖昧なんですけどね。ただ、つまらなくて、誰か遊びに来ないかなって、思っていたんです。そうしたら、突然窓が木の枝で叩かれたんですよ。 怖かったですよ!当たり前じゃないですか。ここには私の友達なんか来ないって思っていたし、実際来れるわけないんですから。 悲鳴ですか?あげませんでした。というより、あげられなかったんでしょうね。逃げようとしてベッドの上を這い回ったくらいでした。 暫く枝は窓を叩いていたんですけど、こう、それが一定じゃないんですよ。初めは解らなかったんですけどね。 こう……拍子を取っていたんです。そうそう。まあ、木の枝で窓ですから、こんな風には響きませんけどね。ただそれが繰り返されて、恐怖が興味に変わると、子供ですから、あっさりと好奇心に負けちゃうんですよ。 それで私、窓まで頑張って這っていったんです。動けないわけじゃありませんから。もうその頃には、足の怪我は完治していましたし。ただ無いっていう、それだけの不便さです。 カーテンをなんとか掴んで立ち上がって、窓を覗いたら、男の子と目が合ったんです。 あの時は本当に驚きました。何してんだって思いましたけど、その子がやっと顔を見せたって感じに呆れたような顔するんで、こっちが呆気にとられました。なんて身勝手なんだろうって! そうしたらその子、精一杯背伸びして窓まで手を伸ばして、何か私に押し付けるように差し出したんです。何も言わないんですよ?しゃべれないのかなって、後から思ったくらいです。 でもとりあえず、その時は何か渡そうとしているっていう事は解りましたから、私も手を伸ばしてそれを受け取ったんです。 そうしたら満足そうに木の枝を肩に担いで、その子は走っていってしまいました。多分、元来た道をそのまんま。 何だったんだろうって思いましたよ。当然ですよね。 ああ、渡されたのは、木の実でしたよ。といっても、食べれるやつじゃないです。染め物に使うやつらしいんですけど、濃い紫色で、ぶどうみたいな感じのやつでした。 それからその子、ほとんど毎日きたんです。来たっていっても、まあ……長くて10分っていうところでしたけど。 いつもなにかしらお土産があるんです。ええ、木の実とか葉っぱとか、一度虫を持ってこられましたけど、私、虫が苦手で、泣いたら次からは持ってこなくなりました。 話、ですか?しましたよ。そうですね……なんでここに来たのかっていうのが初めに聞いた事だったと思います。だって、誰も知らないと思っていましたから。 そうしたらシスターに聞いたって言っていました。多分、借りていた施設の子供だったんでしょうね。 まるで連想ゲームみたいな会話でしたよ。いえ、一日一日が、です。んっと、違くて………今日話した事の続きがまた明日、なんです。全く同じ話の続きではなくて、昨日の話の続きだけどちょっと違う方向に進む、みたいな。 シスターっていう人の話も聞きました。むしろその話ばっかりだったんです。 別にその子は私の生い立ちを聞きはしませんでしたし、そもそも私の足が見えないんですから、ただ部屋にいる子と話しているだけだったと思いました。 フフ……そう思います?でも私は、きっとあの子は知っていたと思いますよ。 だって、話に夢中になって私が続きを強請っても、あの子は10分以上、いる事はなかったんですから。 片足で10分立っているの、どれくらい辛いか解りますか?いくら窓に寄りかかっていたって、やっぱり耐えられませんよ。 いえ、その頃の私は気付きませんでしたよ。ただ、あの子と話すのは楽だなって、そんな感覚はありましたけど。 そうですね。だから多分、私はあの子から聞いた『シスター』っていう人に、憧れたんだと思いますよ。ええ…本当に嬉しそうに、その子は話していましたから。 シスターは少し身体が弱いって、言っていました。だから私に持ってくるみたいに、毎日お土産を探すんだって。 まだ私もその子も小さな子供ですから、お手伝いをしようにも出来ない事が多かったんでしょうね。