柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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 はぁ?誰、あんた。新聞ならお断……は?イン?………ああ、孤児院ね。
 何それ。話聞きたいって、見ての通り私、孤児院育ちじゃないわよ。ストーカーするならもうちょっとちゃんと調べていらっしゃいな。
 …………なんであんたがそいつの写真、持ってんのよ。腹立つんだけど。こいつの話?そのためにわざわざ住所調べてやって来たっての?ご苦労な話ね!
 あーもういいわよ。仕事行くまでだったら話聞いてやるから、ほら、入りなさいよ。

 じゃあまずは、軽く経緯から?やっぱそれが常道かしら。はいはい、何歳くらいだったかしらね。確か私が薬と売りやってんのがばれた時だから………あー、13、くらいだったかしらね。まあ子供だったから、好奇心よ。薬はもうやってないわよ。
 まあね、あっちこっち連れまわされたわよ。私は小さい頃に里親先が見つかったけど、結構依怙贔屓する奴だったからね。
 ついでに近所にロリコン変態じじいまでいて。大騒ぎになっちゃってさ。それからはもう、一年も同じ場所いれないのよね。
 私、ほら、こう顔が派手でしょ?そのせいもあったみたいね。まあ今更だし、整形する気もないけどさ。平穏無事な人生なんて、つまんないじゃない?
 そう。それで何回目だったかしら。覚えてないけど、やっぱり里親の所から追い出されてさ。次が見つかるまでの数日、そいつのいる院にいったのよ。
 ………更生施設?ああ、薬物の?行かないわよ。違うって。売りの相手が所持していたのよ。私も勧められて、ちょうど用意しているところを見つかっちゃったの。
 ううん。そのあと、いつか忘れたけど一回やったわよ。…………腹立たしいけど、顔がちらついて、それからは二度とやらなくなったけどね。あんな幻覚むかつくだけのバッドトリップよ。
 ん?違うわ。そいつ。『エッちゃん』の顔。腹立つのよ、そいつの顔。
 ………好き、ではないわ。造作整っているだけにさ、気味悪いじゃない。それがただじっと見てくるのよ。夢見が悪いったら。
 …………何それ。今まで他に話聞いて来たんじゃないの?ふーん?でも私もこいつの名前、知らないわよ。『エッちゃん』が名前かどうか知らないけど、ちっこいの達がそう呼んでたから。
 そういや、ある程度の年齢になると、誰もあの子の名前口にしてない感じだった気もするわ。よく覚えてないけど。
 自己紹介、してないのよ。私ね、和也が気に入っていたから。
 あいつ強いのよ。頭も悪くないし、顔もそれなりだし。性格陰険だけどね!
 あー、聞いた聞いた。植物博士みたいのでしょ?なんか難しい名前だったから覚えてないけど。あいつらしいわよ。あの頃から関心のある事なんて、植物とそいつだけだったんだから。
 山の研究所でそいつと一緒に幸せ〜に暮らしてんでしょ、どうせ。
 …………………?何よ。は?………………どういう事?
 ………………………………………………死んだ?あの子が?いつ?!
 何それ……。だから…………。
 ………なんであんたが知ってんのよ、ハガキ。ってそれ、私が出したやつじゃない!!
 ふん、あいつはいい子だから、自分宛に来たやつなんて、全部整理して大事に保管するわよ。私だからじゃない。…………悪かったわね、ガキじみてて。
 だったらニヤつくの止めてくれる?
 嫌いよ、あんな子。性格合わな過ぎ。私は一か所にいるなんて冗談じゃないし、男弄んでなんぼよ。
 楽しいわよ?刺激がなきゃ生きている感じしないもの。
 さあ?いつか刺される事があっても、それはそれ。私の人生、そんな締めくくりもいいんじゃない?私らしいって、笑ってやるわ。
 だから本当に合わないのよ、あいつとは。
 あいつ、活動範囲めちゃめちゃ狭いのよ。学校の校庭じゃないのよ?なのにそれで満足しちゃってさ。いい子ぶりっこなのよ!
 私が院に行った時もそうよ。霞かなんかかと思ったわ。気に入らないに決まってるじゃない。だから自己紹介なんかしなかったわ。………まあ誰かから聞いたのか、あいつは私の名前知ってたけどね。
 悔しいから私は聞かなかったわよ。だから他の奴が話しかける時に、なんて呼んでいるか聞き耳たてたのよ。だから『エッちゃん』なわけ。それ以上は知らないわよ。
 ハガキの宛名だってそのまんまでしょ?あいつ、訂正とかしないんだから。ホント気が利かないわよね!
 あんましゃべらないし。いっつもなんか見てるみたいだし。変なもの見えんのかと思ったら、そんなわけでもないしさ。夢想癖でもあんじゃないの?
 静かな子供だったわよ。あの年齢にそぐわないわね。走り回っているの、見た事ないわ。………あ、そう。別に、身体弱いからどうこうなんて、思う気ないわよ。走れない気持ちなんて知らないもの。
 …………怒ってないわよ。決めつけないでくれる?
 私よりあんたの方が、よっぽど知ってんじゃないの?あいつ、自分の事なんて話さないわよ。いつだって受け身体勢なんだからさ。
 違うわよ。あんなの、生きてないだけよ。なんていうのかね、あいつ、死んで当たり前、みたいな目、してんのよ。
 解るわよ。自殺願望持つ奴とどれだけ付き合ってきたか知れないわよ。伊達に里親巡りしてないんだから。
 でもあいつ、手紙じゃ結構話すのよ。別に相談したりとかじゃないわよ。ただ教えてくれるだけよ。見ての通り、私の返事はハガキだしね。字に書くのは苦手なのよ!
 …………ダメよ。私が貰ったものなんだから、私以外が見るわけにいかないでしょ。それくらいの義理立てはするわよ、私だって。
 ああ、そうね、もし和也にも話聞く事があるなら、言っておいて。あいつも和也には知られても仕方ないって思っているでしょ。喜ぶか泣き出すか、見物だわ。
 ………………チビの事?あの子には見せないわよ。
 あいつの事だから、どーせチビにはいい子ぶりっこしてたんでしょ?だったら見なくていいのよ。見る意味ないわ。もう知っている事、なんて。
 私はあいつの事、理解出来ないのよ。手紙読んでも、まーだ理解不能。両極端すぎるのよ。グレーゾーンですらないんだから。
 だから解らないわ。なんで、なんて、解るわけないわね。
 あいつの目から見た世界がどうなっているのか知らないし、私にはきっと一生解らないまんまよ。
 あいつはそういう奴なの。自分一人にしか解らない、そういう世界観で生きてんのよ。仕方ないじゃない。あいつの見る世界は綺麗すぎて、自由に動き回れる私達には窮屈すぎるわよ。
 腐っているのが世界じゃない。汚いから、生き易いのよ。痛みに耐えながら綺麗に生きようなんて、私は思えないわ。
 …………言ったわよ。あいつにだって。あいつは………それでも責めもしないんだから、やってらんないわよ。
 私はあいつの感情動かせない。あいつはいくらだって私の感情動かしてくる癖に、よ。腹立つ!
 たった数日よ。それ以外、顔合わせた事ないわ。何枚か写真は送られてきたけど、それもしまったまんま。それなのに……なんだってあのバカはこんなに影響力あるのかしら。ほんと……むかつくわ。
 嫌いよ。当たり前じゃない。世界中の全員があいつの事好きなわけじゃないでしょ。当然の事じゃない。
 ……………………嫌いよ。
 あいつは、何回そう言ったって、笑うのよ。バカじゃないの。泣かないでって、手、握るのよ。誰が泣いたかっての!
 あいつの勘違いよ。私は泣いてなんかないわ。
 違うって何度言っても聞きやしないし、頑固だし。好きになれるわけないでしょ!
 私は和也が好き。だからあいつの事は嫌い。悪い?
 ……………ニヤつくの止めてって、言ったでしょ。気分悪いわよ。
 私が直にあいつの事知っているのはその程度。あとは全部手紙経由よ。しかも一方的な、ね。がっかりした?
 あんたも暇人ね。あいつの事聞き回って、楽しい?
 …………私はごめんよ。あいつの事追いかけてたら、息苦しいじゃない。
 今更綺麗な水槽で生きてなんかいられないわよ。私はこれくらいの汚れた場所でしか生きたくない。
 あいつが、綺麗な場所でしか生きられないのと同じよ。私は蛍とか、ああいう生き物になれない。
 価値観も生き方も違うわ。まあだから、和也と一緒にもいられないんだけどね。
 似てい過ぎるのよ、私らは。二人でいたりしたら、どっちかが大怪我するわ。悪けりゃ殺人犯とその被害者ってところね。
 和也は、あいつがいるから、綺麗な場所で息が出来るんでしょ。私は遅すぎた。それだけよ。
 …………羨ましい?なんで?和也になりたいなんて、思った事ないわ。私は私で満足よ。こういう生き方も、スリルがあって素敵でしょ。
 あいつの事は嫌いよ。だから……これでいいの。
 あいつが願うみたいな生き方、私には合わない。そういう奴もいるのよ。それだけの話。

