柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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 「御剣、明日暇?」
 成歩堂が少しだけ困ったような顔で御剣に顔を向けて問いかける。スタッフルームは帰り支度をするパティシエたちが全員いた。その声も、当然全員に聞こえる。
 彼に問いかけられて、頷く以外の返事などおそらく御剣にはないだろう。そうその場にいた人間全員が思った。
 そしてその予想に違わず、数瞬の間を置くことすらしない潔さで、御剣は頷いた。
 その返事に顔を輝かせるように笑みに変え、成歩堂は安心したように話を続ける。
 「よかった、じゃあさ、明日少し付き合ってくれないかな?」
 微笑む相手に、もしも御剣に尻尾があったなら盛大に振っていたことだろう。………飼い主の足下で唸るのを精一杯控えて御剣を睨み上げている犬とは正反対に。
 本当に、同じ名を冠したこの一人と一匹は感情表現が似ていた。言葉ではなく雰囲気や仕草、僅かな動きで感情を表すという、その点が。
 その上向けられた本人だけがいまいち把握しきれていないように思われるが、その感情の向けられる先がたった一カ所だけだ、という事実も同じだった。
 同じ人物に同じように感情を揺らし同じ反応をとるのだから、想像力豊かなパティシエたちには、慣れ親しんだラブラドールの黒い毛並みすらもう消え失せ、店で働くようになってようやく一週間ほどをむかえた新人である御剣の姿がだぶって見える。
 いずれ自分たちにはこの犬が犬の姿ではなく、彼の幼い頃のように写るのではないかという、現実味のある危惧を覚えてしまうほどの酷似だ。
 そんなことを思いつつ、成歩堂の申し出に表情一つ崩すことなく、けれど喜色を零れさせながら頷いた御剣をスタッフたちは見遣った。
 …………深い溜め息を胸中におさめながら。


 待ち合わせは午後2時半。飼い犬の散歩がてら店で待っているという成歩堂の言葉に従い、御剣は時間調度にCHIHIROにやって来た。
 裏口に当たるスタッフルームまで回り、既に来ているかどうかを確かめるようにドアノブを回した。
 ドアは抵抗なく開かれ、室内へと御剣を誘う。が、目をやった先には人の気配はなかった。
 首を傾げ、くるりともう一度室内を見遣る。すると、テーブルの下から何かが動く音がした。すぐにその物音の見当をつけ、御剣がしゃがみ込めば、それを無視するように音の主は尻尾を振りながら、さっと開け放たれたままの廊下へと続くドアに向かった。
 「………なんなのだ、一体」
 犬に無視をされるのは初めての経験だと顔を顰めて見遣るも、どうしようもない。とりあえず成歩堂がいることだけは確かなのだからと、御剣は中に入ると鍵を閉め、キッチンへと向かった。