だから手伝えない時は、こんな風に宝探しに来るって言っていました。 そうですね……喜怒哀楽が、なんだかそのシスターに左右されているような感じはしましたけど、どちらかというと母親と赤ん坊みたいな感じだと思いますよ? ええ、だってまだ小学校にもいっていない年齢ですよ?親の感情に左右されますよ。 でも、あの子のそれは何となく、そうだなぁ………優しい感じがしました。 たとえば夕方になってから来た時は、大抵寂しそうな顔をしていて、今日はシスターが寝込んでいたんだって、しょんぼりしているんです。 でもちゃんとお土産も持ってきてくれるし、訪ねてくれる。 まあ…もしかしたら『シスター』へのお土産のついでかもしれませんけど、それでも忘れずに来てくれる事が、あの頃の私には本当に嬉しかったんです。だって、その子だけがあの頃の私の友達だったんですから。 そんな風に……なんて言うか、そうですね、閉鎖的でない。そんな感じでしたよ。 ああそう、それから……一度、あの子に言った事がありました。私もその人に会ってみたいなって。連れてきてって、頼めばいい事だったんですけど、やっぱり遠慮もあったし。それに何より、その人が私よりも体調に優れないのは、何となく解っていましたから。 いえ、そうじゃなくて………私は足が無いっていう以外は、元気でしたから。車いすを使えばいつだって外には出れますし、動けました。 でも『シスター』はなんというか……そんな私よりもずっと行動に規制をかけられているような、そんな感じがしたんです。 実際、その子は難しそうな顔をしました。まあ真夏でしたから。あなたのお話だと、少しじゃなくて、結構身体が弱かったんでしょう、『シスター』は。 あんな小さいのに、あの子はちゃんと理解していたんですね。………まあもしかしたら、人間は小さい時の方が、そうした事への直感力は優れているのかもしれないですけどね。 だから……ですかね。お手紙をいただいた時、ショックを受けました。ええ………っく、……ごめんなさい。平気です。でも実際、私が泣くのも妙な話ですよね。 私は一度も会った事はないんです。それでもどうしてこんなに辛く感じるのか、自分でもよく解らないんです。 ただ………私は本当に、彼女に憧れていたんです。あの子にとっての『シスター』に。そんな人が私にもいたらって。………まるでおとぎ話の王子様でも夢見るみたいですね。ええ、そんな感じです。 毎日が憂鬱で、腫れ物にでも触るような両親も、手紙もくれない友達も、私はあの頃どうでもよかったんです。いなければいないで、清々するくらいなものでした。 だって、私が普通じゃないって、そういう目でしか見てくれないんですから。足がなくたって私は人間ですよ。珍獣でもないし、まして考える事の出来ない赤ん坊でもなかったんですから………っ! ああ、ごめんなさい。……ひっく、……ありがとうございます。すみません、後で洗って返しますね。 あの頃の事は、私にとって、本当に大事な分岐点だったと思います。 今こうして私は勉強をしてやりたい事をやろうと決めていますけど、あの子に会っていなければ偏屈で陰湿な引き蘢り人生でしたよ。ふふ……それがお似合いな性格になっていたんだと思いますよ。 どんなに薄くなっても、細くなって見えなくなっても、縁っていうのはきっと、消えないんですね。あれからこんなに月日が経っているのに、あの子に関わる事があるなんて思いもしませんでした。 ええ、だって、あの頃、私はまだ義肢の存在も知りませんでしたし、成長途中どころか、これから育つような子供でしたから。暫くは地獄のような思いでしたよ。 車いすと併用じゃなきゃ、とてもじゃないけど動けませんでした。 でも、あの子と話した記憶や、あの子の教えてくれた事、お土産に持ってきてくれた宝物、そんな、本当に子供の他愛無いちっぽけなものが、私を支えてくれたんです。 ええ、本当に細くて薄くて、見えやしない、そんな縁が。 