柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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 あ?誰だよ、あんた。
 話?なんの。俺、後一時間でデコトラ乗り込むぞ?
 ふーん?あー、それでわざわざ?でもよ、俺、別に仲良かったわけじゃねぇぞ。ま、いいけどよ。
 時間きたら話は終わりにするぜ?それでもいいなら、入んな。

 しっかしさ、話聞きてぇってんなら、なんで先に連絡とかしねーんだよ。あん?あー、まあな、あんま俺、家にいねーしな。だからラッキーだぜ?
 で、あいつの話、ね。俺が覚えている事だと、『あいつら』になるぜ。構わねぇよな?
 そ、和也。俺はさ、どーもあいつの傍には行きづらくて。なんてーか……畏れ多いっていうのもちょっと違うけどよ、そんな感じ。だから殊更、傍にいる和也に突っかかる方が多かったかな。
 いや、嫌っちゃいねーよ。和也はリーダーみてーなもんだったし。対立してたわけじゃねーし。
 俺、徒党組むってのダメだからさ。和也も得意なわけじゃなかったんだろーけど、周りがほっとかねーんだよ。そーゆー奴っているだろ。
 まあかといって、おおらかかっていや、そういうわけじゃ……まあ、ねーけど。懐入れた人間にゃ甘いんだけどな。
 どっちにしろ厳しいぜ、あいつ。価値基準が自分だからな。能力高くなけりゃ、対等になれねーんだよ。その代わり裏切らなければ、絶対に手は離さねーよ。それは弱かろうがバカだろーが変わらねーんじゃねーの?
 和也はそんなだったけど、あいつは……ちょっと違ったな。
 なんてーのか、なんでもかんでも飲み込んじまうってのかね?よくあいつに懺悔したがる奴がいたぜ。大抵、バカそーなガキ。
 つってもまだ成人してなさそうってだけで、それなりの年齢だけどな。ようはココが足りねーんだろ。そーゆータイプ。
 あいつは責めるって事、知らない感じだったからな。は?あー…それは嘘吐く奴が悪いんだろ。どんな意見であれ本心であれば、あいつは責めねーよ。否定もしねーし。
 ただ……なんつーのかね、悲しんでいる、のかな。そんな感じはするけどな。同情ともちょっと違う。あいつは同情出来るような暇、なかっただろうし。
 なんだろうな。あー……そうか、うん、そうだな。寂しいってのは、近いかもな。それが俺に向かってだったのか、あいつ自身に向かってなのか、解んねーんだけどよ。
 ああ、そうだな、その話すりゃいいか。
 つってもそんなこ難しい話じゃねーよ。俺が孤児院に来てすぐにさ、和也と大喧嘩したんだ。
 凄かったぜ。何がって、怪我の度合いが。俺は奥歯折っちまったし、和也は腕にヒビ入っちまった。まあお互い様だろ?
 へ?別に。喧嘩は喧嘩だ。卑怯な真似したわけでもねーし、後腐れなんざねーよ。ただの挨拶みてーなもん。まあ理解しづれーかもな。
 そーゆー風に実力見せあっておかねーと気が済まねえ奴らもいるってこった。
 で、まあ……当然そんな傷こさえてんだし、お互いボロボロ。………腹立ったしい事に和也のヤローは平然としてたけどな。
 俺?………ダウンしたんだよ。どっちかがそうならなけりゃ、俺らの喧嘩は殺しあいになっちまうしな。物騒な話だろ?
 それでもあの頃の俺らは、そうしねーといけないっていう、脅迫じみた感覚があったんだよ。
 相手の力を見ないと、怖くて傍に居られねえ。だからわざと問題も起こす。不可抗力で何かあって責められても、撥ね付けられるだろ?
 そうやって、必死になって自分を守んだ。格好悪いけど、それくらいしか出来る事がなかったんだよ。チビだったしな。
 それで知らない間に医務室にいたんだけどよ、その時、隣で寝込んでたのがあいつだったんだ。何でも散歩の途中でへばったらしいけどな。さあ、覚えてねーな。貧血か何かじゃねーの?
 あいつはまだ俺が新しく来た事、知らなかったらしいな。もしかしたら寝込んでたのかもしれねーし。
 俺もまだ全然他の奴らの顔も名前も覚えてねーから、当然、お互い口もきかなかった。
 けど、あいつ、痛いかって聞いてきたんだよ。痛くて当たり前じゃねーか、あっちこっち包帯やらガーゼやらで覆われてんだぜ。歯は折れるしよ。いや、歯は生えてきたぜ。大分後になってからだけど。………まだ一桁の頃の話だぞ、これ。
 そうそう、それで……バカにしてんのかとか、そんな事返したんだよな。そうしたらあいつ、不思議そうに俺を見やがんだ。答えるわけでもなく。ただじっとだぜ?
 気味悪いなーって思っていたら、また唐突によ、痛いのが解らねーって、言ってた。
 ………まあな。俺らみたいな奴らじゃ、珍しくもねーよ。感覚麻痺する奴もいるし、精神的におかしくなる奴だっていらーな。でも、あいつはそういう感じがしなかったんだ。
 殴られ過ぎたのかって聞いても、首を振るしよ。訳解んねーの。
 しゃべりづれーのは俺の方な筈なのに、あいつの方がよっぽど声が小さいし、話さなかったんだよ。まるで俺が必死になって話しかけてるみたいだったな。変な話だぜ。
 あいつは天井見ながら、ぽつ、ぽつって感じに話すだけ。しかも変な話し方!片言の外国人みたいなんだぜ。
 あー……でも苛立ったりは、しなかったな。いや、したけど、怒鳴る気にならなかったのか。
 やっとあいつが答えたなーと思ったら、ないっていったんだ。訳解んねーだろ?当然俺はそれをそのまま、あいつにいったぜ。
 あいつ、やっぱり天井見上げたまま、背中のバカでかいクッションに身体沈めてさ、ちっさく口動かすんだ。そんで、……………また、ないって、いったんだ。
 解るか?ないんだと、そういう痛み、感じた事。殴られた事も全然ない。あり得ねーよ、俺にしてみれば。何やったって殴られるのが当たり前だってのによ。