 ドアから顔を出してみれば、その先に見えたのはキッチンのドアから御剣と同じように顔を出している成歩堂だった。目が合うと成歩堂は笑い、足下で尻尾を振る飼い犬の頭を撫でた。
 「ありがとう、ミツルギ」
 呟く名は自分と同じだが、向けられた対象は違った。その事実によって、ようやく犬の行動の真意が解った。
 おそらく、自分が来たら教えてくれと成歩堂に頼まれていたのだろう。だからこそ普段であれば必ず施錠されているはずの外への出入り口の鍵は解錠されており、廊下へのドアは開け放たれていて、予測ではあるが、キッチンへのドアも少なくとも犬が押せば開く状態にはなっていたはずだ。
 何故なら、犬の鳴き声は聞こえなかったのだから、成歩堂が気づくにはドアの開閉という視覚的認識が必要になるからだ。
 そこまでを考え、今更ながらにこの犬の知能指数の高さに舌を巻く。
 普段からの躾でも習慣でもなく、こんな突発的な飼い主の希望をそつなくこなせる動物はどれほどいるのか、御剣にも解らない。……もっとも、動物という対象に関心が薄いため、その業界での事情などは露程も知りはしないけれど。
 じっとそんなことを考えながら一人と一匹を御剣は見遣った。そんな相手を見上げながら、成歩堂は先ほど確認した時間を思い出して口を開いた。
 「時間ぴったりだな、御剣」
 「君は一体何をしていたのだ?」
 ほぼ同時に告げた互いの内容に成歩堂は目を丸め…次の瞬間に吹き出した。
 彼の突然の反応に面食らったように御剣は微かに瞠目して驚きを示した。それに気づき、成歩堂は息を整えながら反応の理由を教えた。
 「いや、ごめん、タイミング一緒でまったく違うこと言ったからさ」
 息が合うのか合わないのかよく解らないと、面白そうに笑いながら成歩堂が言う。それを複雑そうな顔をした御剣とミツルギが見つめていた。………互いにまるで逆の意味で複雑な顔をしていたけれど。
 「まあいいや、あのさ、お腹空いてないか?」
 「ム?」
 「そろそろおやつの時間だろ?一緒に作って欲しいんだ」
 中に入ってと手招きをしながら成歩堂が立ち上がろうとする。その足下で寂しそうにミツルギが項垂れた。……やっと触れ合えたと思えば早速邪魔が入ったという心境までは解らなくとも、飼い犬が寂しがっていることは、解る。
 「おやつ作り終えたら、一緒に食べような」
 にっこりと笑いかけ、飼い犬の頭を撫でながら声をかければ、ミツルギは大きく頷いて尻尾を振った。そしてせめてスタッフルームではなくここにいたいという意思表示をするように、座ったまま立ち上がろうとはしなかった。
 それに苦笑して、キッチンには入らないことをもう一度言い含めてから、御剣へ手招きをして成歩堂はキッチンへと向かった。その後を追うように、御剣もドアをくぐる。………若干、足下で唸る低音が聞こえた気もしたが、黙殺して。