この足のおかげで、私は義肢装具士と出会いましたし、その仕事内容に惹かれました。 不自由を感じて蹲るしかない人に、立ち上がるためのものを私でも提供出来るんですよ。フフ、まだなれたわけじゃないですけどね。でも、絶対になります。私にだって出来る事がある筈ですから! あの子がもしも私と同じように、誰かのためにって思って、それで今の道を歩んでいるのなら、やっぱり『シスター』の影響が強いんじゃないですかね。 何かが出来た筈だって思うと、人間ってそれは後からでも、まかなおうとしちゃうじゃないですか。……いえ、それはまあ…あまり、いい言い方ではないと思いますけど。 償いとか、罪悪感とか、そういうのとは質が違いますよ。何より、人間って薄情じゃないですか。フフ…まあ半分冗談ですよ。 だけど、そういう……後ろめたさだけで全てを決められる程、人って強くないですよ。その人が好きなら尚更です。 綺麗な記憶を残したいじゃないですか。そうするとどうしたって、後ろめたさを持つ自分が嫌われそうで恐いですもん。 いえ……多分、あの子は『シスター』に恋愛感情は持っていなかったと思いますよ。 まあ、そうはいっても私が知っているのはたかだか5、6歳の頃の事ですから。その後どうなったかは知りませんけど。 でもあの頃の印象だと、なんて言うのか、一緒にいるのが当たり前、っていう感じでした。いや、だからそうじゃなくて……うーん、難しいなぁ。 例えば、『シスター』が誰かと結婚しても、あの子が誰かと付き合っていても、それでも二人の間に流れるものは変わらない、そんな感じです。 誰か他人が間に入ろうとしても、入れないと思いますよ。それは恋愛なんて言葉じゃ、とても覆えないじゃないですか。 そんな関係だったから、余計に恐怖心は強かったかもしれないですね。だってあの子、絶対に『シスター』に嫌われたくなかったと思いますから。 ええ、だから………あの子は自分の意志で選んだんだと思いますよ。それが辛かろうとなんだろうと、あの子は選ぶんだと思います。だって、そうしないと、自分が自分じゃなくなっちゃうから。 やりたい事を見つけて、そのために努力しようと決めると、それはもう自分の一部ですよ。無くせっていわれても、もう無くせないです。 訃報は、こんな後になってから知らされた私にだって衝撃でしたし、間近でずっと暮らしていた人間には、もっとずっと大きな重石だったでしょう。 だから、その重石を背負っても真っ直ぐ立てるくらい、自分の中に確立しなきゃダメなんです。こうありたいっていう、そういう理想像、みたいなのです。 じゃないと立てないんです。………へこたれる方が楽ですもん。誰かに慰められた方が、ずっとずっと楽です。でも立ちたかったら、自分の足で歩きたいって、そう思ったら、努力しないといけないじゃないですか。 たったそれだけの事だと思うんです。それが、でも、やっぱり全てなんだと思うんです、私は。 ああもうこんな時間!ごめんなさい、そろそろ塾に行かないと。はい、いえ、平気ですよ、今日でもいいっていったのは私ですし。 あの……それで、今回の話って、色んな人にもお話を聞いているからって、そういわれていましたよね? あの………えっと………あの、ですね。もしそのお話、何らかの形でまとめるのでしたら、私にも読ませていただけませんか? あの子の話も『シスター』の話も、もっと私、聞いてみたいんです。 はい!ありがとうございます。連絡、楽しみに待っていますね!それではまた、いずれ。さようなら! 久しぶりの形式で書いてみました。 今回は直にシスターを知る人ではなく、子供の視線から見たシスターを知る人。 ついでにいえば、彼女にとって子供は初恋の人だけど、まあ自覚したと同時に失恋気分だったようですよ。 06.7.3 |
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