柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
別にどうってことはない、他愛無い話 のどかな一日 「そういえばさ」 ふと思い立って、夏美は手にしていたせんべいを口元に持っていくまでの間に呟く。 それに気付き、夏美の前に置かれているせんべいの入った容器に手を伸ばしていたケロロがきょとんと見上げた。その顔を見下ろし夏美はにっこりと笑う。次の瞬間、のばしていたケロロの手は無情に叩き落とされ、手に持っていたせんべいがテーブルに散らばった。 痛がって飛び跳ねた後、慌ててケロロはそれらを掻き集める。ぶつぶつと呟く恨み言はあくまでも口の中だけで、決して夏美には聞こえないようにしていた。当然、聞こえたなら与えられる折檻を避けるためだ。 その様子を胡乱げに眺めながらも今度は特に咎めず、自分の隣にせんべいを乗せてから必死にソファーによじのぼるケロロの首を軽くつまみ、視線を合わせる。 どんな無理難題を押し付けられるのかとケロロが息を飲んでその緊迫感に耐えていると、真面目な顔をした夏美がぽつりといったのは、脱力を呼ぶに十分な言葉だった。 「クルルの目って、どうなってんの?」 「ゲロッ?」 唐突極まりないその言葉に一瞬思考回路が遮断したのか、ケロロが普段以上にとぼけた顔で鳴いた。その反応は予測の範疇だったのか、夏美はつまんでいたケロロを隣におろし、ぱりんとまたせんべいを齧った。 それを咀嚼し終わると、ようやく手に入ったせんべいの袋を開けはじめたケロロを見下ろし、事の次第を伝えはじめる。 「だってさ、あいつだけいっつも眼鏡じゃない」 「それは目が悪いのだから仕方ないであります」 あっけらかんとケロロは答え、小さな手で必死になって袋を開けようとするが、うまくいかない。力を込めてはいるが無駄な労力を費やしているようにしか見えない仕草に、呆れたように夏美はケロロを見遣るが、相手はまるで気付いていなかった。 まだ食べ途中のせんべいを口にくわえ、手近に散乱した同じせんべいを夏美が軽やかに開けてみせると、じっと見上げる視線がある。仕方なさそうにまだ開けることが出来ずに中身が粉々になったせんべいを取り上げて、開けたばかりのものと交換すると幸せそうにケロロはせんべいを貪りはじめた。 咀嚼音が喧しく響く中、また夏美が問いかける。 「でも分厚過ぎない、あの眼鏡。ママだって眼鏡しているけど、ちゃんと顔が解るじゃない」 あいつは顔の判別さえできないと不満そうにいうと、不思議そうにケロロが首を傾げて夏美を見上げた。 口の周りは行儀悪くせんべいのカスだらけだ。そんなことにも気付かないでいる軍曹という階級はどうなのだろうかと一瞬悩むが、このカエルがへっぽこであればあるほど地球が有利であることに変わりはないので、あえて考えないことにした。 「夏美殿はクルルの顔が見たいのでありますか?」 正直にその顔には物好きという言葉が見え隠れしている。実際問いかけておいてなんではあるが、確かに夏美自身も物好きだと思いはじめていた。 ただ単に何となく、そんな風に思っただけで……特に眼鏡だから不便だとかそんなわけでもない。 食事も風呂も不満を言われたことはないし、言い付けはとりあえず守ってはくれる。腹の立つ物言いはおそらくは生来の性格なのだろうから、もう今更だろう。それにいざというときはモアちゃんという最強の少女に頼めば、無体な真似は出来ない。 あの無気味なカエルが迷惑をばらまくとすれば、それは大抵この目の前のカエルが原因なのだから………最終責任はこのボケガエルに全て負わせる形だ。連帯責任を特に拒否も否定もしない辺り、人に迷惑をかけることを楽しんでいるとしか思えない節はあるが。 「別にそういうわけでもないけど。何かすっきりしないだけ」 なんでだろうと首を傾げて、夏美はせんべいの最後のかけらを口に放り込む。 迷惑しかかけてこないこの異星人たちのことなど、放っておいても構わないだろう。ましてやそれが外見のことだというなら、なおのこと気にかける必要はない。 ただ何となく…引っかかっただけ。ただそれだけだった。 それがなんだっただろうかと考えた夏美は、ようやくどうしてそんなことを思ったのかが解り、パッと輝く笑顔でケロロをつまみ上げた。………ケロロの両手は既にせんべいの汚れでべたべたで、迂闊に何かに触ったりしたらそのまま夏美に制裁を加えられかねない状態だったので、慌ててそれを隠すように手を後ろに隠した。 