 「……これは…」
 「さすがに知っているだろ?ホットケーキミックス!」
 「知ってはいるが、焼いたことはない」
 既に準備万端に材料が整えられているのを見遣りながら、御剣は淡々と答えた。ここで焼いたことがあると嘘を吐いてもなんの意味もない上、見破られる事は解っていた。
 実際、実技面接の際に卵が割れないことは既に周知の事実だ。今更取り繕う意味はないだろう。
 「まあ僕たちの分だけだから一袋で十分かな。卵は一個、割ってもらっていい?」
 「………わ、私が、か?」
 「平気だよ。これは全卵必要なヤツだから、黄身が潰れても困らないしね」
 目に見えて狼狽えた御剣に苦笑しながら成歩堂が答えた。
 卵黄と卵白に分けることは出来なくても、慣れさえすれば卵を割ることはすぐに出来るだろう。なにより一番先決な事は苦手意識が先立って敬遠している現実をどうにかしなくてはいけない、という事だ。
 それにはまず自分にも出来る、という自信がなくては、挑戦する意欲も湧かない。
 ならば彼が納得出来る事実を作ればいい。事実を作るには単純な作業からステップアップしていけばいいだろう。まずは……卵を割れるようになる、それだけを目的にすれば、さして難関でもないはずだ。
 これを焼いている間にマドレーヌの生地も仕込めば、更に卵を4つ割るチャンスがある。
 頭の中で算段をつけながら、取り合えずは彼の手つきを確認しようと、なにも声を掛けることなく様子を窺った。
 真剣な顔で卵を見つめ、御剣はキッチンの角に殻を当てた。………それはもう、勢いよく。
 視認が出来はしないけれど、きっとあの勢いで当てたのなら殻の半分以上にヒビが入り、更にはキッチンの角も白身に塗れたことだろう。彼の指先同様に。
 やり方が解らないのではなく、力加減が解らないのだろうと見当をつけ、成歩堂は背中だけで落ち込んでいることを語っている御剣の肩を叩き、殻を取り除いてしまえば大丈夫だと笑いかけた。
 その後は特に問題もなく、牛乳の計量も上手にこなしていた。混ぜるときも特に零しはしない。
 これならばあと問題なのは力加減と勘というものだろう。手つきのぎこちなさも回数をこなせば自然になっていくはずだ。
 もっとも、混ぜ方を知らないだけに、零さないようにと底に押し付けるような手つきで泡立て器を扱っているので、空気を含ませる混ぜ方をした際には失敗することを前提としなくてはいけないかもしれないけれど。
 そんなことを考えながら成歩堂もまた、マドレーヌの計量を終えていく。調度御剣がホットケーキの生地を作り上げた所で、成歩堂は薄力粉の計量とその他の材料を取り出す所までを終えていた。
 「出来た、と思うのだが……」
 「うん、これで平気だよ。ありがとう、御剣」
 自信がないのかあるいは生地の状態がどういったものなのかが解らないのか、一通り混ぜ終えたボールを抱えながら御剣は首を傾げている。それを安心させるように成歩堂は笑み、ボールを受け取った。
 本当は焼く所まで任せたいけれど、まだ火の扱いに慣れていない御剣にやらせるには、少しだけハードルが高い。今日は卵を割ることを第一目的にと、成歩堂はコンロの火を点けた。
 「じゃあ、僕が焼いている間にさ、悪いんだけど……もう4つ、そのボールに卵を割っておいてもらえるかな?」
 「ム、構わないが………」
 本当にいいのかという疑問符が見えそうな言い淀みに成歩堂は笑い、ぽんと御剣の手のひらを軽く叩いた。すると先ほどまで白身に塗れていたその手のひらを隠すように、御剣がさっと腕を後ろで組んでしまう。
 その動作に目を瞬かせて顔を見遣れば、仏頂面が迎えた。……どうやら拗ねてしまったらしい。
 からかったわけではないと示すように困った顔を浮かべ、成歩堂は今の行動の真意を教えた。
 「今の僕の叩いた強さ、解る?」
 フライパンに油を敷き、それをキッチンペーパーで拭いながら問いかける。質問の意図を把握しかねて首を傾げながら、顰めた顔をそのままに御剣は頷く。
 「御剣は力加減が苦手みたいだからさ、それくらいの強さで、殻に入るヒビを確認しながら割ってみるといいよ」
 「…………聞いてもいいか」
 「うん?」
 「殻は、一度に割らなくてもいいものなのか?」
 真剣な物言いに一瞬呆気にとられかけながら、成歩堂はコンロの火を弱火に変えた。………どうやら、本当に基礎中の基礎以前の部分から教えなくてはいけないらしい。
 長丁場は覚悟の上とどこかふてぶてしい笑みを浮かべ、それを柔らかいものに変えてから御剣へと顔を向けた。
 「何回叩いてもいいよ。コツを掴むまでは、無理に一度で割る必要はないからさ」
 だから練習していいのだと言外に伝えてみれば、ふムと御剣は頷き、実験を試みる学生のような面持ちで卵を取りにいった。
 それを見遣りながら、こっそりと溜め息を一度だけ落とし、苦笑を浮かべたあと…成歩堂はホットケーキを焼き始めた。

