柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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見上げればそこは鮮やかな青。

腕をのばせば届きそうなその濃い色に
優しく寄り添う白い綿雲。

一瞬だって同じじゃないその形は、
けれどいつだって同じに見える。
綺麗な青に綺麗な白。

変わらないって、そういうことだと思うのに。





億万分の一の確率



 大きな欠伸を一つ落とし、微睡むような意識をそのまま夢の世界に落とそうかと目を閉ざす。風は微風で太陽は暖かい。寝そべった芝生はなかなかのもので、心地よく身体を抱きしめてくれる。
 昼寝にはもってこいだと機嫌良く瞼を落としたら、遠くどこかから自分の名を呼ぶ声がした。
 けれど風に誘われて眠りに落ちようとすると……それは唐突に大きくなって衝撃とともに叫んでいた。
 「聞いてんのかよ、体育委員!!」
 「イッテーッ!!!」
 叫び声と悲鳴と、どすんという子供がマットの上に落ちたような落下音が全て入り交じってほんの数秒響いた。そのあと響いたのは僅かなうめき声と、見事に肋の上に着地した子供の体重の痛みに丸まって耐えている鬣と芝生のこすれる音だけだった。
 そんな様子を眺めながらようやく起きたと機嫌良く笑った子供は、悶絶する相手のことはお構いなしにそのまま隣に座り込むと、明るく声をかけた。
 「それでな給食委員、ちょっと聞いてくれよ」
 「俺は給食委員じゃねー!!っていうかむしろいい加減名前を覚えろ!」
 「まあいいじゃねぇか。でな、話っていうのはさー」
 「聞いてねぇし」
 あっけらかんと笑って牙をむいた自分にいうと、子供はごろりと芝生に寝転がった。結局彼も昼寝にきたのかと軽く息を吐いて、リーオンももう一度同じ態勢に寝そべると大きく欠伸をこぼした。
 そんなリーオンをさして違和感も覚えずに受け入れたまま、子供は彼の先に広がる空を見つめる。青く綺麗な空だ。天気が変われば空の色も変わるけれど、それでも生まれてから今まで空の青が変わったことはない。
 それは確かに綺麗だし正しいことだ。例えば突然空の色が茶色になったら気味悪いと思う。
 だから変わらないことに固執する人の気持ちは解らないわけではない、けれど。何かどこか違うと思うのもまた事実だ。
 「あのさ。変わるって悪いことなのか?」
 今日何度目かの質問を自分と同じように寝転がっている相手に問いかける。ぽつりと落ちた音は、登場した瞬間の元気の良さからはかけ離れていた。
 それに目を瞬かせながらリーオンは首を傾げる。全くもってこの子供の話に脈絡はなく、何を話したいのか理解することは困難だった。
 「………はあ?」
 「運命とかずっと繰り返されるとか、正直訳わかんねぇんだもん」
 「ああ、姐さんの話か?」
 拗ねたような物言いで呟く子供に、先日の、癇癪を起こして食って掛かる姿を思い出す。清々しいほどに真っ向から否定を出来るこの子供の向こう見ずさに、誰もが呆気にとられたものだ。
 軽く息を吐き出して芝生の上で頬杖をつき、呆れたようにリーオンは呟いた。サーガというものはいつも似たような人間がなるものだったはずだが、どうもこの子供に関していうのであれば同じと言う言葉が当て嵌まらない。
 それが正しいことか間違ったことかは解りはしないけれど。
 「正直俺らだってわからねぇぞ。そうだったっていう思い出がなけりゃ、解らないもんだろ」
 「でもおかしいじゃん。何でみんな納得できんだよ」
 「そりゃ……変わらないことは変わらないからだろ」
 まっすぐに疑問をぶつける子供の言葉はあまりにも幼い。変わらないという事実が理解できないということなのだろう。現実的に、確かに幾度も繰り返された運命は、ねじ曲げようとしても決して変わりはしなかった。だからレジェンズの誰もがそれを当然と受け入れている。
 ………もっとも記憶を失っているウインドラゴンに関しては例外的な面もあるけれど。
 不貞腐れたような、頭を使い過ぎてショートしそうな、そんな複雑な顔をしながら自分の言葉を聞いている子供をあやすようにしっぽでその目を覆う。
 とても……大事にされている子供だ。きっと文明の黄昏と言う言葉の意味も理解しかねているだろう。粛正の意味さえ、その実解っていないのかもしれない。
 「…………………」
 「ま、難しく考えねぇで姐さんの言うこと聞けば………」
 答えない子供をどう扱えばいいのか悩んで、年長者に収拾を願おうと思って呟きかけたとき、唐突にしっぽに痛みが走った。
 「イッテーッッッ!!!」
 先ほどまで子供を慰めるようにその顔をあやしていたのだ。当然痛みが走るわけがない。………子供が何を思ったのか噛み付いたりなどしなければ。
 びっくりして腹の傍に横たわっている子供に文句を言おう上体を起こしかけた時、噛まれたはずのしっぽは今度は愛しそうに包まれる。本当に、訳の分からない子供だ。行動に一貫性というものがない。何を考えているかまるで解らないと誰かがいっていた言葉を思い出す。それを否定する要素などどこにもないというのに、それでもいつもこの子供はみんなの中心で笑っているのだ。