「思い出した!あんたたちあんなすごい科学とかあんのに、なんでコンタクトとか、それこそ近視手術とかしないのかなって思ったのよ」 すっきりしたと笑う夏美は機嫌が良くなったのか、手を離してソファーの上にケロロを落とすとテーブルの上のティッシュを引き寄せ与えた。 隠していたがすっかり気づかれていたらしい。が、夏美に怒っている様子が無いことを確認して、ケロロはそそくさと差し出されたティッシュで手を拭いた。 「眼鏡ずっとかけているのだって楽じゃないでしょ?それにあいつ、いっつもコンピューター触っているんだから、眼精疲労とかあるだろうし」 少しは自重した方がいいんじゃないかという夏美に、口と手を拭き終えたティッシュを丸めながらケロロは困ったように顔を顰めた。 あまり表情を読むのには向いていない造作をしているケロロの、その微妙な表情に気付いて夏美もまた眉を顰めた。特に困るようなことをいった覚えもないのに、何となく反応が思っていたものと違った。 「なによ。どうかしたの?」 躊躇いがちにいった言葉は、それでも強気だった。それに顔を向けずにケロロは少しだけ押し黙り、手にした丸めたティッシュをゴミ箱めがけて投げる。 狙いが外れ、それは無情にも床に落ちる。それを拾いにいくために、ケロロはソファーから降りて夏美から離れた。 「ん〜…我が輩が言っていいものか、解らないでありますが、夏美殿」 「………なによ」 とたとたと幼児が歩くような歩の進め方で進み、ゴミ箱の前で止まるとケロロはティッシュを拾い上げた。それを少し眺めるような間のあと、ぽいと何の未練もないようにそれをゴミ箱の中に放る。 「視神経から痛んでいると、あとはもう失明するのを待つ以外、どうしようもないのであります」 せいぜい眼球ごとごっそり移植するという手に走るしかないが、そんなものを好むタイプでもないしと軽い調子でケロロが笑う。 邪魔なものだから取り除いて捨ててしまえばいい。それは至極合理的だ。それでも弱盲に肩を並べるような状態でなお、そのままでいるのだから、もう周りから何かをいうべきでもないだろう。その頭脳は少なくとも、常人の何倍もの思索を許容することが出来るほど優れているのだから。 「………なにそれ。バッカじゃないの」 少しでも足掻いてみせたっていいじゃないかと、あっさりとそれを受け入れていそうな馬鹿なカエルを思い浮かべていえば、ケロロはきょとんと首を傾げて夏美の座るソファーまで戻ってきた。 そうしていつもの軽い調子で、いうのだ。 「気にする必要はないであります」 「…………気にしてないわよ」 聞きようによっては冷たいその言葉に夏美がむっとして返せば、ケロロはまた笑った。 いつものように、明るく楽しそうに。 「あのクルル曹長のことであります。目が見えなくたって脳に直接映像が送れるような発明、す〜ぐに作るに決まっているであります」 もしも意地を張って作らないなら我が輩が命令すればいいだけなのだと軽やかに笑う様さえ、いつもと同じまま。 どうしようもないくらいバカな宇宙人は、さも当たり前のことのように笑って、それでもちゃんと自分の下のもののことを気づかった物言いをする。 ………本当に、極たまにという、確率の低さだけれど。 見下ろした先には相変わらずせんべいの袋が開けられなくて必死になっているボケガエル。 軽く息を吐いて、少しすっきりした気持ちで夏美が口元に笑みを浮かべる。 「まあ期待しないで見ててあげるわよ」 地球侵略のため以外であるならなにかをしていても許してあげると、相変わらず偉そうに可愛い笑顔でいった夏美は、ガンプラ作り以外には不器用極まりない宇宙人の手からせんべいを取り上げると、軽快な音とともにその袋をあけた。 それはのどかな日の、他愛無い会話。 コンタクトレンズの方が楽なんですが、何故クルルは眼鏡なんだろうか。どうでもいいですが、とりあえず眼鏡キャラ……と思い。何故かクルルが出てきました。 どういう思考回路だよ、自分。 仕方ないのでクルルは出さずにクルルの話している夏美にしました(なんで夏美) でもギロロは出せませんでした。話に加わると同時に話が終わりそうだったから。 06.4.9 |
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