 「ミッツルギ〜♪」
 「ム?」
 明るい弾んだ声で名を呼ばれ、御剣が振り返る。が、その先に成歩堂の顔はなく、見えたのはしゃがんだ背中だけだった。
 自分ではなく飼い犬を呼んだのだと解り、返事をしてしまったことに一人羞恥を覚えるが、有り難いことに成歩堂に聞こえはしなかったらしい。
 「ほら見て。………解るかな?」
 明るい声はとても機嫌がよさそうだ。なにかを飼い犬に見せているようだが、その手元は彼自身が影となって御剣には見えなかった。
 先程までしていたことといえば……成歩堂はホットケーキを焼き、御剣は彼の指示に従ってマドレーヌの計量をし、あとは成歩堂がそれらを使って生地を作るだけの状態にしたくらいだろう。
 飼い犬に機嫌よく見せるようなものがあっただろうか。………なにを見せているのかと首を傾げて成歩堂とミツルギの傍に近づこうと歩を踏み出した、その時。
 「……まるほどう、そりゃなんだ?」
 「へ?って、神乃木さん!?」
 「へぇ、それ、ミツでしょ?成歩堂さん、上手く焼きましたね」
 「ありがとう……って、え?響也くんも?二人ともなんで??」
 飼い犬と視線を合わせていた成歩堂が、飼い犬の更に奥…キッチンのドアから顔を出してくるスタッフ二人に目を白黒させる。今日は定休日で、一応店は閉まっているはずなのだ。………もっとも、成歩堂はよく練習をするために訪れているけれど。
 たまに神乃木がやって来たり、前日休みだったスタッフが来ることはあるけれど、基本的に誰も来ないはずの日に二人も顔を見せれば驚く。それはやってきた二人にも解っていることらしく、互いに顔を見合わせながら楽し気に口元を笑みに染めていた。
 「俺はまあ、書類整理ってことでいいんじゃねぇか?」
 「うーん、じゃあボクは…昨日休みだったオデコくんの明日の分の仕込みってことで」
 「待ったー!!その言い方、二人とも理由今考えただろ!?」
 「細かいことを気にしてちゃ、でかい夢は見れないぜ、まるほどう!」
 「スタッフの健康面を気にしてなにが悪いんですかっ!普段ただでさえ条件悪い中で働いてもらっているのに、休みの日くらい………!」
 「そう思うなら、まずは自分自身を顧みることですね、成歩堂」
 噛み付くように反論を始めた成歩堂の気勢を削ぐように、冷徹な声が冷ややかに響いた。………微かに成歩堂の傍から唸り声が聞こえるのは、その発言の冷たさにミツルギが反応したせいだろう。
 それを宥めながら、二人の奥に眼鏡のブリッチを上げながら佇んでいる人物を見つけ、成歩堂は溜め息を漏らした。
 「牙琉まで……」
 「勘違いしないで下さい。私は明日休みの分の仕込みをしにきただけです。こちらの二人のようなお節介じゃありませんよ」
 軽い溜め息とともにそんなことをいいながら、霧人は弟と仮店長を見遣った。が、その二人は同じような溜め息を落としながら苦笑を浮かべている。
 冷たい物言いをしながらも霧人がここに来たのは、自分たちと同じ見解故だろうということくらい、当事者たち以外にはすぐに解る。
 何となく、予感はしていたのだ。製菓技術の欠片も持ち合わせていないこの新人のため、成歩堂が奮起するだろうことは。
 そしてそれはそのまま、彼の休息時間を減らすことも、解っていた。
 なんだかんだで抱え込むタイプの未来の店長は、相手を思い遣ることには長けていても、自身を労ることは不得手だ。
 「成歩堂?」
 これは一体何事なのだろうかと困惑した顔で後ろまで歩み寄った御剣を見上げながら、同じように困ったような顔をした成歩堂は、一度大きく息を吐き出したあと、立ち上がった。
 「仕方ないから御剣、もう一回ホットケーキ焼こうか?」
 「ム?」
 「折角来たんだから、食べていきますよね、神乃木さん?」
 「クッ……!卵の殻入りじゃなけりゃ、美味しくいただくぜ」
 「じゃあ成歩堂さん、ボク、それ作りますよ。なに作るつもりだったんですか?」
 神乃木のからかいが御剣の逆鱗に触れそうな気配を感じ、響也は神乃木の声に被さるようにして成歩堂に申し出る。指差した先にあるのは、先程御剣が計量までを終わらせたマドレーヌの材料だった。
 神乃木の言葉を隠したことに感謝するように笑んで、成歩堂はそのまま何事もなかったかのように響也にマドレーヌの生地を作ることを頼んだ。
 こっそりと小さな声で感謝を告げながら。
 「ありがとう。……あと、ごめんね、響也くん」