 さて、そろそろ私、お店行かなきゃ。ほらあんたもさっさと立って。
 じゃあね。ん?………いらないわ。私は自分の目で見たものしか信じないわよ。あいつの事も、私が知っている事だけで十分。
 知らなけりゃ、死んだって事も嘘になるからね。
 フフ……冗談、よ。じゃあね。二度と会わないだろうけど、お元気で。








 この作風も4作目ですか。そして全部が女性の語り口。
 記者(?)はそのせいで男性風にしているのですがね。特に誰が聞きに行っているかは決めていません。性格はカイみたいな奴だと思います。どちらかというとシスター属性な人間。
 今回の子はすれた生き方を楽しんでいる設定で。まあそういうのを楽しめるような人生環境だったということは置いておいて。
 女版の和也、みたいな感じです。どこまでいっても素直じゃない(笑)
 このあと家に帰ってから手紙を引っ張り出して、送ってくれた写真を大事に飾りますよ。和也と子供も一緒に写った、幸せそうな写真を。
 それ見て、今日聞いた話は忘れる事にするのです。
 知らなければ、今までみたいにちょっと手紙を書くのを忘れているとか、郵便事故なんだ、とか、そう信じていられるから。

 この子にとっては少女が拠り所で、我が侭も不満も苛立ちも、全部ぶつけていい相手のように思っていたから。
 宗教を引き合いに出すのは不粋ですが、そういう、不動の信仰に近い、思いだったと思います。

06.8.18