 「あのさ、俺思うんだけど」
 「……何を思おうとかまわねぇけど、人のしっぽ噛むんじゃねぇよ」
 どうせ碌なことを言わないだろうと溜め息とともに言ってみてもしっぽは子供の手の中に残したまま好きにさせた。サーガを持たない自分達にとっても、この小さな手のひらはやはり心地よく感じるのだ。
 「お前はライオンだし、オオカミもいるし、グリフォンとかリュウとかワニとか、普通にしゃべって一緒にいるじゃん」
 「そりゃレジェンズだからな」
 「だろ?もう変わってんのに、なんで変わんない方がいいっていうんだろ」
 「………………………訳わかんねぇよ、部長」
 野球のキャッチボールどころか会話のキャッチボールさえも下手らしい子供の言葉に、ぐったりとなってリーオンは芝生に身体を投げ出した。芝生の香りが鼻孔をくすぐり心地よかった。
 「さっきそれと同じこと、ねずっちょもいってたんだよなー。何がわかんねぇんだよ」
 こんなに簡単なことわかんねぇんなんてバカだなーといった時点でシロンがキレてしまいこうしてリーオンを見つけるにいたったのだが、子供にとってその辺りのことはどうでもいいらしく、しきりになんでわかんねぇかな、と繰り返していた。
 「だって、空は相変わらず青いじゃん」
 「は?」
 「青いのが当たり前だけど、曇りにもなるし赤くもなるし、黒にだってなるだろ?」
 「まあ……そうだけど??」
 どこからどう会話が飛んでいるかも解らなくなってきたリーオンが疑問を孕みつつも同意を示すと、ようやく我が意を得たりと子供は嬉しそうに笑みを浮かべた。
 「だろ?だからやっぱ変わることだってあるし、いいことなんだよな」
 満面の笑みを祝すように風が吹く。思うがままの自由さを尊ぶかのように。
 そこに至ってようやく子供の言葉の意味が何となく、解った。非日常であった自分達の存在が日常となったことは子供の中で嬉しいことで、空の色が時間ごとに変化していくことも楽しいことなのだ。
 そうしてそれらが喜びのカテゴリーに加えられるのであれば、この先定められたという運命を変えることにだって、きっといいことが待ち受けているに決まっている、と。
 ………なんて幼い発想だろうか。
 不変と運命は別物だ。運命付けられた変化は運命をねじ曲げることと同意ではない。
 それでも、この子供は確信を得たように笑うのだ。その先にある未来に疑いさえ孕まない、澄み切った風の色。
 「やっぱおかしいもんはおかしいもんな。変わった方がきっといいんだ」
 ごろりと間近な体温にすり寄るように身体を転がし、目を瞑る。けれど寝心地の悪さに顔を顰めて子供はそのまま掴んでいたしっぽを離すと大きなライオンの身体をよじ上った。
 珍しく頭を使っていたので身体がくたくただった。ようやくすっきりしたから、きっとよく眠れるだろうと機嫌良く大きな毛皮の上で伸びをする。そんな子供の様子は見えないけれど背中で感じる体動にリーオンは呆れたように息を吐き出した。
 「部長はのんきだな」
 「お前だって同じじゃんか」
 弾んだ声でそう答え、子供は細めた視界一杯に広がる青空を見上げた。心地よい風が吹きかけて眠りを誘う。
 帰ったらもう一度、気の短い自分のレジェンズにも話さなくてはいけない。やっぱり彼が傍にいないとどこかがなんだかおかしいと、そう思う。それくらい、彼らの存在は自分達にとって当たり前になったから。
 やっぱり変わっていくことは幸せを運ぶのだと思って、子供は嬉しそうに目を閉ざす。陽光は瞼を優しく包んで、子供を抱きしめるようにあたためた。
 幼い体温を背中に乗せたまま、リーオンは欠伸をかみ殺した。大きく動いたなら背中の子供を落としてしまうだろう。ぬくもりの乗った背中はどこか愛しくて、バカらしい子供の発言さえ、その通りだと肯定してやりたくなってしまう。
 根拠も何もなく、智謀からはどこまでもかけ離れた子供だ。それでもその言葉がいつの間にか入り込み、心を包む。
 …………理屈も何も関係なく、そうでありたいと思わせる。
 どこまでも風変わりなサーガだ。今までのどんなサーガたちとも違う。
 それでも今こうして昼寝をするときの仲間としては上等だと、訳の分からない子供の言葉を思い起こしながらリーオンもまた目を閉ざした。



 …………舞い落ちる未来の欠片が、この太陽のように煌めいていることを思いながら。





 まあ当然ながら私はまともにレジェンズ見ていません(オイ)
 なのでどこかしら設定違っていても、最終回がどういう話になるかも、ついでにいったらキャラの話し方さえも、理解してはいません(オイ?!)
 呼び名さえわらなかったから必死で名前呼ばないでいいようにしむけましたよ。そんな努力してどうするの自分。
 うん、ノリで書きたくなっただけ。姐さんが絵を描いて説明してくれていたシーンを見ながら書きたくなった話だよ。
 おそらくレジェンズはこれが最初で最後でしょうな。原作知らない話は1作書くだでも結構大変。

05.10.20