 「構いませんよ。その代わり、ボクの分はさっきのヤツがいいですね」
 得意気に笑んでエプロンを身につけた響也は、未だ成歩堂が手にしている皿に視線を向けて笑った。
 「さっきの………?」
 響也の言に眉を顰め、御剣が成歩堂の手元を見遣る。先程から気になっていたものを、ようやく御剣は視界におさめることが出来た。
 そこには一枚の皿が佇んでいる。先程成歩堂が焼いていたホットケーキの乗せられた、皿。
 それを見て、御剣は目を瞬かせた。想像もしなかったものがそこにいたからだ。じっと見遣っても瞬きをしても変わらない、確かに愛犬の姿を真似たホットケーキが鎮座している。いつの間に手を加えたのか、生地も普通のプレーンタイプの白ではなく、茶色だった。
 目を瞬かせていると、成歩堂は自身の飼い犬への甘さに自覚があるのか、顔を赤くしながら言い訳のようにボソボソと言葉を募らせ始めた。
 「いや、ほら、ミツ……キッチンに入らないでずっと我慢していたし、ホットケーキだって食べられないし。せめて一緒に食べる気分だけでも味わえないかな〜って思ってさ!」
 段々と早口になったその言葉に、ドアの前に座っている犬は幸せそうに目を細めている。
 いつも成歩堂の足下に群がる飼い犬は、それでもキッチンに入り込むことが出来ない。それだけは絶対の約束として、自宅でも守っていることだ。
 その努力への褒美の形に、ミツルギは盛大に尻尾を振って感激を表している。………おそらく成歩堂が一歩キッチンから外に出たら最後、じゃれついて離れないだろう。
 そんなことを思いながら、いつでも好きなだけ成歩堂と一緒にいられる上、こんなにも思われているのだから充分幸せだろうと御剣は軽い溜め息を吐き出した。そしてトンと成歩堂の肩を叩いて、先程まで二人が使っていたキッチンテーブルを視線で示す。
 「………作るのだろう?」
 ホットケーキをと言外に告げれば思い出したように成歩堂は頷き、手にしていた皿を近くのテーブルに置いてから御剣の背を追った。
 先に卵を取り出して慎重に割るその背中を見遣り、嬉しそうに成歩堂は笑むと、思い出したように先程焼いたホットケーキの重ねられた皿に手を伸ばす。
 そうして振り返った先、卵を割り終えて指先を汚してしまった友人に小さく笑んだ。
 「御剣、口開けて?」
 忘れていたといいながら成歩堂が声を掛ける。白身に塗れた手を持て余しながら御剣が振り返った先には、成歩堂の指先があった。
 その指先が摘んでいるものは、小さな一口サイズのホットケーキ。茶色のそれは、おそらく先程見たミツルギを模したものと同じ生地だろう。
 「味、確認してみてくれるか?プレーンのは食べたことはあるだろ?」
 そういって、成歩堂は笑いながら惚けたように口を開けている御剣の唇に、微かに温かいホットケーキを押し込んだ。
 真っ赤になって口をきかなくなった御剣の様子に、チョコは嫌いなのかと成歩堂は首を傾げる。
 新しく作るホットケーキはプレーンのまま焼こうと、間の抜けたことを言いながら、成歩堂は御剣の肩を叩いた。
 まるで相手の反応に気づいていない成歩堂の様子に、昨日とはまた違う種類の溜め息を胸中で吐き出しながら、取り合えずいま目の前で行われたことはこの場のみで留めておこうと、何とはなしに合わさった視線で、パティシエたちは互いにそっと囁き合った。


 不器用で 必死で 空回りばかり
 それでもただひたすらに前を見据えて
 誰かのためにと手を伸ばせる、人だから

 少しくらいの無理と無茶は
 苦笑と小言と、支えるためにこの腕たちで
 彼の願いが叶うようにと、祈るのだ


 優しい愛しいその意志が、届くようにと………





 御剣初めての練習。
 このあとはほとんど毎週、用事がない限りは御剣も一緒に店にいるのでしょうよ。どっちかの家に行くことも多いけど。
 御剣一家は大歓迎で迎え入れるよ。ミツルギは家に来るの渋るけど成歩堂がいいと言えば従うんだよ(笑)
 ちなみに、ミツルギのおやつはちゃんとお手製犬用クッキーがあります。人間用に調理されたものは犬の身体に悪いから与えちゃ駄目なんだよ☆

 今回はオドロキくんいるとこじれそう(笑)なので休みにしちゃいました。ついでに茜ちゃんたち女性陣に知れても面倒なので全員で大人の配慮をしてくれています。
 成歩堂も御剣も、どっちも違う方面で天然にボケていればいいさ。………パティスリーじゃもうそれでいいと思う。

08.01.09