 訳解らねーって言ったら、ようやくあいつ、俺の事見たんだ。………ゾッとしたね。さっき自分を見た目も忘れたね。
 ちっちぇー奴だと思ってたんだぜ、俺は。それなのに、なんだったんだろーな、あいつのあの目。
 まるでよ、底なし沼。いや、キレイとか汚いとか、そういう問題じゃなく、怖ぇーの。迫力っつーか、威圧感か?あー……必死、かもな。
 でも必死ってだけで、あんな目になるもんかね。吸い込まれるかと思ったぜ。
 あいつは言ってたよ。誰も自分を叩く事はないって。多分この先もそうだって。
 だから、みんなと同じ事が解らないんだって。………やったら文法の間違ったしゃべり方だったけど、そんな意味だったと思うぜ。確か。
 痛いのなんて、知らないでいいならその方がいいじゃねーか。俺はそう思うね。マゾじゃあるまいし、喜んで痛めつけられる趣味はねーよ。だからそのまんま、俺はあいつに言った。
 ……………さー、多分、あれは、寂しそう、だったんだと思うな。今更だけどよ。
 あの頃は全然、解んなかったけどな。そんな感じに、俺のこと見て、どうだったんだろ。頷いたよーな首振られたよーな。覚えてねーや。
 ただ俺は、その時からあいつに興味があったよ。理由も分からないでさ。
 ………いや、違うだろ。そんな甘いもんじゃねーなあ。ただ俺らは、直感的に解っちまうんだ。あいつが、理解したがっているって事を。
 甘やかしたいとか、優しくしたいとか、そんな、施すような感情じゃねーよ。あいつは知りたいって純粋にそう思うだけだ。そんで、受け入れたいってだけだ。
 ……………壊れるよな、普通は。どんだけの人間がいて、どれだけの浅ましさや薄汚さがあるか、あんただって簡単に解るだろ?自分の中のそれだけだって、持て余すってもんだ。
 でもあいつは知りたがったんだ。キレイなもんだけでもなく、汚ねー部分もさ。
 それを否定するわけじゃなく、ただそいつの中の一部なんだって、それだけの事を認めるために。単純な話だけどよ、そんな真似、誰に出来る?
 どんな奴だって、自分の概念に他人を当て嵌めんだ。そこからはみ出た部分………世間の常識や道徳、良識、善意……そんなものから外れちまった部分は、誰だって間違っているって言うだろ。
 俺達が何か問題起こせば、必ず境遇の事を真っ先に言われるんだぜ。人間なんて結局そんなもんだ。
 個人を見る、個性を尊重する、そんなもん、所詮見せ掛けだろ。相手を否定出来る部分を発見すりゃ、自分を優位にするために、ここぞとばかりに糾弾してくるんだぜ。
 ………あんたもお人好しな部類か?でもな、そういう事は、実際出来てから言うんだな。
 してる?じゃああんたは、ニュースのコメンテーターの言葉、嘘だと思うのか?テレビの報道、信じねーのか?
 そういう事だよ。所詮都合のいいことしか報道されねーよ。
 もし俺が、誰か殺してテレビに出てみな。あいつらはこう言うぜ。
 『彼の母親は夫を殺害し、息子である彼も手にかけた。そうしたトラウマから彼はこのような凶行に及んだのではないでしょうか』。………想像つくだろ?
 たとえ相手がどんな奴であろうと、初めのコメントはそんなもんさ。もし都合良くお涙頂戴な物語が作れそうならそっちに移って、俺が義人になるかもな。
 あーはいはい。それで?事実を知ろうっていう姿勢は、汲んでやってもいいけどよ。
 でも、それがお前に何の関係がある?直に俺と話したわけでもない人間が俺の背景根掘り葉掘り調べる権利って、どこから生まれんだ?
 俺を認めるために調べるんじゃなく、俺が如何に犯罪者予備軍として危険性があったかを知るために、調べんだろ。人類愛なんて信じてたら痛い目見るぜ。
 まあそんな話はどうでもいいや。そんな風によ、考えているよーな俺も、あいつだけは信じれるんだ。
 変な話だろ。………奇妙だよな。
 あいつは誰が相手でも、変わらねーんだ。嘘も言わねーし、騙しもしねー。
 ただ知りたがるっていうのが、悪癖ちゃ悪癖か。まあそれだって根掘り葉掘り無理矢理聞くんじゃねーし、ただ俺らが話したいなら話して欲しいっていうだけさ。
 ああ………そうだな…穏やかな、奴だったよ。傍にいると安心出来るっていうか。拒まないって解っているからな。
 でもだからって甘い奴じゃねーぞ。そう、厳しい。自分自身でも間違った事をしたって、そう解っている時は、頑として引かなかったしな。
 それを認めてちゃんと答えを出さねーといけねーんだ。でもまあ、だからって放り出すような真似もしねーけどな。
 どんな状態でも、苦しいって腕伸ばせば、絶対に手を取ってくれる。そういう、奴だよ。
 だから俺らはあいつの事、好きだったんだ。大切だって、そう口に出来た。俺らが、だぜ?あり得ねーよ、本当なら。絶対に俺、そんなの出来ねーって思っていたしな。
 どうせ裏切るなら、適当につきあって適当にさよならした方が楽だしな。別に腹の探り合いに興味ねーし。
 都合良くその時気が合った奴とつき合えばいいだろ。それでいつか野垂れ死ぬのがお似合いってもんだ。
 それでいいって、思っていたんだぜ。もう思い出せもしねーくらい、昔だけどよ。
 あいつは……多分、俺らにとっちゃ絆ってもんの象徴だ。あるいは、情か。どっちも、信じるって行為に不可欠なもんだろ。
 そういうもんを、あいつはあのほっせー身体と短い生き方で、俺らにくれたんだよ。見返りなんて求めもしねーでさ。
 ただ知りたいっていうその純粋さ、ずっとガキの頃なら持っていたかもしれねえけどよ、大人になっても持っていられる奴、いんのかね。
 善悪じゃなく、ただ目の前のものを知りたい。知識欲…に、まあ、似てんのかもな。どうなんだろうな。

 と、もう時間だな。じゃあ約束通りこれでしまいだな。あ?また?………お前、俺に話聞く前に、和也に聞きにいけよ。
 あ?…………門前払い?電話も?……着信拒否までされてんのかよ。
 諦めねーでずっとぶつかってみりゃ、その内あいつが絆されるぜ。あいつ、面倒見悪くはねーんだよ。じゃなきゃリーダーなんてやってられねーだろ。
 あん?仕事先?人使いの荒い、バカ也のところだよ。…………じゃーな。








 『冬の足音』に出てきた少年です。一応運送業に従事。でも主な配達先は和也の研究所と、魔女夫婦の事務所です。何故ならどっちも辺鄙なところにあって嫌がられるから。そのくせ多いんだよ、配送。
 そんな繋がりもあるので、彼はシスターの命日にはちゃんと教会に行きます。仕事で戻れそうにない時は近隣の教会で神父に祈ってもらう。おかげで敬虔なクリスチャンに思われていますが、信仰心は薄いです。とても薄いです。

 ちなみに魔女は和也が言おうとしないのに自分が言えるわけないとインタビュー依頼を軽くあしらって、未だに話をしていません。
 まあ確かに和也が話せるなら自分も話していいかな、と、思うかもね。同じように旦那も話していないです。おかげで書きたいけど書けないよ。

06.8.23